第22話「ボア先輩とコラボ⑤」

 そのまま普通に勝てた。

 とくに苦労はしなかったなぁ。


『よし、終了』


『お疲れ様!!! いえーい!!!!!』


 端的な俺に対して、ボア先輩は喜びを発露する。


『お疲れ様です』


 と返す。


【コメント】

:鳥、もっと喜べよw

:ノルマをこなしただけって感じの淡白さ

:ボアちゃんとの対比がオモシロ

:草

:正反対姉弟

:草



 何か俺の反応にコメントが笑っている。

 そんなに淡白だろうか?


『まー、バードくんにとっちゃやりこんでるクエストだったんだろうねー。アタシは一度も超えられない相手だったからさー』


 とボア先輩は感慨深そうに言う。

 ……俺って淡白だったりするのか???


『俺って地味なんでしょうか???』


 もしかしてだめなやつなのでは?

 不安になって思わず聞いた。


『ヤダなー。それがバードくんの持ち味でしょー、何言ってんの? 誇っていいんだよ?』


 とボア先輩が笑う。


【コメント】

:そうそう見てて楽しい

:鳥さんがハイテンションキャラじゃないのは今さらでしょ

:知ってて応援してるんだから気にしなくてもいい

:むしろそこがいい

:そう、そのとおり

:今までどおりの鳥さんでいて

:そうだよな、鳥の持ち味なんだから気にする必要ない



『ほら、コメントでも、いまのままでいいって』


 とボア先輩に言われてコメントを確認する。

 たしかに気にするなというあったかいコメントがずらっと並んでいた。


『ほんとだ。みんなあったかいね』


 とつぶやく。

 ジーンと来ていたのでうっかり敬語を忘れてしまった。


『うん、ファンってありがたいよねー。アタシもやっててよかったって、いつも元気をもらっているよ』


 とボア先輩は気にした様子もなく答えてくれる。


『はい。俺、生きててよかったかも』


 まさか自分が肯定される日が来るなんて思わなかった。

 こんな人間だから……。


【コメント】

:泣いた

:生きててええんやで

:生きててくれてありがとう

:配信してくれてありがとう

:毎日ありがとう

:いいな、こういうの

:みんなてぇてぇ

:てぇてぇ



 コメント欄のあったかさにジーンとくる。

 とっさに言葉が出てこない。


 脳みその機能が停止したようだった。


『こっちこそ、ありがとう』


 涙声にならないように必死に気をつけたけど、ちょっとおかしくなった。


『そうだね。感謝しあえるって素敵だね』


 とボア先輩が言う。


『アタシからもみんなありがとう! これからもよろしくね』


 そしてそうつけ加える。

 あ、これって俺も言ったほうがいいやつかな?


『お、俺もこれからも、よろしく』


 ちょっと声が震えてしまう。

 喜びと緊張と恥ずかしさで、舌が自分のものじゃないみたいだった。


【コメント】

:おうよ

:任せて

:こっちこそ

:これからも推していく

:推し事がんばります

:生きる糧をもらってます

:元気をもらってます


 それでもコメントの人たちはあったかく受け入れてくれる。


『いいな……今日コラボしてよかったよ』


 ほんとはだいぶ緊張していたんだけどな。


『アタシもだよー。またコラボやろうね!!』


 とボア先輩に元気よく言われる。

 事務所の許可がないとできないはずだけど、そんな返事は野暮だな。


『はい』


 と俺は同意する。

 こんなあたたかくていい感じのコラボなら、何回でもやりたい。


【コメント】

:これはいい話

:まさにハッピーエンドだな!!

:エンド感出してるけど、まだ配信時間残ってるでしょ?

:草

:↑つっこもうかどうか迷ったよね

:草

:微笑ましい

:まあそれだけこのコラボは成功だったってことでしょ

:大成功だったんだから仕方ないよね

:どんまい

:おまえらやさしいな

:コメント欄もてぇてぇ

:ボアバードはコメントまでもがてぇてぇ




 コメントで指摘があったように、まだ配信時間は終わりじゃなかったな。

 ついうっかりそんな気分になりかけていたよ。


『ごめん、そうだったな。ついうっかり』


 と俺はみんなに謝る。

 楽しみにしてもらってるのに、途中で終わってしまうのは悪いよな。


『ははは、実はアタシも終了させそうになっちゃった。おあいこだね。てへぺろ』


 とボア先輩がおどける。

 


【コメント】

:かわいい

:たしかに流されそうな空気だったね

:草

:てへぺろたすかる

:草

:ボアちゃんかわいくていやされる



 ボア先輩を褒める言葉が並ぶ。

 可愛い女の子ってやっぱり強いなと思う。


 俺だっていやされるくらいだから。


『まだ時間はあるしほかのクエストもやりたいなー。バードくんいいかな?』


 とボア先輩に聞かれる。


『いいですよ』


 と答えた。

 具体的な内容は決まってないからな。


 どんなリクエストが来るか、実は俺もわからない。

 だけど何とかなるだろうと思う。


『ウルトラ級のクエスト、全部ソロで安定クリアできるので、計算に入れてやってください』


 と告げる。


『おおー! さすがぁ! アタシはほかにもいくつか、ソロじゃ無理なやつがあるんだよねー』


 とボア先輩の声が明るくなった。


【コメント】

:さすが鳥

:頼りになるな

:そこにあこがれる

:リスペクトする

:ボアちゃんがソロで勝てないって、相当な難易度なんだろうけどな

:鳥さんのスキル、明らかにおかしいからね

:強すぎる

:無双の鳥、ボア先輩を華麗に救う

:↑まだはじまってないよw

:草

:約束された討伐

:鳥がいれば勝てるだろうという期待


『大丈夫だと思いますよー。どれをやりたいですか?』


 と俺は聞く。


 視聴者たちはもしかしたら台本があると思ってるかもしれないけど、俺のほうにはマジで台本がないんだよな。


 猫島さんはくれたことない。


 芝居や演技のたぐいが俺にできるとは思えないので、彼女の判断は正しいんだろうけど。


『じゃあ次は疾風竜をお願いしようかな。飛び回るのを追いかけるのが、本当に大変で』


 とボア先輩は言った。


『なるほど、あいつですか。あいつはトラップでハメたほうが早いですね』


 俺はそう答える。


 飛び回るのはいいんだが、プレイヤーと離れた位置まで行ってしまうケースがけっこうある面倒なクリーチャーだ。


『ソロだとそれでもしんどくて……バードくんがいっしょならすぐ終わるかなー』


 とボア先輩が言う。

 頼られてるようで悪い気がしない。


『すぐは無理でも勝つのはできます』


 と答えておく。

 疾風竜は動きがわりとランダムだから、討伐時間にはブレが出るのだ。


 体力はウルトラ級でもそんなに高くないので、運が良ければすぐに終わると思うんだが。


『わーい、さすがバードくん、頼りになるー!』


 ボア先輩が向こうではしゃぐ。

 喜んでもらえるのはうれしいんだが、


『さすがに気が早いですよ』


 と答える。

 クエストはこれからやるところなんだから。

 

『バードくんはそう言うだろうなーと思ってたよー』


 なぜかボア先輩に笑われる。

 やる前から気をゆるんでるのはどうなんだろう?


 いや、口うるさいイヤなやつになっちゃうか?

 それだけ俺が信頼されてるんだよな。


【コメント】

:まあ鳥だからな

:自分がいると勝ち確定になるってわかってないのが鳥のいいところ

:だから真剣に言っちゃうんだな

:そういうところが可愛いよね

:こうして見てると面白い

:天然コントバード

:草

:↑草



 なぜか俺が天然ボケ扱いされている。

 どうしてこうなった???


『げせぬ』


 と俺は自分の心境を口にした。


『え、それがバードくんでしょ?』


 何を言っているのかと、ボア先輩に笑われる。


『まあそうかもしれませんね』


 実のところまだよくわかってない。


 だが、これだけ短時間にいろんなツッコミを受けていれば、自分はそういう奴なのかもしれないと思ったりする。


『それじゃクエスト貼ったからお願いね』


 ボア先輩が受注したものに俺が参加し、彼女がクエスト出発を選ぶ。


 疾風竜と戦うのは森だった。


【コメント】

:速くて動き回るやつと森で戦うのはキツイ

:一番強いのはマップって言われるゆえんだよな

:クリーチャーより地形がつらい

:ラスボスはマップ

:草

:クリバスってそういうゲームなんだ……


 何かコメントでクリバスあるあるの話になってるな。


『木やら何やらでクリーチャーが見えづらい、動きづらいってのはあるな。回避したいのにできるスペースがすくないエリアとか』


 と俺が反応する。


『ほんとそれそれー!! グレート級ならまだ対応できるんだけど、ウルトラ級は超きついよー!』


 とボア先輩が大きな声で賛同した。

 苦労させられたんだろうな。


 まあ気持ちはわからなくもない。


『俺も慣れるまではだいぶ大変な想いをしたんで』


 と言う。

 慣れて理解すれば何とでもなるんだよ。


 大事なのはあきらめずに頑張ることだと思う。


 というわけでクエストがはじまった。

 俺たちは運よく、ほぼ同時に疾風竜と遭遇する。


『じゃあ俺がトラップを使っていきますね』


 クリーチャーの動きを一時的に止めてくれるトラップ。

 疾風竜を倒し慣れている俺が使ったほうがおそらく効果的だろう。


『うん、お願い!』


 疾風竜が威嚇している隙にさっそくひとつ使う。


『え?』


 とボア先輩が言ったすこしあと、こっちに突っ込んできた疾風竜はいきなり行動不能になった。


 うん、このパターンは俺に突っ込んでくるよな。


『ボア先輩、腕か顔をお願いします』


 予想していたので俺は尻尾を狙ってバーサーク乱舞を放つ。


『りょ、了解』


 ボア先輩はちょっと驚いていたけど、ちゃんと顔を狙ってくれるようだ。

 牙だってほしいんだろうな。


 俺も尻尾を切ったら手伝おうか。

 

【コメント】

:疾風竜、こんな簡単にトラップ引っかかるの?

:いや、動きを読み切らないと難しいぞ

:鳥さん、完全に読み切ってる動きだよね

:どれだけ練習したんだろうな……

:昔ならいざ知らず、いまはゲームが上手ければ金になる

:スキルも必要だし、やり方も考えなきゃだけど、チャンスはあるな

:鳥にとってはいい時代だね

:ゲーム、やるのも見るのも好きだからうれしい

:それな


 

 コメントをチラ見しながら疾風竜の頭部を攻撃し、牙もへし折る。


『このペースだと前足もいけそうだから、やりましょうか』


 と提案する。


『え、うん。じゃあお願いしちゃおうかな』


 ボア先輩は何かちょっと弱気な感じで言った。

 ウルトラ級にはまだ慣れてないからか。


 俺のほうが詳しいんだろうし、助言できることは助言していったほうがいいのかな。


【コメント】

:ゲームだと鳥さんリーダーシップ発揮するね

:鳥のほうが強いし詳しいから妥当

:普段弱気で自信なさげな弟分が主導権握るシチュすこ

:関係性逆転っていいよな

:ボアちゃんのしおらしい感じもよき

:普段はきっぷのいい姉御肌な女子がついていくのもいいな

:ボアちゃんはともかく鳥は確実に気づいてないな

:だって鳥さんですし

:鳥だもんな

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