第23話『コラボの終わり+同期の記念コラボ』

『あ、そろそろ配信時間の終わりが来たねー!』


 とボア先輩が言う。

 疾風竜のあと、黒虎獣の討伐も手伝い終えたところだ。


『いやー、こんなにサクサク進むなんて、もっと早くバードくんに頼めばよかったなー』


 と彼女はとても満足した様子で話す。


『いままで接触禁止状態でしたからね』


 無理でしょと遠回しに答える。


 事務所に入るまではプライベートの連絡ができる相手じゃなかったし、入ったあとも許可が下りるまでは先輩との接触は禁止。 


 だから彼女とクリバスできたはずがない。


 彼女がわかってないはずはないと思うけど、どう返していいのか何にも思いつかなかったのだ。


『もちろんわかってるよー。バードくんはユニークな答えを返してくれて、楽しいね!』


 あははー、とテンション高めでボア先輩が返事をしてくる。


『はは』


 まさかの好意的な切り返しに、俺は愛想笑いでごまかす。

 我ながらつまらない答えに、楽しいって返ってくるなんて。


【コメント】

:ボアちゃんに正論は通じないよ?

:草

:ボアちゃん快楽主義な一面があるのは否定できない

:何でも楽しめる性格な分、一歩間違えたらトラブルメーカーだよな

:鳥の真面目な回答も楽しめるのは強い

:さすが理解者ぞろい

:ボアちゃん見てると鍛えられるからね

:いや、鳥さん何も悪くないでしょ

:そうだね

:鳥の反応が正しいしな


『ははは』


 たしかにボア先輩はこういうところがあるんだったな。

 

『お、笑ったね? きみの笑い声、初めて聞いたかもー』


 とボア先輩に言われる。


『え、そうですか?』


 さすがに笑ったことが一度もないことはないと思うんだが。

 と思いながら首をひねる。


【コメント】

:たしかに

:鳥さんはシャイでクールなだけだよ!!

:そんな人がいてもいいじゃない

:いてもいいけど、貴重なシーンを視聴できたのはうれしい

:↑それな



 コメントでのフォローがうれしい。


 いままでリアルだとつまんねえやつって言われて、仲間外れにされた経験しかなかったから。


『何か今日はこの姿に転生してよかったってことばかりだな。みんなのおかげだよ』


 と俺は感謝の気持ちを表明する。


『ふふ、大団円っぽいけど、これからはじまるんだからね? アタシたちの物語は』


 とボア先輩に言われた。


【コメント】

:そうそう

:ボアちゃんの言う通り!

:鳥さんの戦いはここからはじまるのよ

:俺たちのバードウォッチャーもな


『そうですね』


 と俺が言うと、


『それじゃ時間だね。おつボアー』


 とボア先輩が視聴者たちにあいさつをする。


『お疲れさま。決まったあいさつはまだ考えてないので』


 と俺も続く。


【コメント】

:お疲れさま!!!

:草

:最後まで鳥が鳥節のままで草

:そこが鳥らしいよな

:鳥さんらしくてにっこり

:お疲れ。いつもの鳥さんでいて



 いい感じのままコラボ配信は終了した。


ボア[お疲れさまー。ゲーム手伝ってくれてありがとー!!]

バード[こっちこそMCをやってくれてありがとうございます]


 終わってすぐにボア先輩からメッセージが届いたので、こっちもすぐ返信する。


ボア[バードくん、やっぱりマジで強いよね。今度配信ぬきでもいっしょにプレイしてくれない?]

バード[どうなんでしょう、それ]


 先輩からのお誘いに俺はドキッとした。

 いっしょに遊ぶ相手がいない俺としては、引き受けたい。


 だが、Vライバー同士が事務所を通さずに遊ぶってのはどうなんだろう?


ボア[あはは、もちろん事務所の許可をとってからだよー]


 ボア先輩の返事にほっとする。

 許可があるなら大丈夫だろう。


バード[それなら喜んで]

ボア[約束したからねー!]


 俺のレスポンスに先輩は約束だと決める。

 ちょっと強引な気がしたけど、同時にこの人らしい。


 苦笑なのか微笑なのか、自分でもよくわからない笑みが自然とこぼれる。


バード[このあと、同期たちの記念コラボ見たいのですが]

ボア[あ、アタシも見るよん。あの子たちともそのうちコラボしたいね!]


 反応する余裕がなくなると伝えたら、意外な答えが来た。

 この人も俺の同期の配信を見るつもりだったのか。


 理由を聞けば納得だけど。

 ……俺、ほかの人たちとコラボできるのかな。


 同期たちもボア先輩も優しく受け入れてくれたけど、ほかの人たちまでそうとはかぎらないだろう。


 ……いや、先走りすぎだな。

 そんなにポンポンほかの人とコラボが決まるはずがない。


 同期たちはやっぱり特別なんだろうし、ボア先輩だってもともと交流はあったんだから例外だろう。

 

 よしっ、安心したのでモルモとラビさんのコラボを見よう。


 ふたりの配信は見ていて楽しいし、いやされるし、さらにきっといいお手本になるだろう。

 

 俺にとっていいことずくめだな!



『【ラビ&モルモ】記念コラボ【祝・収益化】』


 枠はラビさんのほうではじまった。


『こんラビー』


『こんモル』


 とふたりが順番にあいさつする。

 そういやふたりもあいさつをちゃんと決めたんだな。


 決めてないのはもしかしなくても俺だけ?


『今日はお題通り、収益化記念コラボですー』


『いえい、いえーい』


 ラビさんが説明し、モルモが喜び、ふたり同時に拍手をする。

 息がぴったりだな。


【コメント】

:収益化おめでとう!

:おめでとう!

:スパチャできるぞ、やったね!

:同期の鳥も達成ずみだから、全員収益化か

:ペガサス2期、尋常じゃなく速いな

:普通は一か月くらいかかるものだよね



『ほんとそうなんですよー。わたしたちもびっくりしています』


 とラビさんが話す。


『まあ十中八九バードくんのおかげだけどね。コラボしてから一気に伸びたもの』


 モルモが苦笑気味に言った。

 そんなことないと思うんだけどなあ。


『バードくんには頭が上がらないですよねー。何かお礼をしないとですー』


『わたしもそう思うなー。何がいいかな?』


 ラビさんとモルモは何と視聴者たちに聞いている。


【コメント】

:ふたりにお礼される鳥がうらやま

:正直バードに嫉妬しそう……

:変わってほしい

:お礼ってどんなのがいいんだろうな?

:真面目に意見を出すなら、鳥が遊んだことないゲームで遊ぶとか

:↑友達がいないと遊べないやつかな

:鳥さん、初めてだってうれしそうだったもんね……

:友達と遊ぶノリで付き合うだけでよさそうだよな

:つってもふたりとも女子だから、男友達のノリなんてわからないだろ?



 コメント欄は真面目な反応だ。

 もうちょっと荒れるかと不安になったけど、ふたりの人柄が強いなあ。


『そうですねー。わたし男兄弟いないですし、交際経験もないので全然わかりません』


『わたしも弟がいるだけだから、やっぱりわからないかな』


 ふたりはそう言った。

 まあそうだろうな。


 俺だって女子のノリなんて想像すらできない。

 せいぜいラビさんとモルモのやりとりを見て、こんな感じなんだと思うだけだ。


【コメント】

:おや? さらっとピュアピュア発言が

:え、マジで?

:ふたりとも?

:さすがに台本だろ……

:で、でもふたりともけっこうウブな感じだし



 コメント欄がざわついているな。

 何かあったっけ?


 よくわからず首をひねったが、やがてひとつのことに思い当たる。


 そう言えばラビさんメチャクチャ美人で、モルモは超可愛かったのに男性との交際経験がないんだっけ?


 本当のところはわからないが、事実だったらたしかに驚きかも。


『ん? あっ』


 何かふたりは声をあげて黙ってしまった。

 意味深な沈黙だな。


 まあプライベートな情報を話したのはまずかったのかもしれない。

 しっかりしてるラビさんと、用心深そうなモルモが珍しい。


 俺もうっかり言わないように注意しよう。


『こほん、話を戻しましょ』


 とモルモが言う。


『そうですねー。今日のコラボですが、雑談中心になっていく予定ですね。ガールズトークですね』


 とラビさんも言った。

 ふたりとももういつも通りだった。


【コメント】

:ガールズトークか、楽しみ

:早くもてぇてぇの予感

:そう言えば今日、ふたりでスイーツ食べに行ったの?



 コメント欄は盛り上がってるが、同時にぎくりともする。

 スイーツを食べに行った話が出たからだ。


『そうね、じゃあスイーツの話からしましょうか』


『いいですねー』


 とふたりは盛り上がりはじめる。

 ふたりのトークを普通に聞いてるだけでコメントがわくのはすごい。


 俺も聞いていて楽しい。

 こうしてコラボの日は過ぎていったのだった。




************


 雪眠ラチカ@ピスケス2期生

 ペガサスのバードさん、やっぱり上手すぎ神ヤバ!!!

 この人とゲームコラボしたい~

 ラチカもクエスト手伝ってほしい……

 

    共有35万 グッド80万

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