第21話「ボア先輩とコラボ④」
『それでボア先輩は何を狩りたいんですか?』
ゲーム機を起動させながら俺は聞いた。
『んー。きついなと思ってるのを頼みたいからね。ウルトラ級の鬼獅子二頭をお願
い』
『ああ、あれですか。いいですよ』
ボア先輩の返事に承知する。
俺ひとりでも何とかなるし、ふたりでも平気だろう。
【コメント】
:返事かるっ
:鬼獅子二頭って最難関クエストって言われてるやつじゃん……
:どんなのなんだ、それ?
:鬼獅子は全クリーチャー中最高クラスの攻撃力
:それがタフになって暴れ回る
:1対1ならともかく頻繁に挟み撃ちにされるから地獄
:なるほど、きついのは伝わってくる
『まあ悪臭玉と罠は必須ですね。ガチ装備で行きます』
と俺は告げる。
『さすがのバードくんも鬼獅子二頭相手だと、ガチなんだねー』
とボア先輩は言った。
『そりゃ失敗できないですしね。自分ひとりなら負けてもネタにできるからいいんですけど』
と返事する。
失敗してもネタにするって配信なら、ガチはやめておくが。
『そうだねー。今回は本当に勝てなくて困ってるやつだから……ネタプレイもそのうちやってみる?』
『いいですね』
ボア先輩のお誘いに俺はうなずいた。
今回のコラボが好評のようなら、またやろうという企画は当然出るだろう。
ネタプレイはそのときにとっておいてもいいかもしれない。
【コメント】
:鳥さんやさしい
:気遣いのできるいい鳥
:ネタプレイは封印か
:まあボアちゃん、マジで困ってるからな
:さすがにネタにはできないだろう
:本人真剣なんだから茶化すのはよくない
:ところで鳥さん、ガチじゃなくても勝てたりするの?
:鬼獅子って普通はガチじゃないとまず勝てないけど、そこは鳥だからな…
『ちなみにバードくん、ガチじゃない装備だとどんな戦績になるのかな?』
とコメント欄を見たらしいボア先輩に聞かれる。
『鬼獅子二頭にガチで行かないとなると、3回か4回に1回くらいは失敗しそうです』
『そ、そんなに成功率高いんだ』
答えたらなぜかボア先輩の声が若干ひきつったようだ。
どうしたんだろう?
【コメント】
:やっぱりこの鳥頭オカシイ
:くだらないことで見栄を張るなって普通なら言うところなんだが…
:何しろ鳥さんだからね
:え? 何か変なこと言いました? とか素で思ってそう
コメント欄が実に鋭い。
たしかに何か変なことを言ったかなと首をかしげたかった。
『バードくん、素でわかってなさそうだねー』
ボア先輩がカラカラと明るく笑う。
まったくもってそのとおりだった。
とりあえず準備が終わったから報告しよう。
『準備終了です』
『はいな。IⅮを送ったから入ってきてね』
端末に送られたIDを入力して、ボア先輩が開いた討伐ルームに入る。
『お、二刀流なんだね』
とボア先輩はちょっと驚いたみたいだ。
『討伐時間短いほうがいいですし、それなら火力出せる装備でと思って』
と俺は説明する。
『たしかにね。鬼獅子はなるべく早く数を減らしたいもんねー』
とボア先輩は納得した。
【コメント】
:言ってることは間違ってない
:二刀流で死なないことが前提になるんだがな
:二刀流、火力は出しやすいけど死にやすいから
:鬼獅子相手だとなおさら死ねるよね
『たしかにリスクは上がるけど、ウルトラ級の鬼獅子と戦うならリスクって誤差レベルじゃないですか? どうせミスったら死ぬので』
と俺は言う。
『それはたしかにそうだね』
ボア先輩が同意してくれたので、ちょっと自信を持つ。
『だったら火力を出して討伐時間を短縮すれば、ミスする確率が自然と減らせるんですよ』
と説明する。
我ながらわかりやすいし賛同者が増えてくれることを期待した。
『うーん、理屈はわかるけどね』
ところがボア先輩はなぜか苦笑。
【コメント】
:理屈はわかるけど実践が難しいパターンがきた
:↑バード理論はいつもそうだよ……
:それができりゃ誰も苦労はしない
:言ってることは正しいんだがなあ
『あ、あれ?』
みんなの反応はあんまりよくない。
『うん、狩りに行こうか!』
ボア先輩が明るく言った。
ごまかされた感があったけど、同時に助かった予感もある。
どうにも俺の理論は支持者がいなかったみたいだから。
討伐時間の短縮って、大事だと思うんだけどなあ。
微妙に納得できない想いを抱えつつ、クリーチャー討伐に挑む。
『どうしようか? アタシも戦っていい?』
クエストのロード中、ボア先輩が聞いてくる。
『もちろんです。二頭いるんだからひとり一頭でどうでしょう? 合流したら俺が悪臭玉を投げて移動させます』
と提案した。
『めっちゃ助かるよー。戦力がいないと分断しきれないからねー』
とボア先輩が答える。
たしかにあいつは一頭ずつ分断できないと面倒だ。
俺だって二頭同時はできるかぎり避けたい。
……言っても信じてもらえるかわからない感じがするので言わないが。
クエストがはじまったら、いきなり俺の前には鬼獅子が一頭いた。
『遭遇しました。討伐します』
ボア先輩ならわかっただろうけど、これは配信だからな。
実況も兼ねて告げる。
『了解。アタシのところにはいないから、もう一頭を探してみる』
とボア先輩が答えを返す。
俺たちの開始地点はバラバラ、鬼獅子のいる場所もバラバラだ。
そこが面白いんだよな。
『じゃあひと足先にはじめます』
俺がさっさと終わらせたらボア先輩に加勢できる。
急ごう。
トラップを使って動きを封じて、バーサーク乱舞で鬼獅子の頭部を殴る。
怒り状態になった鬼獅子は動き回って赤いビームを撃ってきた。
実はこの状態こそ一番隙が多くなる。
ビームを撃ってるときの後ろ足か尻尾が狙い安くておススメだ。
尻尾を切れば素材回収、足を殴れば転倒させて攻撃チャンス。
俺は先に足を狙う。
転倒させてから尻尾を切ればいいもんな。
【コメント】
:うめえ……
:鬼獅子の攻撃ってここまで避けられるものなのか
:ウルトラ級だぞ、これ……
:バスターアニキたちが絶句してる
:めちゃくちゃ上手いのは素人でもわかる
:ほかの人と比べてどれくらい上手いのかがわかりづらいだけだよな
『よし、捕獲できるようになったので、捕獲してからボア先輩に合流目指します』
と報告する。
『はや!?!? いくら何でも早すぎない!?』
ボア先輩が叫ぶ。
何でそんなに驚くんだろう?
『え、二頭狩りだから、一頭のときより体力低めですよね』
一頭だったらもっと時間かかっただろうな。
二頭クエストは合流されなきゃむしろ難易度は一頭のときより低くなるし、ボア先輩だって知ってるはずなんだが。
『はい、出たね。いつもの』
何かボア先輩の返事が雑になった。
【コメント】
:草
:これは草
:ボアちゃんの対応が雑化する
:まあ鳥さんのぶっとび具合、つき合いきれないからね
:驚きすぎてだんだん感覚マヒしてくるよ
:自衛手段、自衛手段
:自衛は草
『そういうとこだよー、バードくん。あっ、鬼獅子と遭遇!』
とボア先輩から悲鳴まじりの声が聞こえる。
【コメント】
:悲鳴たすかる
:かわいい
:ボアちゃん普段明るくて快活だけど、こういうシーンは乙女
:かわいい
『いま行きます』
どこに鬼獅子が出たかはマップを見ればわかる。
『頼もしい! アタシは死なないように立ち回るね』
とボア先輩からの返事。
一頭なら狩れそうだけど、無理しないってことかな。
まあふたりでやったほうが確実なんだし、無理するところでもない。
【コメント】
:これが鬼獅子か
:鳥が上手すぎて大して脅威には感じられなかったが
:戦ったのは鳥さんだからノーカンみたいなところあるね
『きゃっ、ほっ、おっ』
ボア先輩から声が漏れている。
まあ鬼獅子だしね。
【コメント】
:かわいい
:そしてボアちゃん上手い
:普通に上手いよね
:鳥さんが加勢に来るまで死なない、なら充分可能って感じ
コメントを見ながらそうだろうなと思う。
ボア先輩はたぶんソロプレイだけでもウルトラ級に到達できるだけの力はある。
と思いながら俺は鬼獅子と交戦中のところへ駆けつけた。
『お待たせしました』
『お、待ってました!』
到着を告げるとボア先輩の声がはずむ。
何だかいいことをしたみたいでちょっとうれしくなる。
【コメント】
:あーあ、ついちゃった
:鬼獅子さん終了のお知らせ
:ここからは戦闘じゃなくて一方的な蹂躙だな
:ウルトラ級の殺戮ショーが幕を開ける
:ワンサイドゲームのはじまりです
:↑おまえらwww 間違ってないだろうけどもwww
『いや、油断したら鬼獅子は死ぬよ。2対1でもね』
と俺は答えた。
むしろタイマンじゃない分、動きは読みづらくなることさえある。
そして鬼獅子の注意がこっちにも向く。
こうなるともうコメントを見る余裕はなくなる。
【コメント】
:いや、コメント拾うあたり余裕あるんじゃない?
:まあさっきまで鬼獅子に気づかれてなかったからな
:鳥のところで戦闘BGМ流れはじめただろ? あれが発見された合図
:つまり戦闘状態じゃなかったから余裕があったということ
:なるほど、そういう仕組みなのね
:意外とゲーム知らない人多いんだな
:ボアちゃんも鳥もガチゲーマーだから、てっきりゲーマーなファンだらけかと思ってた
:たぶんバードウォッチャーだろ
ボア先輩が攻撃をかわして腕を狙っているようだ。
腕にダメージを与えても転倒させることはできるので、俺は背中に回って尻尾を狙おう。
素材回収は大事。
鬼獅子は動き回るので、こっちも動き続ける必要がある。
とびかかり攻撃を回避してトラップをセット。
『トラップ設置したので、ボア先輩は頭を狙ってください。俺は尻尾やります』
『了解。バードくん、頼りになりまくり!』
連携もばっちりだと思う。
尻尾を狙ってバーサーク乱舞をくり出し、切断に成功する。
『尻尾切りましたー』
『アタシも無事牙折れたよ』
報告すればボア先輩からも報告が返ってきた。
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