第20話「ボア先輩とコラボ③」

 最後の戦いは普通に正面からの衝突になった。


『まあこっちのほうが話は早い』


 俺としてはわりと楽な展開だと言える。

 どこに潜伏してるかわからない敵を探し続けるというのが、一番いやなのだ。


『アタシは正面衝突だけはいやだったのに!』


 とボア先輩がぼやく。

 3対2だと普通にきついからな。


 とりあえず体を動かして、弾の軌道をずらしてクリーンヒットだけは避けつつ、反撃でひとりを仕留める。


 2対2になるとわりと楽だが、ボア先輩が銃を撃たれてマヒされてしまう。

 俺は助けに行かず彼女の背後に回って弾除けにし、二丁撃ちでひとりを撃破する。


『えっ、ちょっとお』


 ボア先輩が驚き、抗議の声をあげるけど気にしない。

 その直後、ボア先輩が撃破されて離脱してしまい、残りは1対1になった。


『あー』


 悔しそうにうなる先輩を尻目に、俺は残りひとりののどを撃ちぬいた。


『ふーっ、勝った』


 最後は三人とも俺がしとめることになったけど、ボア先輩がいなかったら負けてたかもしれない。


『でも勝てたから許しちゃお。バードくんのおかげで生存ポイントがアタシにも入るもんね』


 ボア先輩はすぐに気持ちを切り替えたのか、明るく言う。


 そう、このゲームだと味方ひとりが最後に立っていれば同じく生存ポイントをもらえるのだ。

 

 ソロだと地獄になると言われる理由でもある。


『やった、許された』


 と俺は喜ぶ。


【コメント】

:生存おめでとう

:まさかボア先輩を盾にするとはww

:強いほうが生き残るべきって考えると、作戦は間違いじゃないけど絵面がひどいw

:草

:でも実質最後3人を鳥さん1人で倒しちゃったから……

:圧倒的プレイヤースキルを持ってるからこそギリ許されるやつ

:マジで圧倒的に強い

:ソロじゃなかったらとっくにモナーク級にいけてるでしょ

:モナーク級の実力者が下のランクで無双するなんてひどい

:ソロばかりで上がれてないから、詐欺じゃないんだよなあ


『おー、コメント盛り上がってるね。盾になった甲斐があったよ』


 とボア先輩が楽しそうに笑う。


『ごめんなさい。勝つことを求められてると思ったのでつい』


 と俺は詫びる。

 たしかに女性を盾にして生き残るという構図はひどい。


『いいよー。きみが残るほうが勝てる確率高いし、実際に勝ったんだからね』


 ボア先輩は明るく言ってくれてホッとする。


【コメント】

:これはボアちゃん天使

:盾にされても怒らない女

:まあそもそもランクマッチで加勢を頼んだわけだから

:依頼されたとおり生存ポイントとった男

:同じチームなら生存ポイントが入る仕様じゃなかったらただの鬼畜だったな

:その場合はさすがにボアちゃんをかばったでしょ、さすがに

:ゲームは鬼畜無双、人格はピュアピュアな鳥を信じろ

:↑わたしは信じてる

:↑自分も信じてるよ



『お? バードくん、女子ファンけっこうついてるみたいだねー』

  

 一戦終えて戻ってきたところでボア先輩に言われる。


『え、そうなんですか?』


 わかるものなんだろうかと首をかしげた。


『何となくだけどねー。それに男性配信者のファンは女子が多いよ。バードくんはゲームが超絶強いから、男性ファンもとれるかも?』


 とボア先輩は答える。


『そういうものなんですね』


 全然知らないからな、その手のこと。


 ちょっとは勉強したほうがいいのかと思うけど、猫島さんは「いまのままでも大丈夫ですよ」と返してくるだけだ。


【コメント】

:ここでは自重したほうがいいよね

:あくまでもボアさんの配信枠だし

:ジャックまがいなことはNGだと思う

:鳥ファン、マナーいいな

:コラボ先に配慮できるファンたちはすばらしい

:これは好印象

:これは素直に驚き



『すごい。バードウォッチャーのみなさんマナーいいね。理想的』


 とボア先輩が感心する。


『バードウォッチャーのみんなはすごいですね。正直俺も驚いています』


 わりとノリのいい人たちってのは何となくわかっているんだけど、こういう場面じゃないと知らなかった一面だろう。


【コメント】

:マナーよくしないと推しに迷惑をかけちゃうからね

:推しに迷惑かけないのは最重要項目

:えらい

:わかっちゃいるけど実践するのは難しいよね

:これはよいファン



 何だかゆるーい感じのコメントが流れてる。

 こういうのもいいよな。


 はたから見ている分にはノリがいいのも悪くないけど。


『いいよね。お互いのファンが仲良く交流しているのを見るのって』


『それはわかります』


 ボア先輩の発言に共感し、同意する。

 自分を応援してくれてるファンの存在はとてもありがたい。


【コメント】

:ボアバードもいいよ

:てぇてぇとは違う。ほっこり?

:姉弟てぇてぇ

:↑それだ!

:てぇてぇ

:ボアバードよき



 こういうコメントを見てるのは楽しいな。

 もしかしたらコラボは成功って言えるのかもしれない。


 まだ半分くらいしか時間たってないけど。


『そろそろ半分すぎたね。この次はクリバスふたりでやるよん。バードくんの超絶神技に感嘆するといいよ!』


 ボア先輩が明るく宣言した。


『いや、あんまり期待されても』


 ハードル上げられると困るんだよな。


『何言ってんの!』


 俺の返事を聞いた先輩は全力でツッコミを入れてくる。

 

【コメント】

:これはボアちゃんが正しい

:無自覚系つよつよバスター

:何か姉ちゃんに尻に敷かれてる弟みたい

:それな

:草

:仲良し姉弟ボアバードてぇてぇ

:てぇてぇ


 何かボア先輩がお姉さん扱いされてはじめた。

 たしかにこういうお姉さんほしかったな。


 ボア先輩、かなり美人だったし……いや、考えるのはよそう。


『たしかに俺はお姉さんがほしい。美人で優しいお姉さん』


 と勇気を出して言ってみた。


 このノリでいいのかわからないから、ボア先輩がなんて返事をするかと思うとドキドキする。


『お、じゃあアタシの弟になってみる?』


 とボア先輩が軽やかに言ってきた。

 やっぱりこの人はノリがいい。


『なりたいです』

  

 そう思いながら返してみる。


『弟ができました』


『ボア姉ちゃん? でいいのかな?』


 ボア先輩の回答に俺はさらに応じた。


『いえーい』


 彼女はいまにもハイタッチしてきそうな返事をしてくる。


『い、いえーい』


 と俺も返した。

 姉ちゃん呼びしちゃったんだし、やらないわけにはいかないよな。

                            

【コメント】

:明るい姉、ぎこちない弟

:弟はぼっちコミュ障だからしゃーない

:むしろよく姉呼びできたね

:うん、そんなこと言えるキャラじゃないと思ってた


 ははは、ばれてーら。


『うん、たしかに俺はそんなキャラじゃないね。めちゃくちゃ緊張したよ。いまも心臓がバクバクしてる』


 と正直に打ち明ける。


『もぉー、そういうところ可愛いねー』

 

 とボア先輩が答えた。

 あれ、意外と反応は悪くない?


 弱い、情けない男は嫌いだって言われるんじゃないかと思っていた。


『か、可愛いですか?』


 俺は困惑する。

 女子ってわりとよく可愛いって言うよな。


 ほめ言葉なんだろうし、否定されるよりよっぽどいいんだけど。

 

【コメント】

:わかる、鳥さんは可愛い

:それでゲームが強いってギャップがいいよね

:ボアバードがこんなにてぇてぇだなんて

:思ってた以上に鳥は人気あるんだな

:てっきりゲームが強いからファンがついたんだと思ってた

:俺も

:わたしも

:自分も


『うんうん、バードくんはきっと人気が出ると思ってたよー。ファンがつくペースはアタシの想像をはるかに超えてたけど』


 とボア先輩は言う。

 この人にすすめられたのがきっかけで俺は配信者になったんだもんな。


『マネージャーさんも驚いてましたよ。一番驚いているのは、間違いなく俺だと思いますけど』


 と答える。

 

【コメント】

:登録者数40万超えてるんだっけ?

:もうボアちゃんに並びかけてるもんな

:勢いハンパない

:新しいスターが誕生する予感

:他人ごとw

:草

:相変わらずの鳥節で草

 

 コメント欄の盛り上がりもすごい。


 俺がスターなんて言いすぎだと思うんだが、勢いがすごいことになっているのはもう疑う余地がない事実だ。


 俺ってここからどうなっちゃうんだろう?


『相変わらずだね、バードくん。きみのそういうところがいいんだと思うよー。というわけでクリバスの準備をしよっか』


 とボア先輩に言われる。


『了解です』


 パソコンを終了させて、携帯用のゲームの準備をしよう。


【コメント】

:いよいよか

:楽しみ

:どんな無双が見られるんだろうな

:ボアちゃんだって強いから、言うほど無双にならない予感

:そこは戦うクリーチャー次第じゃないかな

:ボアちゃんが苦手なクリーチャーと戦うとか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る