第19話「ボア先輩とコラボ②」
『あ、止まってください』
『えっ?』
いやな感じがしたので俺はボア先輩に呼びかけ、その場で止まる。
直後左斜めから銃撃された。
幸いかすめていっただけで外れる。
あの森の茂みだな。
飛んできた弾の角度からだいたい逆算して、撃ち返す。
どうやらダウンをしただけだったので、倒れた場所を予想して撃ちこんで倒した。
『……さらっと超人プレイをぶち込んでくるよね、バードくん』
ボア先輩があきれた声で言う。
『え、ひそんでる場所は何となくわかりますし、わかれば直撃は避けられるし、反撃もできますよね? 運がよかったのは事実ですが』
普通は一発でダウンとったり仕留めたりはできない。
何なら仲間もいないのもラッキーだった。
【コメント】
:はい出ました、バードの超人テクニック
:何だ、いまの? 何をどうしたらそうなるんだ???
:狙撃ポイントに気づき停止、ぎりぎりで回避して反撃で撃破
:↑文字にする分には単純だな。どれだけ高等テクなんだという現実を見ないなら
:敵の狙撃を察知して緊急回避はギリわかる。俺もたまに成功する
:問題はそのあとなんだよな。一発でダウン、二発目で撃破って……
:ゲーマーたちが錯乱してる
:普通はできない神業をさりげに連発されたからね、仕方ないね
『ああ、はいはい。そうだね。追撃が来ないってことは、ひとりだけ逃げ延びたパターンだったみたいね』
とボア先輩も言う。
何か適当な感じの相槌だった気がするけど、いまはそれどころじゃない。
『移動を急いだほうがいいですよね』
『さっきの敵を追ってた人、いるかもだからね』
俺たちはほふく前進でその場をゆっくりと離脱する。
敵は来なかったので遮へい物に身を隠し、準備を整えた。
『問題はこっからだよねー』
とボア先輩が言うけどそのとおりだろう。
『生存ポイント狙いなら、このまま待機もありですけどね』
撃破数3だっけ?
『んー、アタシまだ撃破数ゼロだからねー。ぜいたく言っちゃいけないと思ってるけど、できればポイントほしいよー』
とボア先輩がもっともなことを言う。
生存ポイント>撃破ポイント>アシストポイントの順だけど、上を狙うならほしいところだ。
【コメント】
:生存ポイントだけじゃだめなの?
:だめじゃない。一番大事なポイント
:上を狙うならアシストくらいはほしいよな
:無理する場面じゃないんだけど、無双鳥さんがいるから欲が出るところ
:ほかのメンツならやめとけと言うところだけど、鳥さんなんだよなあ……
『うん、せっかくバードくんがいるからね。狙わないと意味ないでしょー』
とボア先輩は言う。
『まあ助っ人を頼まれた立場なんで、ボア先輩の判断に従いますよ』
と俺は答える。
今回は目的が目的だけに俺だけポイントを稼いでも意味がない。
むしろボア先輩の護衛を務めるというスタンスのほうがいいかな。
そっちのほうが視聴者も見ていて楽しいだろう。
『いや、きみもランクアップ目指してるでしょ? ふたりで上を目指そうよー』
ボア先輩がケラケラと笑う。
『あ、はい』
そりゃそうなので恥ずかしくなってしまった。
【コメント】
:ボアちゃん正論
:鳥の護衛ムーブを一蹴する
:悲報、鳥さんの厚意、論破される
:草
:先輩の枠だからと立てようとしたのにかわいそう
:↑間違ってないけど、ランクマッチでやることでもないね
コメント欄でもツッコミが来ている。
たしかにランクマッチでやることじゃなかった。
『ここから取り返しますよ』
『取り返さなきゃいけないミスしてないでしょ』
意気込みを言葉に出すと、ボア先輩がすかさず笑いながら切り返してくる。
『あっ、はい』
また空回ったかと思いながら返事をした。
【コメント】
:草
:これは草
:俺たちは何を見せられてるんだ?
:頂上戦争かと思いきや夫婦漫才
:ゲーム配信かと思いきや姉弟漫才
:↑おまえら
:草
:いきぴったりだよな
:そりゃもともとフレで意思疎通ちゃんととれる仲だから
何か漫才扱いされてるなと思ったら、ボア先輩が動きはじめる。
『ねえねえ、チャンスがありそうなところに行ってみよ』
と言って右側に進む。
うん、そっちは大丈夫だろう。
ボア先輩のあとについて慎重に行く。
やがて2対2で戦ってるところに遭遇する。
『漁夫の利、行こうか?』
とボア先輩が言う。
『そうですね。先輩は左を狙ってください。俺は右を行きます』
『うん』
俺の判断に従って行動は開始する。
俺が二丁撃ちでふたりを同時に仕留めている間、ボア先輩はダウンをとっていた。
俺がかっさらうのは悪いので、ダウンした敵の仲間を俺がダウンさせる。
『先輩、どうぞ』
そしてボア先輩に譲った。
とどめを刺すほうがポイント稼げるからね。
『ありがとう、相変わらず頼りになる!!』
ボア先輩がとどめを刺して撃破数は2をゲットだ。
俺も撃破数2とアシスト数1を稼げたのでホクホクである。
『これでアタシが撃破数4、バードくんが撃破4、アシスト2だっけ』
『ですね。順調だと思います』
ボア先輩に相槌を打つ。
ここまで被弾はほぼないし、残存数も20を下回っている。
【コメント】
:やばいな
:鳥がやばすぎる
:たしかにこれは頭オカシイ
:ボアちゃん普通に上手いのに介護されてるのがオカシイ
:ボアちゃん撃破4だからけっして下手じゃないんだよなあ
:いいペースなんだよな
:ボアちゃんより早く敵を倒して、アシストする余裕まである鳥がバケモノ
:ソロでも撃破数8出してたんじゃないかと言いたくなる強さ
:↑ソロで8とかやばいを超越してるんだが、この鳥ならやりかねない
チームで撃破数8で生存ポイント取れたら普通にいいと思う。
『もう無理しなくてもいい気はするんですが』
生存ポイント狙いなら粘るほうがいい。
残りの敵18を俺たちで倒すのは現実的じゃないからな。
『だねー。無理はやめようか』
とボア先輩が賛成する。
うん、この人は強気だが無謀じゃない。
配信中だからと言ってとくに変えないから安心する。
【コメント】
:お、撤退モードか?
:欲を出したら集中砲火がありえる状況だからなぁ
:生存ポイントを狙うなら、敵が減るのを待つのは鉄則だね
:ランクアップ狙いなら撃破数だって稼ぎたかったりするんだが
:↑だから待てないプレイヤーが多いんだよ
:生存ポイントうまいと言っても、撃破数しだいで超えられるからな
:狙えるなら狙えたいのが本音だろ
:鳥くん淡白だけに、あんまり欲を出さないっぽいよな
:淡々としてるのは事実だけど、鳥さん欲張らなくても無双できるから
:ソロで安定撃破7は伊達じゃない
:他人からすれば無茶苦茶なんだけど、鳥さん自身は無理してないもんね
『そうだね。俺は全然無理してないよ』
と俺は言う。
いろいろ言われてるけど、何だわかってくれる人いるじゃないか。
『えええー』
ところがボア先輩が変な声を出す。
『そういうところだよ、バードくん』
と彼女はつけ加える。
【コメント】
:悲報、鳥はやっぱり鳥だった
:素で言ってるんだろうね
:ボアちゃんに全面的に同意
:ボアちゃんに共感しまくり
:鳥さん、そういうところやで
:それな
:ほんとそれ
あれ、感想欄から何かツッコミが来てる。
ボア先輩に同意してる人ばかりだ。
『あれ? おかしいな?』
『おかしいのはきみだよ。相変わらずズレてるね』
首をひねるとボア先輩に笑われる。
マジで意味がわからん。
なんて思っているうちに残存数が8になった。
俺たち以外に6人となると、3チーム2組かな?
ダブルが3組残るって展開はほとんどないだろうから。
『俺たち以外の残りが2チームになったなら、探しに行くのも手ですが』
というかやるしかないと思う。
生存ポイントをもらえるのは最後の1チームだけだ。
リミットが来たときに複数チームが残ったらもらえない。
『まあほかの人たちもアタシらを探すだろうし、見つかって先手とられたら不利だしね』
とボア先輩も賛成する。
隠れていた場所から抜け出し、そっと探しはじめた矢先、左から銃撃されて俺たちは被弾した。
『ああ、ツイてないなぁ!』
とボア先輩が嘆く。
たしかに移動した瞬間遭遇するのは不運だ。
俺はまだHPに余裕があるので、すぐに地面に転がりながら反撃する。
まず木から顔を出していたひとりの額を撃ちぬいて撃破。
それから二丁撃ちでふたりの銃を当ててマヒさせる。
そこをボア先輩が撃ってダウンを取ったので、ふたりでひとりずつ撃破。
『ふー、あせった。不運な事故でしたね』
ヒヤッとさせられた相手だった。
『ほんとにねー。バードくんがいっしょじゃなかったら、いまのでやられてたね』
とボア先輩が息を吐き出しながら答える。
ちょっとドキッとする感じだった。
【コメント】
:なんなんだ、いまのは!?
:はああああああああああ!?
:何が起こったのかわけがわからない
:3人に横から奇襲される、バードがすかさず反撃で1人撃破
:残り2人もスタンとって、ボアちゃんと2人でとどめ
:↑言うは易く行うは難しってレベルじゃないよ!?!?
:えちえち息たすかるって気分じゃない、それどころじゃない……
:鳥さんが1人を瞬殺しちゃうから、数的不利が不利じゃないんだね
:人数多い敵に奇襲されたら、そのまま崩壊するんですけど????
:何で返り討ちできちゃうんですかね……
:数的有利を守るためには最初の奇襲で鳥を落とすしかなさそう
:過去の配信見るかぎり、鳥が奇襲されてそのまま撃破されたことって一回もないんだよな
:さすがに被弾はしてるが、基本全部返り討ち
:撃破されるときってHPがほとんど残ってなかったときくらいだもんね
:やばすぎて脳が理解を拒否している
:どっかのプロなんでしょ??? アマとか冗談でしょ???
:↑言いたいことはわかる。プロならできる人がいるからね
これで残りは5だな。
あと1チームとなったところだと、さすがにコメントに反応する余裕はない。
『あとはどこにいるかですね』
『漁夫の利狙いで来なかったってことは近くにいないよね』
とふたりで相談し合う。
ボア先輩の言うとおり、奇襲を食らって反撃をしてた瞬間を狙われるのが一番やばかった。
それがなかったのは狙える位置にいなかったか、あるいは気づかれない場所だったかだ。
どっちなのかわからないのがこのゲームの楽しい部分でもある。
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