第18話「ボア先輩とコラボ」

「じゃあまた配信でねー」


 駅でふたりと別れたあと、自宅に戻ってくる。

 家族以外の誰かと出かけたのは初めてだったけど、普通に楽しかった。


 みんな優しかったおかげでいつの間にか緊張もどこかにいっていたと、家に戻ってから気づく。


 勇気を出してみてよかったと思う。

 夜の配信まではまだ時間があるのでゲームをしながらつぶす。


 ……配信のバリエーションについても、考えたほうがいいのかな。

 とは一瞬だけ浮かんだけど、いいアイデアは浮かばない。


 考えながらやったので失敗が多かった。

 やばいな、ボア先輩とやるときはミスできない。


 過去の配信でミスしたことないのに今日ミスったら、勘繰られてしまう。

 下手したら桂花と紗世さん……モルモとラビさんの迷惑になってしまうかも?


 考えすぎかもしれないけど、考えておいたほうがいいはずだ。

 よし、顔を洗って気合を入れなおそう。


 

『【ボア&バード】ゲーム配信【サプライズコラボ】』


 ボア先輩のチャンネルで配信がはじまる。

 俺はそれを見ながら、呼ばれたらすぐ入れるように待機していた。


『こんボア~。今日は後輩くんとコラボするよー』


 とボア先輩の明るい声が聞こえてくる。

 

【コメント】

:こんボア~

:こんボアー

:サプライズコラボだったな

:さすがに今日決まったってことはないよね?



 コメント欄がサプライズ告知されたコラボについてなっていた。


『ハハハ。さすがにないよ~。告知をサプライズにしてボアフレのみんなをびっくりさせようって、事務所の方針で決まっただけ~』


 ボア先輩は明るいテンションで説明している。

 コメント欄もだよなーと納得していた。


 本当は急きょ決まったのに、先輩のトーク力すごいな。


『じゃあ待機してくれてる後輩のバードくんを呼ぶよー。バードくーん』


 呼ばれてコラボをはじめるってちょっと恥ずかしいな、これ。

 チャンネルの視聴者はみんな待ってるんだろうし。


『こんばんは。ペガサスオフィスの2期生、バード・スカイムーブです』


『あはは。バードくん、堅いね~。真面目か』


 ボア先輩は俺の緊張をほぐすように笑う。


【コメント】

:たしかに堅いね

:真面目そう

:チャラそうなヤツじゃなくてよかった

:ボアちゃん後輩とのコラボ初めてだもんな

:男とのコラボも初めてだよ

:ペガサスの2期生、最近入ったところだから

:もう解禁になった後輩くんの勢いがやばすぎ


 

 今のところ拒絶しているコメントは見当たらない。

 大丈夫だろうと言われていたけど、やっぱり実際に目で見ると安心する。



『今日はね、頂上戦争のランクマッチをやろうと思うよ。超絶強い助っ人が来てくれたからね』


 ボア先輩、ランクマッチやりたかったのか。

 今日は先輩がやりたいことをやる日だと聞いていた。


 こっちが先輩のチャンネルにお邪魔する形だし、先輩のファンに覚えてもらうのが狙いだ。


『はは、頑張ります』


 ランクアップマッチは基本同ランクたち相手とのバトルだから、勝てるかわからない。


 だが、とにかく最善を尽くそう。


【コメント】

:鳥さんの助っ人パワーに楽しみ

:どれくらい強いの?

:同ランクならボアちゃんと変わらないんじゃ?

:↑ボアちゃんはチーム戦主体、鳥はずっとソロ(?)で同ランクなんだよなあ

:ソロだとチームメンバーのサポートがないから地獄なんだぜ?

:自分が削って仲間が倒すアシストポイントも、ソロだともらえないからね



 やっぱり詳しい人と詳しくない人にわかれるみたいだ。


『ほんとそうだよー。ソロでアタシと同ランクって普通に頭オカシイからね。あ、オカシイのはプレイヤースキルか』


 べつにおかしくないと思うんだが……。


『エンペラークラス行きたいですよね。ソロだとさすがにキツいので、今回ボア先輩と組めるのはうれしいです』


 と発言した。


『うん、ソロでキツイってのがすでにおかしいよね。バードくん、どれくらい撃破数なの?』


 とボア先輩に聞かれる。

 

『だいたい平均7くらいで落ち着いてます。ソロの限界がそこって感じでしょうか』


 ランクアップを狙っていくためには、撃破数は二けたを狙いたいんだが。


『うん、おかしいね。ソロで稼げる数字じゃないよ!! アタシソロでやったことあるけど、2から3が限界だよ! だってマスターランクなんだよ!?』


 ボア先輩の返事がだいぶ早口になる。


『えっ?』


 思わず聞き返す。

 2から3? ボア先輩くらい上手くて?


【コメント】

:えっ? という不思議そうな声

:ボアちゃんとのギャップがすごい

:正しいのはボアちゃんだけどな

:ソロで撃破数7とか意味がわかんない

:運が良ければ出せるかもしれないけど、平均が7ってやばい

:盛ってるんじゃないの?

:↑バードの配信動画見てこい。マジやばいから

:いやいまから見れるだろ


 コメント欄の反応がよくわからない。


『ほら、みんなやばいって言ってるよー。まあバードくんはその無自覚なところが、らしいと言えるんだけど』


 とボア先輩がわが意を得たりと言ってくる。

 ううん、そんなことないと思うんだけどなあ。


『そうなんですか?』


 と聞くと、


『見てもらったほうが早いしね。ランクマッチバトル、さっそくやってみよう』


 とボア先輩が言ったので俺もゲームの準備をする。

 そして先輩から招待され、同じマシンに乗り込む。


『ダブルでいきますか、トリオでいきますか?』


 と俺は問いかける。


『バードくんいるから運が悪くないかぎりダブルでもいけそうなんだよね』


 ボア先輩はそう答えた。


『まずはダブルで一戦してみるってことですか?』


『そうだよー』


 確認したら肯定される。

 俺たちのプレイを初めて見る視聴者たちもいるだろうから、悪くないか。


 ダブルでスタートしマシンは俺たちを乗せて戦場に移動する。

 開始地点は完全ランダムだ。


『今回は悪くない地点だね』


 とボア先輩が言うが俺も賛成だ。


『ですね。適度に遮へい物があって、敵も近くにいないですし』


 と答える。

 見晴らしのいい場所に、敵に囲まれた状態ではじまるのが最悪だ。


『どこから行こうか?』


 銃をかまえながらボア先輩はワクワクした様子で言ってくる。


『とりあえずちょっと待って、それから横殴りに有利な地形に移動しましょう』


 このゲームはつぶし合ってるところへ横殴りを入れるのが王道だ。

 有利な状況ではじまったんだから賢く立ち回りたい。


【コメント】

:えらく妥当なスタート

:言ってることは何もおかしくないな

:そりゃ基本を無視して強くなれるはずがない

:抑えるべき点をわかってないヤツはイキってるだけで弱い


 

 コメントで言われてることはわかる。

 基本をきっちり学んで鍛えることこそ強くなる近道だと俺も思う。


 おっと、音と画面の様子から戦いはじめたチームがいるな。


『あっちで戦いはじめましたね、移動しましょう』


 とボア先輩に声をかける。


『よく気づけるよね、バードくん。いつものことだけど』


 何度もやりとりをした経験からか、彼女は疑わずについてきてくれる。


【コメント】

:え、いまの気づける?

:音はまだしもエフェクトって何だよ?

:バード氏あいかわず人間やめてんな

:集中力や注意力が違いすぎるだろ

:ちょっと何を言ってるのか理解できませんでしたね


 

 コメント欄での驚きをよそに俺たちは戦闘を開始した。


 2チームが3対3で戦ってるので、相手からの射線を切れる位置から銃だけを出して、首を狙って撃つ。


 まず一人目を撃破、横殴りに気づいても相手は急に狙いを転換することは難しい。


 相手が対応に動く前に二人目を撃破。


 ボア先輩がべつチームを一人撃破してくれたので、その隣の敵を撃ってダウンさせる。


 そしてボア先輩がとどめをさしたので、俺がアシストをもらえるだろう。

 3対3が1対1になったところで逃げられてしまった。


『この敵強かったですね。逃げられました』


『そうだね。でも普通は逃げられるよ、この状況だと』


 強かったねと言ったはずなのに、ボア先輩が苦笑する。


【コメント】

:何で逃げられたことに驚いてんだよ

:3対3の横殴り、普通はバンバン決まらないだろ

:もっと消耗してる状況で、3人がかりだったら決まるかもしれないけどな

:ボアちゃんわりと常識人だった

:やっぱりバードがおかしかったんだな

:ボアちゃんいないソロ横殴りでも似たような成果をやってた鳥

:↑意味がわからんな

:あんときは他ダブルと共闘してなかったっけ?


 何でか知らないがみんなにおかしい扱いされた。


『次はどこに行く?』


 とボア先輩に聞かれる。


『さっき逃がしたふたりは横取りされると思うので、目につきにくい場所に移動したほうがいいかなと』


 戦闘音はほかのプレイヤーも聞きつけていただろう。

 あるいは狙ってくるチームがいるかもしれない。


『こっちはダブルなので、なるべく正面から交戦は避けたいですよね』


 2対2ならともかく2対3だとしんどい。

 おまけに交戦してるところを漁夫の利狙いでこられると、さらに面倒だ。


『そうだね。きみの移動したいほうについていくよ』


 ボア先輩はそう答える。

 いつもはこんなに会話しないんだけど、配信中だから仕方ないな。


 判断をこっち任せにしてくるのは普段どおりだけど。

 人がいないところはと言うと、こっちだろう。


【コメント】

:ボアちゃん、後輩任せなのか

:後輩、ソロのくせに終盤まで生き残る率が高い。頼るのは正しいだろ

:やりとり見ると、正面からの交戦はできるだけ避けるんだよな

:そりゃそうだろ。数多いほうが有利なんだから

:とくに人が多い序盤だといつ横殴りされるかわからんリスクがある

:数の差をプレイヤースキルの差でひっくり返す鳥がいるけどな

:避けたほうがいいリスクを避けようとしてるから、言われてるほど頭オカシイわけじゃない

:↑考え自体はまっとうだよ。頭オカシイのはプレイヤースキル


 

 俺たちが無言で移動している間もコメント欄は活発のようだ。

 ボア先輩と組むのは初めてじゃないという安心感のおかげだろうか。

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