第12話「明日に向けて」

 みんなの放送が終わったあと、ほぼ同時にリスコードのグループの通知音が鳴る。


マネージャー[お疲れ様です。ラビさんとモルモさんも登録者数、5万人超えましたね。さっそく収益化申請をしておきました]


[おおー、おめでとう!]


 みんな収益化達成か、すごくうれしい。

 ふたりともすごいんだから報われてほしい。


ラビ[ありがとうございます。まさか二日目でいきなり達成できるなんて、夢にも思いませんでした]


モルモ[ありがとうございます。本当そうだよね。ほとんどバードくんのおかげだと思う]


 モルモに言われてえっ? と俺は声を出した。


[いや、ふたりの配信のおかげだろ。ラビさんのはいやされるし、モルモのは聞いてて楽しいし]


 ふたりの配信を見てると、ライバーにハマる人が大勢いる理由が理解できる。

 個人時代の俺が全然ダメだったのもよくわかった。


 バード・スカイムーブとしての俺が何でウケてるのかだけは、さっぱりわからない。


 とにかくふたりが収益化達成できたのは当然だと思う。


モルモ[バードくんのもすごいけどねー]

ラビ[バードくん、プロになれるんじゃないかと思うのですけど]


 プロゲーマーなぁ……。


マネージャー[仲がいいのは喜ばしいですが、仕事の話に戻させてくださいね]

[あ、はい]

モルモ・ラビ[ごめんなさい]


 猫島さんに注意されて俺たちは反省し、彼女の話を聞く。


マネージャー[今後の予定ですがバードくんはボアさんと30万人記念コラボ、モルモさんとラビさんは収益化記念配信となります]


モルモ[えっ!? バードくん、先輩とコラボ解禁なんですか!?]

ラビ[ふぇぇえすごいです……]


 初めて知らされたふたりが驚いている。


[俺もびっくりだよ……そんなすぐに決まるとは思ってなかったよ]


 どうしてこんなことに? というのが正直なところだ。


マネージャー[ボアさんとバードくんはもともと接点自体はありましたし、同じゲームのプレイヤーでもあるので、コラボしやすいんですよね。先方が乗り気だったという事情もありますけど]


モルモ[なるほど、そういうことなんですね]

ラビ[バードくんはボア先輩の紹介で知った事務所がスカウトしたのでしたね]


 ライバーの事務所からスカウトが来るなんて、まったく想像してなかったよ。


[ボア先輩だけじゃなくてマネージャーさんも乗り気だったんですか?]


 俺はそうたずねる。


 1期生のマネージャーは猫島さんとは違う人だとはちらっと聞いた覚えがあった。


 マネージャーが同じ人ならもうちょっと驚かなかったけど。


マネージャー[ええ。バードくんの存在はすでにボアさんのファンにも知られているので、ハードルが低いと判断したみたいです]

[それって雪眠ラチカさんのおかげでもあるのでは??]


 ラチカさんは業界大手『ピスケスプロ』所属で、チャンネル登録者数130万人、シャベッターのフォロワー数が95万人というすごい人だ。


ラビ[ラチカさんも相当ゲーム好きですからね]

モルモ[正直あの人よりはボア先輩のほうが上手いと思うけど]

[うん? そうなのか?]


 ラチカさんの配信はまだ見てないから、ゲームの腕は知らないな。

 ボア先輩はかなり上手いんだけど。


マネージャー[はい、また話を戻しますね]

モルモ[う、すみません]


 猫島さんにモルモが謝る。

 本人には悪いけど笑ってしまった。


マネージャー[ラビさんとモルモさんもできればコラボ組みたいのですよね。おふたりでコラボというのはいかがでしょう?]

モルモ[あ、いいですね!]

ラビ[わたしもぜひやりたいです]


 ふたりでコラボか。

 いいなー、きっと見ていて楽しいんだろうな。


 おっと、俺もボア先輩とコラボなんだっけ?

 どうやればいいのかわからない。


 同期たちとのコラボはこのチャットで事前に相談もできたし、まだ気安くつき合えるって印象が強かった。


 今度のコラボ相手は業界の先輩だし、抱えてるファンも多いんだよな。

 猫島さんがちょうどいるから聞いてみるか。


[ボア先輩とのコラボってどうやればいいんですか?]

マネージャー[明日の午前中、ボアさんと打ち合わせがあると思います。二人で大丈夫だろうとのことですが、何かあればわたしに連絡くださいね]


 猫島さんは質問にすぐ返事をくれる。

 この人がついててくれるなら何とかなるかもしれないな。


 弱気な自分も安心する。


ラビ[先輩とのコラボ、あこがれちゃいます。応援してますね!!]

モルモ[頑張ってっていうとバードくんは緊張しそうね……まずリラックスして。わからなかったり困ったりしたら、まず誰かに相談してね]


 ラビさんとモルモからはげましのメッセージが届く。

 ふたりとも優しいんだなあ。


 安易に「がんばれ」と言われないところがいい。


 がんばらなきゃいけないのはわかってるし、どうがんばればいいんだ? と思ってしまうのが俺なんだよな……。


[ありがとう。俺もふたりのこと応援してる。配信タイミングがかぶらないなら、見に行きたいなぁ]


マネージャー[もちろんずらしてもらいます。予定ですがバードくんとボアさんのコラボは19時半から20時半、ラビさんとモルモさんの記念コラボは20時半からです]


 ああ、なるほど。


[それなら見に行けそうですね。ホッとしました]


ラビ[ありがとうございます。わたしももちろん、バードくんの配信楽しみにしてますね]


モルモ[わたしもね。ボア先輩とのチームならかなり強そう]


 ふたりからあったかいメッセージが返ってくる。

 楽しみにしてくれる人がいるってうれしいなあ。


 ボア先輩上手いから、ダブルでも生存ポイント狙いでやれるかも。


マネージャー[できればなのですが、みなさん一度事務所まで来ていただいて、オフで打ち合わせをお願いしたいですね]


ラビ[はい、わたしは大丈夫ですよ]


モルモ[わたしも土日祝ならいけると思います]


 え? 俺は思いがけない展開に目を丸くする。

 オフで打ち合わせだって?


[オフラインで会うって、いいんですか? 俺、男なんですけど?]

マネージャー[仕事ですし一対一でもないですし、かまいませんよ]


ラビ[そうですよー。バードくんとはぜひ一度お会いしたいです]

モルモ[バードくんは気にしすぎ。まあそこがあなたの長所よね]


 マネージャーの猫島さんもふくめて誰も気にしていないようだ。

 仕事だしふたりきりでもないってのはそのとおりだ。


 俺が気にしすぎてるだけなのか?


[みんながいいなら俺は……ああ、でもガチでコミュ障ですよ]

マネージャー[お会いしたかぎり、気にしなくてもいいと思いますけどね]


ラビ[コラボでお話ししたかぎり、気にしなくていいですよ?]

モルモ[仲よくなってない人とはわたしも得意じゃないから大丈夫]


 みんなから優しい返事がくる。

 こんなにも優しくされたのは、もしかしたら初めてかもしれない。


マネージャー[では突然で申し訳ないのですが、明日はどうでしょう? ちょうどボアさんとバードくんの打ち合わせがあるのですよね]


モルモ[わたしたちが同席してもいいのですか?]


 浮かんだ疑問は先にモルモが猫島さんに聞いていた。


マネージャー[それはできないですけど、その後バードくんをふくめて四人でお会いすることは可能だと思います。みなさんの都合がつくならですけど]


ラビ[そういうことでしたか。わたしは午後からなら大丈夫です]

モルモ[わたしも明日はちょうどあいてるので]


 え、みんな明日都合つくんだ?

 級に言われても大丈夫なのは、ぼっちの俺くらいだと思ってた。


[俺は平気ですけど……]


 ぼっちだから学校がないときはいつもあいている。


マネージャー[ではバードくん、ボアさんとの打ち合わせは11時からにしませんか? 先方からOKとれたので]

[俺らとチャットしながら段取りをつけてたんですね……了解です]


 仕事が早いなと感心するしかない。

 11時からボア先輩たちと打ち合わせ、12時からラビさん、モルモと打ち合わせか。


 まさか日曜日に外出する予定が入るなんてなぁ。


ラビ[猫島さん、仕事が速いですね]

モルモ[頼りになります]


マネージャー[何を言ってるんですか。配信二日目で収益化達成なんて、異例の速さなんですよ。大手ならまだしもうちみたいな小さな事務所はとくに]


 へえー、そうなんだ?

 早いらしいというのは何となくわかっていたけど、具体的なことは知らない。


マネージャー[うちにとってもですけど、みなさんにとっても大きなチャンスなのでこれを逃がしたくないんです]


モルモ[ごもっともです]

ラビ[お世話になります]


[お世話になります]


 俺も何か言ったほうがいいと思って、ラビさんのまねをした。

 

マネージャー[コラボにしてはサプライズ配信ということで、当日直前まで告知なしということになりました。なのでSNSで触れないでください]

[了解です]


ラビ[了解です]

モルモ[了解です]


 サプライズでいくのか……みんなどう反応するだろう?


マネージャー[それでは今日はここで解散しましょう。お疲れさまでした]

[お疲れさまでした]


ラビ[お疲れさまでした]

モルモ[お疲れさまでした]


 ねぎらいのあいさつを交わし合って、俺は端末から離れる。

 まだ眠くないからクリバスでもやろうっと。


 そう思ったところで、支給端末からさらに通知音が鳴る。


 あれ、話は終わったはずだよな? と思ってチェックしてみたら、モルモとラビさんからフレンド申請が届いていた。

 

 明日会うからだろうか?


 猫島さんがいるなら……なんて思ったけど、無視するわけにはいかないので、ふたりの申請を承認する。


 するとすぐに三人のグループが作られる。

 というか俺がすでにできていたところに招待されたと言うべきか。


モルモ[よかった。来てくれたわね]

[何かごめん]


 どうしたんだろうと考えていたけど、もしかしたら俺がスルーを決め込むと思っていたのかもしれない。


 モルモの文面からそう感じる。


モルモ[べつにいいけどね]

ラビ[そうですよー。やっと同期グループが作れたんですから、喜ばないと!!]


 ラビさんはちょっとテンション高めに見えた。

 

[えっと何をする集まりなんだ?]

モルモ[何をって交流を深めるためよ。情報交換したり、コラボとかについて相談したりしたいじゃない。もちろん雑談もありよ]


ラビ[何となくなんですけど、バードくんってライバーのこと詳しくない気がしてるんです。それとも余計なお世話だったでしょうか?]


 何でかわからないけど、詳しくないってバレているようだった。

 同期や猫島さんに隠すつもりはなかったからいいけど。


[いえ、詳しくないのでありがたいです。ただ、集まりに誘われたことがなかったので、びっくりして]


 親くらいだからな、俺の連絡先に登録されている人は。

 最近になって猫島さんたちが追加されたけど、支給端末のほうだし。


モルモ[やっぱりね。ラチカさん知らない時点でそうだと思ったわ。それと悲しいこと言わないで。わたしたちがいるでしょう]


ラビ[そうですよー。仲良くお付き合いしていきましょう?]

[はい]


 俺は喜びと緊張で手を震わせながら返事を打つ。

 というかラチカさん、知らないとヤバいレベルで有名人だったんだ。

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