第11話「2度目の配信後」
『時間だな。ばいばーい』
『ちょっと雑じゃない? またねー』
淡々としてあいさつした俺とは違い、モルモは可愛く手を振る。
『お疲れ様~』
ラビさんはいやすような声で別れを告げた。
【コメント】
:主が一番雑で草
:まあバードだしな
:明らかに不慣れ、そこがいい
:鳥さんに多くのものを求めない、それがバードウォッチャーの心得
:いつのまにか心得ができてて草
============================
バード・スカイムーブ/鳥の巣ちゃんねる
人間の作ったゲームが好きで、人里にやってきた鳥。
がんばって人間になろうとしている。
チャンネル登録者数34.3万人
===============================
「はぁああぁぁ!?」
配信を終わらせたあと、登録者数を見に行ったら30万を超えていた。
思わず大きな声をあげてしまう。
たしかに20万記念配信までやったよ。
なのに、何でそこから14万も増えてるんだ!?
みんなとの通話してなくてよかった。
どうしてこんなことになったんだ?
なんて思ってるうちにトイレに行きたくなり、すませたあと水分補給もすませる。
戻ってきたところでリスコードの通知音が鳴った。
マネージャー[お疲れ様です。いい感じでしたね。登録者数も順調なので、また30万人突破記念を考えたいところです]
猫島さんはしっかりチェックしてるし、そう言ってくるだろうな。
[ネタがないんですが……同じゲームばかりでも問題はないでしょうか?]
マネージャー[バードくんの場合ゲームの腕がわかるものなら、何でも大丈夫だと思います。人気ライバーは同じゲームの配信を続けても平気ですし]
[そういうものなんですね]
同じゲームばかりしていたら、視聴者が飽きると思っていた。
[じゃあもうちょっといろいろと配信してみます]
マネージャー[バードくんの場合、そろそろ1期生とのコラボを解禁してみてもいいかもしれませんね]
[1期生、ですか?]
猫島さんの提案に俺は首をひねる。
1期生と言えば俺を誘ってくれたボアさんがいる以外、顔触れがわからない。
どう反応すればいいんだろう。
マネージャー[やはりボアさんが一番ハードルは低いでしょうか]
[ですね。何度も一緒にゲームしてますし。ゲーム内チャットでなら話したことだってありますし]
ぼっちのコミュ障としては、知ってる人ほうがまだましだ。
今回のコラボもよく乗り切ったなと我ながら感心する。
90%くらいラビさんとモルモのふたりのおかげだと思う。
残りは視聴者たちの優しさ?
マネージャー[ではその方向で調整しますね。さすがに明日あさっては無理だと思いますが]
[わかりました。よろしくお願いします]
すぐには無理と猫島さんに言われてほっとする。
やっぱりいきなりはハードルが高いんだよ。
心の準備を整える時間がほしい。
まああっちは先輩だし、人気チューバーみたいだし、早くても一週間後くらいだろう。
一週間も準備期間があれば何とかなる……気がする。
そろそろモルモの配信がはじまるから、チャンネルに飛ぼう。
マネージャー[先方からオーケーとれました。明日30万人記念コラボ決定です!
勢いのあるうちに畳みかけましょう!!]
「はぁあああぁぁ!?」
猫島さんからの連絡を見て、さっきぶり二度目の絶叫をするハメになった。
[え、どういうことですか!?]
マネージャー[ボアさんがコラボにすごく乗り気で。明日ちょうど頂上戦争配信をやる予定だったので、理想的だと]
そうか、あの人も頂上戦争大好きな人だったな。
頂上戦争はソロでも遊べるけど、チームメイトを募るほうが普通だ。
そういう理由で通ってしまったのかもしれない。
マネージャー[モルモさんとラビさんの配信が終わったタイミングで告知してください]
[わかりました]
どうやら断れそうにないのであきらめる。
いまから告知はまずいと言うか、モルモとラビに悪いのは何となく察した。
【モルモ・グレイウォーク】雑談配信
お、モルモの配信がはじまった。
『こんばんは、チュー♡』
とモルモがあいさつをおこなう。
彼女の可愛らしい声でチューって言われるとドキッとするな。
彼女のことだし、猫島さんと相談して戦略的にやってるのかもしれないが。
『昨日ぶり、バードくんの配信に来てくれた人はさっきぶりだね』
【コメント】
:かわいい
:さっきぶり
:鳥配信から移ってきました
:バード? 鳥?
コメント見るかぎりだと、俺の配信見てた人と見てない人は半々くらいっぽい。
『わたし見てたんだけどさー、バードくんのプレイヤースキルヤバいよね。見てない人は録画をぜひ見てね』
モルモはそんなことを言う。
雑談しつつさりげなくまだ見てない人を、俺のチャンネルへ誘導してくれたのか。
ありがたいと同時に勉強になる。
【コメント】
:あればヤバい
:金とってもいいレベル
:そんなにすごいの?
:モルモちゃんの配信終わったら見てみようかな
彼女の狙いどおり興味を持った人が現れる。
『ああ、このあと同期のラビさんの配信があるから、そのあとでいいよ。録画は逃げないから、ね?』
とモルモがフォローを入れた。
ね? というささやきボイスが小悪魔的である。
【コメント】
:このね? がくせになりそう
:わかる
:耳元でささやいてほしい
コメントでも似たような感想であふれた。
こういう声、話し方ができるってすごい。
モルモはそうやって雑談をしていく。
あっという間に30分は経過してしまった。
『それじゃあ次はラビさんの配信よ。もちろん行くわよね?』
とモルモが当然という調子で視聴者たちに話しかける。
【コメント】
:いくともー
:いくともー
:いくともー
:いくともー
:バード・スカイムーブ>いくともー
:↑鳥さんw いたのかw
視聴者たちがコメント欄で唱和していた。
仲いいしノリもいいなと感心しつつ、俺もそっと混ざる。
そりゃいるさ。
書き込まなかっただけで、ラビさんだって来ていたはずだ。
こうしてモルモの配信は終わって、ラビさんの配信がはじまる。
【ラビ・ホワイトステップ】雑談配信
ラビさんの枠を見ておやっと思う。
この人も今日は雑談配信をするのか。
もしかして雑談枠って人気だったりする??
俺、できないんだが。
いや、ラビさんとモルモの枠を見て勉強すればいけるか??
『こんばんばー、ぴょん』
とラビさんがあいさつをする。
あれ、そんなあいさつだっけ??
【コメント】
:こんばんはー
:かわいい
:美女のかわいいあいさつ萌え
:これは尊い
疑問に思ったのはどうやら俺だけらしく、コメント欄はいきなり盛り上がっている。
すごいな、あいさつだけで盛り上がるなんて。
『バードくんの配信すごかったですねぇ。わたしもコラボにお邪魔していたんですけど、ラビットモのみなさん見てくれましたか?』
ラビさんは視聴者に呼びかける。
【コメント】
:見たよー
:いい子だから見ました
:いいラビットモだから見た
:ラビちゃんが応援する子を応援するのがよいラビットモなので
統率もとれている。
見ていてほんわかするなー。
この一体感っていいよなー。
なんて思っていたら。
【コメント】
:ラビちゃんがボードゲームで無双したのも見てた
:それな
:ラビちゃん強かった
:あれほかのふたりが弱いんじゃなくて、ラビちゃんが規格外だよな
人生バラエティの話がはじまる。
ラビさんが強すぎるって思ったの、俺だけじゃなかったんだ。
ズレてるズレてる言われたから、俺の感覚がもしかしてほかの人とはズレてるのかな? なんて思ったりしたんだが。
ちょっと安心する。
『わたし運はけっこういいほうなんですよねー。ただ、あんなことになるとは思ってなかったので、反省しています。次からはほかのゲームにしたいです』
ラビさんはすこし落ち込んでいるようだ。
【コメント】
:ラビちゃん意外と自覚あった?
:聖女に見せかけた悪女? それでもすこ
:あそこまで一方的になるとは思ってなかったんだね
:バード・スカイムーブ>楽しかったし気にしてませんよー
:モルモちゃんはともかく、鳥は普通に弱かった
:鳥さんいたのか
:仲いいよね、ペガサス2期
:てぇてぇ
:モルモ・グレイウォーク>いいんじゃない? 盛り上がってたし
勇気を出して書き込んでみたら、普通に受け入れられた。
そしてモルモも書き込んでいる。
『あら、ふたりとも……ありがとうございます。失敗しちゃったのかなって悩んでいたんですよ』
ラビさんの語尾から間延びした感じが消え、ほっとした感情がはっきりと伝わってくる。
本気で悩んでみたいだから、コメントじゃなくてリスコードでチャットを送ったほうがいいかな?
【コメント】
:モルモ・グレイウォーク>気にしてないわよ。ゲームなんだから勝ち負けあるの当然じゃない
:ラビちゃん気にしてたのか
:モルモちゃんすこ
:モルラビてぇてぇ
モルモがコメントしていて、それでコメント欄が盛り上がっている。
俺もコメントしたほうがいいかな?
両方やろうかな?
迷いながらコメントを打つ。
【コメント】
:バード・スカイムーブ>俺も。いっしょに遊ぶ人がいてうれしかった
:鳥さんがガチでぼっち感
:鳥はぼっちだったからな
:ぼっちだからパーティーゲームで負けることすらできなかったんだよな
:相手がいないんじゃ、負けようもない
:↑泣いた
:鳥さんは俺だった?
:つまり俺はラビちゃんとモルモちゃんと遊んでたのか
:草
:イマジナリーゲームか?
何だかコメントがオモシロ方向になっていっている。
いや、俺の配信のときもたいがいだったか?
『え、うん。……ふたりとも、それからラビットモのみなさん、ありがとうございます』
ラビさんの声がちょっと震えている。
どうしたんだろう?
【コメント】
:ちょっと涙ぐんでる?
:どうしたの、ラビちゃん?
:どうしたの?
『ううん、何でもない』
とラビさんは言う。
何でもない感じじゃないけど、踏み込めない。
踏み込んでいいのかすらわからない。
他人任せで申し訳ないけど、俺よりずっとコミュ力高いだろうモルモの様子をうかがう。
【コメント】
:モルモ・グレイウォーク>何かあったら相談してね? 待ってるから
:モルラビてぇてぇ
:尊い
:見に来てよかった
モルモとラビさんのふたりから尊さを感じてる人が多いようだ。
これは俺が書き込まないほうがいいな。
ラビさんとは仕事用端末に入ってるリスコードやリーンで連絡とるのは可能なんだから。
『うん、ありがとう。モルモちゃん。じゃあ雑談に戻りますねー』
とラビさんは明るい声で雑談をはじめる。
他愛のない話を彼女の感性で語られるのが、聞いていた心地よかった。
聞くだけでいやされるってことは本当にあるんだなぁと思う。
======================
ラビ・ホワイトステップ/兎遊覧会ちゃんねる
人間の文化が大好きな兎の妖精。
人間のことも大好きで、楽しくお話ししたいと思っている。
チャンネル登録者数5.1万人
モルモ・グレイウォーク/モルモに夢チュウちゃんねる
知性を獲得したネズミの妖精。
人間をからかうことと音楽が大好き。
チャンネル登録者数5.5万人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます