第10話「同期とのコラボ2」

『わたしの勝ちですー』


 勝負はあっけなく終わってしまった。

 ラビさんはマイナス系のマスに止まることなく、1億以上を稼いでゴールしたのだ。


『強いなあ』


 と俺は感嘆する。


『ラビさん、強すぎ……これ、バードくんと手を組んだほうがいいかも?』


 とモルモが言う。


『ええー!?』


 ラビさん、素で驚いてるな。

 モルモと仲良さそうだし、そんなこと言い出すとは思ってなかったんだろう。


【コメント】

:タッグの結成を目の前で相談ww

:いやでもまあ、ラビちゃん超強くない? これひとりで勝つの無理じゃない?

:提案したくなる気持ちはわかる


『組むのはいいけど、ボードゲームって俺らが組んでもあんまり意味なさそうじゃないか?』


 と俺は首をひねる。


『このゲーム、相手の妨害なかったからね。あるやつで遊べば大丈夫! と言うか、妨害ありじゃないとラビさんに勝てる気がしない』


 とモルモは言う。

 

『なるほど、それは理解できる』


 とうなずく。

 純粋なさいころの出目勝負だとたしかに勝てそうにない。


『あれれ? 何だかわたし、疎外感を感じちゃいます』


 ラビさんは兎をモチーフにした美女アバターで、困惑を表現する。

 もっとも声色的に素でとまどっているかもしれないが。


【コメント】

:困惑してるラビちゃんかわいい

:強すぎて手を組まれるって、鳥のポジションだと思ってた

:鳥、意外過ぎるほど弱かった

:このゲーム、さいころの出目勝負だからなぁ

:運は低いのか、シューティング系以外の腕がよくないのか

:↑たぶん前者、もしかしたら両方



 俺の弱さに驚いた視聴者がけっこういるらしい。

 

『やったことがないゲームで、いきなり強いはずがないんだが??』


 と疑問を言った。

 さすがに初めてのゲームで強いって、マンガのキャラクターくらいだろ。


『それはそうですよね~』


『いくらバードくんでもね』


 とラビさんもモルモも同意してくれる。



【コメント】

:さいころの出目勝負なら、いきなり強いもありえるんだが

:鳥は練習して強くなるタイプだから。いきなり強くないよ

:↑理解者ニキ登場すこ

:今回はラビちゃんが強すぎた

:ほんそれ

:マイナス系マスに止まってくれないんじゃ、どうにもならない

:ゲーム選択ミスじゃないか?

:いや、ボードゲーム初心者にわかりやすいゲームなのは事実なんだよ

:所持金1000万ないとゴールできない以外、シンプルだしな


 コメント欄を見ていると、他のゲームはもっとルールが複雑なのか?


『単純で遊びやすかったよ、たしかに』


『ですよね~』


『ラビさんとふたりで相談して決めたのよ』


 俺の感想にふたりはにっこりする。


『いいなー、友達と相談とか……』


 同時にちょっとうらやましくなった。

 そういう経験だって俺にはないんだよな。


『今度からはバードも誘うわよ。ねえ、ラビさん』


 モルモが俺の感情を読んだのか、そう言った。


『ええ、もちろんですよ、バードくん。三人で相談しましょうね。わたしたちはこれからなんですから』


 とラビさんが優しく語りかける。


『う、ありがとう、ふたりとも』


 ふたりの優しさが心にしみて、思わず声を詰まらせそうになった。


『わたしたち仲間じゃないですか』


『何なら友達になってみる?』


 ラビは優しく、モルモはどことなくいたずらっぽく言う。

 

『仲間っていい響きだな……初めて言われた気がする』


 ずっとぼっちだったから。

 楽しそうに遊んでる奴らを離れたところで見ているだけだった。


【コメント】

:てぇてぇ

:これはてぇてぇ

:そんな……鳥の配信でてぇてぇが見られるだと……

:こんな日が来るとは思わなかった

:《速報》無双系ぼっち鳥、仲間に出会う

:てぇてぇ

:よかったな、鳥

:鳥が上手いのひとりで遊べるゲームばかりだったもんな



 コメント欄から祝福が来ている。

 それもいくつも。


 ジーンときて泣きそうになるのを必死でこらえた。


『みんな、ありがとう』


 とだけ何とか言った。


【コメント】

:鳥、もしかして泣いてる?

:泣いてはないな。そのすこし手前だと見る

:↑ソムリエおつ

:本当に友達ほしかったんだな

:今年のV、屈指の名シーンが生まれてしまったか

:よかったな

:俺も友達ほしい



 コメント欄もうれしいので、ついつい言いたくなった。


『よかったらみんなも俺の友達になってくれ』


 呼びかけである。


【コメント】

:いいよ

:いいぞ

:わーい

:俺もこれでぼっち卒業か

:好きなVを見てたら、いつのまにか友達ができていた

:ぼっちを卒業できる配信があると聞いて



『すごくあったかい流れね』


 と俺のコメント欄を見ていたらしいモルモが言う。


『素敵な世界ですね。バードくんの人徳でしょうかー』


 ふたりとも喜んでくれているようだ。

 とてもうれしい。


『友達ができるなんて思ってなかったなぁ……』


 あきらめていたからな。


『よかったね』


『よかったですねー。新しい日のはじまりです』


 モルモとラビさんの祝福もうれしい。

 やばい、うれしすぎる。


『うれしすぎて、うれしい以外の言葉が出てこなくなった。もともと語彙力は死んでるけど』


 国語、成績よくないもんな、俺。

 成績よくないのは国語だけじゃないけど。


【コメント】

:安心しろ、俺もうれしいから

:鳥に友達ができてうれしいよ

:うんうん

:保護者たちが多くて草

:鳥の保護者だから、親鳥たちか

:ファンネーム、親鳥に変えるのもありじゃね?

:親鳥は草

:こんなてぇてぇ世界があるんやな

:男と女のコラボなのにてぇてぇ

:↑それは正直思ってた

:手のかかる弟と世話焼きお姉さんって感じだよな



『たしかにふたりはお姉さんかもしれない』


 と俺は感想を言った。

 知り合って間もない人たちに何を言ってんだ? と理性は言う。


 だが、それでもありがたいという気持ちが勝ったのだ。


『ふふふ~、弟が欲しかったんです~』


 とラビさんが朗らかに笑う。


『わたしも生意気な妹しかいないから、ちょっと新鮮ね』


 とモルモは答える。

 ふたりとも俺を弟扱いするつもりらしい。


『俺、兄弟いないからなぁ。優しいお姉さんがふたりも一気にできたのは、最高に幸せだな』


 心の底から思う。

 Vになってよかったと。


 なってまだ二日だけど。


【コメント】

:てぇてぇ

:てぇてぇ

:家族の誕生を目の当たりにした

:幸せになるんやで  ¥5000

:この新しい姉弟たちにご祝儀を  ¥3000



『スパチャ? 俺だけ受け取ることになるんじゃ? これ三人の配信なのに』

 

 それでいいのかと困ってしまう。


『いいのよ、あなたがいてこそなんだから』


 とモルモは笑いながら答える。


『そうですよー。すでにたくさんのファンを作ったバードくんの力を借りて、わたしたちも知名度を、という状況ですから。遠慮しないでください』


 とラビさんも言う。


『むしろわたしたちが遠慮と言うか、バードくんにお礼しなきゃいけないのよね。かなりチャンネル登録者数増えてるし』


 モルモはそんなこと言い出した。


『え? 友達になってくれただけで充分すぎるんだけど』


 ほかに何か欲しいかって言われても、とくに欲しいものはない。

 ゲームをする相手だけなら、いまの時代オンラインで探せばいいんだから。


【コメント】

:バードってそういうところあるよな

:すごいのにえらぶらないというか

:天然なだけな気はしている

:天然で弟な無双系ぼっち鳥とか属性多いなw

:草


『ん~、モルモちゃんはどう思いますか?』


 ラビさんがすこし困った感じで質問をしている。


『バードは本気で言ってると思うので、あとでふたりの秘密会議をしましょうか』


『了解~、ふふふ』


 モルモが何を言ってるのかわからないけど、とりあえずふたりでまた話すことだけはわかった。


【コメント】

:困惑する系姉のラビちゃん、理解してる系姉のモルモちゃん

:いい組み合わせだよな

:弟のことで困って相談するのもてぇてぇ

:相談配信してくれてもいいのよ

:↑見てみたいけどさすがに難しいだろうな

:鳥のおかげでふたりの一面が掘り下げられた

:↑それな。いいコラボだと思う


『おや? 何か意外なところで評価されてるな』


 まさか今回の配信だけでラビさんとモルモの新しい一面が出るとは。

 モルモ、小悪魔ムーブしてないなくらいにしか思ってなかった。


『やってよかったね』


『ええ。楽しいですしねー』


 モルモとラビさんはそう言っている。

 ふたりが成功だと思うなら、俺もやってよかったと思う。


 友達ができて、視聴者が増えて、俺だけメリットがあるのは申し訳ない。


『もうちょっとゲームできそうだね』


 とモルモが言う。

 枠の時間を見ればたしかに簡単なミニゲームくらいならできそうだ。


『どうしますー? 雑談するか、ゲームをするか。どちらにしましょう?』


 とラビさんが質問を投げかける。

 難しいところだな。


『俺ひとりだと雑談でもたせられるわけがないから、ゲームを一択なんだよな。いまは違うけど』


 と俺は言った。

 このふたりがいっしょなら雑談もありなんじゃないかと思う。


『みんなはどうなんだ? ふたりの雑談を聞きたい人、いるんじゃないのか?』


 と視聴者たちに聞いてみる。


【コメント】

:聞きたいけどさらっと自分外すのはやめーや

:俺はお前の配信に来てんだぞ  

:コーヒーでも飲んで反省して  ¥500

:三人の話が聞きたいから安心して

:ぼっちだと急には自信持てないよな。ジュース買って落ち着け ¥150



『あ、うん。何かごめん。俺の雑談、需要ないと思って無意識に外してた』


 俺にとっては当たり前なんだけど、視聴者にしてみれば違うんだ。

 それもそうか。


『なるほど。意識改革なんていきなり無理だものね』


 モルモは俺の気持ちを受け止めてくれた。


『大丈夫~。バードくんはひとりじゃないから』


 とラビさんがはげましてくれる。


『三人いれば何とかなるでしょ』


 とモルモが楽観的な意見を言ってくる。


『助け合えばいいんですよ~』


 というラビさんの言葉はもっともだと思った。


『そうだな。ふたりともどうもありがとう』


 改まってふたりに礼を言う。

 ふたりの対応には本当に救われる。


『いいのよ』


『そうですよ~』


 ふたりは明るく許してくれた。


【コメント】

:てぇてぇ

:尊みが深い

:やさしい世界

:よかったな、鳥

:これはバードウォッチャーたちもにっこり

:親鳥たちもにっこり

:親鳥は草

:定着しはじめてて草

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