第9話「同期とコラボ」
『こんばんはー』
『こんばんはー』
まずはラビさん、次にモルモがあいさつする。
『こんばんは。まずはラビさんから自己紹介よろしくお願いします』
と俺は言った。
コラボは俺の枠でやるから、俺が仕切らなきゃいけない。
『ペガサス2期、バードくんの同期のラビ・ホワイトステップですー』
とラビさんのほんわかボイスがまず聞こえる。
『同じくモルモ・グレイウォークです。よろしくねー』
と続いてモルモがあいさつをした。
【コメント】
:ふたりともめちゃかわ
:ふたりの配信見たよ。ラビちゃんはお姉さま系、モルモちゃんは小悪魔系
:うらやましい
:ほんと鳥がうらやましい
:百合にはさまる男
:↑今回は何か違うだろ
:そうだね。押し付けんなよ
:意外と荒れないね
コメント欄がふたりの可愛さで話題になっている。
可愛いよなーと俺も同意するが、言わないほうがいい予感があった。
『収益化記念コラボってことで、三人でパーティーゲームすることになってるんだけど、いきなりゲームでいいのかな?』
と俺はふたりに聞いてみる。
ふたりにしてみればせっかくのコラボだし、もっと話したいことがあるかもしれないと思った。
女の子っておしゃべり好きだしな。
『いいと思いますよ、ゲームで』
とラビさんが言う。
『あなた、トークを仕切るの苦手だって言ってたでしょ。無理しなくていいのよ』
とモルモも言ってくれた。
俺が気をまわしたことを察して、逆に配慮してくれたのか。
【コメント】
:優しい世界
:ラビちゃんもモルモちゃんも優しい
:主もな
:同期のために時間を割こうなんていい奴
:優しい人しかいない配信
空振りに終わったのに、意外と反応は悪くない。
ここにはコメント通り優しい世界があるみたいだった。
『じゃあお言葉に甘えてゲームに行こうか。と言っても何をするか、ふたりにお任せなんだけどな』
とここで俺は打ち明ける。
『なんせ俺はぼっちだから、パーティーゲームやったことがない』
誘ってくれる相手なんているわけがないだろ?
【コメント】
:つらい
:涙ふけよ
:俺がいる
:俺もいるぞ
:友達ってどこにいるんだろうね
コメント欄に共感してくれる人が現れる。
みんな友達いないのか?
……いや、聞くのはやめておこう。
『バードくんにはわたしたちがいますよー』
『そうそう、さびしいこと言わないで三人で遊べばいいじゃん』
ラビさんとモルモが明るく言ってくれる。
【コメント】
:う、うらやましい
:同じぼっちなのに可愛い女子と遊べるなんて
:けしからん
何か羨望の発言が見られるけど、ふたりとも「仕事」なんだよな。
プライベートな関係じゃないから勘違いしないほうがいいと思うが。
『話を戻そうか。何のゲームをやる予定なんだ?』
と問いかける。
『モルモちゃんと相談したんですけど、《人生バラエティ》というボードゲームはどうでしょうか?』
ラビさんが提案した。
『知らないゲームだな』
名前から推測するに人生ゲームってやつの仲間かな?
タイトルだけは聞いたことあるレベルだ。
『すごろくゲームの一種で、プレイヤー全員運が悪すぎないかぎり、三十分以内に終わるはずよ。お試しとしてはいいゲームだと思うの』
そしてモルモが説明する。
『そうか。何とかなりそうだな』
と答えた。
知らないゲームの説明を聞かされても、ほかに言いようがない。
【コメント】
:人生バラエティか。あれなら妥当だな
:運ゲーだから鳥も無双のしようがないしな
:女の子に容赦ない鬼畜鳥は生まれなかった
:鳥さんと対戦ゲームするなら運ゲーじゃないと
運ゲーなのに納得してる感じだけど、どういうことだ?
『それじゃあ俺が起動させるね』
と言って天神堂ダブルの電源を入れる。
【コメント】
:あれ? 天神堂ダブルって、遠く離れた相手とオンライン対戦できるんだっけ?
:ハードを持ってたら対戦できるでしょ
:ハードがなくてもリモートコントローラーがあれば、国内のプレイヤーとなら遊べる
:何だ、そうなのか。実はオフコラボなのかと一瞬あせった
:↑さすがに勘繰りすぎだろ
コメント欄に鋭い人がいるな。
『実は俺は本体持ってなかったんだけど、事務所が貸してくれた』
とばらす。
配信が人気出たら余裕で回収できるって理由で許可は下りた。
これは言うなって言われてないし、実はリアルで会ってるんじゃないかと言われないために、むしろ言ったほうがいいと言われていた。
現に勘繰る人は出たわけだしな。
『わたしたちは持ってるので、リモートコントローラーは今回お休みですけどねー』
とラビさんが言う。
『まあオフコラボ、そのうちラビさんとはやりたいわねー』
とモルモも言う。
正直俺はちょっとドキッとする。
ラビさん限定なら荒れないって判断か?
【コメント】
:ぼっち鳥、ここでもぼっちか
:仕事で会うくらいいいだろうに、暴れる奴いそうだからなー
:かわいそうなぼっち鳥
:ラビちゃんとモルモちゃんのコラボも見たい
何か知らないけど、俺の呼称がぼっち鳥になってるぞ?
事実だから否定しようがないけど。
『まあ俺がぼっちなのは宿命かな』
友達いないのはいまにはじまったことじゃない。
ラビとモルモとオフで会って遊ぶのは難しいだろうなってのもわかっている。
『そんなこと悲しいこと言わないの』
『わたしたちがいるじゃないですかー』
だから気にしてないって言おうと思ったんだが、ふたりが先回りしてきた。
『うん、ありがとう』
ふたりの気遣いがうれしくて、無下にはできなかった。
【コメント】
:うらやましい
:全員女子だったら素直にてぇてぇできたんだが……
:優しい世界
:俺が女子だったら素直に祝福できるんだろうか
:いや、鳥には俺らもいるぞ? だからぼっちじゃないよ?
:↑いきなりどうした
:鳥はぼっちだから女子に同情され、優しくされるんだ。つまりぼっちじゃなくなれば……
:↑それだ!!
:↑策士現れる
:とんでもねえ知能犯がいるもんだぜ
『え、俺と友達になってくれるのか?』
下心があろうと俺はうれしく、思わず反応してしまう。
【コメント】
:主ww
:鳥さんめっちゃうれしそう
:草
:いいよ
:いいよ
:いいよ
:いいよ
コメント欄にいいよがあふれる。
ただまあさすがにみんなが友達になってくれるとは思えない。
『みんなノリがいいな。気持ちはありがたいよ』
と言う。
礼は言っておかなきゃな。
『進まないのでゲームをはじめる』
と区切りを告げる。
延々とコメント欄を相手にしてたらいつまでたってもゲームできないからな。
ひとりの配信ならともかく、コラボでやっちゃうとふたりに悪いだろ。
まずそれぞれ色違いのコマを選び、プレイする順番を決める。
そしてさいころを降っていくわけだ。
止まったマスに書かれていることが起こる。
『なになに、財布を拾ったお礼に100万もらうか。へー、マスにはいろんな効果があるんだな』
初めて見るので感慨深いものがある。
【コメント】
:マジで知らないんだな
:ファッションぼっちじゃなかった
なんてコメントが出てくる。
『プレイ人数が多いゲーム、友達いない奴が遊ぼうとしても、な』
だからやろうとは考えなかったのだ。
『はーい、みんなで遊んでるんだから暗いの禁止ー』
モルモが明るく言う。
『そんな悪い子にはオシオキしちゃうわよ?』
ここで小悪魔ボイスが出た。
わかっていてもドキッとするんだから強い。
【コメント】
:小悪魔
:これは小悪魔
:オシオキされたい
:これはマゾ調教されそう
コメント欄も盛り上がっている。
モルモ、上手いなぁ。
話題を作るという意味でも、俺へのフォローをしたという意味でもだ。
俺が枠主だからとメイン司会やっているのは、普通に選択ミスなんじゃ?
なんて思ってもいまさら訂正できないんだが。
『おっとごめん。楽しくやろう』
そういう想いは口に出さない。
『はいー。じゃあわたしの番ですねー』
モルモのターンが終わってラビさんのターン。
六を出してもう一度さいころをふり、500万をもらう。
『え、ラビさん幸先がいいね?』
最初の一回だけかもしれないけど、俺は驚いて言った。
『えへへー』
『ラビさん、運ゲーはかなり強いみたいよ』
本人は照れくさそうに笑うだけだったが、モルモが横から口にする。
どことなく警戒している雰囲気だ。
【コメント】
:ラビちゃん強いのか?
:さいころの出目がよさそうなのは何となくわかる
:わかると言うより意外じゃないって感じ
視聴者も何か雰囲気を感じてるらしい。
俺にはさっぱりわからないな。
ラビさんが徳を積んでそうっていうのなら、何となくわかるけど。
『三か。財布を落として100万円失い、一回休み』
ついてないな。
『わたしは五ですね。投資に成功して所持金が500万円増えます』
なんてラビさんは言う。
マジかよって言いたくなるな。
『ラビさんすごいなー。わたしは四か』
モルモは何もないマスに止まったようだ。
ふと気になったのでふたりに聞く。
『これって最初にゴールした人が勝ちでいいのか?』
『そうですよー』
『ただし所持金が1000万円以上ないとゴールはできなくて、10マス戻されるけどね』
ラビさんが肯定し、モルモがルールの説明をつけ加える。
なるほど、単に最初にゴールするだけじゃ意味がないのか。
わりと面倒そうなゲームだけど、友達いる人たちはこういうのが好きなのか?
『じゃあ俺だな。1が出て……会社が倒産して所持金が半分に。さらに1回休み』
なんだそりゃって言いたくなるようなマスだな。
『どんまい』
『ドンマイですー』
ふたりはそれぞれなぐさめの言葉をかけてくれる。
一着を競い合うライバル同士なのにって思う俺の感覚がズレてんのかな?
『じゃあわたしの番ですね。……土地の再開発で引っ越し。立ち退き料1000万円をもらってもう一度さいころを振る』
とラビさんが言う。
『ラビさん、お金をもらってもう一回さいころを振れるマスに止まること、何か多くない?』
と俺は疑問を口にする。
『持ってるにもほどがあるわね』
モルモはあきれた調子で言った。
【コメント】
:ラビちゃんつええな
:一方鳥はかなり弱い
:モルモちゃんは強くもなく弱くもなくってところか
:鳥、持ってないんだな
:まあボードゲームまで強かったら引くわ
:だな。弱いゲームがあるくらいでちょうどいいよ
:クリバスや頂上戦争、強すぎレベルだしな
コメント欄がまた何だか予想外の方向に。
弱いってからかわれるかと思ったら、それくらいでいいなんて言われるとは。
『というか俺ってこういうゲーム強くないんだな。知らなかったよ』
何しろやったことないからな。
『今度は違うゲームにしましょうか?』
とラビさんが気を使ってか、提案してくれる。
『いろんなミニゲームがたっぷり遊べるソフトもあるから、そっちでいいんじゃない?』
とモルモも言う。
『気持ちはありがたいけど、こういうゲーム俺はきらいじゃないよ。ふたりと遊べてうれしいし』
と俺は答える。
『俺だけ苦手なゲームをしないってのはフェアじゃないだろう?』
それが俺の中の答えだ。
【コメント】
:えらい
:何と言うかフェアな男なんだな
:スポーツマンシップってやつ? ゲームにも適用されるのか知らんけど
:鳥のこういうところがいいんだよな
:惚れなおした
コメント欄もあったかいので、これでいいんだと思える。
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