第8話「大したことないゲーム配信4」

 俺はこそこそ移動して漁夫の利を目指す。

 うまい具合にぶつかり合ってくれているのがベストだ。


 説明したとおり、現状じゃそこまで目立ってないはずだ。

 俺と交戦したチームは全部落ちてるしな。


【コメント】

:立ち回りけっこう上手いな

:上手いことは上手いけど、エイム能力ほどじゃない

:エイムってなに?

:簡単に言うと標的に攻撃を当てる能力のことかな

:とくに狙いづらい顔をピンポイントで撃ちぬく鳥は、エイムがバケモノってこと

:立ち回りも上手いんだけど、エイム能力がバケモノすぎて平凡に見えてしまう


 さんざんな言われようだったけど、大したことないというのは自己評価と一致しているので安心する。


『だから俺はそこまですごくないって言ってるじゃないか』


 おっと、ちょうどいい具合に2チームのバトルがはじまった。

 生存ポイントほしいので、数が減っていくのを待つ。


 いい勝負らしく、お互いにふたり落ちたところをダブル射撃をおこなう。

 ピンポイントでふたりの側頭部に当てて、撃破する。


 よし、撃破数2をゲットだ。


【コメント】

:だからあくまでエイムと比較しての話だぞ?

:微妙にすり替えるなよ

:草

:横殴り&二丁撃ちでふたり同時撃破とか、エイムが頭オカシイにもほどがあるぞ

:エイム能力は正直モナーク級なんじゃないか?

:何を今さら。ソロじゃなかったらとっくにモナークになってるはずだぞ、この鳥

:ソロってだから不人気だし、マゾプレイとか言われてんだよな

:ソロでマスターになれるなら、チーム組んでたらモナークだろうな


 これで残り4チームと思ったところ、左後方から撃ちぬかれる。

 

『げっ、いつの間にか背後に回り込まれてたか』


 これは無理だなと直感するけど、楽に勝たせるのもシャクなので反撃はする。

 撃たれた方向を計算しては銃二丁で乱射した。

 

 狙いを定めてないので外れることもあるんだが、いい感じで当たって撃破する。

 ただし、俺はその間ほかのプレイヤーにとどめを刺されてしまった。


 相打ちなので撃破数はカウントされる。


『撃破数7くらいだからまずまずだな』


 とつぶやく。

 プロゲーマーにはもっと高い人がいるので先は長いよなあ。


【コメント】

:生存ポイントとれなかったか

:どんまいしゃーない

:報酬  ¥3000

:残念賞  ¥7000

:ソロで終盤まで生き残れる時点ですごいよ

:つーか3対1で勝てるほうがやばい

:ソロ、マスター級でその数字はオカシイぞ

:プロゲーマーになれるんじゃないの?

:何で目指そうとしないんだろうか


 

 何だかコメント欄が盛り上がっている。


『スパチャ、ありがとう』


 礼はちゃんと言わなきゃな。

 全員に言えてるか怪しいけど、だからこそ気づいたときには言おう。


 それとプロゲーマーなぁ。


 俺には遠い世界だという気がするんだよなぁ。

 だいたい公式ライバーやってるのにプロゲーマーってやっていいんだろうか?


 そういうの全然わからないんだよなあ。


『プロゲーマーになれたらいいなって思うのは正直あるよな。ただ、それ一本で生活できるのかって問題があるけど』


 勝てるのはひと握りってことは、稼げるのもひと握りだろう。

 プロゲーマーにかぎったことじゃないかもしれないけど。


【コメント】

:そういうところは現実的なんだな

:地に足がついてるのはえらい

:腕だめしで大会に出てみればいいのに

:ライバーとして人気出たんだったら、いざというときに保険になるんじゃ?

:何年もつかわからない人気ってことなんじゃ?


 何やらコメント欄で議論がはじまった。


『とりあえず話を戻すとして、このあともう一枠やらなきゃいけないんだよな。それから同期たちとコラボだし』


 コラボは指定されたものをやればいいんだけど、もう一枠が問題なんだよな。

 

【コメント】

:いや、ゲーム配信すればいいんじゃないの?

:ゲーム配信以外できないって言ってたのお前じゃ

:何をいまさら

:普通にもう一回クリバスか、頂上戦争でいいでしょ



 コメント欄の反応は思っていたよりずっとあったかい。

 ゲーム配信しかできないならゲーム配信しろ、という意見が俺にはうれしかった。


『ゲーム以外に取り柄がない俺だけど、ここだと受け入れられてる感じがしていいな』


 正直ジーンときた。

 リアルだと理解者はいなかったから。


 親は何も言わず放置しているだけで、理解者って感じじゃない気がしている。


【コメント】

:ちょっと泣いた

:いていいんだよ

:取り柄がないのはお互いさま

:取り柄があるだけ俺よりマシ

:それだけゲーム上手かったらええんや


 あったかいコメントに肯定されていく。

 ああ、俺って自分はすごいって思う必要はない。


 ただ、いてもいいんだよって言われてみたかったんだな。

 そんな自分の願いを発見したような気分だった。


『みんなありがとう。いつまで続けられるかわからないけど、がんばっていくよ』


 受け入れてくれる人がいて、支えてくれる人がいる。

 それで充分だし、Vチューバーになってよかったと思う。


『じゃあ今度はゲームをかえて孤高アクションでもやろうかな。孤高アクションはソロ専用ゲームだから、そこそこ強いよ』


 と言う。

 うれし泣きしそうになるのをこらえたので、ちょっと変な声が出た。


【コメント】

:そこそこ?

:こいつが自分のことに自信があるのは珍しいな

:ということはガチで強いのかもしれん

:他のゲームもガチで強いだろ

:むしろ弱いゲームがあるのかよ


 コメント欄の反応は別れている。


『まあやってるところを見て、それで判断してくれ』


 とだけ俺は言う。


 孤高アクションはジャンルは頂上戦争と同じシューティング系バトルロワイヤルだ。


 違いがあるとすればこれは個人戦限定で、最後のひとりになるまで戦うことだろうか。


 チームプレイがないので戦略が違ってくる。


 ぼっちで組んでくれる仲間がいない俺が、こっちのほうが得意なのは自然なことだと思う。


 まあ最初のうち目立たないように注意する、という点だけは似通ってる。


【コメント】

:素で一撃死させていくのやめろ

:鳥のプレイだけ見てると、一発撃てば敵を倒せるゲームだと勘違いする人でそうだな

:↑それはないだろ。鳥撃たれてるけど死んでないから

:何で死なないかって言うと、即死する急所はしっかり守ってるからだよね

:鳥、さすがに被弾はするんだよな……

:これで被弾しなかったらもうチーターか人外かの二択だろ

:すでに人間やめてる感じは強いけど

:いや、みんなの反応見てると主がやばいのはわかるよ

:感性がズレまくってるのも何となく理解できてる

:やばすぎて初心者の感覚でもやばかったか

:プロゲーマーの領域入ってるからな

:プロの中でどうなのか俺じゃわからんけど


『よし、無事に生存ポイントとれた。やっぱりこっちのほうがやりやすいなぁ』


 頂上戦争だと常時2対1、3対1になるリスクがあるからしんどい。

 まあその分難易度が高く、やりごたえがあって楽しいのは否定できないが。


【コメント】

:俺はもうツッコミ入れないぞ……

:自分も……

:ゲーマーたちが役目を放棄してる

:草

:匙を投げるほどの強さに草

:圧倒的な強さに惚れた  ¥50000


 コメント欄がいきなり赤くなる。


『え、赤色!?』


 完全な不意打ちで変な声が出てしまった。

 う、うわさの赤スパってやつか!?


『まじで? え、どういうこと?』


 混乱してすぐには頭が働かない。


【コメント】

:混乱してて草

:ゲームのとき、どれだけ不利でも淡々としてたのに

:こういうの見るとちゃんと生物なんだな、鳥さん

:まあ惚れそうなくらい強いのはわかる

:女子だとアリなのかね??

:孤高アクション勝ったご祝儀  ¥20000

:俺も晩飯代を  ¥1000


『ふぁ!?』


 二回目の赤スパが飛んできて、またまた俺は驚いてしまう。

 それから投げ銭が続く。


『みんなありがとう。でも無理しないでくれよ』


 とようやく衝撃から立ち直った俺は言う。

 公式ライバーなら、配信スケジュールさえ守っていれば固定給を受け取れる。


 だから真面目にやっていればしばらくは生活はできるだろう。

 ただ、これは言ってはいけないことのはずなので言えないんだが。


【コメント】

:心配してもらえてうれしい

:ゲームに強いだけじゃなくて優しいんだね

:¥3000

:¥2000

:視聴者数、9000超えおめー

:かなりいいペースで伸びてるな


 何だか無言でスパチャ投げてくる人が増えた気がする。

 どういう状況なんだ、これ?


『え、視聴者人数が9000ってマジ? あ、9500人になってる』


 いつの間にかかなり伸びてきている。

 そろそろ配信開始から一時間で、夜になったおかげだろうか。


『来てくれてありがとう。このあと同期とコラボ配信する予定だよ。みんなよかったら、同期の配信にも遊びに行ってくれよな』


 といいチャンスだと思ってふたりのことを宣伝する。

 同じ会社で同期になったのは何かの縁だろう。


 俺だって誰かの力になってみたいんだ。


【コメント】

:もうそんな時間か

:時間の流れ、めっちゃ早い

:鳥が頭オカシイプレイを連発するせいで、時間感覚が壊れた

:それな

:目の前で見てたのにまだ信じられないよ

:スーパープレイを見せてくれたお礼  ¥5000

:おひねりを出さなきゃ  ¥1000

:俺もおひねり。明日の飯代だけど  ¥600


『いや、飯代は投げないでくれ。自分の生活費はちゃんと残しておこう?』


 本気で言ってるようでちょっとあわてる。

 視聴者が体調崩すのは怖い。


【コメント】

:優しい

:心配されたい

:誰かに心配されてみたい人生だった


 何だかコメント欄では自虐がはじまったようだ。

 とてもじゃないけど、俺じゃツッコミ切れないな。


 早く配信時間終わってほしい。

 コミュ力やトーク力が高そうなモルモとラビが来てくれたら。


 そんな祈るような気持ちが通じたのか、時間はやってきた。


『同期ふたりの準備ができ次第、コラボ配信はじめるよー』


 ともう一度アナウンスする。

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