第4話「朝起きたらバズってた件」

 朝起きて、母さんが用意してくれていたご飯をレンチンすると、支給端末が大きな通知音を出す。


 朝から何だろうと不思議に思って念のため画面を見る。


モルモ[バード起きてる? あなたの配信メチャクチャバズってるわよ]


「は?」


 モルモから来たのはもちろん意外だけど、バズってるとか言われたのはさらに驚きだった。


 昨日あれから何かあったっけ?


バード[え、いや、何で?]


 混乱しながらもとりあえず返事を送る。

 グループチャットだったこともあってか、ラビさんからも反応があった。


ラビ[おはようございます。バードくんのフォロワー、いま見たら20万人を超えてますね。すごいです]


「はぁああああ!?」


 俺のツブヤイターのフォロワーが20万人!?

 何でそんなことになったんだ!?


バード[え、ちょ、どういうことですか!?]

モルモ[あなたいったい何をしたの?]


 モルモに聞かれるが、そんなの俺が知りたいよ。


バード[俺が何かするわけないだろ。ツブヤイターも配信もあのあと放置だぞ]

モルモ[それはそうよね。となると外的要因かしら]


 外的要因しかないと思うけど、何がどうしてこうなった??


マネージャー[おはようございます。バードさんの件ですが理由はわかりました。雪眠(ゆきね)ラチカさんでしょうね]


 ラチカさん……? 誰だそれ?


モルモ[え、ラチカさん!?!?]

ラビ[ラチカさんってあのラチカさんですか? チャンネル登録者数120万超えの?]


 モルモとラビさんの反応からするに、知らないとやばそうだ。

 とくに普段のラビさんからは想像できないほどの動揺を感じる。


 だけど、どう言えばいいのかわからない。


 困って黙っているとマネージャーがスクリーンショットを貼ってくれる。


 

 雪眠ラチカ@ピスケス2期生

 この人上手すぎ激ヤバ!!!


 どうやらWith Tubeの俺のちゃんねるへのリンクを貼ってツブヤキをしたらしい。


 それ自体は不思議じゃないんだが、共有が25万、グッドが51万になってる。


「グッドが50万って何なんだ……?」


 一行しかない発言でそんなにグッドがつくものなのか!?

 それもよく見たら深夜0時だから、まだ8時間くらいしか経過してないんだぞ?


 そっちのほうが驚きだよ。


ラビ[そう言えばラチカさん、ゲームが大好きでしたね]

モルモ[ラチカさんフォロワー90万超えてたはずだから、そりゃみんなに広がるわけね]



 チャットでのモルモの発言を見て、あわててアプリ上検索をしてみる。

 有名な人だからかすぐに見つかった。


 雪眠ラチカ@ピスケス2期生 @Rachika_s_Pisces

 ピスケス企画所属の雪娘。

 ゲーム、マンガ、映画が大好き。

 両親はスメルトさんとペストロイさんです。

  352フォロー  92万フォロワー


「本当だ。フォロワー90万超えてる……」


 思わず画面を何度も見返す。

 90万っていったい何なんだよ、芸能人レベルじゃないか?


マネージャー[インフルエンサーの発信力を知っているつもりでしたが、改めて思い知らされましたね。バードくんのチャンネル登録者数、20万に到達してます]

モルモ[えええええええええ!?]

ラビ[すごい。すごすぎてすごい。言葉が出てきません]


 マネージャーの指摘にモルモとラビさんも驚愕しているが、


「ふぁ!?」


 俺だって珍妙な叫びをあげてしまう。

 ふたりより、マネージャーよりも俺のほうが驚きなんだが。


 あまりにも驚きすぎたのか、一周まわって驚いてるなー俺、みたいな冷静な自分がいたりする。


マネージャー[とりあえずバードくんは5万、10万、20万記念配信をやりましょう。収益化申請はすでにしました]


 猫島さんから提案がきた。

 やっぱりそうなるんだ。

 

 流れが来てるなら逃す手はないってのはわかる。


[そんな三回も記念配信なんて、考えられないですよ]


 どうすればいいのかさっぱりわからない。

 だけど、そのためのマネージャーだろうと思って、猫島さんに弱音を吐く。


マネージャー[はじめたばかりでいきなりはきついですよね。私も想定が甘かったです。みなさん朝ご飯は食べましたか?]


 何だろう、急に話題を変えたなと思いながら俺は返事をする。


[いま食べようとしているところです]

モルモ[わたしは食べました。だいたいいつも7時半にはすませてるので]

ラビ[モルモちゃん、えらい。わたしは朝が苦手なので、休日は遅いんです]


 三人の返事は見事にバラバラだった。

 モルモは意外と朝に強いのか、すでに食べたのか。


 ラビさんが朝に弱いことはあんまり意外じゃないけど。


マネージャー[まずはご飯を食べてそれから作戦を考えさせてください]


 ああ、なるほど、そういうことかと納得する。

 俺も腹は減ってるし、猫島さんの言うことに賛成だった。


[わかりました。ご飯食べます。たぶんゲーム配信ですけど]


 と断っておく。


 ゲーム配信しかできそうにないというのは言ってあるし、マネージャーも会社も承知済みだ。


 どんなゲームをどれくらいの時間やるのか? を相談していくことになるだろう。 

 ちょっと冷めたご飯とみそ汁を流し込みながら、自分でも考えてみる。


 ……いいアイデアは全然浮かんでこなかった。

 俺、もしかしてVチューバーに向いてないんじゃないかな??


 疑問を持ってしまった。

 とりあえず三十分くらい悶々として、猫島さんに相談してみる。


[すみません、いいアイデア全然浮かびません]

マネージャー[大丈夫ですよ。わたしがフォローしますから]


 猫島さんは優しく言ってくれた。


マネージャー[たぶん他のクリーチャーと戦うとか、他のゲームをするとか、そういう方向になると思いますが]


 彼女の提案に画面を見ながらうなずく。

 

[やったことがあるゲームならだいたい大丈夫です。視聴者の反応までは予想できないけど]

マネージャー[バードさんなら問題ないと思いますよ。ただ、クリバスだと高難易度なプレイを要求されるでしょうけど]


 高難易度なプレイって言われても、具体的にはどんなんだろう?


[防具なし、スキルなしでソロでクリアくらいなら平気ですよ]


 できそうなことを告げてみる。

 昨日やったことなら何回もひとりでやってるから、いつもどおりやれば平気だろう。


マネージャー[それは頼もしいですね! ぜひそちらの方向で考えたいです]


 まあ他にできることなんてないしな。


マネージャー[リアルタイムでプレイしているゲーム、どれとどれでしょうか?]

[クリバス並みにやってるのは、頂上戦争と孤高行動、スターファイトでしょうね]


 やったことがあるってだけならもっとあるんだけど、やり込んでるものはさすがに数は多くない。


マネージャー[どれも人気タイトルなのでいいですね。クリバス30分、頂上戦争30分、孤高行動30分というのはいかがでしょうか?]


 猫島さんからの提案が届く。


[それでいいんですか?]


 俺としては毎日似たようなことをやっているので負担はない。


マネージャー[それで大丈夫ですよ。今日は午後8時から9時半まで、記念配信というのはどうでしょうか?]


 今日いきなりやるのか。

 ぼっちの俺にはまったく問題はないからいいか。


[大丈夫です。べつに予定は何にも入ってないので]


 配信がなかったら普通に一日ゲームして終わりだっただろう。

 配信をやる以外なにも変わらないまである。


マネージャー[ならよかったです。5万&収益化記念、10万記念、20万記念でいこうと思います。本来なら収益化記念をわけたいところですが]

[そんなに俺だけ配信していいんですか?]


 疑問が浮かんだので率直にぶつける。

 モルモとラビさんもできるだけ毎日配信しろと言われている状況だ。


 それに俺たち同期は配信時間がかぶらないようにという指示も出ている。


[ほかのふたりが不利になってしまうのでは?]


 ただでさえ俺のひとり勝ち状態みたいになってて悪いなと思っているのに。


マネージャー[バードくんは優しいですね]


 猫島さんから優しいメッセージが来る。

 優しいのか、俺??


マネージャー[それでしたら収益化記念コラボを三人でやるという手があります。そのほうがこちらとしてもありがたいですね]


 そうか、コラボという手があったか。

 というかコラボってそんなあっさり決めていいものなのか?


マネージャー[午後7時半から5万記念配信を開始、9時からコラボ、9時半からモルモさんの配信、10時からラビさんの配信という方向で行きましょう]


 マネージャーは俺に返事したあと、2期生のグループチャットにも似たようなことを書き込む。


モルモ[え、コラボ!?]

ラビ[いいんですか?]


 ふたりとも驚いているように見える。


マネージャー[さすがにこうなってくると、早めにやったほうがいいと判断しました。みんなで頑張りましょう]

ラビ[わたしたちはありがたいのですけど……]

モルモ[マネージャーとバードがいいならいいんじゃないです?]

 

 ためらうラビとすぐに乗り気になったモルモは対照的だった。


[俺はいいけど、俺とのコラボだとたぶんゲームだよ。ふたりは平気なのか?]

モルモ[パーティーゲームなら……]

ラビ[初めての人でも勝ち目があるものがいいですよね]

[いっしょにやってくれる人がいるなら、俺はべつにいいよ]


 いっしょにプレイする人に心当たりがないから、パーティーゲームのたぐいは買わなかっただけだ。


マネージャー[では決まりですね。バードくんは持ってないので、今回は経費で買ってわたしが持っていきます。タイトルは億りマンでいいですか?]


 マネージャーは俺の住所と本名も知ってる立場だもんな。


モルモ[やったことあるので大丈夫です]

ラビ[わたしも]


 みんなやったことあるのか……と思いながら、チャットで猫島さんに聞く。


[経費で買ってもらうなんていいんですか?]

マネージャー[ええ、上の許可は出ました。2期生は期待の逸材だらけなので、大事に育てろという指令もついてきましたけど(笑)]


 上の許可だってあるなら遠慮せずに受け取ろうかな。


モルモ[わたしも頑張らなきゃ]

ラビ[わたしもです]


 ふたりは気合を入れているようだ。

 何で俺はこうなったのかわからないから、かける言葉が見つからない。


 ふたりにしてもべつにアドバイスがほしいわけじゃないかもだけど。

 ……うん、やっぱり下手に話しかけないほうがいい気がするね。


 億りマンってどんなゲームなんだろう?


 みんなの反応的にルール知らない初心者でも大丈夫っぽいけど、軽く下調べくらいはしておくか。

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