第3話「配信を終えて」
みんなの配信が終わった段階で、マネージャーを含めてのミーティングだ。
指定されたツールはリスコードで今日の打ち合わせぶりに四人がそろう。
『みなさんお疲れさまでした』
と最初にあいさつしたのは、マネージャーの猫島さんだ。
『出だしは順調だと思います。残念ながらうちは大手ではないので、スタートダッシュは難しいですから』
『ひとりだけ成功した人いますけどね』
と好意のこもった笑みで指摘したのはモルモである。
何と俺と同じ高校生らしい。
それであの歌唱力と声のトーンの使い分けなんだよな、と改めて感嘆する。
『バードくん、すごかったもんね~。みんなびっくりするはずよ』
とラビさんがほんわかした口調で話す。
この人は年上のお姉さんで、しゃべり方は変わっていない。
素で人気が出るタイプの人なんだろうなぁと思う。
『本当ですよね。バード、あんた何であれで無名だったのよ。サギでしょ』
モルモは同い年ということで、俺に対して気安い口調だ。
年の近い女子とろくに話したことがないぼっちとしてはドキドキしっぱなしなんだけど、何とか答えよう。
「それは俺が知りたいんだよ。コメントで言われてたけど、ゲームのチョイスが悪かったのかな?」
あんなにウケると思わなかったとは、俺の言い分だ。
『うーん』
ラビさんもモルモもうなって考え込む。
『まあまあ。その辺を考えて提案するのもわたしたちの役目ですから』
と猫島さんが言ったので、とりあえず疑問を棚上げする。
「今後は毎日配信していくんですか?」
と俺は聞いた。
『ええ。認知されるまではできるだけ毎日お願いしますね。せめて最初の一か月くらいは』
猫島さんが間髪いれずに答える。
やっぱり企業公式ライバーって厳しいんだな。
……やらなくてもいいけど、企業的に赤字になったら解雇はありえるって話だしなあ。
「俺って大丈夫ですかね?」
何で俺の配信がウケたのか、さっぱりわからない。
このままでいいんだろうか?
『大丈夫じゃないの? すごい反応よかったわよ』
とモルモがフォローしてくれる。
『5万人を超えたなら記念配信ができますし、何より収益化申請も可能です。スーパーチャットで投げ銭も受け取れますよ」
と猫島さんが熱弁した。
そう言えばそういうシステムがあるって説明されたな。
俺、たった一回の配信でそこまで伸びたのか?
『バードくんはそのままで大丈夫ですよ~。わたしもすごいなと思って見てました』
ラビさんのやわらかいボイスに癒される。
『ほんとあなたバケモノよね。もちろん誉め言葉よ』
とモルモも言った。
そうなのか? 俺はいまのままでいいんだろうか?
ありのままの俺が受け入れられるなんて、そんな夢みたいな展開があるのか。
「昨日みたいなゲーム配信を一日三十分やるくらいなら、べつに毎日やれるんですけどね」
ぼっちの俺は基本ほかにやることがないもんな。
親は夜遅くまで帰ってこないし、定期テストで平均点をとってれば放置されてるし。
需要があってお金を稼げるかもしれないなら、やらない手はない。
『いいじゃないですか!? バードくん最初はどうなるかと思いましたが、ずいぶんと乗り気ですね!?』
ああ、やっぱりどうなるかなんて思われていたんだな。
俺だって思っていたくらいなんだから当然か。
「乗り気というか、ゲームをするだけなら普段と変わらないので。ただ貸与された端末で配信する作業が増えるだけっていうか」
『それでけっこうですよ! 今日の反応を見るかぎり、バードくんのゲーム配信は需要が見込めそうですからね』
何だか知らんけど猫島さんかなりハッスルしてるな。
俺にデメリットなさそうだし、そっとしておこう。
『バードくんはそれでいいとして、わたしが困りますね。反応はよかったんですけど、ほのぼの系ってどれくらい需要があるのでしょうか』
と言ったのはラビさんだった。
『三人のなかで一番伸びが悪いのはわたしなんじゃ、と思うのですが』
どうやら彼女は気にしているらしい。
他人の配信なんてあまり見てなかったから、気の利いたこと言えないな。
『清楚癒し系はじわ伸びすることが多いので、毎日配信がとくに重要ですね』
『わ、わかりました』
ラビさんは猫島さんのアドバイスにうなずく。
癒し系で疲れてるときに聞きたい配信だと思うんだけどなぁ。
『わたしは手ごたえあったのと思うのですけど、数字には反映されてない感じですね』
モルモが自分なりの分析を口にする。
『念のために言っておきたいのですけど、いきなり5万超えたバードくんがおかしいだけですからね? ほかのおふたりのペースはいいほうですからね?』
と猫島さんが言った。
『あ、そう言えばそうかも』
とモルモがつぶやく。
『当事者になると冷静に客観的判断ができなくなりますね……不安が来てしまって』
とラビさんが反省する。
「わかります、そんなものでしょう。俺も自分のことがまったく判断できていないから同じですよ」
心の底から共感した。
『バードは本気で言ってるんでしょうね……』
とモルモに言われる。
『バードくん、表裏のないいい子みたいですものね』
なんてラビさんに言われてしまう。
何だろう、共感したはずがフォローしてもらった。
だけど気遣いがうれしい。
『タイミングを見て同期同士のコラボも解禁していきたいですね。お互いのファンが流入しあえば、相互にメリットがあるので』
と猫島さんが言う。
コラボってどのタイミングでやるものなんだろう?
俺は疑問に思ったけど聞ける空気じゃないように思う。
『コラボやりたいですね』
とモルモが乗り気になっている。
『わたしも頑張ります~』
とラビさんも前向きになった。
「コラボって言われても……どうすればいいんです?」
俺はひとり首をひねる。
俺のはゲーム配信、それもソロプレイだけだ。
のんびり配信と小悪魔系歌配信とは相性がかなり悪いんじゃないだろうか。
『そこは三人で遊べるゲームをやりましょう』
と猫島さんが提案する。
『しばらくは三人でコラボのほうがいいかと思います』
とも言われてそういうものなのかと受け止めた。
『三人で遊べるゲーム……クリバスならいけますけど、あとは頂上戦争とか』
ゲームということで俺も意見を言ったほうがいいだろうと思ったんだが、アイデアが出てこない。
クリバスは最大四人まで協力プレイができるし、頂上戦争は基本が3人1チームの集団戦だ。
ただ、ふたりともプレイしたことがあるのだろうか?
とくに頂上戦争のほうはプレイヤースキルに差があるときついかも。
『タイトルは知ってますけど、どちらもプレイしたことはありませんね』
ラビさんが申し訳なさそうに返事をする。
『わたしはクリバスならやったことあるよ、弟とだけど。バードといっしょにやるのは無理ありすぎかな。ウルトラ級どころか、グレート級でもしんどいから』
モルモもあんまり乗り気じゃなさそうだった。
『それにふたりにつくだろうファンと、クリバスや頂上戦争は相性が悪い可能性がありますね』
と猫島さんから言われてしまう。
たしかにプレイヤースキルに差があるのはどうなんだろうな?
知り合いの手伝いをするのはべつにいいんだけど。
言い出す勇気がなかったので黙っている。
『バードくんはほかにゲームはしないの? パーティーゲームとか』
とラビさんに聞かれた。
「俺、一緒に遊べる人がいないので」
悪気はないんだろうなと思ったので、自然体で答える。
『!? ご、ごめんなさい』
ラビさんはやはり気づいてなかったらしく、明らかにうろたえていた。
『あなたのそれ、自虐でも自虐じゃなくても聞いたほうは困るわよ。配信だとウケてたみたいだから、戦略としてはナシじゃないかもだけど』
モルモのこれは忠告なんだろうか?
『戦略としてはありなんですよね』
猫島さんがため息まじりに言う。
『友達がいなくてゲームばかりしていたぼっちの鳥人が、人里に出て友達を獲得する、という設定ですし、バードくんのパーソナルにもあってるかと』
「たしかに猫島さんの言うとおりですね」
俺に友達が作れるのかという最大の問題はあるけど。
『……うん、最初のコラボとして考えてみましょうか。ぼっちのバードくん、初めてパーティーゲームを遊ぶ、と。これなら受け入れられやすいでしょう』
猫島さんのなかでアイデアがまとまったらしい。
『いいですね。楽しく遊びましょうね』
「は、はい」
声をかけてくれたラビさんに返事をするが、声はうわずってしまう。
パーティーゲームなんて俺、やったことないぞ。
本当に大丈夫なのか?
『そんなに緊張しないで』
ラビさんが優しく話しかけてくれる。
『そうそう。あなたクリバスがあれだけめちゃくちゃ強いんだから、べつに平気でしょうに』
モルモはくすっと笑う。
……ふたりは優しいな。
こんなに優しい世界があるなんて知らなかった。
『とりあえず今日はお疲れさまでした。このあとでみなさんのことを知り合いのSNSで知った人が録画を見るのは大いにあります』
と猫島さんは言う。
俺たちが放送したのは午後八時からだったからそのとおりだろうな。
動画配信を見られるのは夜の十時以降って人はすくなくないだろうし。
俺としてはあんまり増えてもこわいし、ひとりだけじゃ申し訳ないからほどほどでもいい気はするけど。
……言ったらいけないんだろうな。
いま通話してる三人は俺の配信が伸びたことを喜んでくれているんだから。
『定着していくためにもがんばっていきましょう。引き続きよろしくお願いします』
「よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
猫島さんの締めのあいさつに、三人でハモった。
『ではお疲れさまでした。何かあればわたしにメッセージか電話をください』
ひと足先に猫島さんは落ちていく。
俺が知らないだけできっと忙しいんだろうな。
俺も通話を終了させようとしたところ、
『あっ、ちょっと待って』
『待ってください』
モルモとラビさんが同時に制止する。
「何でしょう?」
ラビさんもいたのでとりあえず敬語を使って聞く。
『フレンド登録、バードくんだけまだなんですよ』
『そう。登録させてよ』
ふたりに交互にお願いされる。
「え、いいの?」
予想していなかった申し出だったので、素で聞き返してしまう。
クラスの人間の連絡先、俺は誰も知らないんだよな。
グループとか一切誘われたことがないし。
『いいに決まってるでしょう?』
ラビさんが微笑みながら、
『わたしたち仲間じゃない。遠慮しないの』
モルモはちょっと強引な感じでフレンド申請してくる。
俺は内から沸き起こる喜びに耐えながら、申請を受理した。
いままで猫島さんしか知らなかったけど、ふたりも増えた。
みんな仕事用のだけど、それでもうれしい。
『それじゃおやすみなさいね』
『おやすみなさい』
ラビさんはやわらかく、モルモはクールな感じであいさつする。
「おやすみなさい」
家族以外に言ったことあったかなと思いながらあいさつを返した。
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