第4話 ノルマンディーで昼食を
バスが走りだす前に意外な光景を目にした。といっても、道中毎日のように見ることになる。
暮らしの知恵かもしれないが、オススメとまで言えないこと。
2l入りの大きなペットボトルから、500ml入りのペットボトルへ天然水を詰め替えている人々。
500ml入りのほうを携帯し、大きなボトルはバスの座席まわりに他の荷物と一緒に置いておくのだ。小さいボトルは水筒代わりに洗って再使用する。
このやり方の利点はなんと言っても、水の調達について頭を悩ませる時間が少なく済むこと。その点は羨ましい。
ただ、一見エコだがそうでもないと思う。小さいボトルと蓋を洗うのに、もともと入っていた水量くらいの水を使うだろう。その水も、ホテルの水道水を使うなら電気ポット等で煮沸してから冷ますことになる。
私がそれを真似しようとしたら、漏斗も調達しないといけない。それに夏場のことで、洗い忘れたまま就寝しようものなら(私ならたぶんそうなる)衛生面で心配だ。
万が一、大きなボトルが破損したら悲惨なことになる。
私は500mlのボトルを途切れさせず購入しようと思った。サービスエリアで休憩するとき早速購入した。
小銭が出来るようにしたので、運転手のトニオさんに昨日の水代を返せた。
今日はバスの座席に持ち込む荷物が多い。モン・サン・ミッシェルでは、ビーチサンダルと島内で履くスニーカーと両方要るのがおもな理由だ。足が大きいので、その時点でかなり場所をとる。
また、予備の履き物を島へ携行するにはバッグよりリュックサックが快適だ。リュックを背負うとなると、カメラ付き携帯電話や財布をすぐに取り出せるように小さなポーチを斜め掛けすることになる。
荷物の入れ替えは昨夜のうちにだいたい済ませた。
「今日のモン・サン・ミッシェルの観光は、潮の干満の関係で予定が変わりまして、干潟歩きが先になります。それから島内を散策します」
これは私にとって良い知らせだ。島内はともかく、干潟歩きには興味より不安のほうが大きかった。
はじめの予定では島内散策が先だったが、それだと干潟歩きのための残り体力を気にしなくてはならないところだった。
車内でビーチサンダルに履き替え、スニーカーをビニール袋に入れてリュックにしまった。
ノルマンディー地方は牧草地帯で、羊、牛をよく見かける。
牛といえば「牛柄」という言い方のあるように白黒と思いがちだが、茶色い牛も少なくない。モン・サン・ミッシェルに近づくにつれて白黒が増えている気がする。
添乗員さんから聞いた、当地のサービスエリアで買えるちょっとしたお土産にオススメの品として、「メール・プラールのサブレ」がある。
いちばん小さい箱は日本では当時売っていなかった。さほど高価でなく当地らしいお土産を、いろんな所の知人に配りたい場合に良さそうだ。
私もいくつか買った。
お土産をあげたい相手はあとから増えるもので、足りなくなるといけないので帰国するまで食べなかった。
(帰国後に食べてみたら、とても美味しい。甘み、歯応え、適度な塩味。一口で好きになった。地元でも長い箱のが輸入食料品店にあるのを見つけた時、嬉しくてしばらく買い続けた。夏の体力回復にピッタリの、聖地巡礼に相応しいお菓子だ)
この日の昼食には、モン・サン・ミッシェルが遠くに見える平地でバスを降り、レストランまで少し歩いた。緑のなかに羊がちらほらと見えて可愛かった。
店内は白を基調にして明るい感じ。
同じテーブルに、秋田から来たというご夫妻が座った。雪のない地域に住む人が羨ましいと話していた。
メニューは名物のオムレツだった。
前菜や肉料理も美味しかったが、記憶に残っているのは何と言っても、ふわふわトロッとした卵の感じだった。
それからしばらく路線バスに乗る。モン・サン・ミッシェルにいちばん近い、干潮時に現れるという道の入口付近にあるバス停まで。
途中にスーパーもある。
「こちらのスーパーには後で、ホテルに着く前に寄ります」
と、添乗員さん。島からの帰りにまた路線バスに乗る時のため、
「下りるのは(島に最も近いバス停から)2つ目の停留所ですよ」と念を押していた。
バスは電車みたいに必ず停車するとは限らないところが厄介だなあと思いながら聞いていた。
(近づくモン・サン・ミッシェル!)
(次回、第5話「バスを降りる前に」へ続く)
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