第24話 自信もって

 朝、すぐにエリから電話がきた。


「ファンの人が会いたいとかワクミンすごーい」と喜んでいてくれたが、俺は正直どうするべきか悩んでいた。


 そんな俺の声を聞いて「私もついていくよ」と言ってくれた。


 二人なら安心かもしれないので、エリの提案を受けてから甘井さんにDMで連絡をとった。


 彼女と二人で会いに行ってもいいですかと聞くと

すぐに大丈夫だという連絡がきたので俺はエリに都合を聞いてから甘井さんに会うことを決めた。


「おっはよーワクミン!んー、違うなぁワクミン先生おはようございます!」

「先生は恥ずかしいよ……」


 迎えにきたエリは俺のことをからかってくる。

 先生と呼びながら、ファンに会いたいと言われた事実を素直に喜んでくれる。


「あはは、だって一人でもファンがいたらそれってプロだよー。ワクミンはすごいなぁ」

「全然だよ、それに甘井さんだってどんな人か全然わかんないし」

「でも、すっごい美人さんかもだよ?抱いてください……なんて言われちゃうかもー!」

「そ、そんなわけないって。それに……」


 それに、エリがいるのに浮気なんて有り得ない。

 たとえ捨てられたとしてもしばらくはそんな気にすはならないだろう。


 それくらい俺は今、エリにゾッコンである。


 甘井さんと会うのは明日の夕方になった。

 今日もエリの家には誰もいないそうで、放課後は彼女の家に行く約束をした。


 そして今日の学校で少し俺に転機が訪れる。

 エリがうっかり俺の小説のことを友達に話したことからクラスの話題が俺のことでいっぱいになった。


「和久井、小説書いてるんだって?すげーじゃん、見せてよ」


 こんなことを朝からずっと、いろんな奴に聞かれて俺は困っていた。


 休み時間の時にエリに対してなんで喋っちゃったんだよと珍しく怒り気味に苦言すると、エリが不思議そうな顔をして答えた。


「だってワクミンの小説、すっごく面白いしよくできてるよ?だからみんな見たらワクミンのこと見直すと思うから」


 俺よりもエリの方が、俺の小説のことに自信をもってくれていた。

 そんな事実は嬉しいはずなのだが、また自分が恥ずかしくなる。


 自分が書いているものを人に読ませることは確かに恥ずかしい。

 しかしそんなことで悩んでいるようでは到底プロになんかなれない。


 俺の書いているものは世界一面白いんだ、なんて自信満々に書いている人の極一部がその夢をつかんでいるわけで、俺はまだその土俵にすら立てていなかったのだと気づいて落ち込んだ。


 しかしエリは俺に下を向かせたりはしない。

 すぐに何人かの女子に小説の話をまた始め出して、ついに俺はエリ以外のクラスメイトに小説を見せることになった。


「こ、これだけど……」

「えー、すごいじゃん!これ、恋愛系?」

「ま、まぁラブコメって言うのかな……」

「なるほどねぇ、女心をわかってるからエリを口説けたわけだー」

「そ、そんなんじゃないよ……」


 なんかクラスのみんなに囲まれてこんなにワイワイとなること自体が不思議なのに、今はみんな俺のことを見てくれている。


 結局は目を背けていたのは俺の方で、みんないい奴なんだということを今日知った。


 そしてクラスメイトの多くが、俺の小説をフォローしてくれて、見たことのないような数字にまで伸びた。


「すごい、こんなにフォローつくの初めてだよ……」

「ワクミン、よかったね!でもみんな面白いって言ってたんだし、自信もってね!」

「う、うん……」


 ちょうど今はウェブ小説のコンテスト真っ只中で、ここまで評価やフォローが伸びたらそれなりのランキングにまで食い込めそうだ。

 

 授業中も一人でこっそり携帯を開いてその数字を見ながらニヤニヤしていた。


 そしてその噂は隣のクラスにも波及して、今日俺の小説は伸びに伸びた。


 さらに話したことのない同級生からも声をかけられて「めっちゃ面白いから早く続き書いてくれ」なんて言われて俺は舞い上がっていた。


 俺にお世辞を言う理由なんて何もないんだから、本当に面白いと思ってくれているのだと自信にもなった。


 そんな調子で放課後まで騒がしくも幸せな時間が続き、放課後はエリと二人で彼女の部屋に行く。


 エッチなことは週一なんて言われていたが、それでも俺は部屋にくると何かを期待してしまう。


 「ワクミン、今日はすごかったねー。もう学校でも有名人じゃん」

「エリのおかげ、だよ。俺が話したって鼻で笑われてただろうし」

「そーかなー?ワクミンは自分の小説にもっと自信持った方がいいよ。ほんとに面白いんだから」


 エリはそう言ったあと、「今のうちに先生に媚び売っておこー」なんて話しながら俺に擦り寄ってきて、太ももを触らせる。


「エリ……」

「あれれ、エッチな気分になった?でも今日はせっかくだから小説書かないとだよー」

「うん……でも、い、一回だけ……」

「ほんとにー?ほんとに一回で我慢できるー?」

「う、うん」

「どーしよっかなー」


 エリはもったいぶる。

 俺はソワソワしながらその返事を待つ。


 そして何も言わずに俺の手を掴んでそっとエリの胸に当ててくる。


「ワクミンからしたいって言ってくれたから、いいよ」

「え、ほんと?い、いいの?」

「うん、その代わり終わったらちゃんと小説書くんだよー?」

「も、もちろん」

「あはは、ワクミン必死すぎー!でもそんなワクミンも好きー」


 結局エリは俺のわがままを聞いてくれた。

 だから俺もそのあとはちゃんと小説を書く為に早めに家に帰った。


 そして今日の小説の数字を見ながら再びニヤニヤしていると、また甘井さんからコメントが入っていた。


「ほんとに面白いですね。今後の展開も期待しています」


 今日は本当に小説を書いていたことが報われた一日だった。

 素直にこの状況を喜びながら、遅くまで執筆活動は続いた。


 そして翌日、いよいよ甘井さんと会う日がやってきた。

 

 

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