第20話 重なる気持ち
テストの結果が発表された。
俺はなんとか赤点を回避したが、国語は目標の九十点には足りなかった。
エリは俺より平均点もよく、国語はなんと八十八点。目標を大きく上回った。
「ワクミン、そんなに落ち込まないで。体調不良だったからしかたないよう」
「うん、そうなんだけど……」
落ち込んでいないと言えばうそになるが、俺はそれ以上に自分がふがいなかった。
エリにムラムラしていてテストに集中できなかったなんて、そんなだらしのない理由があるだろうか。
こんなんではせっかくエリが俺を肯定してくれてもその期待に応えられない。
「はぁ……なんかこんなんでいいのかなって」
「ふふ、ワクミンは真面目だね。でも次頑張れば大丈夫だよ」
「うん……」
「それより、私が目標達成したご褒美、いつがいいかな?」
そうだ、エリが国語で八十点以上をとったので今度俺の家に泊まるという約束が発動する。
しかもなんというタイミングか、今日は両親ともに出張で明日の夜まで帰ってこない。
だからもちろん今日泊まるという話になったのだが俺はあまり気が進まなかった。
「じゃあお泊りセット買いに行こうかな。私、誰かのおうちに泊まるのって初めてー」
「……」
当然いやらしい展開を考えてしまう。
もしかしたら今日、俺は大切に守り続けてきたわけでもない童貞を捨てることになるかもしれない。
そんなことを考えると先日までは股間が膨らむ一方だったのだが、今日は少し不安が大きい。
どうしてかと言われればわからないが、結局自信がないだけだとも思う。
いつか俺は捨てられる。
もっといい男がエリの前に現れて、俺の前から彼女をさらっていく。
俺は結局エリにとっては辛かった時期の反動からくる気まぐれでの付き合いくらいでしかないのではないかと、ネガティブな妄想を爆発させていた。
「ワクミン暗いよー、どうしたの?」
「い、いやなんでも……」
「もしや緊張してますなー?お泊りって初めて?」
「う、うんもちろんだよ……」
こんな気持ちのままでエリに来てもらうのはなんだか申し訳ない。
しかし今日はエリたっての希望だし、別に何も問題はないどころか本当は俺だって嬉しくて仕方ないはずなのだ。
だからなんとか楽しもうと、コンビニで買い物をしながら自分を奮い立たせていた。
そして俺の部屋に戻ると、エリがすぐに俺のベッドへ寝転んだ。
「あー、テストの点数よかったからすっきり―。夏休みだねワクミン」
「うん、でも夏休みって言ってもやることないから去年はずっと小説書いてたなぁ」
「そっか。じゃあ今年は私と一緒に旅行とか行っちゃう?」
「旅行?」
俺は旅行というものを経験したこともない。
厳密に言えば小さいことに家族で旅行に言った写真はあるのだが覚えていない。
「うん、もちろんお泊りで。楽しそうじゃない?」
「そうだね、でもエリの家は外泊とか大丈夫なの?」
「今日だってワクミンのおうちに泊まるってちゃんと言ってきたよ?」
「そ、そうなんだ……」
ということはもちろんそういう覚悟をもっているのだろうか。
……いや、やっぱりこんな不出来な俺がエリを抱くなんて、そんなことがゆるされるのだろうか。
「ワクミン、こっち来てよ」
「うん、どうしたの」
「一緒に寝よっか。まだ明るいけどさ」
「え、いや、それは……」
「いや?」
「……いや、じゃないよ」
むしろ嬉しい。飛んで跳ねて叫びたいほどに嬉しい。
でもまだ引っかかるものが取れない。
しかし言われるがままエリの隣に寝転んだ。
お互い制服姿のまま、自分のベッドに並んで寝ると、狭くて肩が当たる。
「ワクミン、テストお疲れ様。よく頑張ったから、おっぱい、いいよ?」
「え、えと……」
「嫌なの?」
「……失礼、します」
俺という人間はどれだけ強がっても結局俺だ。
目の前におっぱいがあればそれを触らずにはいられない。
もう情けなさで心はぐしゃぐしゃになりながらも、男の本能で彼女を触る。
そしてもちろんそれは快感で、俺の思考はだんだんと弱っていく。
さらにキスもした。
最初は少しだけ、しかし徐々にその頻度は上がり気が付けばずっと唇を重ねている。
もうベッドの上で絡み合って乱れていくうちに彼女の服もはだけていく。
「はぁ、はぁ……エリ……」
「ワクミン……いいよ」
いいよ、この一言が何を示すのかなぜかわかってしまう。
俺の手は勝手に、自然にエリの足の間の方へと伸びた。
「あ、あの……」
「うん、そのまま……」
俺の手はエリのスカートの中へ入っていく。
そして行き止まりまで到達すると、エリが息を荒くする。
「あっ……うん、そのまま、触って」
もう俺の手だけ別の生き物かのように勝手に動き出す。
そして何かを探るように指で彼女の一番デリケートな部分に触れた。
しかしこの後どうしたらいいのかわからず、俺はしばらくそのまま固まっていた。
もぞもぞと指先だけが動いていたが、じっと同じ体勢でいるとエリが俺の方に更に寄ってきた。
「ワクミン、触り方……上手だね」
「え、い、いやこれでいいのかどうか……」
「いいよ、もっと……」
俺はエリの声に呼応するように力をこめようとした。
その時、携帯の着信が鳴った。
「あ……」
「電話、だね……」
「う、うん」
「出ていいよ」
俺は一度エリから離れた。
もう先走るもので色々と大変になっている状態のまま、電話に出ると母から「今日の夜には帰れそう」ということを伝えられた。
「母さん、今日帰ってくるんだって……」
「そ、そっか。じゃあ、お泊りはまた今度の方がいい?」
「う、うん……」
俺は身体を起こしてこっちを見るエリのスカートの中を想像した。
あの中に俺の手があって、そして電話が鳴らなければあのまま……
そんなことを考えると、本当に残念でならないはずなのになぜかホッとしている自分もいた。
好きな人とそうなれることは幸せだけど、エリにとって俺といることが果たして正解なのか、なんてことを考えてしまう。
だからそんな俺がエリとエッチをするなんてことが許されるのだろうか。
またネガティブな自分を発動させているとエリが立ち上がってこっちに来た。
「ワクミン、なんか余計なこと考えてるでしょ?」
「え、そ、そんなこと……」
「わかるよ、ワクミンは自分がだらしないとか何もないとかそんなこと思ってるんでしょ?」
「え……」
俺の考えなどエリにはお見通しのようだ。
まさに俺の今悩んでいることをズバッと言い当てられて俺は言葉を失う。
「でもね、私にとってはワクミンしかいないんだよ?なのに、なんでそんなに自分を否定するの?」
「だって……俺には何もないし。かっこよくもないし偉くもないし……」
「でも優しいし楽しいし私の為に戦ってくれる王子様はワクミンだよ?」
「王子様って……そんなんじゃ」
「じゃあ……私と、エッチしたくない?」
エリはそう言ってスルスルとスカートの中のパンツを降ろした。
そしてシャツのボタンを一つずつゆっくり外しながら俺に迫ってくる。
「エリ!?」
「お母さん帰ってくるの、夜だよね?じゃあ、まだ時間あるじゃん」
「い、いや……」
「私だってね、不安なんだよ?」
「え?」
不安?何が不安なんだ?
俺といることが、なのか。それともこれからエッチをすることが怖いのか。
「私だってね、ちゃんとワクミンに好きでいてもらえてるか不安なんだ。私、こんなんだから……ワクミンといたらエッチな気分になっちゃう悪い女、だから……」
「エ、エリ……」
「だから、安心したいから……ワクミンに好きでいてもらえてるって確かめたいから……だから」
「エリ!」
もうそれ以上は聞けなかった。
言わせてはいけないと思った。
俺は自分のことばかり考えていた。
勝手にエリが遠い存在だと思って、どこか距離を置いていた。
しかし、エリもエリで俺の事を好きでいてくれて、それでいて不安になっていたのだ。
だから交換条件なんていって俺を誘って……結局俺もエリもアピール仕方がわからなかっただけなのだ。
だから俺は彼女の気持ちを受け入れる。
情けない男なのだと自分が思うのなら努力すればいいだけなんだ。
がっちりと彼女の細い身体を捕まえると、そのままベッドに押し倒した。
「エリ……俺」
「ふふ、必死なワクミンの顔、かっこいいよ」
「……いいの?」
「うん、いいよ」
もうその後の事は言葉には出来なかった。
時間も忘れ、窓から射す夕暮れの明かりが落ちていく部屋で俺はエリを抱いた。
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