第17話 お勉強会
二時間なんてあっという間だ。
十分前を告げる電話がきて、俺は名残惜しくも帰り支度を整えた。
「楽しかったねーワクミン」
「うん、また、来たいかな」
「それっておっぱい触りたいから?歌いたいから?」
「い、いやそれは……両方……」
「あはは、ワクミン嘘ついてるー。ぜったい触りたいだけじゃん」
「う、うん……」
正直に言えばもう一度触らせてくれないかななんて淡い期待は叶わなかった。
さっさとカラオケルームを出るとエリが自分の胸を見ながら俺に「でも、ワクミンの触り方って気持ちよかったなー」なんて言われて、せっかく止まった鼻血がまた出そうになった。
店を出た後、少し暗くなった帰り道を二人で手を繋いで歩く。
するとエリが「来週からテストだから、明日から勉強会しよっか」と言ってきた。
「いいけど、どこでする?」
「毎日ファミレスとかお金かかるしー、うちかワクミンの家かどっちがいい?」
「ど、どっちでもいいけど?」
「じゃあ私の部屋でしよっか。ワクミンの部屋だと誘惑多いしー」
うちの学校は進学校というほどではないが、テストで赤点をとると夏休みに補習があるため、みんなテスト期間は勉強三昧になる。
俺も去年は真ん中くらいの順位にいたが、苦手科目は不安なので誰かと勉強しあえるのは心強い。
「じゃあエリの部屋で、やろっか」
「エッチなことは禁止だよー」
「し、しない、よ」
「じゃあキスもー?」
「え……」
「うそうそ、キスは許してあげる。ちゅっ」
人通りのある道にも関わらずエリは平気な顔でキスをしてくる。
俺はすっかりエリにメロメロだった。
いつも別れるのが惜しいし、さみしい。いっそのこと一緒に住みたいなんて思ったのは少し飛躍しすぎた話なので自分の心の中に留めた。
そしていつものように小説を書きながらエリとメールして、また翌日も学校でみんなに冷やかされながら騒がしい一日を過ごした。
「さて、今日から勉強だねー。なんかお菓子買っておこっか」
いつものコンビニに寄っていつものようにお菓子を買ってから部屋に戻る。
こんなことが当たり前になったのも結構最近の話なのに、ずっとこうしてきたかのような錯覚に陥る。
それくらいエリといると落ち着く。
というより全部受け入れてくれてすっかり甘えている。
「さて、今日はワクミンの得意な国語からにしよっか」
「う、うん」
「ちょっと着替えてくるから待っててねー」
エリはそう言って出て行くとすぐにもどってきた。
「じゃじゃーん、新しい部屋着、どお?」
「な、なんか足、長く、みえ、る……」
前に来た時もエリはホットパンツにTシャツ姿だったが、今回のホットパンツはさらにきわどくなっている。
さらに少しひらひらしていて、座ったりするとうっかりパンツなんかが見えてしまいそうだ。
さらに上はタンクトップ、もう下着じゃないのかそれはというほどに露出の多い恰好に俺は見ただけで下半身が熱くなっていた。
「わくみんって太もも好きだから触りやすいやつ選んでみたんだけど、よかった?」
「う、うん、すごく……」
「よし、じゃあ早速さわっていいよん」
俺は横に座ったエリの太ももを触る。
しかし本当に覗き込んだら中が見えそうなそのパンツに俺の手はどんどんと付け根の方へスライドしていく。
そしていよいよホットパンツに触れた。これ以上進めば、もうそれは太ももではない。
踏み込んでみたいという気持ちと、これ以上はダメだという気持ちが俺の中で争っている。
しかし人間、欲求には勝てない。
恐る恐るだがその手をもう少しだけ滑らせてみた。
「あっ……」
「!?」
エリが変な声を出したが、止められることはなかった。
もしかしてこれは……イケる?
全く未知の、あの宇宙に俺は手を伸ばすことができるのか?
しかしいざとなると俺の手は石のように固まってしまう。
しばらく膠着状態が続いたその時、エリの方から俺に言う。
「テスト、九十点以上取ったら、いいよ」
「え?」
「だから今は、ここまでね」
「……」
俺は燃えた。いや萌えた。
テストで九十点以上を高校に入ってから取った経験はなかった。
しかしそれは、テストで何点取ったらどうなるという明確な目標がなかったからというのもある。
じゃあ本気を出せば余裕かといえばそうではない。
それでもその報酬がエリの……あの部分を触れられるかもなんて思って頑張れないなら俺は人生で何も頑張れないだろう。
「よし、やろう」
「あー、ワクミンがやる気になったー。ふふ、ワクミンは本当にエッチだね」
エリは俺の手を握ってきてそう言った。
俺はすぐに教科書を開いて勉強を始める。
エリは本当に国語が苦手な様子で、読解問題なんかはほとんど俺の助言で何とかなるレベルだった。
そんな彼女もまた、自分がテストでいい点を取ったらご褒美が欲しいと言い出した。
「私はワクミンより国語苦手だから八十点にしてもらおうかな」
「い、いいけど何か欲しいものでもあるの?」
「うん……」
ちょっとだけエリが照れた。
なにか恥ずかしいお願いでもあるのかな?
「どうしたの?」
「お、怒らないって約束する?」
「怒らないよ……」
「私の事、軽蔑しない?」
「し、しないって。どうしたの一体?」
え、何をお願いするつもりだ?怒らないでとか軽蔑しないでとか……もしかして別れるとか?い、いやそんなこと別にテストの点数に関係なく、嫌ならそう言うだろうし……じゃあなんだ?」
「じゃあ、言うよ」
「う、うん」
「泊めてくれる?」
「……へ?」
「おうち、泊めてほしいな」
「……そ、それって」
「やだー、それ以上聞かないで恥ずかしいー!」
エリが照れながら俺を小突く。
しかし俺は全く予想しなかった、そしてあまりに想像を上回るお願いにフリーズした。
泊まりたい?俺の部屋に?エリが?
それって……それって、そういう、ことだよな……
思わず俺は自分の財布を見た。
もちろん見たかったのは財布の中に入れてあるアレだ。
しかし俺の目線を察してエリが「使う時は新しいの買わないと」なんて耳元で言うから勉強の最中だというのに鼻血が出た。
いつこうなってもいいようにポケットティッシュを持参していて助かった。
「ワクミン、すぐ鼻血出るからおもしろーい!」
「か、からかわないでよ……」
「んーん、本気だよ?」
「ブッ!」
また鼻血が噴き出した。
エリといると俺は出血多量で死んでしまいそうになる。
勉強会、これから毎日なんだよな。ずっとテスト期間ならいいなぁ……いや、それだと次に進めないからやっぱり早く終わらないかなぁ。
のぼせた頭と首元を少し冷たいエリの太ももで冷やす、いや、癒す。
「ワクミン、大丈夫?」
「うん……なんか、楽しい」
「私も、すごく楽しいなぁ」
エリの胸と顔を見上げながら俺は、テスト勉強を頑張ろうと、人生で初めて真面目にそう思った。
もちろんその動機は不真面目で不純なものであったが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます