朝の日課……?

月夜桜

軽く走るとは????

「くぁ、ん。おはよ、初寧」

「おはようございます、ご主人様」


 彼は欠伸を殺しながら、雇われメイドの初寧に挨拶をする。


「ん。ご飯作っといて。軽く走ってくる」

「は~い、おまかせくださいませ。シェリー少佐は?」

「そのまま寝かせといてやれ。昨日、上司に小言を貰ってたみたいだから」

「了解しました。では、行ってらっしゃいませ」

「行ってきます」


 ランニングシューズを履き、玄関を出る。

 そのまま左に曲がっていつものルートを走り始める。

 暫く走ると、いつの間にやら隣を並走している青髪の少女が。


「おはよう、雫」

「ん。おはよう、吉村君。日課?」

「そうだな。お前もか?」

「ん」


 こんな話をしているが、二人ともかなりのハイペースで走っている。


「さてっと」


 忠長はゆっくりと森の前で止まり、森の奥を見る。


「まさか、ここ登るの?」

「そのまさかだが? どうした? 米国特殊工作部隊所属の宮古雫大尉?」

「……それを出すのはズルい。でも、仕方がないから付き合ってあげる」

「そう来なくっちゃ。まぁ、俺はかなり特殊な走り方をするがな?」


 そう言った直後、彼は飛び上がって木の枝に捕まり、そのままの勢いで別の木の枝の上に飛び移る。


「──馬鹿。でも、それがいい」

「ほら、着いてこいよ」

「ん」


 雫も彼と同じようにして木の枝の上に乗る。それを見た彼は、そのまま次から次へと飛び移り、暫くした所で地面に降り立つ。

 森というよりかは山のような地形は、普段、非舗装道で走る訓練をしている彼らからすれば、丁度いい運動場所となっていた。

 雫が降り立ったことを確認すると、忠長は再び駆け出し、森林を駆け登っていく。

 枯葉が彼らの足を絡め取ろうとするものの、その前に次の一歩を踏み出して逃れる。

 と、そこに薄暗かった森の中に一筋の光が見えた。

 彼らはその光を目指して走る。

 普段は鉄道を使ってこの森を超えるのだが──逆に、一般人は鉄道を使わなければ越えられないということだ──そんな道程を彼らは軽々と走破していく。

 光を突破すると、そこには街が広がっていた。

 学園都市と呼ばれるそこは、身分証がなければ入ることが出来ない。

 まぁ、ここの学生である彼らは関係ないのだが。


「ふぅ……大丈夫か、雫?」

「ん。だいじょぶ。無線機も無事」

「まぁ、無線機が壊れそうな道は選ばなかったからな」


 森を突破した後、直ぐに走りながら会話を続ける二人。

 息一つあがっていないことを見ると、相当な体力があるのだろう。

 と、その時。腰に着けた無線機から聴き慣れた、柔らかい声が聞こえてきた。


『皆さん、おはようございます。此方は風紀委員本部です。これより無線機確認を行います。風紀委員本部から委員長、感明ありますか? どうぞ』

『委員長から風紀委員本部、感明良好だよ。おはよう』

『委員長、風紀委員本部、感明良好、了解しました。おはようございます。続きまして、PE1、感明ありますか? どうぞ』

『こちらPE1、風紀委員本部、感明良好やで。おはようさん』

『はい、PE1、感明良好、了解しました。おはようございます。続きまして──』


 このように長期休暇の間、毎朝行われている無線機確認を行っている間は、流石の二人も止まって聞いている。

 次、忠長が呼び出されようとした時、ピピーッ、ピピーッという注意喚起音が発せられた。


『風紀委員本部から各員、学園内111番通報発生。そのため無線機確認を省略する。以下、PC18、19へ。先程までの無線は傍受していましたか? どうぞ』

「此方PC18、感明良好。どうぞ」

「此方PC19、感明良好。どうぞ」

『風紀委員本部、了解。PC各員へ。発生箇所は商店街前駅、駅構内。通報者は女生徒。市内がた電車に乗っていたところ、男子生徒に痴漢にあったとの111番通報。向かえるPC移動、ありますか? どうぞ』


 忠長の雫はお互いに顔を合わせ、頷き合う。


「PC18から風紀委員本部。PC18及びPC19は即応可能。このまま向かいます。どうぞ」

『PC18、19、風紀委員本部了解。111番整理番号六番、担当はすめらぎ。了解ですか? どうぞ』

「111番整理番号六番、担当皇、了解しました。以上PC18」


 走りながら無線でやり取りをし、駅へと向かう。


「PC18から風紀委員本部」

『風紀委員本部からPC18、どうぞ』

「PC18から風紀委員本部。現在、通報者は駅員室にいるということでよろしいですか? どうぞ」

『その通りです。通報者は駅員室にいます。どうぞ』

「了解しました、以上PC18」


 それを聞いた二人は改札を通らずに直接駅員室へと向かう。

 息一つ切れていない二人はそのままドアをノックし、入室するのであった。

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朝の日課……? 月夜桜 @sakura_tuskiyo

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