サッカーにおいて、スプリントの重要性とは

さばりん

日本サッカーにおける、スプリントの意義とは?

 サッカー用語で最近よく使われるようになった『スプリント』という言葉。

 サッカーに詳しくない人にとっては、『オフサイド』と同類で、分からない専門用語トップ10には入るであろう。

 ここで、一般的に定義されている『スプリント』について、持論を踏まえて説明したいと思う。


 まずサッカーにおけるにスプリントの意味を説明しておく。


 スプリント……サッカー選手が、試合中に時速24キロメートル以上で走った回数のことを指す。


 これだけを言われても、『ん?』っとなる人がほとんどだろう。

 秒速にすると6.67メートル。

 学生時代に体力測定などで計測する50メートル走に換算すると、50メートルを7.5秒で走るほどのスピードになる。

 これでもピンとこない人は、あなたが街を歩いている時に、あなたの横を全速力で追い抜いていくママチャリやウーバーイーツの自転車を想像してもらえれば分かりやすいだろう。

 あれくらいが大体24キロである。


 サッカーの試合時間は90分。

 その時間内で、ポジションや選手の持っている走力にもよるが、多い人で30回以上のスプリントをしているのだ。


 50メートル7.5秒のスピードでそれを90分に30回……。

 考えただけでうぇっとなってきますよね。

 腹筋30回を90分に30セットやるのとどちらがきついでしょうか?

(私は後者だと思う)


 ちなみに、90分間でサッカー選手が動く走行距離は、平均約10キロと言われている。

 90分の間に10キロ走って、50メートル走7.5秒ほどのスピードを30回……。

 数字を聞いただけでも、サッカー選手すげぇーって思いますよね。


 余談になりますが、世界記録のマラソン選手は、42.195キロを2時間ちょいで走ります。つまり時速20キロのペースでずっと走り続けているのです。


 こう思うと、マラソン選手の方がすげぇ!っと思う方もいます。

 けれど、スポーツは多種多様。


 マラソン選手は時速20キロで走ることのできる持久力と体力を付ければいいですが、サッカー選手は90分で10キロ走るための体力、ボールを止めて蹴る能力。相手に競り負けない強靭なフィジカル。攻守の切り替え。などなど、様々な能力が必要になってきます。


 もちろん。マラソン選手も他に忍耐力など様々な能力が必要なことは分かっていますが……。


 自身で試してみてください。

 

 ①100メートルを全力で走る

 ②50メートルを全力で走った後、すぐにUターンして50メートル全力で走る


 どちらが疲れると思いますか?


 間違いなく②の方が息が上がって辛いことが分かるはずです。

 つまりサッカーは、攻守の切り替えにより、加速力と減速力も必要になってくるのだ。

 ただし、攻守の切り替えという面だけに特化すれば、バスケットボールの方が辛い。

(話がそれてしまうので、これ以上は言及は控えておく)


 話を戻すと、サッカーに求められるスプリントの意義とは、走るタイミングが重要なのである。

 90分間スプリントをし続ける必要はないのだ。


 ではサッカーにおいて、最もスプリントが必要な場面とはいつか?


 結論から言えば、攻守が入れ替わった瞬間である。

 つまりは、ボールを相手から奪う、または奪われた時だ。

 ここでは、攻撃スプリントと守備スプリントと呼ぶことにする。


 攻撃スプリント時

 ボールを奪った瞬間というのは、相手はまだ守備陣形が整っていない状態となる。

 そこで一気に加速して前への推進力を上げてスプリントをすれば、相手ゴールへ大きく近づくことが出来る。


 守備スプリント時

 ボールを奪われた瞬間は、自陣に戻って守りを固めなければならない。

 相手は逆にスプリントで一気にゴール前へと責め立てて来るので、急いで守備陣形を整えなくてはならない。そのためにも、スプリントして守備位置に戻る必要があるのだ。


 しかし、これは持論の見解であり、時と場合、監督やチームの戦術により、どちらに重きを置いているかによってこのスプリントの回数も変化してくる。

 ただし、基本的にスプリントにはこの二種類があることを覚えておいて欲しい。


 では、なぜ近年、日本サッカーにおいてスプリントという言葉が重要視されるようになったのか。

 それは、三年前にさかのぼる。

 

 2018年のロシアワールドカップ決勝トーナメント1回戦。

 日本対ベルギー戦、後半アディショナルタイムの出来事だった。


 スコアは2-2の同点。

 このままでは、延長戦に突入するという状況。

 日本はコーナーキックのチャンスを迎え、DFの長身の選手をゴール前に集めて、セットプレーからの得点を狙っていた。


 しかし、本田選手が蹴ったボールは無情にも相手キーパーに直接キャッチされてしまう。

 ここからが悪夢の始まりだった。

 ベルギーの選手は、ベルギーゴール前に残る日本人選手を置き去りにして一気に攻撃スプリントを開始。

 GKからパスが送られ、次々と前へスプリントする選手にパスを送っていく。

 一歩遅れた日本代表の選手たちも急いで自陣へと戻るため、守備スプリントで全速力で戻る。

 しかし、一歩遅れたが最後。

 右サイドの選手がコール前へパスを送ると、左から走り込んだ選手がダイレクトでシュートを決めて、ベルギーがゴールネットを揺らしたのだ。

 

 その時間、わずか13秒。

 

 自陣ゴールから相手ゴールまでのサッカーコートの長さは約100メートル。

 たった13秒。切り替えのスプリントだけで、日本は失点を許しスコア2-3。

 初のベスト8進出という夢を逃してしまったのだ。

 

 ベルギーの選手はチャンスだと分かり、誰一人スプリントをさぼらず、一気に襲い掛かってきたのだ。

 この攻守の切り替え。

 チャンスだと分かった瞬間、全員が全速力でスプリントして相手ゴールへ走る。

 時間も後半アディショナルタイム。

 いつ試合が終わってもおかしくない状況。


 そんな状況で、基本的なことを、全員がやろうとしてもなかなかできないことを、ベルギーの選手たちは当たり前のようにやってのけた。

 そして、勝ち越しゴールを13秒という速さで決め、ベスト8への道を切り開いたのである。

 世界サッカーとの攻守の切り替えの早さの違いを、日本は痛感したのだ。


 それ以降、スプリント=攻守の切り替えとして用いられることが多くなったような気がする。


 つまり、サッカーにおけるスプリントの重要性とは、攻撃時にはチャンスかどうか、守備時にはピンチかどうかを見極める重要な指標になると仮定したのだ。

 以降、スプリントの回数が計測されるようになり、データとして可視化されるようになった。


 けれどスプリントは、ただ回数を重ねればいいというわけではない。

 攻守の切り替わった瞬間のが大切なのである。






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