エピローグ

「あの……殿下。ご無礼を承知でお尋ねしたいことがあるのですが。あの二人が何者か、わかっておられるのですか?」

「ええ、わかっているわ。『常闇の人々』でしょう。違うの?」 

「あ、いや。オ……僕はあくまで彼らは自称『常闇の人々』と思っていたので」

「自称でも何だって良いわ。あの子たちがこの世界に来ているっていう風の噂を聞いて、ずっと会いたいと思っていたから」

「殿下。本当に、本当に、常闇族はいると信じているんですか?」

「信じることぐらいさせてくださいよ」

「あ……はい。そう……ですよね」

「もし、常闇族がいなかったとしても、死んだ孫たちが会いに来てくれたのよ。わたくしはそれだけで幸せ」

「え? 孫?」



「あのババア、ヒジリのバカにそんなこと言わなくて良いのに!」

 額縁の中に映った祖母さんとヒジリの姿を見て、ジャスは悪態をつく。

「まあ、まあ。無事、金のジャイロスコープを取り戻せて良かったし、それぐらいは」

 深紅の椅子に座ったあたしは、机の上から「金のジャイロスコープ」を手に取る。

「それはそうと、あいつはなんだったんだろうね」

 あたしはジャスの方を見る。

「逃げちゃったもんね……。ボクらは『金のジャイロスコープ』を持って行く義務はあっても、捕まえる権利や義務はないから、いいんじゃない?」

「まあ、そうなんだけど……。戻ったら、長やチャリオットさんにご報告をしないといけないとは思うわ」

「それはしないとダメだよね」

 ジャスは大きく背伸びをする。

「あー。でも悔しいわ。たかが眷属に逃げられるなんて! しかも頭の悪そうな龍になんて!」

 あたしは思わず悪態をついてしまう。

「馬鹿で良かったじゃないか。『金のジャイロスコープ』の使い方を読めないスカタンでさ。もしも、ちょっとでもこの情報を握っている奴だったら、この程度で済まなかったよ」

「そりゃあ、そうだけどさあ……」

「終わりよければ、すべてよしって言うし」

 ジャスはそう言いながら、窓の桟にもたれかかる。

「でも、まさか、今があの祖母さんが生きてる時代とは思わなかったよ。ボクらが常闇に転生してから、結構時間が経っているはずなのに、ピンシャンしてるなんてさ」

「そうよねえ」

 あたしは頬杖をつく。そして、深く溜め息をつくと、

「やっぱり、悔しいわ。あんな低俗な眷属にやられるなんて! 悔しくて腹立ってきた。帰りましょ。ここにいても仕方が無いんだし」

 あたしの言葉に、窓の方に移動していたジャスは、

「ちょっと待って」

 と話す。

「ん? 何かあるの?」

「そこに、クレープ屋さんが来てる。有機体を返したら、しばらく食べれないからね。行ってくる。ウィズも食べなよ。イライラしているのはお腹がすいているからでしょ?」

 ジャスは相変わらずなんだから。あたしは、違う、そうじゃないわ、と一言、言って

おいた。

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