舞風
赤城ハル
第1話
別段走ることが好きではない。
別段痩せるために走ってるわけではない。
ただ、夢を見るのだ。
走れないという夢を。
夢の中で歩くことはできても、何故か走れないのだ。走ろうとすると足が前に出ない。足が重いのだ。
まるで腰から下が水の中にあるように。膝を上げようとすると下へと押される。一歩一歩がつらく、そして苛立たしい。
それで
確認するかのように。
安心するかのように。
早朝、人のいない時間帯に。
町の外れに大きい車道があり、それに沿って広い歩道がある。私はそこを利用して日曜日の早朝、ジョギングをしている。
「本当、馬鹿みたいな道」
私はぼやきながら坂道を駆け足で
道は上っては下がる坂道の連続。
「平にできなかったのかな」
左右でなく上下にくねくね曲がっている道。
でもその分、数多くのランナーがこの坂道を利用している。
そのランナーたちは私のようなよちよち駆け足でなく力のある
「全くどんな体力だよ」
ジョギングを始めてからマラソンにも興味を持った私は実力試しとして21キロのハーフマラソンにも挑戦してみた。
しかし、初めてのハーフマラソンは10キロの関門で終わった。
ショックというものはなかった。
むしろ助かったという思いが強かった。
5キロくらいでへとへとであったのだ。
余裕と考えていたマラソンは実際に考えていたものとは違い、つらく苦しいものだった。
テレビでは芸人やタレントがぜえぜえ、はあはあ言いながら歩きつつもマラソンをしている姿を見る。
それを見るたび私はもっと走れよと思っていたがマラソンに参加して実際はかなりしんどいものだと身をもって思い知った。
足の付け根が痛い。
足の裏が痛い。
腰が痛い。
肺が苦しい。
そしてなぜか顔がひりひりする。
痛みで足を止めると力が抜ける。
もう走りたくない。もう歩きたくない。
折り返した一部のランナーが、「がんばれ」と言う。
こっちは返事をするほどの余裕はない。どうして彼らはそんなに速く走れるのか。
ハーフマラソンにはプロからアマまでたくさんのランナーがいた。
私はプロの走りを生で見て驚いた。
駆け足ではない。疾走だ。もちろん全力疾走ではない。50メートル走なら私もあれくらいは余裕である。しかし、21キロの間ずっととなるとそれは無理な話。でも、それをプロはしているのだ。
なんという体力か。
アマの人間もそれに劣らずの走りっぷり。
暇つぶし程度で始めたランナーとは天と地ほどの差だ。
私が関門で止められた時には彼らはゴールしていた。
脱落者を乗せたバスに揺られ、会場へと送られた。バスが会場に着いた時には全てのランナーが帰っていて、表彰式も終わっていた。得られたのは参加賞のバッジとミニタオル。
悔しくはなく、熱が冷めることもなかった。
いや、熱はもともとなかったか。
そういったことから私は今だに日曜日の早朝はジャキングを続けている。
隣では車やトラックが排気ガスを撒き散らしながら走り去る。
「ランナーの健康に悪いな」
それでもこの坂道には多くのランナーが利用している。
坂の頂上で駆け足から早歩きのスピードに変える。
肘の力を抜き、とぼとぼと進む。
背は丸まり、首に力が入らなくなる。
すると視線は下になり、誰かが捨てたであろうゴミが目につく。
その中でビニール袋が風に遊ばれていた。
舞風 赤城ハル @akagi-haru
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