ペンが走る。
山岡咲美
ペンが走る。
「ヤバイ、俺、おかしくなったか?」
「おかしくはありませんよご主人しゃま」
机の上に
「ご主人しゃま、ワープロですか?」
「ああ、アパート出る前に小説賞に送る原稿をチェックしようと思ってな」
小人はノートPCの事をワープロと呼んだ、ワープロってのは文章作成専用PCみたいな物で、今だとポ○ラ(がっつり商品名の為ここでは伏せ字としておこう)とかがそれに該当する、そしてこいつが何故そんな事を口にすると言うのかと言うと……
「ご主人しゃま、たまには
そう、コイツは万年筆の精霊らしいのだ。
「……えーと、万年筆さん、俺原稿用紙なんてもって無いしノート(PC)で書くから遠慮するよ」
「ご主人しゃま、ノート(帳面)では書けませんよ」
「うん……そうだね、でも最近はこのワープロみたいな奴で書くのが主流なんだよ」
万年筆の精霊は少し落ち込んだ顔を見せるが、首を振りあきらめないとばかり真っ直ぐにこちらを見上げ言葉を紡ぐ。
「知っていましゅ、最近は最新技術のすいいを集め作られた[ワードプロセッサ]で小説を書くのだと……」
ワープロは知ってたけどワードプロセッサって言うんだ……(すげー名前だな、後でググってみよう)
「いや、俺としては書くの速くしようかと思ってスマホの音声入力で小説を書こうかと思ってる所だし万年筆はちょっと……」
「すまほ? おんしぇえにゅーりよく??」
あっコイツ解って無いな!
「まかせてくだしゃい、速く書くなら方法がありましゅ」
駄目だあきらめが悪い、精霊って言うか悪霊に取り憑かれたみたいだ。
「いいでしゅかご主人しゃま、先ずは文字の簡略化をするのでしゅ、例えば[す]の横の線と丸まった縦の線を直角に
万年筆の精霊はまるで作家さんのすごい秘密を教えたかの様に俺の顔を机の上の自分に近付かせ小声で耳打ちした。
「あと、某しぇんしぇいは原稿用紙1/4サイズの文字のをお書きになって線の長さを短くして
いや、俺そうまでして小説書きたくねーよ、取りあえず指の動きを最小限にするって事だろそれ。
(万年筆の話がホントかどうか解らんけど昔の作家の原稿が
「いやゴメン万年筆さん、やっぱり今までの使ってた物の方が使い勝手が良いし……」
俺は少しの罪悪感があったが小説賞も近しいそうも言ってられなかったのだ。
…………
「お婆しゃまが大学合格を祝ってご主人しゃまに贈られたお爺しゃまの形見のあたしを使わずにいるとおっしゃるのでしゅか……」
コイツに対する罪悪感は今消えました。
「きたねーぞオマエ! ばーちゃんかんけー無いだろ!」
「かんけーありましゅ! あたしを贈ると決めた時、お婆しゃまはご主人しゃまが小説をお書きになられるからきっと喜んで使ってくだしゃるとおっしゃいました! お婆しゃまはご主人しゃまにあたしを使ってほしいんでしゅ!!」
「ううっ!」
ばあちゃんが……。
「わかった、オマエを使って小説を書く、ただし! 小説賞に出すような何万文字の小説は無理だ、だから…………」
だから? …………
万年筆の精霊はゴクリと息を飲む。
「今度は俺がばーちゃんの為に
万年筆の精霊の顔が「パアッ」と明るくなった。
そして俺は大学に行き講義を受けたあと、大学から帰る途中の文房具店で400字詰め原稿用紙を買って帰った。
俺は
書いたのはばーちゃんに貰った万年筆と俺の物語。
ペンが走る。 山岡咲美 @sakumi
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