第26話 先天能力
魔力の弾丸を撃ち込まれた瞬間を目で追えなかった。
しかも、彼女の銃口の先は完全に壁を向いていたはずだ。
一瞬で銃口の先を俺に向けたとでもいうのだろうか。
もしそうだとしたら、俺が陥っているこの状況もすんなりと受け入れられる。
だが、彼女が目にも留まらぬ速さで銃口の先を俺に向けたことはないだろう。
というのも、彼女が神速の持ち主だというのならわざわざ長銃を選ぶ必要がないから。
「
つまり、銃でなくとも攻撃できる武器なら何でもその魔力源を付与することができるということなのだ。
神速が使えるのなら、大ダメージを与えられる武器を選んだ方が「
それでも長銃を使う彼女には何かが秘策があるに違いにない。
でなければ、この状況をどう説明するのか。
ーーって、そんなことより・・・!
自分の身に何が起こったのかを解明しようとするあまり、『次世代魔神王決定戦』の最中だということをすっかり忘れていた。
恐らく、俺が倒れてからはそう時間はかかっていないはず。
そう思い、上体を起こした先には銃口の先が俺の眉間をしっかりと捉えられていた。
どうやら、行動を起こすのが少し遅かったようだ。
「これでチェックメイト・・・だね。降参したらどう?」
「姉上、あんた一体何をした?」
「別に、自分の生まれつきの力を使っただけだよ?」
自分の左目を指さす彼女の瞳の周りには、今の尚バレット・サークルらしき黒の紋様が浮き出ていた。
「これが私の先天能力「
「つまり、あんたは壁を狙った振りをしていただけで、最初から狙いを定めていたのは俺だったと言うのか?」
「その通り♪ いや~、本当騙せて良かったよ」
我ながら本当に馬鹿だったと思う。
最初に見せた二十にも渡る弾丸の軌道が、彼女の先天能力を示したことに何で気が付かなかったのだろうか。
あの時、彼女は天に目掛けて撃ったはずなのに狙いはしっかりと俺を捉えていた。
弾丸が意思を持たように俺を追尾するはずがないのに、どうして今の今まで違和感を感じなかったのだろうか。
冷静さを失っていたとは言え、普通に考えれば分かるはずなのにどうしてこんなことになってしまったのか。
それに彼女が異常なまでに教えたがっていたのは、この場で俺を確実に倒すため。
なぜもっと早く気が付かなかったのだろうか。
気が付いていれば、こんな状況にならずに済んだのに。
考えれば考えるほど、後悔は雪崩となって俺に容赦なく降りかかる。
まあ今更後悔したところで、全てが手遅れなのには変わりないのだが。
「でも、俺を撃たないって約束は破ったよな?」
「約束は全て守られると思ったら大間違いだよ。今回の敗北を機にしっかりと学んでね?」
情けを掛けるように笑って言葉を投げかける彼女だが、一つだけ大きな勘違いをしている。
「敗北? 俺がいつ負けましたと頭を下げた?」
俺は体内で溜め込んでいた闇の炎を体の外へ一気に放出した。
辺りは闇の炎で埋め尽くされているが、その中に彼女の姿はどこにもない。
回避性能が高すぎて逃がしてしまったようだ。
そして、闇の炎を切り裂くために放たれたであろう一発の聖力の弾丸。
闇の炎とは対極の存在である聖力の力で炎は綺麗さっぱり浄化されてしまい、膨大な魔力を使ってしまったせいで俺の魔力残量が彼女よりも下回ってしまった。
これは非常にまずい。
「いくら身を隠そうと、一度「
「別に逃げようとしてない、それにこれから逃げる羽目になるはあんたの方だ!」
俺は最小限の魔力で闇の炎でできた剣を何本も作り出す。
敵の弱点である聖力が使えない今、俺ができること言えば彼女の聖力以外の弱点を探すことぐらいしかないだろう。
闇の炎剣を背後で待機させるように構えていると、なぜか彼女は嬉しそうな表情をしながら口を開いた。
「それで私を倒せるとでも~? すぐに落としてあげる!」
彼女は「
それでいい、それが俺の目的なのだ。
彼女の弾丸が闇の炎剣に向いている間に、俺は素早く彼女を叩きに行けばいい。
彼女は俺の神速をも超えるスピードについて行けるはずがないのだ。
仮に狙いの先が俺に移り変わったとしても、闇の炎剣で素早く彼女を仕留めに行けばいい話だ。
俺はさっそく行動を開始しようと、彼女に一歩近づいたその時。
「「連射撃弾」!」
闇の炎剣に狙いを定めた彼女は、一斉に弾丸を連射した。
数え切れないほどの弾丸に、俺の闇の炎剣は五秒も経たないうちに全て打ち落とされてしまったのだ。
こうなってしまっては仕方がない。
焦りが先に来てしまった俺は、無謀にも片手に持つ鋼の剣だけで彼女の懐に素早く飛び込んでしまった。
以外だったのは、簡単に彼女の懐に入れたことだろうか。
後ろに後退されて逃げられると思っていたのだが、どうやら「連射撃弾」を使ってしまったせいで動きが一歩遅れたようだ。
ーーいける・・・!
彼女に逃がす暇を与えることなく、俺は鋼の剣を平行に振り抜いた。
勢いに負けるように砂埃が辺りを覆い尽くしてしまい、彼女の安否を確認しようにもすることができない。
そしてようやく辺りが見えるようになった矢先、目の前に突如現れたのはーーーー銃口の先だった。
銃口の先は額へと一直線に向けられており、この場から逃げる暇もなく一発の銃声が会場全体に鳴り響いた。
銃声が鳴り響いたということはつまり、額を聖の力で打ち抜かれたことに他ならない。
「カハ・・・!」
俺が後方へと倒れる直前、彼女は言った。
「闇の炎剣が
それ以降も彼女が何か言っているようだが、全く聞き取れなかった。
ーー俺は・・・負けたのか・・・?
負けたということはつまり、魔神王にはなれなかったということ。
大天使共の復讐の足掛かりを失ってしまったのだーーーーと、今までならそう思っていたのだが、俺は少し勘違いしていたらしい。
ーー別に、俺が魔神王になれなくても大天使に復讐することはできるんじゃないか・・・?
大天使に恨みのある連中を束ねて行動すれば何の問題もない。
問題があるとするなら、この魔界からどう脱出するかだろう。
魔神族は、大天使たちが崇める神によって封印されてしまった魔の種族。
だとしたら、封印と解く鍵は必ずどこかに存在するはずなのだ。
それも恐らく時間が経過すると共に解明されていくのだろうから、魔神王になれずとも大天使たちに復讐可能だということは約束されたも同然。
ーーだったら俺は、何でこんなに魔神王の座にこだわっていたんだっけ・・・?
思い出せそうで思い出せない。
その時ーーーー
「ルシフェオス・・・? ルシフェオス!」
騒ぎを立てている観客席の方から俺を呼ぶ女性の声が聞こえた。
温もりを含んだその言葉を送ってくれる女性の存在を、この十年という短い生涯の中で一度も忘れたことがない。
そして何より、そんな言葉を送ってくれる女性のために俺は機会を見計らって粛正しようと今の今まで自身の感情を押し殺してきた。
それなのに、どうして忘れてしまっていたのだろう。
恐らく、あれほどまでに憎かった兄弟が今となっては憎くない存在となってしまったからだ。
兄妹仲良くすることは、誰もが良いことだと思うに違いない。
だが、肝心の母さんはどうなる?
俺がここで負けたら、優しい母さんはこれからも惨めな目に遭って行かなければならなくなってしまう。
本当にそれでいいのか? 論外だ。
だとしたら、俺はどうするべきか。
答えは至ってシンプルかつ明白だ。
ーー俺が魔神王になって、皆を黙らせればいい。
兄弟の仲など、俺にとってはどうでも良いことだったのだ。
それに、魔神王になればディアルナの身も一生保証される。
つまり母さんを助けるにしろ、ディアルナの身を保証するにしろ、俺は何が何でも魔神王にならなくてはならないということだ。
そのためにも、俺はーーーー
気がつけば俺は彼女と向き合う形で立っていた。
額を貫かれた傷口はすで完治しており、消費した魔力は完全回復ーーーーいや、なぜかそれ以上にまで回復していた。
要するに、体現し切れなかった魔力が体外に漏れ出てしまっているのだ。
一言で言い表すとするなら、
「この化け物め・・・」
俺の姿を見るなり、彼女は苦笑いを浮かべながらそう口にする。
そして、莫大な魔力を暴走させた俺の反撃はここから始まったーーーー
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