第24話 四回戦目 サリカver.
眩く光り輝く入り口を抜けると、先ほど以上にも増して会場は盛り上がっていた。
それもそのはず、残る二人はいかに人望がありそうな人柄なのだ。
そんな人たちが今から魔神王の座のために戦おうとしているのだから、応援側が我を忘れるぐらい熱狂してしまうのは仕方のないことだろう。
まあ、こんなに大勢の観客がいるのに俺を応援してくれる人が全然いないことには驚きを隠せないが。
観客に圧倒されるがまま、入り口付近で立ち尽くしていると後ろから声を掛けられた。
集合時間ギリギリだったため、声をかけてきた人物は言うまでもなく決まっている。
振り返ってみると、声をかけてきたのはやはり三つ子の姉妹たちだった。
「何だかんだ言って姉上たちも来たんですね?」
「まあ、一応はルシフェオスのこと応援してるからね~」
「シヴィリアーナ姉上・・・一応は余計じゃ?」
シンプルに応援してるからで良かったのではないだろうか?
シンプルに言われてたら嬉しかったのに、その一言で全てが台無しだ。
「あたしはルシフェオスの戦闘スタイルを見て武術の参考になればいいかなって思ってきた」
「なるほど、でも武術の参考にはならないと思いますよ。全部その場その場で適当に動いてるだけですから」
「え、そうなの?」
「そうなのです」
俺の戦闘スタイルは、形に縛られないフリースタイルだと言える。
言い換えれば場に合わせて適当に動いているだけだから、恐らくカレアマキナの言う武術の参考にはならないだろう。
「うちは暇だったから」
「・・・それだけですか?」
「それだけですよ?」
目下相手にも丁寧に言葉を返すサイスノールカだが、彼女が言っていることが一番酷い。
まあ、試合が終われば他の兄弟の試合を見ているだけなので彼女の言い分は決して間違えてはいないのだが、面と向かって言うことじゃないだろう。
とにかく、彼女たちも到着したことだしさっそく他の兄弟の元へと向かって歩き出そう。
そう思って一歩踏み出そうをしたその時、なぜかシヴィリアーナに肩を掴まれ行き先を阻まれてしまった。
「どうしたんですか? 早く向かいましょう?」
「向かう前にちょっと待って」
すると彼女は魔法を唱えだした。
言うまでもなく、回復魔法「
彼女が唱えた「
疲労感も取れて一石二鳥だ。
「私がルシフェオスの控え室に向かったのは、魔力を回復させるためだったんだ」
「そうだったんですね、わざわざありがとうございます」
「ほら、二人とも早く行こー?」
「早くしないと置いて行っちゃうよ?」
いつの間にか先を歩いてるカレアマキナに催促され、それに便乗するようにサイスノールカからも促される。
「それじゃあ行きましょう」
「ええ、試合頑張って」
「はい、精一杯頑張ります」
そして俺と三姉妹は、他の兄弟の元へと歩み寄っていった。
見たところ、どうやら俺たち以外の兄弟はみんなで揃っているらしい。
「おい、裏切り者! 随分と遅かったじゃないか! ディアルナちゃんとイチャイチャしてたんだろ!」
定位置に着くなり、アスモレオンにダル絡みされる。
答えようかどうか迷った末、俺は口を開くことにした。
「イチャイチャしてませんよ」
「嘘つけ! イチャイチャしてたじゃないか!」
「知ってたのに、なぜ知らない風を装ってたんですか・・・」
「ハ! か、かかかか、鎌をかけただけだしー?」
挙動不審過ぎる彼に、少しドン引きした。
にしても、まさかストーキングされていたとは。
ディアルナにしても、これ以上のストーカー被害を出さないためにも一つ彼に協力してやるしかないようだ。
そう心に決めると同時に、会場全体に進行者の声が響き渡った。
とりあえず、どう協力してやるかは後で考えるとしよう。
「これより、四回戦目を開始します。サリカ様とルシフェオス様は準備をお願いします」
その時、会場全体が観客の声で呑み込まれた。
というのも、原因は観客に手を振りながら立ち位置へと向かって行く第三皇女のサリカだ。
綺麗な水色の長髪にルビー色を瞳に宿したスタイル抜群の美女。
これほどまでに完璧な女性に人望がないはずがない。
俺は彼女に向き合う形で立ち位置へと移動し、到着すると共に彼女から話しかてきた。
「ルシフェオスの試合見せてもらったよ。まさかあれほどまでの実力者だったとはね~」
ニコニコと笑いながら告げる彼女の表情から違和感を覚える。
何か企んでいるのだろうか?
俺は最大限の警戒をしながら彼女の問いかけに答えた。
「それはどうも、あの戦いを見ておきながら辞退しなかったことには称賛を送りますよ」
「私も自分に称賛を送りたいぐらいだよ~。セモンでさえ歯が立たなかったのにねって、でもーーーー」
明らかに彼女の顔色が変わった。
ニコニコとしていた表情は綺麗に消え去り、新たに現れたのは本気の姿勢を示した真面目な表情だった。
その表情から察するに、負ける気は毛頭ないのだろう。
「相性っていうものがあるからね、ルシフェオスとセモンの相性は悪かっただけ。だけど、私と君は? 不確定な事実がある以上、私は自らの意思で辞退なんかしないよ」
そう言って取り出したのは二本の長銃。
肌の露出が多い青と白の貴人服を身に纏っているのは、防御よりも移動速度を重視したからであろう。
そんなことはどうでも良い、一番問題視すべき点は長銃をどう使うかだ。
両手が塞がっている状態ではリロードできないはずなのに、一体どうやって再充填するのだろうか。
彼女の武器の使い方は、完全に未知の領域だった。
「長銃を二本使って、欲張りなんですね」
「欲張りなんかじゃないよ、私じゃないと二本は扱えないの」
「それってどういうことですか?」
「ふふ、どういうことだろうね♪」
手の内を易々と語るつもりはないらしい。
どうやら、最初から本気で戦うしかないようだ。
俺は腰に備えていた鋼の剣を抜き、魔力を最大限まで引き出す。
大丈夫、シヴィリアーナのおかげで魔力はフル回復している。
「それでは、四回戦目を始めましょうか」
「ええ、せいぜい死なないようにね♪」
サリカの不愛想な発言の後に進行者の合図ですぐさま試合が開始されたーーーー次の瞬間。
目にも留まらぬ速さで飛んできた弾丸が頬を掠っていき、スッと少量の血が伝っていくのが分かった。
そう、不意を突かれたとはいえ、俺は生まれて初めてダメージを受けてしまったのだ。
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