第5話 決着

 魔神王オヤジの後継者になる者にはいくつかの条件が必要とされるのだが、それら全てを差し置いてでも必要とされる条件はただ一つ。

 『絶対的強者』、それが達成できていれば、魔神王オヤジの血を継ぐ者なら誰でもなれるという。

 まさに、俺こそ『次世代魔神王』に相応しいと言えるのだが、不可解な点が一つだけあった。

 それは、「なぜ、俺が次世代魔神王として認められてたのか?」だ。

 誰がどう考えても第一皇子が最有力候補なのに、なぜ第十皇子である俺なのか?

 

 ーー・・・あー、なるほどそういうことか。


 今まで散りばめられていた点が一つの線で結びついた。

 俺が選ばれた理由、それは恐らく魔神王オヤジだけが俺の魔力量を知っているからだ。

 五歳児だった頃、一度だけ魔神王オヤジに俺の魔力量を見られたことがあった。

 そこからの魔神王オヤジの対応から察するに、俺の中に秘められた魔力量が後継者に相応しいと思い至ったのだろう。

 やけに俺と接点を作ろうとしたのは、次世代魔神王との信頼関係を築き上げようとしたかったのかもしれない。


 ーー色んなものを買い与えてくれたもんなー、何となく魔神王オヤジが考えていることが分かったわ。


 だが、俺だけ魔神王オヤジの考えていることを理解したところで、本来問題視すべき点は何も解決されちゃいない。

 当然のように、俺の魔力量を知らない奴らにとっては、ただの不服でしかないからだ。

 

 「正気か! こんな雑魚が『次世代魔神王』だと!? ふざけるのも大概にしねぇと痛い目見るぞ? 俺以外に適任者などいねぇだろうが!」

 「べレフォールが適任者かどうかの話は別として、俺にも魔神王が何を考えているのか分からない。第一、魔神族最強と謳われる俺より強い奴などいるものか」

 「ガイオス、俺はお前より強い・・・。だから俺が魔神王に相応しいのだ」

 「ちょっと~、私の存在忘れないでよね~」

 「サリカ姉さんだけじゃない! 私たちの存在も忘れないでよねっ!」

 「あたしたちこそ、魔神王の座に相応しいんだからっ!」

 「うちら以外ありえないよねっ!」

 

 それぞれが「自分こそ魔神王に相応しい」と意思を貫き通しているが、魔神王オヤジが決めたことは決して覆ることはない。

 俺が魔神王になれば、第一皇子の母であるあのババアにギャフンと言わせることができるが、それだけでは本当の目的の達成には遠く及ばない。

 

 本当の目的、それはーーーー「大天使共に復讐すること」。


 上級遺族にギャフンと言わせるのは簡単だが、それだけではダメなのだ。

 俺に対する忠誠心、それがどうしても必要不可欠だった。


 大天使は人間族に恵みを絶えることなく与え続けている。

 もし、大天使との大戦争になれば人間族の存在がどうしても邪魔になってくる。

 何故なら、人間族は大天使を神と同等に崇高しているからだ。

 大天使が「魔の者を打ち滅ぼすために力を貸してくれ」と頼めば、きっと力になるに違いない。

 そうなれば、大天使を皆殺しにしようとしている俺に横槍が入ってくるのは容易に予想がつく。


 人間族の総人口は、年を重ねるごとに増加している。

 魔神族ーーいや、魔界全域を巻き込むほどの大規模の戦闘集団を作り上げなければならない。

 作戦を実行するためには、統率できるだけの忠誠心と服従心が必要となるのだ。

 大天使たちの復讐の足掛かりとして、『次世代魔神王』の座は俺が頂く。

 そのためにもーーーー


 「あの、発言よろしいですか?」

 「ルシフェオス様? いかがされましたか?」

 「俺が魔神王になるのはどうも気に食わないご様子なので、俺から提案があるのですが」

 「ほぅ? ようやく自分の立場をわきまえたようだな? さっさと魔神王の座を俺によこせ」

 

 そう言うべレフォールに向けて、俺はニッコリと笑い自分の意思を一言だけ告げた。

 

 「魔神王の座は誰にも譲りません」

 「あ? てめぇ舐めたこと言ってるとーーーー」

 

 べレフォールの反感を買うことはすでに予想済み。

 だから俺は彼の言葉を遮るように続けて言葉を放った。


 「えぇ、ですから俺と勝負しませんか? 俺と戦って最初に勝ったものが『次世代魔神王』ってことでどうでしょう?」


 至ってシンプルな答えだ。

 忠誠心と服従心がないのなら、植えつけてしまえばいい。

 方法は山のように沢山あるだろうが、今回の場合はこのやり方が一番ベストだと言えるだろう。

 なんせ、自分が一番だと思っている皇子皇女に誰が魔神王の座にふさわしいか認めさせるのだから。

 

 安い挑発とでも受け取れる俺の提案を飲まない者などいるはずがない。

 もし、この提案を飲まなければ俺が『次世代魔神王』になってしまうからだ。


 「良いだろう、お前の安い挑発に乗っかるとしよう。ただし、負けても後悔するなよ?」

 「後悔などありません、力ある者が王になるのは当然ですから」

 「俺が・・・魔神王になる・・・俺以外ありえない・・・」

 「面白そうだね? お姉さんそう言うの嫌いじゃないよ?」

 「私が勝てば魔神王になれるってわけね!」

 「「それいいね!」」


 そして、問題の第二皇子はと言うとーーーー


 「ふん、お前の馬鹿げた提案を飲もうじゃねぇか! だがそれだと最初に戦ったやつが魔神王になっちまうじゃねぇか。それはどうすんだよ」

 「戦う順番を決めるのは、じゃんけんでもくじでも何でもいいんじゃないですか? それは元側近の方に任せるということで」


 俺の提案で場が纏まりつつある現状を目にした進行者は、咳払いを一つした後に提案を全て纏めた。


 「それでは、『次世代魔神王決定戦』は第十皇子を倒した者が魔神王となる方向性で、その対戦順は公平を期すため、当日のくじ引きで決めるという形でよろしいでしょうか?」

 「異論はない、それで構わない」

 「ハ、この俺が魔神王になってやるよ!」

 「いや、私が魔神王になるもんね!」

 「この俺が・・・」

 「カレアマキナ、サイスノールカ、魔神王になるよ!」

 「「当然!」」


 一方、バレンとアスモレオンはというと、どこか乗り気じゃないように伺えた。


 「それじゃあ、『次世代魔神王決定戦』は三日後の『魔神闘技場』で行いたいと思います。それでは『次世代魔神王』の選定会議はここまでとし、各々当日に備えて準備の方お願いします」


 会議が終わると、決定に参加意思のある皇子皇女たちはそそくさと『魔神王の玉座』から出て行く。

 恐らくは、三日後に備えて準備を始めるのだろう。


 ーーさて、俺も準備を始めるか。


 そう思い「魔神王の玉座」から退席しようと踵を返したその時、誰かに肩を軽く掴まれた。

 何事かと思い振り返ってみると、そこにはバレンとアスモレオンの姿が。


 「な、なんでしょうか? 俺に何か用事ですか?」


 そして二人は、どこか悲しそうな表情をしながら重そうな口をゆっくりと開いた。


 「「俺たち・・・決定戦を辞退してもいいかな?」」

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