露草の怪
琳谷 陸
配信一
動画配信サービス。現代において、テレビよりも身近になりつつあるそのサービスは、今や大人から幼児まで幅広く利用されている。
画期的なのは、いくつかの準備と手順を踏めば誰でもが、自分のチャンネルを持って自ら好きなことを発信できる事だろう。
どんな内容だろうと、配信サービスの規約に反しない限り問題にならない。もちろん、この規約にはモラルとかマナーが入っているという前提の話。
そんな自由な今、ひっそりと配信する一つのチャンネルがあった。
そのチャンネルに映るのは、可愛らしい着物の少女のイラスト。頭から胸の下辺りまでのいわゆるバストアップ画像のそれは、特に瞬きをするとか声に合わせて動くリップシンクがあるとか、そういうものではなく、本当にただ一枚のイラストが表示されているだけ。
黒い艶のある髪、白い肌。丸く穏やかな雰囲気を
オルゴールのような音楽が小さく流れているチャンネルの名前は『露草の会』。
「みなさん、お疲れ様です」
落ち着いていて、柔らかい声。鈴を転がすような、可愛らしさがあった。
「今日も、わたし、
おっとりと
露と名乗った少女は続ける。このチャンネルでは実話や創作問わず不思議な話や怖い話など色々な話を集めて、配信主である露が話す。それだけの内容であること、そして今日のお話は――――
「これは、ある語り手さんが『創作だよ』と言って話してくれたお話です」
そのサイトは、一度目を離すと二度とアクセス出来ない。一人一度だけしか出会えない
ある時、大学生のRさんはその一期一会のサイトにたまたまアクセスしました。
そのサイトは、とても古めかしくて、まだガラケーでも接続出来るんじゃないかってもので。
真っ黒な背景。白い文字。リンクが貼ってある所に、下線。ただそれしかない。エンターとかそういう本で言うところの表紙すらない。
サイトの名前は、流石に一期一会サイトなんてものじゃなくて、いや、その方がまだ良かったのかも知れない。そのサイト、『注文』と少し大きめの字で書いてあるだけだった。
そのサイトタイトルの少し下。小さい文字で『注文する』と書いてあって、リンクが貼ってあるんだ。リンクの先は注文フォームが出てくる。
一応、フォームには
怪しいだろ? しかも注文て言うのに、どこにも値段もなければ規約も書いてない。
だからさ、ただのイタズラなんだ。
イタズラ、だから。
何も、起こらない、はず、だから。
フォームに、名前を入力する。イタズラだから。何も起こらないはずだから。あいつの名前。
だって、
何も起こらない、はずだったんだ……。
通り魔に襲われて、そいつは死んだ。けどさ、違うよな? 俺のせいじゃないよな? だって名前だけ。それだけしか入力してない。それがあいつの事だなんて、わかるはず、ない。
Rさんはそのサイトを探したそうです。でも見つかりませんでした。タブは開いたままにしておいたそうですが、送信ボタンを押してから元のページに戻ろうとして固まり、その固まったタブを再度見たら真っ白なまま。
URLを直接他タブに打ち込んでみても、接続中のまま固まってしまい、どうしてもサイトにアクセスできなかったらしいのです。そのうち手違いでブラウザを閉じてしまい、立ち上げ直した時にはその固まったタブすら消えてしまっていたそうですよ。もちろん、閲覧履歴からも。
「不思議なサイトさんですよね。
でも、Rさんは何故そんなに探したのでしょう?
だって、イタズラなのでしょう?
ご自分のせいでは無いのでしょう?
そのサイトに再びアクセスして、どうするおつもりだったのでしょう?」
露はただ一枚のイラスト。けれど不思議な事に、時折その絵が変わると言う人がいる。
「ああ、そもそも、このお話は『創作』でしたね」
とても綺麗に笑うと、言う人がいる――――。
露草の怪 琳谷 陸 @tamaki_riku
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