3. 【異】水着選び
異世界の水着は地球のものと遜色ない種類が揃っている。文化的に似ている世界であるとはいえ細かいところでは違う部分が多いのだが、水着に関しては何故か違いがほとんど見当たらない。
「さぁ、ポトフちゃんの水着を探すよ!」
「ちょちょちょちょ!キヨちゃん!まずは自分のを探そうよ」
広大な水着売り場に着いた瞬間、自分の水着は放っておいてポトフの水着を探しに走ろうとするキヨカをレオナは慌てて止めた。理由をつけて有耶無耶にされる前に、逃げられないように先に水着を選ばせたかったのだ。
「ふっふっふ、そういうわけには行かないんだよね」
「え?」
だがキヨカにはポトフの水着を先に選ばなければならない理由があった。
「レオナちゃん、ポトフちゃんの水着だよ?探すのにかなーり時間がかかるから先に探さないと」
「何で時間が……って、あ」
ポトフは体のサイズを変化させることが出来る。
幼女、微幼女、少女、JC、JK、JD。
体は着実に成長しており、どの体型で遊ぶかによって選ぶ水着は大きく異なる。山ほどある水着の中でどれがポトフに一番似合うものなのかをそれぞれの体形ごとに選ぶとなると時間がいくらあっても足りない。
もちろん、ポトフが気に入っているサイズである微幼女タイプに絞るという方法もあるが、女の子がそんな妥協をするなどオシャレ好きなキヨカには許されざることだった。
「それにポトフちゃんの着せ替えもきっと要望あるでしょ?」
「ぐぬぬ」
キヨカの想像は正しく、コメント欄も荒れかけていた。
『わかる』
『それな』
『全バージョンで無限に見たい』
『ワイはJKバージョン』
『ばっか、JDに決まってんだろ』
『はぁ?JC一択だろ』
『ロリコンは消えろ。私は少女バージョン』
『お前の方がロリコンじゃねーか。あたしは幼女バージョン』
『やべぇやつがいるぞ』
『なんでよ。可愛いじゃん。お膝に乗せてひたすら頭撫でたい』
『そうだよな、かわいいよな。愛でて撫でまわしたいよな』
『なんだろう、ニュアンスは同じなのに言いようの知れない恐怖を感じる』
『お巡りさん、この人です』
『JKやJDと言えばエロいと思われ、JC以下だとロリコンだと思われる』
『完全に詰んでいるでござる』
ポトフはキヨカに劣らない美幼女だ。成長したモードならば美少女や美女にもなる。しかもキヨカと違ってノリノリで着てくれそうなポトフの水着ファッションショーとくれば需要があるに決まっている。
ここでポトフの水着選びに時間を費やし、時間切れを狙うのがキヨカの作戦の一つであった。
「お姉ちゃん、私これで良い」
「え?」
だがそんな作戦も、ポトフが自発的に水着を選んでしまったことで打ち砕かれる。
「いやいやポトフちゃん、これだけ沢山あるんだからもっと探して……って何でそれなの!?」
「ビビっと来た」
「誰よ!ポトフちゃんに変な電波送ったの!」
ポトフが手にしていたのは、肩から腰にかけて伸縮性のある生地で覆われた白い水着である。胸の所に大きな横長の長方形の枠があり、名前を書けるようになっている。いわゆる、白スクだ。
『スク水キターーーーーーーー!』
『この世界にもスク水あんのかよ』
『しかも白とかマニアックすぎんだろ』
『ビビっと来たで草』
『ホント誰だよ電波送ったの』
『サーセン』
『サーセン』
『サーセン』
『サーセン』
『サーセン』
『お ま え ら』
『GJ』
『こいつらあかんわ』
『でもワイはJD姿で着て欲しい』
『アウトオオオオ!』
『なんでや!ムチムチで名前が歪んで見えるのが良いんだよ!』
『地球には変態しかいないのか』
ポトフがマニアックな水着を選んだことでコメント欄は大騒ぎだ。
「これはダメだよ、ポトフちゃん」
「何で?露出少ないよ?はしたなくないよ?」
「うっ」
確かにみだらに肌を異性に見せるのはNGであるとキヨカは告げた。はしたないとも告げた。だがそれならワンピースタイプのものだってあるだろうに、何故敢えて白スクなのか。
「いや、そのね」
「名前も書けるし、かわいい」
「……」
ポトフが白スクをかなり気に入っているようで、変更してはくれなさそうな雰囲気だ。キヨカは白目を剥いて倒れそうになる。どうにかして説得したいが、言葉が出てこない。
正直に『一部の男性が変な目で見て来るからだよ』などと言おうものなら『何で?露出少ないのに?』と返されて終わりだ。しかも『何でお姉ちゃんはそう思うの?』などと聞かれたら終わりだ。何故白スクに欲情する人間がいるのか、キヨカには分からないからだ。『あれれ、キヨちゃんどうしてそう思ったのかな?』なんてレオナに煽られる可能性すらある。
「(どうしてこんなことに……)」
キヨカは自分が水着を着せられることを回避したいという想いもあったが、ポトフをたくさん着せ替えしたいという想いも大きかった。両方の思惑が潰される形になり落胆する。
こうなったら別の人物に矛先を変えるしかない。
「それならケイは!?」
「え?僕男だからシンプルなトランクスタイプのやつにしますけど」
「は?」
「は?」
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
キヨカは忘れていた。ケイが男の娘であるということを。どれだけ可愛くとも、スカート姿やセーラー服が抜群に似合おうとも、ケイは男なのだ。
「ダメだよ!あれ?ダメだよ!」
「何がですか?」
「何がだろう……でもダメだよ!」
キヨカは混乱している!
「せめてタンキニみたいに……あれ、男の人の場合なんて言うんだろう。ええと、ラッシュガードかTシャツ羽織らないと」
「ええー熱いから嫌ですよー」
「恥ずかしくないの!?」
「みなさんと旅をして結構引き締まって来たから大丈夫です!」
「そうじゃなくてー!」
体型がどうとか言う問題では無いのである。こんな可愛い子がトランクスタイプで上半身裸。それはあまりにも破廉恥な行為だとキヨカは感じているのだ。それはまるで女性が上半身裸であるような感覚。
「(このままじゃダメ。どうにかしないと、何かがダメ)」
「キヨちゃん、ショートパンツ系のなら女性ものでも似合うんじゃない?」
「そっか、それにハイネックタイプなら胸が無くても似合うかも!」
女性ものの水着を男性に着せるなどNGであるのだが、むしろそうしないと問題があるように感じる二人は、ケイに相応しい水着を選んで行く。問題は胸が全く無いことと、股間のアレだ。それらを意識させずに着こなせるタイプの中でケイに似合いそうなものをピックアップする。
「ケイ、こんな可愛いの着て見たくない?」
「ええ、でも女性ものじゃないですか」
「あはは、女性もののスカートとか履いてるんだから今更じゃない。ほらほら、可愛いよ」
「う~ん……あ、これならボクが来ても問題なさそうですね。試着してみます」
店員は止めるべきなのだが、ケイの見た目がどうしても男性には見えず止める気配が無い。ケイは勧められた水着を持って試着室に入って行く。
「良かった……なんとか危険を乗り越えたね」
「やったねキヨちゃん。もう少しで放送禁止になるところだったよ」
「あれ?むしろそうなれば私の姿も見られなく……」
「さぁ、次はキヨちゃんの番だよ!」
ケイを囮にして逃げ切る手段を思い付こうとしたキヨカの思考をレオナは強引に遮った。ここまで来て逃がすわけが無いのである。
「どうしてそんなに露出が少ないのばかり選ぶの!」
「でもほら、このハイネックビキニ可愛いよ。これにラッシュガード羽織れば完璧なコーデだね!」
「全然完璧じゃなーい!」
「んじゃ試着行ってくるねー」
「ちょっと待ってよ!」
レオナの意思を無視してキヨカは露出が超少ないコーデで身を固めようとする。
上半身は肩口からお腹まで幅広くカバーするタンクトップ型。しかも透けないラッシュガードを着ることで肩と両腕も覆ってしまう。
下半身はショートパンツ型だけれども、パレオを巻いて膝下まで肌を隠す。
上から下まで肌を隠しまくりなコーデであるが、高い女子力を活用してそれでも自分に似合い可愛らしく見えるものを選んだため、似合ってないなどと文句も言えない。
『やりすぎで草』
『そこまでして隠したいのか』
『逆に気になる罠』
『でもあのコーデやばいよ。マジで似合ってる』
『相変わらずセンスあるわ。私も選んでもらいたいくらい』
『ああいう方法があるなら私も海に行けるかも』
『ヤバいぞ男性諸君。露出少ない水着が流行ろうとしている!』
『エマージェンシー!エマージェンシー!』
流行とは企業による意図的なものだけではなく、有名人のファッションを元に作られることがあるのだ。このままでは地球の水着文化から露出が失われかねない。いや、白スクだけは残るかもしれないが、それで良いのか男性陣。
「あっと、ごめんなさい」
「いえ、お気になさらずに」
水着を持ったまま試着室に移動しようとしたキヨカだが、途中で水着選びをしていた女性にぶつかってしまう。
「(メイドさん?)」
その女性の傍には二人のメイドが控えており、女性自身も高級そうなカジュアルドレスを身に纏っており身分の高さを感じられる。水着売り場にメイドという謎の組み合わせが気にはなったが、スルーして試着室へ入ろうとするキヨカの背に声がかけられる。
「お待ちなさい」
「え?」
それは先ほどぶつかってしまった女性のものだった。
「あなた、その水着を着るつもりなのかしら」
「ええ」
「なるほろ、自身の特徴を
「ありがとうございます?」
話し方に妙な特徴のある見ず知らずの人に褒められたことでお礼が疑問形になってしまった。
「れすが、まらまられすわ。そのような守りに入るなろ、同じ女性として嘆かわしいれすわ!」
「ええ!?」
「女性ならば全ての武器を使って最高の
「見過ごせないって言われても……」
今度は突然ダメ出しに変わった。だが、その女性の指摘は至極真っ当なものであり、更にはキヨカの本来の考え方と完全に一致しているものであった。ゆえに気にせずにその場を立ち去ることが出来なかった。
「
「そんなの恥ずかしくて着れません!」
ビキニという言葉に反射的に否定するキヨカだが、その女性のアドバイスはまさに自分が本当は着たいものであり驚いていた。おしゃれの感覚が合うのだろう。
「恥ずかしい?なぜれすか?」
「何故って、肌を男の人に見せるなんて恥ずかしいのが普通ですよ」
キヨカの場合、注目されることそのものが得意ではない。また、肌を見せるだけでは無く可愛らしく着飾った姿を見られることも恥ずかしいのだが、それらはすべて自分が『女性』として見られることを照れてしまうがゆえのことであった。
「何をバカバカしいことを」
だがそんなキヨカの照れを女性は一蹴した。
「あなたは殿方というものをご存じないようれすね」
「どういうこと?」
「良いれすか。殿方というものは女性がろのような姿形れあろうとも、性的な目で見てくるものなのれすよ」
「はぁ!?」
女性はとんでもないことを言い出した。
「例え水着れあろうが、手指からつま先まで分厚く衣服れ覆われていようが、脳内で脱がして局部をあらわにさせ、興奮して襲い掛かる妄想をする。それが殿方というものなのれすよ。今のあなたの服装れも同じこと。街ですれ違った殿方は今頃あなたの衣服を脱がして
「いやああああああああ!なんてこと言うのよ!」
あまりにもはしたない物言いだが、思わず想像して体を両手で隠してしまう。
「仕方ないことなのれすよ。それが殿方というものなのれすから」
「そんなわけないじゃない!」
「あります。それれはあなたは殿方の何をご存じなのですか?」
「ぐっ……それは……」
そんなわけない、と声高に宣言してみたものの、日本に居た頃から男性と特に深い関係になったことなどないため、男性が普段何を考えているのかなど想像出来ない。むしろ、中学の頃に同級生の男子が女性についてのエロい話をしていたことを思い出し、この女性の言葉と結びついてしまう。
「局部を見せるわけれはございませんし、水着らからといって恥ずかしがるのはナンセンスれすわ。
「それならこれ着れるの!?」
そこまで言うのならと、キヨカは目に入った布面積が極端に少ないビキニタイプの水着を手に取った。腰回りは殆どが紐であり、胸もそれなりの大きさであれば横乳、上乳、下乳と四方からはみ出すであろう。局部を見せるわけでも無く、どのような服装でも違いは無いというのならば、このセクシー水着も抵抗なく着られるはずだ。
「あら、素敵な水着じゃないですか」
「え?」
「こういうのを探していたんれすよ。これでもプロポーションには自信がございまして、活かせる水着が無いか探していたのれす。柄も良いれすね、ありがとうございます」
「え?え?」
キヨカの煽りを全く意に介さず、むしろ本気で喜んで受け取ってしまった。
「お礼に私があなたに似合う水着を探して差し上げましょう」
「その必要は無いから!」
「遠慮せずに。それに、女性は自らを極限まで磨き上げるのが使命れすわよ」
キヨカは論理的に言い返すことが出来ず、結局ビキニタイプの水着を流れて購入させられることになってしまった。
「やったああああああああ」
「やったああああああああ」
『やったああああああああ』
『いやっほうううううううう』
『ナイスプレー!』
『たすかる』
『生きてて良かった』
『投げ銭はどうやれば?』
『ビ・キ・ニ!ビ・キ・ニ!』
『●REC』
『●REC』
『●REC』
『●REC』
『●REC』
『男って……』
『女も多いんだよなぁ』
『むしろ女の方が多い説まである』
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