31. 【地】ボス戦(邪人オクトン) 後編
『水属性耐性無効化か削除されました』
『ツクヨミの水属性耐性装備無効化が解除されました』
『ケイの水属性耐性装備無効化が解除されました』
『水龍の津波攻撃がターン経過発動に変化しました』
水龍の攻撃。
上から顔をポトフに向かって叩きつける。しかしポトフは防御していた為、少し後ろに下がるだけでダメージは少な目だ。
次に水を口から吐きツクヨミにぶつける。ツクヨミは大きく吹き飛ばされたが宙で軽やかに回転して綺麗に着地する。水属性威力上昇と水属性耐性減少の影響でダメージは大きいが、装備による耐性無効化が解除されたのと単体攻撃であるため、大した被害では無い。
キヨカ達に大ダメージを与える要因であった水属性耐性のデバフが軽くなり、しかも全体水属性強威力攻撃である津波の頻度が減ったため、先ほどまでとは段違いに楽になった。
遥と香苗はほっと安堵の息を吐き、ヒデと凛は喜びの言葉を叫ぶ。
「よし、これならいけますよ!」
「間に合って良かったよー!」
そしてレオナは安堵すると同時に、大切なことに気が付いた。
「(そっか、私も間違ってたんだ)」
それは先のデモに関係する自分の考えについて。
だが今はそのことを考えるよりも目の前の戦いに集中すべきだ。素早く気持ちを切り替えてやるべきことを考える。
「キヨちゃん、津波攻撃は間をあけて使ってくるようになったから」
『りょーかい!』
キヨカの視点で考えると偶然津波攻撃が来なかったようにも感じられる。行動指針となる情報を教えてキヨカが戦いやすくするのはレオナの役目だ。
『良くもやってくれたわね!』
厄介なバフデバフ攻撃を仕掛けてくるオクトンを優先的に倒すべく、キヨカ達は猛攻を仕掛ける。しかし相手はボスだ、そう簡単にはいかない。
「殻に籠った?」
「レオナちゃん、キヨカちゃんにオクトンを攻撃しないように伝えてあげて」
「分かりました」
ゲームをやって勉強していた香苗はすぐに気が付いた。敵が殻に籠った場合、攻撃が効かないばかりか手痛い反撃を食らう可能性があると。ゆえに攻撃のターゲットを水龍に切り替える。
「なるほど、たっぷりとバフデバフをかけてから本人は殻に籠ってやりすごす。面倒臭い相手だよ」
「でもヒデくん、バフデバフもターン経過で切れるよね」
「そうだね。きっとその時になったら出て来るだろうから攻撃のタイミングが重要だね」
水龍の攻撃は噛みつき、水を吐く、たいあたりといった単体攻撃、ターン経過で発動する津波攻撃、そしてもう一つ。
『グルァアアアア!』
『うわっ……ボク足が震えて動けない!』
叫び声による低確率全体スタン攻撃。この攻撃が成功すると一回だけ行動が出来なくなる。
これらが水龍の攻撃だ。津波連発と比べると遥かに楽な相手だ。
『オクトンが出て来たよ!全力攻撃!』
「待ってキヨちゃん、そろそろ津波攻撃が来るかもしれないよ」
『う~ん、それじゃあ回復もちゃんとやろっか』
現在、水龍の攻撃力上昇バフとツクヨミ達への水属性耐性ダウンが切れているため、多少の攻撃では壊滅状態にはならない。だがこのターンで水属性耐性ダウン+津波攻撃を喰らったら、いくらハードモードで無いとはいえ甚大なダメージを被ってしまう。ここは辛抱して着実に回復して津波攻撃をやり過ごしてから反撃に移るべきだ。
というように回復を疎かにすることなく立ち回ると、オクトンへダメージを与えられるチャンスはあまり多くはなく、必然的に水龍にダメージが蓄積されることになる。
「キヨちゃん!水龍が瀕死状態になるよ!」
もちろん水龍にも瀕死状態のブーストモードが用意されている。苦痛によるものなのか、体を大きくくねらせ、やたらめったらに上半身を甲板に打ち付ける。船が壊れないことを気にしてはならない。
『グオオオオ!』
『きゃあ!』
『むぅ』
『痛いです!』
『痛いですってまた!?』
『だから痛いですってーーーー!』
『きゃあ!私も!?』
ランダム六回攻撃。攻撃力上昇がかけられているから中々のダメージだ。しかしこの攻撃の場合は一回だけで行動を終える。
『痛いなぁ、もう。みんな水龍をさっさと仕留めるよ』
体力を回復させ、オクトンがまだ殻に籠っている間に水龍の撃破を狙って全力攻撃をする。ただし、今回はケイの毒魔法は使いにくい。最大の攻撃力を誇るベノムソードはランダム攻撃なのでオクトンがいるせいでターゲットがばらけてしまうからだ。下手にオクトンに手を出して反撃を食らう可能性もある。ゆえに、ケイの役割はグラビティインパクトで地道にダメージを稼ぐこと。
一方巨体には滅法強いキヨカ。防がれることも無く斬れる場所だらけなので、水龍の体の上を走り回って好き放題暴れている。
『断!断!だーん!』
戦闘不能に追い込まれたうっ憤を晴らすかのごとく、軽快に駆け回る。
「もう、キヨちゃんったら」
「いやいや、レオナちゃん。アレをそれで済ませて良いのかなー」
凛の言う通りだ。キヨカが戦う姿に見慣れてきたとはいえ、バトルジャンキーのような雰囲気を漂わせ始めているキヨカにそろそろ注意すべきだろう。
何はともあれ、水龍の最後のあがきもキヨカ達を再度追い詰めることは出来ずに倒れることになる。
『グオオオオ!』
頭の上に殻に籠ったオクトンを乗せたまま、海中へと沈んでゆく。
『よし、後はオクトンだけだね。さっさと殻から出てこーい!』
「キヨちゃんがハイになってる……」
「戦闘不能だったからかも知れないですね。生きていることを喜んでいる感じがします」
死に近づいたからこそ、生きている今の状況が楽しくてたまらない。キヨカの暴れっぷりにはそのような理由があるのだろう。
『お、出て来たよって。えええええええ!』
海中から浮かび上がって来たオクトンは殻から出ていた。そのまま海面に立ち、両手を海に向ける。すると、轟音と共にオクトンの足元から倒したはずの水龍が出現したのだ。
「うわーそうきたかー」
「面倒臭いパターンですね」
先に水龍を倒すと相方のオクトンが再召喚させる。つまり先にオクトンを倒さなければならないのだが、オクトンは殻に籠る時間が多く攻撃するチャンスがあまりない。とても面倒臭い相手だ。
「ねぇねぇみんな、この水龍ってもしかして瀕死じゃないかな?」
「レオナちゃんの言う通りかも。体中がボロボロよ」
主にキヨカがつけた傷がそのままで体中から血を流している。また一から体力を削る必要は無い。
「よく気付いたな」
「ふふん、褒めなさい」
『さっすがレオナちゃん』
「キ、キヨちゃん、今のはキヨちゃんに向かって言ったんじゃなくて」
『それじゃあ誰に行ったのかな。ふふふ』
「もー!戦いに集中して!」
『はーい』
遥とのやりとりが何故かキヨカにツッコミを受ける。キヨカからはレオナの姿は金ぴかウサギでしか見えないため、声でレオナの感情を判断することしか出来ない。ここしばらくそのような関係が続いていた為、声に込められた感情が遥に対してだけ僅かに異なることをキヨカは見破っていたのだ。
『さぁみんな、終わらせるよ!』
水龍は瀕死の状態で蘇ったためランダム六回攻撃を繰り出してくる。だがそれでもまだキヨカ達には余裕をもって耐えられる。オクトンが殻から出ているタイミングを狙ってダメージを積み重ね、よやくオクトンが瀕死状態になった。
『おお、殻を脱ぎ捨てたよ!』
パワーアップしたのだろうが、殻に籠って時間を稼がれる可能性は無くなった。後は終わりまで一直線だ。
『おで……負けない……!』
オクトンは両腕を肩の高さまであげる。
『オクトンの攻撃力が上昇しました』
『水龍の攻撃力が上昇しました』
『オクトンの防御力が上昇しました』
『水龍の防御力が上昇しました』
『オクトンの水属性攻撃力が上昇しました』
『水龍の水属性攻撃力が上昇しました』
『キヨカの水属性耐性が減少されました』
『ポトフの水属性耐性が減少されました』
『ケイの水属性耐性が減少されました』
『ツクヨミの水属性耐性が減少されました』
一度の行動で、全てのバフデバフが発動する。更に二回目の行動で水属性魔法ウォーターシュートもしかけてくる。
『きゃあ!』
水龍の攻撃にも劣らない威力だが単体攻撃なのが救いか。
「そんなのありかよ!?」
思わず遥が、いや、世界中が叫んでしまう。しかしレオナサポート室の中で最もゲームに詳しいヒデと、世界のゲーマー達は違う反応だった。
「これなら大丈夫!いけるよ!」
バフデバフは確かに怖い。オクトンも次からは二回連続でウォーターシュートを放ってくるだろう。だが、この状況で最も怖い水龍の津波攻撃はターンという縛りがある。唯一不安なのは使用頻度の少ない叫びでスタンさせられることだが、その最悪さえなければ防御力が上昇したとはいえ瀕死のオクトンを倒すのは難しくはない。
ケイのグラビティインパクト、ツクヨミの闇魔法やクナイ攻撃でダメージを与え、キヨカの恒例の必殺技でオクトンにトドメを刺す。
『これで終わりだよ。はじまりの技:断』
オクトンは真っ二つにされ、一度は全滅の可能性が高かったボス戦は、キヨカ達の勝利で幕を閉じた。
『やったああああああああ!』
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