21. 【異】ゴーストシップコア

 日本側でレオナ達が正念場を迎えている頃、キヨカは離れ離れになった仲間達と合流して幽霊船の探索を行っていた。今回の章はこれまでとは違い時間制限の要素は無いためじっくりと攻略出来る。楓の影響によりキヨカを先に進ませることを無意識に避けようとするレオナのアドバイスにより、レベルアップを兼ねて数日かけて狩りをした。レオナとしては早く終わらせて欲しいイベントであるが、キヨカの安全を優先したのだ。

 幽霊船の中には綺麗なベッドが備え付けられた部屋が何故か一室だけ用意されており、そこでは道具も補充出来た。いわゆる詰まないための措置、というやつであり、キヨカは不思議に思いつつもこの部屋を拠点に幽霊船をたっぷりと堪能した。


 キヨカは当初、レオナの怯えっぷりを眺めながら楽しく探索していたが、船長室らしき部屋で航海日誌を見つけた途端、そのような遠足気分は吹き飛んだ。

 日誌にはこの船が幽霊船となる前のことが書かれていた。この船は水龍に襲われて大破し、沈むことは無かったが舵が効かずに海上を漂うことになる。不運にも助けが来る前に邪気溜まりまで流され、邪獣に襲われて船員が一人また一人と倒れて行く。日誌の最後は、『この日誌を見ている方へ、よろしければ私の帽子を息子に届けて頂けないだろうか』というお願いと署名で途切れいた。


 その名前は、シィの父親のものだった。


 日誌を読み終えると同時に、キヨカの目の前にうっすらと透けている女性らしき影が出現する。その影はキヨカにあるお願いを告げて消えた。


『夫は邪獣に取り込まれてこの船に縛り付けられています。どうか助けて頂けないでしょうか』


 この展開でキヨカが燃えないわけが無い。シィの父親の魂を幽霊船から解放し、シィに父親の形見を届けると力の限り消えた影に約束する。


「みんな、いくよ」


 レベルは十分上がっているので、レオナがキヨカを止める必要はもう無い。地球側の想いとは裏腹に、キヨカはボスに挑むべくこれまで調査を避けていた甲板へと足を踏み入れた。よくある展開ではあるが、ゆとりをもって鑑賞出来ていれば普通に楽しめる展開。特に三章で子供達の境遇をハラハラドキドキしながら見守っていた人達にとっては、その延長戦のようなもの。キヨカに感情移入して応援していてもおかしくない展開だ。デモにより素直に楽しめないことを残念に思う人も実はそれなりに多かったりする。


――――――――


「うっ……雨風が酷いね」


 船は高波に揺れ、横殴りの雨風が体に打ち付けられる。不思議と大きくよろめいたり船から落ちそうになることは無いが半端ない不快感に思わず顔を顰めてしまう。視界は悪く、雷鳴が轟いた瞬間こそ周囲が見えるようになるが、それが無ければ足元すら見えない。ここで敵が出て来たとして、まともに戦えるかどうかキヨカは不安に思った。


 そんな不安は、思いもよらぬ形で解消された。突如船べりの上に人魂のような紫色の炎が複数出現し、船上を照らした出したのだ。


「来る!」


 今回の中ボスはクリスタルからの出現では無かった。特殊な条件なのか、それともすでにクリスタルが割れたという設定なのか、邪獣は既に生み出されており浮かび上がるように登場する。


『きゃああああああああ!』


 安定の悲鳴を上げるレオナはさておき、キヨカはボスの見た目から攻撃方法を推測する。


 ボスの見た目は、斧を持ったやや大柄なスケルトン。第二章の城の中でスケルトンと戦ったことがあり、その時は剣を装備していた。武器は異なり中ボスなのでそれなりに強化はされているだろうが、戦士系でありキヨカとしては戦いやすく大助かりだ。

 だが気になるのはそのスケルトンの体をうっすらと覆う白いもや。そのもやはスケルトンの頭上で大きな塊となって浮いている。幽霊船内に出現した邪獣、ゴーストが巨大になってスケルトンに憑りついている。そのような雰囲気を感じさせた。


 ゴーストシップコア。


 配信画面ではそう名前が付けられている中ボスである。


「私はスケルトンを攻撃、ポトフちゃんはゴースト部分の攻撃、ケイちゃんは回復、妨害、攻撃と色々やってもらう。ツクヨミは回復重視の方針で行くよ」

「うん(コクコク)」

「はい!」

「……………………分かった」


 キヨカの粘り強い教育の結果、どうにかツクヨミから返事が来るようになった。大進歩である。


 なお、ポトフが攻撃に回っているのは理由がある。


「ホーリーライト!」


 第三章をクリアしたことで、ついに正式な攻撃魔法ホーリーライトを覚えたからだ。ホーリーライトは聖属性の攻撃魔法であり威力は低めだが、アンデッド系の邪獣には効果抜群。幽霊船ではこれまで攻撃が出来なかったうっ憤を晴らすかの如く、ポトフが邪獣を殲滅しまくっていた。


「やっぱり効いてるみたい。後はスケルトンだけど……強い!」


 斧を持っているから動きが遅いかと思いきや、軽やかなフットワークでキヨカの攻撃を躱し、いざ当たるかと思えば上手く斧を間に滑り込ませてキヨカの剣を捌いて来る。何度もアクションを繰り返すことで最終的にはダメージを与えられ、ゲーム的にも毎回確実に攻撃がヒットするが、一撃を与えるまでの攻防難易度が非常に高く、全く気を抜けない。


「みんな来るよ!」


 ゴーストシップコアは一体の魔物扱いだが、一ターンにスケルトン部分とゴースト部分がそれぞれ攻撃を仕掛けてくる。スケルトンは見た目通り物理攻撃オンリーだが、ゴースト部分は闇魔法を中心に厄介な攻撃を仕掛けてくる。


「ダークブレイズか。これならなんとか」


 闇属性の全体魔法。この時点での限界まで育成済みのキヨカ達にとってはなんてことはない。体の内側がじくじくと痛むような感覚にはなるが、皮膚が焼かれたり斬り傷を負ったりしないため痛みを耐えるという意味でもマシな攻撃である。


「ツクヨミ、ポトフちゃんを回復」

「……………………わかった」

「返事はもっと早く!」

「解せぬ」


 ツクヨミが回復に回っているのは得意の闇魔法がアンデッド系の邪獣には効かないからだ。物理攻撃でスケルトンを攻撃させても良いのだが、回復が得意なポトフが攻撃で手一杯であるため、ターンの開始時に最速で行動出来るツクヨミを回復役に据えることにした。このくらいならば、すでにキヨカ自身で判断出来るようになっている。


「みんな、何か来るよ!」


 数ターン経過後、ゴースト部分がこれまでには無い挙動を見せた。闇色の魔力を目の前に生み出し、それが拡散され船上に降り注ぐ。その注がれた場所から、スケルトンがわらわらと大量に出現したのだ。ゴーストシップコアのスケルトンよりもやや小さく、湾曲した剣であるカットラスやサーベルを持つ。


「ケイちゃん、毒魔法で一掃して!」

「良いんですか!」

「うん、思いっきりやっちゃって」


 この戦いでのケイの役割は、相手の動きをグラビティで鈍らせることと、ツクヨミの回復の補助、そして余裕があればスケルトンへグラビティインパクトで攻撃すること。グラビティも進化しており、全体に効果を及ぼす『グラビティオール』や単体を浮かして落とす動作を加えることでダメージも与える『パワーグラビティ』。やれることの増えたケイは大忙しだ。

 だが、毒魔法だけは暴走してしまうためキヨカから使用を禁止されている。パーティーで行動している間は使用するにはキヨカの許可が必要だ。ここでその許可がおりた。


「いっきまーす!ベノムミスト!」


 キヨカが許可を出した理由は単純である。使える範囲攻撃がそれしか無かったからだ。念のため、仲間への攻撃対策として毒無効のアクセサリーを全員装備してある。


「ヒャッハー!ひっさしぶりだぜー!」


 暴走するケイを冷めた横目で見ながら、キヨカは自分がなすべきことに集中する。


 ゴーストシップコアは所詮中ボスだ。


 弱点属性への特攻手段があり、しっかりと育成をしているキヨカ達であれば、油断することさえなれば苦戦する相手では無い。


「これで眠って!『断』」


 キヨカの全力斬りにより、スケルトンは崩れ落ち、ゴーストも霧散した。


「どうか安らかに」


 ゴーストシップコアを撃破すると、酷かった雨風は止み、分厚い暗雲が晴れて船に光が刺す。スケルトンが消滅すると同時に透明の男性の影が浮かび上がり、その傍には女性の影も寄り添っている。


『ありがとう』


 微かに聞こえたその言葉を残して、悲しいゴースト達は幽霊船から解放され、消滅した。


――――――――


「あれ?私……?」


 気が付いたらキヨカは元居た船の自室のベッドで眠っていた。窓の外は穏やかな海で、船は何事も無く進んでいる。先ほどまで幽霊船を探索し、激しいバトルを繰り広げていた雰囲気など微塵も感じられない。


「もしかして、夢?」


 だが、夢にしてはあまりにもリアルだ。仲間や船長に話を聞いてみれば何か分かるだろうとキヨカはベッドから降りようとして、枕元に何かが置いてあることに気が付いた。


「これって!」


 キヨカはソレを手に、慌てて部屋から飛び出した。少し後、小さな男の子の泣き声が船内に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る