8. 【地】灰化4-1 スポーツ
灰化現象によりスポーツ界も大打撃を受けた。
テレビが使用不能になったことによる放映権喪失の問題だけではなく、灰化そのものによる影響も大きかった。
まず直ぐに影響が表に現れたのは、素行の悪い選手やドーピングに手を出した選手が灰になったこと。ただしこの件に関しては大きな問題では無かった。一部有名選手が灰になったことでネット上で話題にはなったが、そもそも灰化した人数は多くは無かったからだ。
次に問題が顕在化したのが『八百長』問題。一部の国では八百長が原因で多くの関係者が灰になったが、これもまた世界全体で見れば大打撃と言われる程の問題では無かった。
ただしその『一部の国』には日本も含まれる。灰化を恐れたある力士が八百長の事実を暴露し、それを否定し隠ぺいしようとした相撲協会の大半が灰と化したのだ。しかもその流れで相撲界における暴力指導まで話題になり、指導者や上位番付の力士を中心に多くの関係者が灰と化した。日本の国技である相撲は再開の目途が立っていない。
一方、プロレス業界はその辺りを上手く表現して乗り切った。八百長とは違うが、プロレスの試合の中にはストーリーが決まっているショーとして演じられているものがある。だがそのことを知らない人がその真実に気付いたときに詐欺と思われても仕方なく、だからといって『これはショーですよ』などと宣言したら興ざめだ。ゆえにプロレス業界では、シナリオがあるかもしれないけれど、みなさんに楽しんでもらうためにそれがどの試合なのかは明言しません、と宣言した。これにより詐欺と受け取られないように保険をかけつつ、多少疑いはされどもプロレスの迫力を今まで通りに楽しんでもらえるようになった。この程度でグチグチ不平不満を言うような輩は、とっくに灰になっているのである。
そして最大の問題は、どのプレイが灰化対象になるのか分からない点だ。特に対戦型スポーツでは、相手に勝つために時には卑怯と思われる手を使うこともある。だがその卑怯な手段においても灰になるケースと灰にならないケースが混在し、安全確保のためしばらく試合が出来なくなった。
その最たるものが世界最大級のスポーツ、サッカーである。
「(ヤバイ!抜けられた!)」
Jリーグ第六節。
静岡VS宮城の試合は後半四十分まで点が入らずスコアレスドローの様相を呈していた。灰化に怯えたのか観客は例年よりも三割ほど少なく、選手はいつものような激しいプレイを行わない。塩試合と思われてもおかしくないつまらない試合で、どことなく覇気が感じられないふわふわとした雰囲気の試合はこのまま終わりかけていた。
その気が緩んだ隙を突き、宮城のチームの選手が前方に鋭いスルーパスを送り、そのパスに反応したフォワードは静岡のチームのディフェンダーを置き去りにしてゴールキーパーと一対一になる。焦った静岡のチームのディフェンダーは思わず後ろからタックルしてフォワードを倒してしまう。
「レッドカード!」
得点機会阻止ということで一発レッドカード。退場だ。
「(やべぇやべぇやべぇやべぇ)」
サッカーでは審判がファウルの笛を吹くと、そのジャッジはおかしいのではないかと詰め寄ることが多いスポーツだ。それがイエローカードやレッドカード、あるいはPKなどの罰則を伴う物であればなおさらだ。だが、今回の彼の行為は味方から見ても明らかにレッドカード相当のものであり、『あの状況なら仕方ないよね』と誰もが思う所であった。
レッドカードを突き付けられた選手は焦った。
退場になることが、ではない。相手を怪我させかねない背後からのタックルを悪質なプレイと判断されて灰化してしまうのではと恐れたからだ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
そんな彼が見せたのは鮮やかなDO☆GE☆ZA。そのあまりの美しさに女神も見惚れたのか、彼は灰になることは無く、DO☆GE☆ZAがサッカー界でちょっとしたブームとなり語り継がれることとなった。
「(なんだ、あれで灰にならないのか)」
そしてその彼の行為を見てほくそ笑むのは、静岡のチームのブラジル人エースストライカー。今期、助っ人として呼ばれた彼は未だノーゴールで失敗補強の声が出始めていた。結果を出したいと焦っていたところでの灰化現象。思い切ったプレイを封じられたストライカーは、このまま日本を去る可能性が高かった。
だが彼は気付いてしまった。
レッドカードが出るようなプレイをしても灰にならないではないか、と。
後半アディショナルタイム、レッドカードをきっかけに宮城のチームに先制された静岡のチームは同点に追いつきせめて引き分けにすべく猛攻を仕掛ける。そしてブラジル人エースストライカーは禁断の行為に手を出した。
「(よし、ここだ!)」
ペナルティエリア内での攻防。
敵味方入り乱れてのポジション争いの最中、彼は地面に倒れた。
笛が吹かれ、審判がイエローカードを示す。
PK獲得で同点のチャンスか。観客はそう思ったが、審判は見逃さなかった。イエローカードを示されたのはそのブラジル人ストライカー。そして宮城ボールのフリーキックで再開。彼が自らダイブしてファイルを受けたと嘘をついたと判定されたのだ。
「ポルケ!(何故!)」
激昂するフリをするブラジル人ストライカー
審判を騙しあわよくばPKを得ようとする卑怯な行為。通常であればイエローカードであり、レッドカードよりも悪質度は低く灰になることは無いだろうと彼は勝手に思い込んでいた。だが女神の視点では異なる。
「ファ!?」
大げさに両手を天に突き上げて判定に抗議をしようとしたが、彼の両腕はすでに灰と化していた。
灰化しない大きなファウルと灰化した大きなファウルの両方が発生し、しかもDO☆GE☆ZA文化まで生み出したこの試合は、サッカー史で何度も何度も語り継がれることになる。
問題となったのは選手やチームに関係する人々だけではなく、観客についても同様だ。
『ブーブー』
悪質な席取りや酔った勢いで乱暴な行為をするようなマナーの悪い観客が灰になるのは当然として、一部のブーイングも灰化の対象となった。
「おや、斎藤さん、ご家族でお出かけですか?」
「ええ、これから甲子園に行くんです」
「おお、ナイターですか。良いですねぇ」
「最近は汚いヤジが飛ぶことも無いから安心して子供を連れて行くことが出来ますよ」
不甲斐ないプレーや相手の悪質なプレーに対して文句を言うこと自体は問題無かったが、『死ね!』のような行きすぎな暴言を吐くと即灰化。この条件だけで多くの観客が灰になった。だが、この灰化についてネット上ではプロ野球が浄化されたとまで言われた。余程腹が据えかねていた人が多かったのだろう。
また、相手の悪質なプレーのみブーイングし、自分が応援しているチームの悪質なプレーは擁護する、といった応援スタイルもまた灰化の対象であり、この条件が判明するのに時間がかかり試合再開が遅れたとも言われている。
このように、選手のプレー内容や観客の灰化条件の確認のために長期的に試合を止めざるを得ず、しかもテレビ放映料などの収入も激減し、スポーツ界は壊滅の危機を迎えていた。
だが、スポーツは富裕層が大好きなジャンルだ。彼らの惜しみない支援により辛うじて復活したスポーツ界は、これまでにない程健全化した。しかもある程度のラフプレーはスポーツとして認められ灰化しないことが判明したため、クリーンかつ迫力のある試合が見られるということでファンは激増。しかも厄介な観客が減ったため家族連れなどを中心に観客も激増。皮肉にも灰化によってスポーツ界が良い意味で生まれ変わった。
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