37. 【地】お疲れ様パーティー

「今回も無事に終わりましたね。無事って言って良いのか分かりませんけど」

「ええ、大きな怪我は無かったけれど、今回も沢山傷ついたものね。でもキヨカちゃん的にはハッピーエンドじゃないかしら」

「ううー子供達が無事でよがっだでずー」

「凛ちゃん、ハンカチハンカチ」

「ヒデぐんありがどー」


 キヨカがエマを倒し、地上で国王にツクヨミについての不満をぶちまけている配信画面を見ながら、レオナサポート室の面々は事態が終息したことを認識して一息ついた。


 凛が泣いているのは子供が大好きでキヨカと同じくらい心配していたからであり、子供版の配信動画を見た時など大騒ぎであった。


「僕達がここに来てからはじめてのイベントですが、何もやることがありませんでしたね」


 凛とヒデがサポート室に配属され、レオナやキヨカのサポートを頑張るぞと気合を入れたものの、やることがほとんど無くて暇だったのである。


 キヨカに相手にされなくて寂しがっているレオナと遊んで仲良くなったことくらいだ。


「そこは反省して改善点を見つけないといけないですね」

「香苗さん?」


 何故反省の必要があるのか、遥には分かっていなかった。何も問題が無かったのだから、これで良いのではないかと考えていたからだ。


「そうですね、後で反省会をしましょう」

「え?え?」

「ふふふ、反省会の時に説明するわね」


 一方、ヒデはその必要性を理解しているようだ。


 香苗とヒデ、そして今は泣いている凛でさえも、何もやれることが無かったということを問題視していた。確かに結果としてキヨカはスムーズに事を運び事態を収拾したが、あくまでも結果的に問題なかったというだけのことだ。子供達のことを心配しすぎて、大きな失敗を起こしてしまう可能性があった。もし失敗しかけた時に、レオナ達の言葉をしっかりと聞いて正しく判断出来ていたかと考えると怪しい。実際、レオナの言葉が何度かスルーされていたのだ。


 そしてこの先、今回の子供達のケースと同じくらい、キヨカの心が揺さぶられる出来事が必ずやってくる。


 キヨカの姉に関する物語が始まった時だ。


 その時に焦るキヨカにアドバイス出来ないのは大問題。キヨカがどのような精神状態になろうとも、キヨカにレオナの言葉がしっかりと伝わるようにしなければならない。それもまた、レオナサポート室の仕事である。


「今はそのことよりも、パーティーの準備をしましょう」

『はい』


 二章三章と繋がっていて長かったため、三章終了時にお疲れ様パーティーを開催して気分転換しようという話になっていた。三章終了が二章とは違い区切りの良い終わり方であったため、予定通りパーティーを開催する流れだ。章が終わったことにより世界では新たな邪獣の侵攻が予定されているが、そんなことは関係ないのである。今この場に居る人の英気を養うことこそが、キヨカをより良い方向へ導くために必要なのだから。という体である。


「それじゃあ、ヒ、ヒデさん達は食料のか、かか、買い物ですかね」

「はい、凛ちゃんと一緒に行ってきますね」

「私は料理の準備するから、遥くんは配信見ながら部屋の準備をしてくれる?」

「もちろんです」


 各自分担して、パーティーの準備を開始する。異世界を完全放置はまずいので、遥だけは配信を見ながら簡単な作業をする。


 そしてパーティーの準備は順調に進んだのだが……


「出てこないですね」

「しまったーそうなるよねー」


 レオナが部屋から出てこない。

 配信画面を見ると、チビウサギがキヨカと雑談している。これまでキヨカの状況が慌ただしくてゆっくり話をする機会が無かったため、落ち着いた今、レオナが話しかけまくっていたのだ。


「あいつめ、終わったらパーティーやるって言っただろ」

「あはは、しょうがないよー」


 レオナが自分達を放置してキヨカとの時間を優先することに不満を隠そうともしない遥と、親友を優先するのは当然でありお腹が減っている自分達が目の前のパーティー料理を食べられないのは仕方ないのだと自分に言い聞かせる凛。


 凛の雰囲気は既にヒデにとっては見慣れたものであり微笑ましく見守っているが、遥の態度を見てふと疑問に思った。


「そういえば遥さん、レオナさんにだけは気軽に接してますよね」


 ヒデや凛相手には緊張するのか自然に話をすることが出来ず、接した時間が増えて慣れつつあるはずの香苗相手にも下心があるからか特別な反応をしている。一方、レオナに対しては素の姿で接しているように見えた。


「え、ええ、じ、実は、妹に、似てまして」

「妹さんですか?」

「は、はは、はい。あいつより少し年上、大学生で、雰囲気がその、似てます」


 遥は人と話をするのが苦手ではあるが、家族に対してはそうではない。特に妹については物心つくころから遥に対してキツい態度をとっており、遥もそれに対してイライラして暴言を連発するような仲であった。これは別に妹が思春期だからとかそういうありきたりな話では無く、兄である遥が学校で上手くいってないことが妹としてあまりにも恥ずかしくてキツくあたっているのだ。


 その妹とレオナの雰囲気が良く似ているため、自然と妹に対する態度と同じようになってしまっていた。


「そうなんですか。一度どんな方かお会いして……おっと凛ちゃん、他意は無いからね」

「あはは、分かってるよー私も会ってみたいもん」

「えー」


 あんなクソみたいな性格の妹に会いたいとか、この二人は病気なのではないか、とすら思う失礼な遥である。


 また、レオナは口を開かなければお人形さんのような可愛らしさがあり、そのレオナに雰囲気が似ているということは兄が絡まなければ人気者ではないかとヒデ達は想像していた。


 そんなこんなで雑談しながらレオナの話が終わるのを待ち、料理がすっかり冷めた頃にようやく部屋から出て来て、香苗が料理を温め直している間に遥と暴言を吐き合う恒例行事を経てパーティー開始。美味しいご飯を食べて沢山お話して夜遅くまでゲームで遊ぶ。


 友達のような家族のような居心地の良さ。人付き合いの苦手な遥でさえも、その温かみを感じ始めていた。


「あれ?」

「どうしました?遥さん」


 女性陣がゲームで遊んでいる間、遥が突然何かを気にするようにスマホを取り出した。


 ポケットに入れてあったスマホが震え、遥はそれを確認する。友達の居ない遥に連絡するのは、仕事関連の四人がほとんどである。しかもその四人はここに居て連絡するはずがなく、不要な通知は切ってあるのでスマホが震えたことを不思議に思ったのだ。


「いや、何か震えたような気がして…………………………え゛」


 そしてその内容を確認した遥は硬直する。


 SNSでメッセージを送ってきた相手は、仕事以外で連絡が来る数少ない相手、家族。

 しかも、その中でも最も仲が悪く、積極的に会話することなどありえない存在。




「……妹が、ここに来てみたいって言ってます」

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