25. 【異】残り六人
「冗談抜きで、セネールそれどうにかならないの?」
「色々と……試してるのだが……外れん……」
体に巻き付いた糸から逃れようとジタバタするものの、糸は決して切れない。短槍を使っても弾き返されるほどの硬さだ。
『キヨちゃん、あの雲、時間経過か、雑魚を倒すと動くかもしれないって』
「そうなの?」
紫の雲が動いたのは三ターン目の開始時であり、ターン経過でターゲットを変更することはゲーム的に良くあるパターンだ。また、三ターン目は倒したパペットが復活したターンでもあり、雑魚の撃破と連動している可能性もある。
『後はセネールを戦闘不能にすれば解放されるかも知れないけど……』
「へぇ……それは良いこと聞いたかな」
「ちょっとキヨカくん!?何故武器をこちらに向けるのかな!?」
「冗談冗談」
「目つきが冗談に見えないよ!?というか、マリーもケイも武器を構えないでくれたまえ!」
キヨカ的には単なる弄りであるが、案外悪くない戦法でもある。体力が減少しているセネールをここで倒すことで紫の雲が元のパペットの所へと戻る可能性があるからだ。
だが、当然戻らずに他の仲間を操る可能性もあり、その場合はまともに動けるのが二人だけという最悪の展開になってしまう。
このあたりは初見プレイゆえの悩みどころである。攻略情報が揃った上で戦えば簡単に倒せるタイプのボスなのであろう。
「とりあえずセネールは放置で」
「助けてくれないのかい!?」
「だってもしマリーが操られたら最悪だもん。今の方がマシ」
攻撃力が非常に高いマリーに暴れられたら一気に半壊してしまう。キヨカ側の手数が減り邪獣側の手数が増えている状況で、非ダメージが増すのは最悪である。セネールであれば素早さは高いものの、攻撃力は四人の中で下から二番目なのでマシな方なのだ。
もっとも、マリーの馬鹿力による巨大な戦斧の攻撃を受けたくないというのも大きな理由だが。
「あ、でも多段突きとかやってきたらマジでキレるからね」
「そんなこと言われても!」
もちろん操られているのがセネールだからと言って全ての行動が安心というわけではない。そこは運任せである。
「ケイのグラビティインパクトを中心に本体を集中攻撃で倒すよ!」
「任せて下さい!」
「わかったでしゅ!」
このまま試行錯誤を続けていたら回復アイテムが尽きてしまう。よって、操られたセネールは放置しての速攻撃破を狙う。
「グラビティインパクト!」
「わたしもやるでしゅ」
「マリー!?」
マリーは戦斧を肩の後ろに振りかぶり、横では無く縦に投げようとした。
「なるほど、それなら子供達にもあた……あてないでよ!?」
「当じぇんでしゅ!」
横回転で投げると子供達に間に入られるが、縦回転で山なりに弧を描くようにすれば子供達には当たらない。当然、マリーの狙いが外れなければ、という前提ではあるが。
「むっしゃああああああああ!」
マリーの手から離れた戦斧は綺麗な弧を描き、天井に激突して落ちた、などというオチもなく見事にマスターパペットの本体に直撃した。
「やったでしゅ!」
これでケイとマリーの二人が攻撃可能になったため、あとは回復を怠らずに戦うのみ。
『キヨちゃん、あの紫の雲への攻撃の方がダメージ大きいみたいだよ』
「そうなの?」
『うん、最初にマリーが攻撃した時が一番効いたみたい』
「あれが弱点ってことなんだね。でも、もうその方法は無理だからこのままやるしかないか」
『そうだね。雲が無くてもダメージは普通に与えられてるし』
キヨカは気付かなかった。
雲への攻撃で本体に大ダメージを与えられるということは、先ほどのセネールは大ダメージを受けていたということに。無事なのだから良いのだろうが。
「よーし、それじゃあ倒すよ!」
ゴーレム戦では戦闘不能になり、マザーボム戦では大ダメージを負った。
だが、闇のクリスタルから出現する邪獣は、それほど強い相手では無い。運が悪すぎたがゆえにインパクトのある展開が記憶に残りやすいだけであり、能力的には軽く倒せる相手なのだ。
今回のマスターパペットも、大量の敵、子供を盾にした攻撃キャンセル、そして味方の操りと嫌らしい行動をしてきたが、能力的にはそこいらの邪獣に毛が生えた程度。キヨカ達の集中攻撃を受けたマスターパペットは、あっけなく消滅した。
「ふぅ、やっと自由になったよ」
本体が消滅すると同時に、紫の雲も消滅。セネールは伸びをして解放感に浸っている。
そして肝心の子供達は、全員その場に倒れ込んだ。
「みんな……無事……なんだよね」
これも罠で、近づいたら襲ってくるのではと不安に思うキヨカ。恐る恐る近づこうとしたら、突如背後のドアが大きな音を立てて開いた。
「きゃっ!」
「おや、間に合わなかったか」
国王一行がやってきたのだが、突然のことにキヨカは素で驚き、可愛らしい悲鳴をあげてしまった。
「陛下!」
「な、なんだい、キヨカちゃん」
国王が悪いわけでは無いが、あまりのタイミングの悪さに反射的に怒ってしまう。だが、この怒りが理不尽なものだと分かっているため、このまま国王にぶつけるわけにもいかず、行き場の無い怒りを持て余す羽目になった。
「もうっ!もうっ!」
そんなキヨカはさておき、問題は子供達だ。
国王に同伴していたフュリーが躊躇せずに駆け寄り、容体を確認する。
「まだ確定は出来ませんが、眠っているだけのようです。起きた後に襲ってくる可能性は否定は出来ませんが……」
「僕達が子供達を操っていたと思われる邪獣を倒したから、恐らく大丈夫だとは思う」
「分かりました。念のため気をつけつつも、治っていると考えて保護致します」
フュリーは子供達一人一人の状態を確認し始めた。
「でも、ここに子供達が居たってことは、ポトフさんが聞いた声って何だったんでしょうね」
「うん、そうだね……あれ、居ない」
「誰がでしゅか?」
「セグ、マロン、プーケ、ケント、サイグール、シィ……彼らが居ないの!」
ここにはキヨカが知る子供達の一部が居なかった。
慌てて地下への入口であろう倉庫部屋へ向かって走り出す。
「みんな行くよ!」
「キヨカくん、その前にアイテム補充だ」
「うっ……うん、急いで補充していくよ!」
これまでの流れと同じであれば、この先に全ての元凶である邪人が待ち構えている。マスターパペット戦で減った回復アイテムの補充は必須である。
キヨカ達は急ぎ館の入り口まで戻りアイテムの補充をし、ポトフと別れた倉庫部屋に戻って来た。
「鉄格子が消えてる!」
ボスを倒すことで連動して通路が通れるようになるという予想が正しかったようだ。
「みんな、行くよ!」
子供達の救出作戦は、最終段階を迎えた。
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