24. 【異】マスターパペット
「みんな!」
屋敷に充満している邪気の発生源である闇のクリスタル。それが設置されているであろう部屋に突入したキヨカ達が見た物は、予想通りの物体と窓際に一列に並ぶ子供達の姿であった。
「良かった、無事だったんだね」
「いや、まだ安心するのは早い」
「……うん、そうだったね」
セネールの声かけで、安堵しかけていた心を再度引き締める。
子供達が本物である保証はないし、視線が虚ろで本当に無事かどうかも分からない。
そして何よりも、クリスタルの向こう側に居るということは、道中で出会った大人達と同様にキヨカ達に敵対してくると考えるのが自然であるからだ。
「みんな、来るよ!」
クリスタルにヒビが入り、中から邪獣が出現する。
「パペット……じゃない、操り人形?」
出現したのはこれまで散々戦わされた木の人形。それまでと大きく違うのは、その人形の上空に紫の雲が浮いており、そこから垂らされた複数の糸がパペットに巻き付いている点だ。
『キヨちゃん、マスターパペットって名前みたい』
「マスターパペット……もしかしてあいつを倒せば子供達は元に戻るかな」
『きっとそうだよ!』
館の中で多くの人を操って来たパペットのマスターなのだから、それを撃破すれば全てがクリアになる可能性は高い。こいつを倒せばここの胸糞悪い邪獣達との戦いが終わるどころか、行方不明だった子供達まで救出できるとなると、必然的に士気は高くなる。
「みんな、子供達を傷つけないようにね!」
この部屋は戦闘出来る程度には広い作りになっているが、乱戦となれば子供達を傷つけてしまう可能性がある。そのため注意喚起は当然なのだが、この相手はその程度の注意ではどうにもならない嫌らしい体制を敷いて来た。
「うわ、なんかパペットが増えた」
「すっごい多いですよ!」
「めんどくしゃいでしゅー」
「素の姿なのがまだマシだが……」
いきなり六体のパペットが出現。その手には鉈、包丁、剣、太い木の棒などが握られている。これまで館の中で襲い掛かって来たパペットが装備していたものだ。
そしてそれだけではなく、子供達がパペットの集団の中に入り込んだ。
「危ない!」
子供達が襲われる心配が無いのはこれまでのパペット達の行動から分かっていたが、子供達が心配で心配で仕方ないキヨカは思わず声を上げてしまう。
子供達は武器を持っていないため、こちらを攻撃してくることはなさそうだが、肉壁としての役割と考えるとあまりにも非道な手段だ。
「これまで色々な邪獣と戦ってきたけど、ここまで気分が悪いのは初めてだよ」
「胸くしょ悪いでしゅー」
「せっかくベノムミスト覚えたのに使えないですー」
「僕、全体雷攻撃の魔法を覚えたのだが」
『ダメ!』
パペット単体での攻撃力は弱いが、数が多いとなるとダメージが積み重なり厄介だ。だからといって全体攻撃で一掃しようとすると子供達を巻き込んでしまう。
『地道に一体ずつ戦うしかないね』
レオナの言う通りである。
「とりあえず雑魚を倒すよ!」
子供達とパペットで部屋の中がごちゃごちゃしている。
まずはパペットを倒して少しでもこちらのダメージを減らそうとキヨカは考えた。
「セネール、まずはあいつをお願い!」
「承知した!」
キヨカとセネールの両名にほど近いところに居たパペットを狙いに定める。
「はああああああ!」
セネールが動き出し、手にした短槍をパペットに向けて素早く突き出そうとしたその時。
「危ない!」
「ぬおおおお、止まれええええ!」
突如そのパペットの前に子供が移動し壁となった。
すでに攻撃モーションに入っていたが、全身全霊をこめて腕の動きを止めようとする。
結果、子供の鼻先数センチというギリギリで辛うじて止めることが出来た。
セネールは慌てて槍をひっこめ、一旦退いた。
「キヨカくん、これはまずいかもしれない」
「うん、私も試してみる」
次はキヨカの番だ。子供達の動きを確認しながら回り込むようにパペットへと近づく。だが子供達はパペットをすぐに守れるようにキヨカの動きに合わせて位置を変える。
「これならどう!」
それならばとキヨカは素早いフットワークで相手を左右に揺さぶり攻撃タイミングを悟らせないようにする。
「今だ!」
子供の位置的にパペットの前には出られないここぞというタイミングで攻撃を仕掛ける。
だが、なんと子供はパペットの前に出るのではなく、押しのけて入れ替わった。
「ふわああああ!ダメダメダメダメダメーーーー!」
振りかぶった剣をこれまたギリギリのところで止めたキヨカ。刃先が子供の頭部に触れる寸前であった。髪の毛が数本はらりと地面に落ちる。
「はぁ~良かったよぅ……髪の毛切っちゃってごめんね」
嫌な汗が背筋を流れる感覚を味わい、キヨカは一旦退いてバクバクした心臓を落ち着けさせた。
「近接攻撃はダメみたいだね。また私の出番が無くなるよ……」
だが仕方ない。今回は子供が相手なので鉄槌で力づくで倒すというのもダメージの加減具合が分からず出来ないのだ。
「攻撃来るよ!みんな構えて!痛っ、痛っ、痛いってばもう!」
六体ものパペットが勢いよく押し寄せて来て、なんとか避けようとするものの次々と攻撃を喰らってしまう。この物量は脅威である。
「こうなったら遠距離攻撃だよ。セネールのサンダーとケイのグラビティインパクトを中心に攻めるよ!」
「私のトマホークは?」
「あれ水平に飛ぶから子供に割って入られるでしょ!」
「しょんぼり」
ひとまず次はケイの番だ。パペットは打撃も突攻撃も同じくらい効果があるが、打撃系のダメージを与えられるノーマルの鉄球を放り投げる。もし尖った方を投げて狙いがそれて子供達に当たったらグログロのグロになるため、ケイは無意識に避けたのである。
「グラビティインパクト」
何度も使って慣れた技。狙い通りの場所に当てるのはお手の物。子供達と離れたパペットをターゲットにしたので体当たりで場所を入れ替えられる心配もない。
「やりました!」
「よし、効いてるね」
三度目にしてようやくダメージを与えられた。
続くマリーはトマホークが使えない以上、何も出来ないとキヨカは思っていたのだが。
「キヨカしゃん、アレなら狙えそうです」
「アレって……そうか、確かに!」
マリーの狙いはマスターパペット。
その上にある怪しい紫の雲になら、戦斧を投げても子供達は届かない。
「いいよ、マリーやっちゃって!」
「了解でしゅ!むしょおおおおおおおお!」
クルクルと投げられたトマホークは絶妙なコントロールで雲に直撃する。マリーはそのまま戦斧が落下する前にワイヤー的なもので回収した。
「効いてるか分からないでしゅね」
斧が雲に吸い込まれたようにしか見えなかった。
そういうときはレオナに確認だ。
『大丈夫、良い感じに効いてるよ』
セネールはサンダーがあるため、これでキヨカ以外の3人は攻撃が可能になった。
「私が回復役になるから、みんなどんどん攻撃して。セネールとケイはパペットの数を減らして、マリーはマスターパペットを攻撃」
「了解」
「分かりました!」
「分かったでしゅ」
闘い方が分かったところで不気味なのはマスターパペットだ。最初のターンに何もしてこなかったのだ。
「油断しないで、絶対に何かあるから」
次のターン、大量のパペットによるフルボッコを耐えながらもセネールとケイで一体目のパペットを撃破。マリーもマスターパペットに攻撃成功。
さらに次のターンに、問題は起こった。
「おいおい、復活したぞ」
「うげー、もー面倒くさいー!」
マスターパペットが紐を揺らして木人形の体を大きく躍らせると、せっかく倒して減らしたパペットが蘇ったのだ。
また、異変はそれだけではない。
マスターパペットに繋がっていた糸が切れ、雲がキヨカ達の方に向かって移動してきたのだ。
「むぅ、僕が狙われているのか」
セネールは逃げるが、雲はしつこく追い、ついには糸をセネールの四肢に巻き付けた。
「セネール!大丈夫!?」
「少し不自由だが、動けないことは無い」
ガチガチに体が操られているということはなかった。
「どうせ僕は体を動かさなくても良いサンダーしか使わないんだ。この程度なら大丈夫だろう」
むしろ真上に敵がいるのだから直接攻撃できないかとも思う。
「分かった。それじゃあセネールはサンダーで……どっちを攻撃しよう」
通常パペットを倒しても復活するため、マスターパペットのみに攻撃を集中させようと思うのだが、先ほどまで糸で括られいた木人形を攻撃するか、セネールの上空にある雲を攻撃するか悩みどころ。雲ならばダメージを与えられることが分かってはいるが……
「サンダーは自分に落ちてきそうで怖いから人形の方を試してみるな」
「おっけー」
ぐったりとして動かない木人形に向けてセネールはサンダーを放つ。
「サンダー!」
「きゃああああ!」
「え?」
なんとセネールの放ったサンダーがキヨカの頭上から落ちて来た。
「セネールうううううう!」
髪先が少しチリチリになり、体中からプスプスと黒い何かが立ち昇ているキヨカが、恨めしそうにセネールを睨んだ。
「キ、キキ、キヨカくん。これはその、違う、違うんだ、何故か勝手に……」
どう考えても紫の雲のせいであるのだが、分かっていてもなんとなく怒ってしまうキヨカであった。これがケイであれば違った反応だろう。すべては日頃の行いのせいだ。
「まったく……そいつを早くなんとかしないとね」
早くとは言ったものの、次のキヨカは回復で、さらにパペットからのフルボッコもあるのでケイも回復に回る。
マリーの番が来てようやく雲に手出しできる。
「マリーやっちゃって!」
「了解でしゅ!むきゃああああああああ!」
「ぎゃああああああああ!」
「あれ?」
紫の雲にトマホークが直撃し、ダメージを受けたのはセネールだった。
「これがマリーくんの攻撃の威力……うぐぐぐぐ」
外傷は無いのに体内で強烈な衝撃が暴れ回る未知の痛みに、セネールは思わず膝をついた。パペットの攻撃と合わせて瀕死とまではいかないが、かなりダメージが蓄積されている。
「ということは、あっちの人形の方が本体なんだ」
雲に攻撃すると、糸でつながっている相手がダメージを受ける仕組みなのだろう。
「ほんっっっっっっっっと性格悪い!」
仲間からサンダーを受けた不満がまだ燻っているのか、珍しく強い苛立ちを覚えたキヨカだが、まだ冷静さは失われていない。
「ならセネールは自分を回復して。それならターゲットが変わっても問題ないでしょ」
セネールのサンダーは有効だが、味方が攻撃されるのなら使えない。今は矛先を変えられても問題ない行動で耐えるしかない。
「承知した。むぅん!」
「ぎゃああああああああ!セネールうううううううう!」
回復行動を選んだはずのセネールは短槍を手に、キヨカを突いてしまった。
紫の雲の操りは、決して攻撃の矛先を変えるだけでは無く、攻撃内容もランダムになるのであった。
「なんで私ばかり攻撃するのよ!わざとやってるでしょ!」
「誤解だ!キヨカくん!」
当然、攻撃先もランダムである。
決してセネールが最近キヨカに弄られて過ぎて不満を抱えているとか、そのようなことは無いのである。
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