5. 【異】フラグ1.孤児院での一日
「こんにちわー」
「えーゆーのおねえちゃんだー!」
「あはは……」
セグを発見して少し経ち、孤児院が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、キヨカは様子を見に足を運ぶ。早速出迎えてくれた年少組の子供達に英雄と連呼されて、否定するわけにもいかず苦笑いするしかないキヨカであった。
キヨカは子供達に呼び方を変えてくれるようにお願いした。
「お姉ちゃんのこと、名前で呼んでくれると嬉しいな」
「なんでー?」
「えーゆーかっこいいじゃーん!」
「えーゆーはえーゆーでしょー?」
一度子供達に染みついた呼び名は簡単には変えられないが、しっかりと向き合って話をすれば子供達であっても分かってくれるもの。
「お姉ちゃん、キヨカって名前がとても好きなんだ。だから名前で呼んで欲しいんだ」
「すきなのー?」
「そうなんだー」
しかし、思う通りに行かないのが子供達。キヨカはそのことを知っていたはずなのだが、今回は作戦が上手くいかなかったようだ。
「じゃあえーゆーのキヨカおねえちゃんだね」
「う゛っ……呼ぶの長くて大変じゃない?」
「そんなことないよーえーゆーのキヨカおねえちゃん」
「あ、あはは、それじゃあ今度からはそう呼んでね」
キヨカは諦めた。
その後、やはり呼ぶのが長くて面倒臭く感じた子供達が、キヨカと呼んで欲しい理由を忘れて『えーゆーおねえちゃん』と呼ぶようになり頭を抱えることになるのは少し先のお話。
「あらあらキヨカさん、いらっしゃいませ」
「セルティさん、お邪魔してます」
年少組とお話をしていたら、最初に孤児院の時に仲良くなったセルティがやってきた。
「ほらほら、もうお昼寝の時間だよ。ポトフちゃんがいつもの部屋で待ってるよ」
「はーい」
「えーゆーのキヨカおねえちゃん。またねー」
「きょうもポトフちゃんにおはなししてもらうー!」
子供達はバタバタとお昼寝用の大部屋へと移動する。
「騒がしくてごめんなさいね」
「いえいえ。むしろ子供達はこのくらい元気が無いと」
セグが行方不明の時は、孤児院全体がどことなく暗い雰囲気で年少組もその影響を受けたのか静かであった。今はもう以前のような明るさを取り戻しており、キヨカは安心する。
「それよりポトフちゃんの様子はどうですか?」
「子供達に大人気で、毎日引っ張りだこですよ。本当に助かってます」
「ふふふ、ポトフちゃんも毎日楽しかったって沢山報告してくれるんです。仲の良い友達も沢山出来たみたいで、こちらとしても感謝してます」
ポトフはセグが見つかった後は、毎日孤児院に訪れて子供達の面倒を見ていた。まだ行方不明事件が完全に解決したわけでは無いので子供達を見守るためと言うのが表向きの理由だが、純粋に子供達と遊ぶのが楽しいからでもある。
「キヨ姉、来てたんだ。こんにちわ」
「こんにちは、マロン君は料理当番?」
マロンのキヨカに対する呼び方は、お姉ちゃん、英雄殿、キヨカさん、と来てキヨ姉に落ち着いた。孤児院の中でも特に仲の良い子供達に距離を取られるような呼ばれ方をキヨカが嫌がったので、今の形に落ち着いた。キヨカの偉業は孤児院にも届いており、尊敬と憧れの的である大英雄として祭り上げられそうになっていたのだ。
「ううん、セル姉に教えて貰ってたんだ」
「なるほど、それじゃあせっかくだし私も何か教えてあげようか」
「ほんと!やったー!って思ったけど、今日はみんなの相手をしてあげて」
「いいの?」
「だってキヨ姉、ここに来るといつも俺のとこきて教えてくれるじゃん。独り占めはダメなんだよ」
確かに、キヨカは自分が好きな料理を教えることでマロンが喜ぶのが嬉しくて、毎回何かしら相手をしてあげていた。決して他の子供達を蔑ろにしたわけではないが、マロン的には独り占めして申し訳なさを感じていたのだろう。
その気遣いを無下にするわけにはいかないので、キヨカは今日は他の子供達と遊ぶことにした。
――――――――
「分かった、嘘をついてるのはセンチちゃんだ」
「えー!なんで分かったのー?」
キヨカは子供達と外で体を動かして遊んだ後、建物の中に戻ってゲームで遊んでいる。今やっているのは、誰が嘘をついているのか見破るという人狼タイプのゲームである。
「お姉ちゃん強すぎー」
「おとなげなーい」
「ふふん、私まだ準成人だから大人じゃないもん」
「なにそれー」
キヨカは基本的に子供達相手でも遊ぶ時は手を抜かない。全力を出し過ぎて時々子供が泣きそうになる時もあるが、子供は手加減されるより本気でぶつかってくれた方が嬉しいもの、というのがキヨカの持論であるからだ。実際、今回もキヨカが参加しているチームは全勝している。
「何でキヨ姉、騙されないの?」
マロンからの質問の答えは簡単だ。子供達の嘘には粗があるため、論理的に考えると答えが分かるからだ。
キヨカはどう答えるべきか少し悩んだ。
恐らくこの質問の答えは複数の正解があって、どれを選んでも子供達にとって何かしら影響を与えそうだと感じたからだ。
その瞬間、地球側の配信画面に異変が起きる。
子供達と遊ぶキヨカの邪魔をしないように、まったりとほのぼの風景を眺めていたレオナも、突然の事態に慌てる。
彼らの画面に表示されていたのは、以下の選択肢。
「なんとなくかな」
「信じているから」
「考えれば分かるよ」
これまで一度たりとも表示されなかった選択肢。
それがこのタイミングで表示されたということは、間違いなく何らかの重要な意味がある。
レオナは慌ててキヨカに呼びかけた。
『キヨちゃん、待って!まだ答えないで!』
だが、キヨカはその言葉に全く反応しない。
『まさか聞こえてないの?キヨちゃん!聞いて!キヨちゃん!』
どれだけレオナが強く叫んでも、ウサギのアバターを目の前で動かしても、キヨカが気付くそぶりは全くない。つまり、この質問に対する答えは地球側からの干渉を許さないということだ。
そんなことは知らないキヨカは、今の状況を特に深刻に考えることも無く、マロン達に答えを返した。
――――――――
「お腹すいたー」
「あら、もうこんな時間。今日こそは夕飯を食べてもらいますからね!」
「あはは、お言葉に甘えさせていただきます」
キヨカはこれまで孤児院に訪れる時は夕飯を食べずに帰っていた。遠慮しているわけでは無く、単にタイミングを逸していただけなのだが、セルティとしてはお世話になっているキヨカに是が非でも御馳走したかった。
「そういえばポトフちゃんは?」
年少組はすでに起きてきているにも関わらず、寝かしつけをしていたはずのポトフの姿が見えない。不思議に思っていたら、年少組がキヨカをお昼寝広間に連れて行く。
「こっちー」
そこには幸せそうな寝顔で熟睡するポトフの姿があった。
「むぅ……負けないぞー……」
「え、なにこれ、可愛すぎない?」
思いっきり頭を撫でて構いたくなる気持ちを抑えることに必死になるキヨカであった。
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