4. 【地】新メンバー
「今日から一緒に働く二人を紹介するね」
キヨカ達がセグを発見し、地球では二回目の邪獣戦争が落ち着いた頃、レオナサポート部門に新たに二人のメンバーが参加することになった。どちらも掲示板のメンバーである。
「はじめまして!虎ファンこと
「は、はじめ、まして」
「何どもってんの、キモイ。私はよろしくしません。これと一緒にお帰り下さい」
「おうふ、噂通りの反応だね」
人と話をするのが苦手な遥が、新しい女性メンバーと話をするとなればまともに会話出来ないのは当然のこと。それをディスるレオナは、凛に対してもそっけなく対応する。相変わらず香苗以外は邪魔物扱いだ。
「ふっふっふ、そんなレオナちゃんに挨拶の品をプレゼント致します」
「挨拶の品?」
凛は一枚のブルーレイディスクをレオナに手渡した。
「何これ?」
「キヨカちゃんが地球に居た頃の映像を編集してまとめたやつ」
「え?」
「私、灰化の前まで記者をやってたから色々と伝手があってね。レオナちゃんのために頑張って集めたんだ。表には出回ってないお宝映像も沢山あるよん」
キヨカは地球上の様々なところでボランティア活動に従事しており、地元のメディアなどで度々取り上げられたことがある。凛が集めた映像の中にはお蔵入りした一般人では入手出来ない代物も含まれており、キヨカファンなら垂涎の一品である。
「こ、ここ、これを私に?」
「うん、たっぷり堪能してね」
「……ありがとう!これからもよろしくね!」
欲しいものを与えられてコロっと態度を変える、現金な女である。
「ふふふ、仲良くなれそうで良かったわ。遥君からは何かある?」
「え?お、おれ、いや、私ですか?」
「そんな堅苦しく言い直さなくて良いよ、気楽に話してね」
「あ、はい、あ、うん。別に聞きたいことは……あ、背が高いんですね」
そう、凛はかなり背が高いのだ。
遥の身長は173センチメートルと、男性としては低くは無い。その遥が見上げる程の高さがあり、180センチメートルは越えているだろう。
だが、女性の高すぎる身長はコンプレックスにもつながる話。思っていたとしても、それを会って直ぐに聞くのは失礼に当たる可能性がある。
「はぁ~あんた人の気持ちが全く分からないバカね。聞いて良い事と悪い事の区別もつかないわけ?」
「え?え?」
案の定、レオナに言葉の暴力で窘められるが、香苗も良い顔はしていない。
「大丈夫大丈夫、気にしないで。というか普通は気になるよね、あはは」
明るく振舞う凛の姿からは、特にこちらに気を使っているという雰囲気は感じられない。本当に背の高さについて触れても問題なさそうだ。
それが分かったのと、このまま遥に攻撃の矛先が向き続けないために、香苗は凛に質問をする。
「それだけ背が高いってことは、学生時代はバレーとかバスケットボールをやってたの?」
「それがですね、私、球技が大の苦手でして、せっかくのこの身長を全く生かせなかったんですよー」
球技以外であればそれなりに活躍できるのだが、球技だけはどうしても上手く出来ずに友人からも勿体ないと良く言われていた。
「人付き合いが好きなのもあって、結局身長とは関係ない記者を目指したんだ。灰化も落ち着いて来たし、改めて記者をやっても良かったんだけど、こっちが楽しそうだったから来ちゃったんです」
凛は底抜けに明るい。自分のことを話すときも、邪獣に関する話をする時も、常に心からの笑顔を浮かべ続ける陽キャタイプ。隠キャの遥とは相性が悪そうだ。
凛の自己紹介をある程度進め、次はもう一人の新メンバーの紹介となる。
「はじめまして、
康秀は眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男性だ。ややイケメンの部類に入り、女性からも人気が高そうな見た目をしている。
「帰れ!コレ連れて帰れ!」
だがレオナには通じない。男性だと香苗が狙われる可能性があるため、凛の時よりも拒絶反応が大きい。
「そんなレオナさんに、僕からもプレゼントがございます」
再度手渡されるブルーレイディスク。
「これまでのキヨカさんの異世界での冒険映像の中から、レオナさんが好きそうなシーンを抜粋した写真集のようなものです」
「私が好きそうな?」
「はい、例えば……」
康秀はレオナに近づき、耳元でレオナにしか聞こえないように小声で何かを伝えた。
それを聞いたレオナは目を見開き、本当なのかと無言で康秀に確認する。康秀は何も言わず、優しい笑みを浮かべたままコクリと頷いた。
「ありがとう、これからもよろしくね。あ、苗ちゃんに手を出したら許さないんだからね!」
「えっと……大丈夫……です」
康秀は少し頬を赤らめ、ちらりと隣を見る。するとどうしたことだろうか、隣に立っていた凛も、腕を後ろに組んでもじもじし始めた。いつの時代の反応だ。
「え、え、なにそれ、面白そう!」
そしてレオナが食いついた。レオナはキヨカと同じく人様の恋愛模様が大好きな(厄介な)性格をしているのである。
「(もうそんな関係になってたんだ)」
「(リア充どもがあああああ!)」
一方、掲示板での雰囲気から相性が良いとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった香苗と遥は内心驚いた。
「でも二人って今日初めて会ったんだよね?」
「いえ、実は事前に二人だけで会う約束をしまして……」
「きゃー!何それ何それ、どっちから言い出したの!」
レオナの勢いが止まらない。このまま根ほり葉ほり聞き出そうという雰囲気だ。香苗も正直なところ興味がある。興味があるが、このままではこの話題だけで今日一日が終わってしまいそうだったので自重する。
「はいはい、これから聞く時間はたっぷりあるから、今日はそのくらいにしましょうね」
「えーー」
「レオナはこの二人が参加しても大丈夫?」
「うん!」
生の恋愛話が聞けるどころか、それが発展する様子も観察することが出来る。しかも、すでに想い合っているから香苗には影響がないと来たら問題ないどころか大喜びだ。
「大歓迎だよ。プレゼントもありがとう。やっぱりダメ男とは心遣いが違うよね」
「ぐうっ」
確かにこの流れだと、レオナに何もプレゼントしなかった遥がやり玉に挙げられてもおかしくは無い。ただし、遥はレオナに突然会うことになった上で初対面で険悪な仲になったのでプレゼントなど考えられないのは当然なのだが。
「こーら、そういうこと言わないの」
「だってーでてけー」
「ほらほら、そろそろ部屋に戻ろうね。キヨカちゃんがそろそろ戻って来るよ」
「うがー」
レオナは香苗の手によって部屋に戻らされた。これまでは部屋から出ることすら嫌がっていたにも関わらず、部屋の外の事にも興味を抱いたことに香苗は喜んでいた。
「遥さん、よろしくお願いします」
「え、あ、ああ。うん、よろしく」
康秀の方は詳しく自己紹介をする前に恋愛話に持ってかれそうになったため、どのような人物か遥はまだ理解していなかった。そのことに気付いたのか、康秀が自己紹介を続けた。
「僕は情報学の博士課程を卒業したのですが、このご時世、働き口が見つからず困っていたら今回の話を教えて頂き、参加を決めました」
「博士って……あ、頭良いんですね」
「あはは、博士っていってもピンキリなんですよ」
大学院の博士課程まで進むと年齢が高くなるため新卒としては扱いにくく、就職先が専門に特化したジャンルに限られてしまう。情報学であれば常時は企業の研究所などから引っ張りだこであるが、灰化の影響で人手が大幅に減少したことで、大企業ですら現場の人員を増やす方に注力して、研究に力を入れる余力がなくなってしまった。
康秀がピンなのかキリなのかは分からないが、就職に苦労していたところでのこの話は渡りに船。むしろ大金を貰って将来を約束されたので、全てが終わったら好きな研究に没頭することも可能である。
「研究室の同期はみんな離れたところに行ってしまい、友達がいないんです。ですから遥さんと仲良く出来たらと思ってます」
「あ、ええ、うん。よ、よろしく」
大学を卒業することも出来ず、ニートであり続けた遥のコンプレックスを康秀は刺激する。だが、逆恨みでもしようものなら自らを惨めに感じることは明らかであった。
「……あ……いや……ええと」
香苗が戻って来ず、新メンバー二人と一緒になってしまった遥は、場が沈黙してしまったので何かを話さなければと焦ってしまう。そんな遥のことを事前に聞かされていたデコボココンビは遥に優しく語り掛け、徐々に打ち解けて行く。
何故デコボコなのか。
それは、背が高い凛に比べ、ヒデは156センチメートル程で男性としては低身長であったからだ。
流石に遥は、そのことは触れてはならないのだと、理解していた。
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