第三章 世界の宝
1. 【地】邪獣戦線2
大阪
「各隊、所定の位置に着きました」
「了解しました。そのまま作戦通りに行動してください」
邪獣達の侵攻により壊滅し、瓦礫の山と化した大都市は復興の兆しすら見せない。巨大な地震による被害すら圧倒的なスピードで修復し、海外を驚かせる日本と言う国であっても、この場所に復旧の手を入れることは出来ない。
何故ならば、まだ大阪湾には巨大な逆三角錐が浮かんでおり、再度邪獣の侵攻を受ける可能性が非常に高いからだ。
だが完全に手つかずと言うわけでは無い。瓦礫を強引に避けて海岸沿いへ向かう道を何か所か作っていた。海岸沿いに防衛ラインを敷くために。
「(今度は何人の命が失われることになるのか)」
自衛隊の指揮官である男性は、砂浜に戦車が並ぶ様子を眺めながら、物憂げな感情に苛まれている。士気を下げないために、決してその感情を表には出さないが。
「(別の場所にアレが生まれなければ良いが)」
日本の防衛方針について、毎日遅くまで議論され、対策が検討されてきた。
その中で大きなテーマとして掲げられたのは二つ。
一つは、大阪湾上空の逆三角錐への対処。
破壊を目指して攻撃すべきなのか、それともあれに攻撃をしたら女神の逆鱗に触れて悲惨な目にあう可能性があるから止めた方が良いのか。次に邪獣が生まれた場合どのように対処すべきか。周辺の住人の避難や被災地への対応など、このテーマだけでも考えることが山ほどある。
そして、これらの課題については人海戦術でチームを分けて検討し、応急処置的ではあるが辛うじて対処出来ていた。
だが問題はもう一つのテーマ。
次に新たな苦難が生まれた場合の対応方法だ。
女神の声をきっかけに、灰化現象が始まった。
キヨカがモグラの邪獣を倒し、カプセル邪獣が個人の手元に出現した。
そしてキヨカがイルバースを倒し、逆三角錐が出現し、邪獣に襲われた。
となると次の区切りの時にも、何か更に事態が悪化することが起きるのではないか、と考えてもおかしくはない。
問題はその内容だ。
邪獣の数や種類が増えるのか。
それとも逆三角錐そのものが別の場所に生まれるのか。
あるいは邪獣が強化されて現代兵器が効かなくなる可能性もある。
サブカルに詳しい業界人や、一般人にすら協力を願って検討したが予想がつかず、結局は国民に様々な危険性があることを周知するにとどまった。日本全域を守り続けることなど出来ないのだから。
そしてその時はやって来る。
キヨカが華々しく、いや、苦痛を乗り越えてウルガスを倒したことが自衛隊員に伝わり、現場に緊張が走る。一両日中に、何かが起こる可能性が高いからだ。
「はじまったか」
前回と同じように、倒されなかったカプセル邪獣が世界中の逆三角錐に集まり、強力な邪獣へと変貌する。
「計測完了!A5、B10、C14、SA3!」
「情報統合!最終報告!A5、B10、C16、SA3!」
自衛隊が最初に行ったのは邪獣の数を把握すること。
特に出現後に逃しやすい海の邪獣の数を明確にするためにも最優先の行動だ。
複数個所から観測し、それらの映像を人力とコンピュータの両面で解析し、正確な数を素早く割り出した。
今回は特別大きな海の邪獣が三体含まれている。
「目標!開きます!」
逆三角錐の下側が開き、邪獣達が海に落ちる。
そのタイミングを見計らって、大量の砲撃が邪獣に浴びせられる。
だが邪獣達はそれを苦とも思わず着水、どういう仕組みか分からないが沈むこと無く陸地へと向かってゆっくりと歩き始める。
「邪獣来ません!パターンB!」
大阪の海岸線で自衛隊は邪獣を待ち受けていたが、邪獣達は別方向へと侵攻を始めた。
兵庫、和歌山、徳島と、前回スルーされた方向へだ。
だが、自衛隊はこうなる可能性が高いと予測していた。
邪獣の目的は人を滅ぼすこと。それならば、すでに滅んだ大阪では無く、まだ人が沢山生き残っている他の地域へ向かうはずだと考えられていたからだ。
徳島
こちらも海岸沿いに大量の兵器を並べ、邪獣達を迎え撃つ準備は出来ている。
「ターゲット来ます!」
総数はまだ不明だが、巨大な邪獣が二体向かって来ているのが目視でも確認できる。
「(あれは前回出現したのと同じ!これはいけるぞ!)」
徳島戦線の指揮官は歓喜した。
女神が出現してから自衛隊は後手後手の対応を強いられ、多くの国民を死なせてしまった。日頃の厳しい訓練を生かすことも出来ず、国民も自衛隊員も蹂躙される悲劇に無力感で一杯だったのだ。
だが今回は違う。
折れそうな心をどうにか繋ぎ止め、成功するかどうかも分からない作戦を検討し、不安な日々を送りながらも、少しでも出来ることが無いかと準備をし、それがここにきて功を奏したのだ。
前回と同じ邪獣と言うことは、すでにデータを入手済。
相手も遠距離攻撃を使ってくるが、距離も威力もこちらの方が遥かに上だ。
「撃ち方用意!撃てええええええええ!」
まだ陸地からは遥か遠くに位置する邪獣達に、|初撃とは違う(・・・・・・)高威力の砲撃を次々と放つ。それらをまともに喰らった邪獣達は溜まらず口からブレスを放つが届かない。そのまま悶えながら光の粒子となって消えて行く。
「(やった……いや、まだ小さいのが残っている。ここまで来て抜かれるなど恥だ。気を引き締めてかかるぞ)」
徳島戦線は、犠牲者ゼロの快勝となった。
神戸
前回、兵庫県民から邪獣が去って行ったという報告があったが、自衛隊はそれを頼りにはせずに
ハーバーランドを中心にこちらも強力な防衛陣を敷いた。結果的に最も大量の邪獣が襲ってきたが、上陸前に撃破し、こちらも無傷の勝利を収めた。
和歌山
こちらにはそれほど多くの邪獣は襲ってはこなかったが、二体の水竜に襲われて激しい闘いとなった。水竜はかしこく、陸地に近づくまでは海の中に潜り、突如上昇してブレスを吐いては再び水中に潜るヒットアンドアウェイで着実に自衛隊を屠ろうとして来た。
だが自衛隊も対水竜戦の準備をしてきた。この戦いの最大のポイントは、邪獣が逆三角錐から落ちる時に仕掛けた初撃。あれは攻撃では無く、位置情報を示すチップを邪獣達の体に付与することが目的であった。
海の邪獣の最も危険なところは、陸からの攻撃が届きにくい海中に潜みながら攻撃してくるところだ。また、倒し漏らした場合に何処にいるか分からないのも問題だ。この問題を解決するために考えられたのが、位置情報を把握するための初撃であった。深海へと逃げられればチップが壊れたり純粋に情報が届かなかったりするかもしれないが、浅いところなら問題ない。
「二番~八番付近、来ます!」
レーダーで水竜の位置を把握しているため、どこが攻撃されるのかをリアルタイムで予測し、その場から撤退させる。そして水竜が攻撃のために浮上したタイミングを狙って死角から攻撃を仕掛ける。
この作戦は非常にうまくいったが、同時に中小サイズの普通の邪獣との戦いも行う必要があったため、柔軟な指揮が求められた。だが、彼らはそれを成し遂げた。激しい戦いの末、和歌山方面も被害者ゼロの完勝となった。
これが人類の反撃の開始である。
ということにはならなかった。
多くの人が予測していたように、事態は確実に悪化していたのだ。
日本では前回と同じ襲撃があったため、対処出来ていただけのこと。某国では蜂のような極小邪獣が大量に出現し、殲滅することが出来ずに防衛ラインを軽々と抜けられ、多くの一般市民が殺される事態となった。
この虫のような小さな邪獣の出現により、地上の邪獣であっても殲滅が困難になり、しかもいつどこに潜んでいるか分からないという最悪の状況が生まれてしまった。
日本とその国との差が、カプセル邪獣撃破率の差であることが分かるのは、この事態が収まって直ぐのことになる。
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