32. 【異】ボス戦(邪人ウルガス) 前編
「気合を入れたところ申し訳ないが、貴様らはこれで終わりだ」
戦闘開始直後、ウルガスは息を大きく吸い込み口から黄色いガスを吐き出しキヨカ達に浴びせかける。
「これはまさか!」
これまで散々意識させられた状態異常、マヒ。
マヒ耐性をもたらす快活のブローチを装備しているからと言って安心は出来ない。
何故ならばそれを装備しているセネールですら強制的にマヒになってしまったのだから。
「こんな小さな盾じゃ守り切れない!」
「このおっ!来るなあ!」
キヨカは盾で守ろうとし、ケイは手をばたつかせて吹き飛ばそうとするが、ガスの量は多くその程度の行動で防ぐことは難しい。
「体が動かない!」
「ボクもダメですぅ!」
「むり」
「ワタシ、ウゴケル」
いきなり四人中三人がマヒになってしまった。
マリーだけ無事だったのが幸いと見るべきか、焼け石に水と考えるべきか。
「はっはっはっ!どうやら今日は調子が良いようだ。こんなに効果があるとは思わなかったぞ」
ウルガスは上々の成果に機嫌を良くしている。ウルガスの戦闘能力はまだ未知数であるが、流石に三人がマヒになってしまっては相手の強さに関係なく不利だ。
「マリーお願い、攻撃を」
『待ってキヨちゃん!』
このマヒは解除することが出来ない。
マリー以外の三人はこのままサンドバッグ状態であり、マリーだけで戦ってもらうしか無いとキヨカは絶望しかけていた。
だがレオナが希望をもたらしてくれた。
『もしかしたらそのマヒ治るかも!』
レオナ達の画面にはキヨカ達のパラメータが『マヒ』と表示されている。もしこれが特殊なマヒであるならば、色が赤いなどの特殊な表示になっているのではないか、というのが地球側の考えである。
「分かった。マリー、ポトフちゃんのマヒをアイテムで治して!」
「ウン」
最も遅いマリーが行動する前にウルガスの行動は挿入されなかった。どうやらターン最初のマヒ攻撃が一行動としてカウントされているようだ。
「コレヲ」
マリーがポトフの元へ移動し、マヒ回復薬を全身に振りかける。
「……動ける」
するとレオナ達の考え通り、ポトフのマヒは解除された。
『やっぱりあのマヒは、セネール達が受けたものに比べて弱いんだよ』
「なるほど。もしあれで永遠にマヒさせられるなら、あんなに手を込んで準備する必要はないもんね」
「ほう、まだ諦めぬか。ならば貴様らが態勢を整える前に攻撃するのみ!」
とはいえ、未だに行動できるのは二人のみ。
次ターンでポトフがマヒ解除魔法を使い、マリーがアイテムでマヒを解除すれば全員が行動可能になるが、マヒ解除のアイテムには限りがある。通常のマヒはアクセサリーで防御し、特殊なマヒはかかってしまったら治らないと考えていたから多くは用意していないのだ。
そのため、この先ウルガスが再びマヒ攻撃をしてくる可能性を考えると、マヒの解除は極力ポトフの魔法に頼るべきだ。
「キヨカさん、ボクは後回しで良いです!」
「ごめんね!」
このターンはキヨカだけマヒから復活することに決めた。
「やっぱり動けない……みんな来るよ!」
「行くぞ!」
次ターンのウルガスの攻撃、マヒで動けないキヨカを狙い、剣を振り下ろした。
「タダではやられないんだから!」
どうにか盾を攻撃に合わせたものの、大きく弾かれて胴体に一撃を貰ってしまう。
「ぐうっ!」
鉄の鎧ごしに衝撃が伝わり、ふんばれないキヨカは容易に地面に倒れた。そのままウルガスは追撃しようと剣を振り上げる。
「サセマセン!」
だがウルガスはマリーの言葉に反応して一旦後退する。
マリーはまだ行動順が回ってこないため、攻撃すると見せかけたブラフだ。
地球側から見れば一撃以上は貰わないのが分かっているので茶番なのだが、本人達は至って本気。
「やはり人数が多いのは面倒だな。ならば全員一気に消し炭にしてくれる!」
ウルガスの行動はまだ終わらない。
大きく息を吸い込み、今度は真っ赤な炎のブレスを吐き出した。
「熱い!」
「熱っ!熱っ!」
「うぐ」
ガシャン
全体火炎属性攻撃、炎の息。
「この程度で消し炭なんて甘く見すぎ!」
「ぬぅ」
熱量ならばマザーボムの爆発の方が圧倒的に上だ。
ダメージ量も小さく、回復が面倒臭いだけで耐えられない程では無い。
「アンチパラライズ」
「はぁ~やっと動けるようになった」
ウルガスが二回目の行動を終えて、ようやくポトフの番。
アンチパラライズでマヒが回復したキヨカは体を色々と動かして問題ないことを確認する。
「コウゲキ、シマス!」
そして反撃開始。
マリーのちからためは、その次のターンでマヒにされる可能性を考えると使いにくい。そのためここでは通常攻撃だ。
「ひょええええ!」
相変わらずな謎の掛け声で、戦斧をウルガスに叩きつける。
「ふん」
だがウルガスは盾で戦斧の攻撃を逸らす。その際に逸らしきれずに肩にヒットしたが、大してダメージを与えているようには感じられない。
「テゴタエ、ナイ」
「その程度の攻撃で我が鱗を傷つけられると思うな!」
実際に数値としてもウルガスに与えたダメージは、普段のマリーの威力を考えると半分以下に減少している。
「マリーの攻撃が通らないなんて!」
マリーの斧攻撃は斬撃特性と打撃特性がある。キヨカの武器も同じ特性を持っているため、効かない可能性が高い。
「それならやることは一つ!」
マザーボムの時と同様に、相手の守備力を下げれば良い。
「ポトフちゃんはケイのマヒを解除して!」
「キヨカさん待ってください!」
「え?」
「なんかもう少しで体が動かせそうなんです。次はキヨカさんが回復してもらってください」
ケイの言葉が正しいのであれば、このマヒは時間経過でも回復することになる。マヒ回復のアイテムが少ない以上、自然治癒できるかどうか知っておくことは重要だ。
「分かった。それじゃあポトフちゃんは私の回復をお願い。私はアレつかうけど、マリーは……」
「ワタシモ、アレツカウ」
「オッケー」
そして次のターン。
先制したのはキヨカ。
「(あの邪魔な盾を弾き飛ばす!)」
破防の技:壊
ウルガスの防御を崩す方法ですぐに思い付くのは、盾を取り除くことだろう。
「はあああああああっ!」
キヨカはウルガスに接近し、剣を軽く振り下ろす。
ウルガスはその動きに反応して盾をやや上に向けて防ぐ。
剣が盾に触れた瞬間、盾を滑らせるように剣を素早く横に移動させ、盾の持ち手を狙う。
「甘いわ!」
だがその動きにウルガスもついてきて、横からの攻撃も盾で防がれてしまう。その後、何度かフェイントを入れながらも盾の持ち手を狙ったが、悉く反応されて防がれる。
「その程度の技術で我が防御を破れると思うな」
「ダメかー!」
結局相手の守備力を削ることは出来ず、ダメージも大して与えられなかった。
「攻撃とはこうやるのだよ!」
「!」
仕返しとばかりにキヨカに向かってきたウルガスだったが、キヨカが盾で防御しようとしたのを見て、急遽方向を変える。そのままケイの元へと向かい剣で一撃を与え、さらに追加で尻尾を振り回し大きく吹き飛ばした。
「痛いいいいいい!」
「な、ずるい!」
「戦いに卑怯も何もないわ」
「分かってるけど言いたいの!」
ケイは剣による斬撃と尻尾による打撃のダメージで地面を転がりのた打ち回る。
「ケイ!」
「だいじょうぶ、です!それに体も動けるようになりました!」
しかしいつものように泣くことは無く、力強く立ち上がり闘志は消えていない。
「さっすがオトコノコだね」
「はい!」
これでマヒが時間経過で治ることが判明した。
そしてポトフがキヨカを回復し、マリーのターン。
「コレナラ、ドウ?」
マリーが戦斧の柄をやや浅く持ち直す。そしてこれまでは右手で持ち攻撃していたが、左手を添える。
「オシトオス!」
斧技、おしとおす(押し通す)
「どんな攻撃であろうとも私には……ぬうっ!」
ウルガスが盾を構えるが、その盾を破壊するかの勢いで斧を叩きつける。
「ひょええええええええ!」
そしてそのまま力任せにウルガスを吹き飛ばした。
「やるではないか。今のは少しばかり効いたぞ」
この技はダメージ量こそ通常攻撃と同等だが、相手の特性を無視してダメージを与えることが出来る。ウルガスの耐性を無視して攻撃できる現時点で最も有効な技だ。
「私も頑張るっ!」
キヨカは今度こそと壊による防御力低下を狙う。
「ふん、ぬるいぬるい」
「もーーーー!」
だがどれだけ工夫して攻撃しようとも、ウルガスに有効打を与えることが出来ない。
実はウルガスには能力低下の耐性があり、キヨカの奮闘は効果が無い。
『キヨちゃん、焦っちゃダメだよ』
「でもこれが効かないと私何も出来ない!」
キヨカの攻撃は全て斬撃属性か打撃属性。
それらが効かないとなると、ただのお荷物となってしまうのだ。
「ふふふ、それならば更にお前の存在を無価値にしてやろう」
「え?」
「はああああああああ!」
ウルガスが気合を入れると、体全体を纏う薄い青いオーラが出現した。
『うそ!』
「何?」
『ウルガスの守備力が上昇してる』
「ぎゃああああああああ!」
これで完全にキヨカは封じられてしまった。
「ほうれ」
「痛いし!」
苛立つキヨカを挑発するように、ウルガスは尻尾でキヨカを攻撃する。
これでダメージソースはマリーだけとなってしまった。
いや、違う。
まだもう一人、ウルガスに相性の良い仲間が居る。
「これならどうだ!」
ケイは金属の三角錐をウルガスの頭上に投げる。
「はっはっはっ。なんだそれは」
ウルガスは自分に向けた投擲が大きく外れたのだと勘違いしていた。
彼はまだ知らない、それが自らの命を危機に至らしめる攻撃なのだということを。
「グラビティインパクト!」
通り越すと思われた三角錐が突如すさまじい勢いで落下し、ウルガスの硬い鱗を切り裂いた。
「ぬおおおおおおおお!」
血が噴き出て、初めてまともなダメージを与えることが出来た。
「や、やった!やりました!」
ウルガスの弱点は突属性攻撃。
セネールが離脱したことで失われていた攻撃手段をケイが新たに獲得していたのだ。物見櫓まで探索した意味はとてつもなく大きかった。
『爬虫類だしサンダーも効きそうだよね』
「なんでセネールいないのよおおおおお!」
不当な理由でまたしても評価が下がってしまうセネールであった。
「ワタシノ、コレモ、マダキク」
そしてマリーも続けて押し通す。
この技は守備力アップ効果でさえも無効化するのだ。
マリーの攻撃は盾でガードされ逸れてしまったが、初撃と同様に肩にヒットする。今度は鱗の部分が削られた。
「ぐううううううううっ!よくもよくもよくもおおおおお!」
激昂するウルガス。
相手の防御を崩し始め、これでようやくまともな戦いが出来そうな展開になってきた。
だが、そう上手くはいかない。
「目障りな人間どもめ、再びその動きを止めるが良い!」
ウルガスは黄色いマヒガスを再度噴き出した。
「ううっ……動けない」
キヨカはまたしてもマヒにかかってしまった。
先ほどはマリーだけ助かった。
今回はどうかと辺りを見回す。
「え?」
ポトフも、ケイも、マリーも、三人ともキヨカと同じように膝をついていた。
「ふふふ、はははははは!今日は絶好調だな!」
完璧な結果にウルガスは自身が傷ついていることも忘れ気分が最高潮になる。
「なんとかマヒが解けるまで耐えないと」
マヒが解除されるまで残り二ターン。
それまでのウルガスの四回分の攻撃を耐えられることを祈る。
「それでは終わりにしようか」
そのキヨカの願いを打ち砕くべく、ウルガスは咆哮する。
「うおおおおおおおお!」
その叫びに反応して今度は赤いオーラがウルガスの体を纏った。
『ダメ、それはダメ、ダメダメダメダメ!』
「れおなちゃん!?」
『攻撃力が、上昇しちゃった!』
「え」
ウルガスの個々の攻撃はそれほど脅威ではない。
だが、能力アップとマヒのコンボにより、キヨカ達は攻撃するタイミングをほとんど得られず、なぶり殺しにされるのを待つような形に追い込まれてしまった。
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