29. 【異】王都創立記念祭 3日目 マザーボム 前編
泉で回復したキヨカ達は、アイテムの残り個数を確認し、ロビーへと駆け込む。
広いロビーの真ん中には、これまで見た物より遥かに巨大なクリスタルが鎮座していた。
キヨカ達の登場に反応したのか、クリスタルは明滅して消滅する。
「これはやばいかも」
出現したのは巨大なボム、マザーボムだった。
これまでのクリスタル邪獣とは明らかに雰囲気が違い、邪人に匹敵する強敵感を醸し出している。
「大きいとはいえボムには変わりないさ。全力攻撃で良いのだろう?」
「うん。でも回復もしっかりね」
ある程度攻撃を重視するのは仕方ないとしても、回復を怠って戦闘不能になってしまったら元も子もない。敵の攻撃も通常のボムよりも激しいはずなので、単純な攻め一辺倒でなんとかなるとは思えない。
「ワタシ、アレ、ツカウ」
「分かった。最初に使って。その後はタイミング指示するね」
「ウン」
この中で最も攻撃力が高いマリーは貴重なダメージソースだ。技を連発してでもダメージを稼ぎたいところ。
「みんな行くよ!最初はいつも通り全力で!」
まずはセネールの多段突きから。
「ボムは熱いから近づくのが嫌なんだがな!」
炎に耐えつつ、マジックスピアを四回突いた。
「むぅ?」
攻撃を終えたセネールはどことなく釈然としない表情だ。
「次は私、断!」
セネールと入れ替えでキヨカが断を放ち、マザーボムの頭上を全力でカチ割らんとする。
「かったーい!これダメージ与えられてるの?」
あまりの硬さに手ごたえがあまり感じられなかった。セネールもそれが理由で顔を顰めていたのだろう。
『キヨちゃん、ダメージは与えられてるけど、ちょっと少ないかも』
ボスなので通常のボムよりも守備力が高い可能性はあるが、それにしても与えたダメージが少なすぎるように地球側からは見えた。亀の邪獣と戦っている時と近いくらいに物理攻撃の威力が削がれている。
そしてマザーボムの攻撃。
ボムと同じように大きく揺れる。
「爆発が来るよ、備えて!」
その予想は正しかった。ただし、マザーボムの爆発攻撃は全体攻撃だった。
「きゃああああああああ!」
「ぬうううううううう!」
「んんっ」
ガシャン
キヨカとセネールは吹き飛ばされ、防御していたポトフと重くて吹き飛ばされにくいマリーは立ったまま耐えきった。全員の体から白い湯気のようなものが立ち昇っているところから、爆発によるダメージが視覚的にも分かる。
「ダメージは普通のボムのと同じくらいだね。全体攻撃が厄介だけど、回復タイミング間違えなければ大丈夫!」
素早く立ち上がったキヨカは仲間達を激励し、戦意をマザーボムにぶつける。
「……」
そして次のマリーの行動は、腰を少し落として戦斧を右肩付近に構えて集中するもの。
ちからため
次ターンの攻撃を2.2倍にする技だ。
攻撃力の高いマリーによる倍化以上の攻撃により、硬いマザーボム相手でも大ダメージを与えられるだろうが、ダメージを更に増加させるためにキヨカは城内での戦闘中に閃いた新技を使うことを決めた。
亀の邪獣、そしてライアーシープとの戦いを経て編み出された新技。
それを次のターン、セネールにサンダーで攻撃させてからの自分の番で解き放つ。
「破防の技:壊」
この技は疾風と同じように特定の攻撃モーションがあるわけではない。ポイントは相手にダメージを与えるのではなく相手の守備力を弱めること。
盾を持っている相手であればその盾を弾き飛ばし、鎧を着ている相手であればその鎧の破壊を試みる。
今回の相手は岩石の集合体。キヨカが狙うのは衝撃により岩石体を脆くすること。
そのためには攻撃が接する面が広い方が効果が高そうだと判断し、剣を鞘に戻してそのままマザーボムに叩きつけた。
「はあああああああっ!」
マザーボムの全身から岩石がポロポロと零れ落ちはじめる。
この技は必ず成功するわけではなく、相手によって成功の確率が変わる技だ。失敗する可能性がそれなりに高い分、通常攻撃と同等のダメージも与えられるので無効化されたからと言って全くの無駄になるわけでもない。
『キヨちゃん、成功したよ!』
そして成功したかどうかの判断はレオナがやってくれる。レオナがいなければ試しに攻撃を仕掛けて効果があったかを手ごたえで確認しなければならないところだった。
マザーボムの次の攻撃は単体攻撃の突進。それをポトフが受けて次のマリーのターン。
「ショエエエエエエエエ!」
気迫のこもった不可思議な叫び声をあげ、マザーボムに溜めた力を叩きつける。
マザーボムは大きく崩れ、すでに全身亀裂だらけだ。
『うっわ、すごいダメージ』
キヨカの防御低下の効果と重なり、思わずレオナがドン引きしてしまうほどの大ダメージを与えられた。
この勢いなら自爆を喰らう前に倒せるかもしれないとレオナは感じたが、そう簡単にはいかない。
マザーボムから崩れ落ちた岩石が再び上昇し、マザーボムに結合したのだ。全身亀裂だらけなのは変わらないが、元通りの大きさに戻っている。
「回復した!?」
『ううん、回復はしてないみたいだよ』
回復したように見えるモーションではあるが、地球側ではそのようなメッセージは見えていない。
そしてマザーボムの炎の一部が分離し、形を作る。
「3?」
数字の3のように見える形だ。
レオナ達はそれを見ても意味が分からなかったが、地球側は別。レオナが数字の意味を掲示板の皆に教えて貰い、慌ててキヨカに伝える。
『キヨちゃん!それが零になったら自爆するかもしれないって!』
「ええ!?」
自爆系ボスのお約束。
爆発までのカウントダウンだ。
「なんで教えてくれるの!?」
お約束なのだからツッコんではならない。
『気にしないで!それより早くダメージを与えなきゃ!多分自爆も全体攻撃になってるはずだよ!』
残り三ターン以内に倒せなくても自爆のダメージを減らすために攻撃を仕掛けなければならない。通常のボム相手にボム系の特徴を調べておいたかいがあった。
「回復しつつも攻撃重視で攻めるよ!」
多段突きと断、そして力ためからの攻撃でダメージを積み重ねる。ポトフはダメージを受けた仲間を回復している。また、マザーボムも単にカウントダウンをしているだけではなく、全体爆発攻撃や単体攻撃を仕掛けてくる。
1。
「一かぁ。攻撃はここまでかな」
このターンで全員を回復させて、次の自爆ターンは全員で防御する。キヨカはそれが最善だと思い、地球側も特に反論は無かった。
だが、一人だけ違う反応を見せた者がいた。
「キヨカくん、ダメージは足りているのだろうか」
「分かんない」
攻略本があるわけではないのだ。
自分達が生き残れる分だけのダメージを与えきれたのかどうか、ここまで来たら祈るしかない。
「僕はまだ攻めるべきだと思う」
「でもそうしたら回復が間に合わないよ?」
攻撃重視で戦ってきたため、体力は全体的に減っている。特に回復を後回しにしていたセネールは半分を切っている。このままでは防御しても戦闘不能になってしまう可能性が高い。
「だから攻めるのは僕だけだ」
「……意味分かってるんだよね?」
「当然だ」
キヨカ、ポトフ、マリーの三人は自らを回復して自爆に備える。
セネールは回復せずに攻撃して自爆攻撃の威力を減らしつつ無防備で自爆攻撃を受ける。
つまり、自らが戦闘不能になる覚悟をして仲間を守るために行動しようと考えているのだ。
「セネール……」
決して戦闘不能の意味を知らないわけではない。
目の前でキヨカが死に近しい状態に追い込まれたのを自らの目で確認しているのだ。
恐怖故にセネールの足がガクガクと震えているのをキヨカ達は気付いていた。
「レオナちゃん、どう?」
セネールの考えの是非を確認する。
自らを囮にすることの是非では無く、彼の行動がもたらす結果についての検証だ。
『……かなり重要だって』
セネールの言う通り、マザーボムの自爆の威力が不明な以上、ギリギリまでダメージを与えるのは有効手段だ。地球にある様々なゲームの中には、防御してもなお生か死かギリギリの自爆ダメージを受けるような作品も存在するからだ。
となると、最もダメージを稼げるのはポトフだけを防御させて残り三人が特攻すること。三人とも戦闘不能になったとしても、戦闘終了後にポトフに一人ずつ復活してもらえれば良い。
だが、一つ問題なのは邪人が近くにいる可能性。
もしもポトフのみ生存している状態で強制的に連戦が始まってしまったら、速攻で全滅確定だ。
ゆえに、戦闘不能者を出すならば、態勢を整えやすいことが条件となる。そしてそれはセネール一人であれば妥当なところだろうというのが地球側の判断であった。
「分かった。セネールよろしくね」
「ああ、だが攻撃の選択は頼む。残念ながら多段突きで最大回数が突ける気がしないんでね」
突きの回数が精神状態に左右される、などということはシステム的にはありえない。だが、セネールはそう思ってしまっても仕方ない程に死の恐怖との戦いに縛られているのだ。
キヨカはそのセネールの心情を把握し、考える。
確実に二倍近いダメージを与えられるサンダースピアにすべきか、それとも多段突きに賭けるか。
「セネール、サンダースピアでお願い」
「承知」
結果キヨカは安定をとった。
多段突きの結果が出ず、失意のままセネールが斃れる事は彼にとって悲劇でしか無いと感じたのと、二倍でも十分ダメージを与えているだろうと考えたからだ。
「僕の雷撃を受けたまえ!」
普段は口上など入れないセネールが、自らを奮い立たせるために力強く叫ぶ。
「うおおおおおおおお!」
雷撃を纏ったマジックスピアを力の限りマザーボムに叩きつける。熱いだのなんだの、この状態では最早気にならない。少しでも多くのダメージを与えようと、貫き通すイメージで手を伸ばす。
そのターンのマザーボムの攻撃は『何もしない』であった。そのためキヨカ達は自らを回復し、自爆ターンを体力全快に近い状態で迎えることが出来た。
そして運命のターン。
先制可能なセネールが再度攻撃を仕掛ける。
「倒れろおおおおおおおお!」
二度目の渾身のサンダースピアを受けて、マザーボムの体が大きく揺さぶられるが斃すには至らなかった。
「キヨカくん、ポトフくん、マリーくん、後は頼む」
「ありがとう、セネール」
「ぐっじょぶ」
ガシャリ
マザーボムの体から大量の赤い光が発生し、キヨカ達の視界は強烈な赤い閃光に覆われた。
「きゃああああああああ!」
気合を入れて盾を構えていたものの、キヨカは爆風によりあっさりと後方へと吹き飛ばされ、不運にも吹き飛ばされた先にあったロビーの太い柱に背中を強打する。
そのまま柱に張りつけになった状態で高熱を帯びた爆風と炎と赤く熱せられた岩石を体に浴び続ける。
「あ……ああっ……っ!」
あまりの苦しみに叫びそうになるが爆風を吸い込むために出来ず、微かに漏れたうめき声も爆発音の残響にかき消される。
そうして長い長い数秒が終わり、キヨカは柱への張りつけから解除されて床に崩れ落ちる。肌の露出部のほとんどが火傷で真っ赤になり、岩石がぶつかったことによる無数の切り傷と打撲痕が痛々しい。そして鉄の鎧は真っ赤に色づき、キヨカの肌を今もなおじわじわと焼いている。
「ぐうっ……」
だがそれでもキヨカは気を失うことは無く、剣を支えによろよろと立ち上がろうとする。
「みん……な……」
辺りはまだ爆発による薄煙が充満しているため仲間達の状態は見えない。それでもキヨカは、一番近くに居たはずの最も心配な仲間がいるであろう方向へとゆっくりと歩き出す。
ポトフの元ではない。
セネールの元へだ。
普段ならばいの一番にポトフを気にするところだが、今回はセネールが自らの命を賭して相手の体力を削ってくれた。そしてその代償として戦闘不能になっているはずだからだ。防御していた自分が負ったダメージを考えると、まず間違いない。すぐにでもリバイブの石を使って復活させたいのだ。
セネールはキヨカと同じ方向に飛ばされたのか、数歩進むだけで発見出来た。
「う゛っ」
思わず吐き気がこみ上げて来るような酷い有様だった。
キヨカ以上に全身が焼け爛れ、イケメンだった顔は見る影もなく傷だらけ。しかもよく見ると肉が削げて骨が見えているところもある。ほんのわずかに胸が上下しているからまだ生きていることは間違いないが、死体と言われても何らおかしくない有様だ。
「まっててね」
キヨカはポケットからリバイブの石を取り出そうとする。
自分の回復よりもまずはセネールの復活だ。それはキヨカにとって当然の行動だった。
だがそのキヨカの行動を止める者がいた。
『キヨちゃん待って!』
「え?」
それはキヨカの頼れる相棒であるレオナ。
何故とキヨカが理由を聞く前に、レオナは絶望的な言葉をキヨカに告げた。そしてその事実をすぐにキヨカは真実だと理解させられることになる。
『まだ終わってないよ!復活させるかはみんなの状況を確認してからにして!』
「おわって……え?」
まさか邪人が現れたのかと恐る恐る辺りを見回してみる。
立ち込めていた薄煙が徐々に消え、その向こうには……
「え?」
二体のボムが宙に浮いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます