27. 【異】王都創立記念祭 3日目 王城探索1
「陛下、どうしてここに!?」
「どうしてもなにも、ここに寝泊まりしているからだけど」
お祭り期間中、国王は自室で寝泊まりすることが慣例となっていた。ゆえに、邪獣に襲われた際も国王はこの部屋で就寝していたのだ。
「でもその格好は……?」
「あれ、言ってなかったっけ。俺、それなりに強いんだよ」
そう言ってレイピアを鋭く何度も突き出す型を見せる国王の姿は、確かに戦士としての雰囲気が十分であった。
「キヨカちゃん、惚れ直したかい?君が良ければ全てが終わった後ベッド」
「ふんっ」
「痛あっ!」
「パヒューさん、こんにちわ」
「キヨカ様、このバカがまたしても迷惑をおかけし、申し訳ございません」
「あはは」
迷惑をかけたことを否定しないキヨカである。
まずはお互いの状況を確認し合うことにした。
「それじゃあ陛下は騎士団の人達と一緒に逃げ遅れた人を探してたんですね」
「ああ、キヨカちゃんが道を切り拓いてくれたおかげで、彼らは無事に逃がせられそうだ。感謝する」
隠し扉の向こうで待っていた人々は、護衛を得意とする騎士団員の手によってすでに避難を開始していた。
「それにしても王都の方がそのような状況になっていたとは……」
「こちらの騎士団は皆無事だったのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。動けなくなった騎士団員は怪我人扱いで初期避難の時に逃げてもらっているのさ」
この場にいる騎士団員は、どういうわけかマヒを逃れた人だった。
「それでキヨカちゃんはこれからどうするつもりだい?」
「クリスタルを破壊します」
「やはりそうくるか……」
「陛下はお逃げください」
「あはは、そういうわけにはいかないよ」
国王は最前線で国民のために戦うべし。
今この瞬間にも不安に苛まれている国民のためにも全てが解決するまで退くわけにはいかないのだ。
「実はクリスタルの場所は分かっているんだ」
「どこですか?」
「一階入り口のロビー」
この国の王城は一階に大きなロビーがあり、そこから他の場所へ向かう通路が複数延びている。そして正面には階段があり、上った先にある巨大な扉の先には謁見の間がある作りだ。
「出来れば俺達があれを破壊してしまいたかったんだが、すでに城内の至る所で崩壊が始まっていてね。道が塞がれているところも多く辿り着くのが大変そうなので逃げ遅れた人々の救出を優先していたんだ」
そもそも、どのルートを通れば広間に辿り着くのかが、まだ分かっていないという。
「分かりました。情報ありがとうございます。陛下はこれからどうしますか?」
逃げ遅れた人達はすでに隠し通路へと避難させたので、この部屋を守る必要はない。
「俺達はこれまで通り逃げ遅れた人がいないかを確認しながらクリスタルを目指そうと思う」
「それじゃあ時間短縮のためにも手分けしませんか?」
「助かる。俺達は二階を中心に回るから、一階を頼めるか?」
「はい」
階下へ降りる階段はすぐ近くにあり、そこまでのルートは塞がれていない。
また、隣の部屋に回復の泉があるので、疲弊したらそこまで戻って回復が出来ること、最低限の回復アイテムはこの部屋の棚に備蓄してあるので補給したい場合はもっていって良いことなどを教えてもらう。
「それじゃあそろそろ……」
「待ってください、キヨカさん」
「ケイ?」
いざ王城探索と思ったその時、ケイが真面目な顔でキヨカに話しかける。
「ボクは騎士団の皆さんと一緒に行動しようと思います」
ケイはようやく邪獣を倒せるようになってきたとはいえ、邪人と戦うほどの勇気はまだ持てていなかった。大盾を持つ団員がいて、逃げ遅れの人がいないか丁寧に調べながら進軍する騎士団側の方が邪人に襲われる可能性が低いと考えたのだ。
そしてもう一つ理由がある。
「僕は遠距離攻撃がメインですので、向こうの方が役立てるかと」
大盾の騎士団員が敵の攻撃を防ぎ、後ろから後衛が攻撃するのが騎士団側の主な戦闘方法だ。国王達が加わったので近接攻撃も可能になったが、それでも遠距離攻撃が充実するのはありがたいはず。
「うん、分かった」
恐怖と建て前、その両方の理由を察したキヨカは、迷わずに了解する。
ここから先は、本当の意味での命を懸けた戦い。無理強いなど出来るわけが無い。
「そういえば、あなたはどうするの?」
ケイが別れるのは良いとして、出会ったばかりの巨漢の戦士はどうするのか。
「ツイテイク、シジモ、オネガイ」
「うん。あ、そうそう、あなたのことなんて呼べば良いの?」
「マーガ……………………マリー」
あからさまな偽名だが、このタイミングでそのことについて問答する暇は無い。キヨカは釈然としない気持ちを抱きながらもそれを受け入れた。
「それじゃあマリーよろしくね」
「よろしく頼む」
「よろ」
セネール達の自己紹介はここに来る前に終わっていた。
タイミングが悪くマリーの紹介を聞きそびれていたのだ。
「君は……」
「……」
「いや、なんでもない」
「?」
国王がマリーを見て何かを言いたそうにしていたが、マリーの視線を感じてそれを止めた。
何かしらマリーのことを知っているのかもしれない。
何はともあれ、これでパーティー編成が完了し、ようやく進軍開始だ。
――――――――
「これは酷いな」
一階に降りたキヨカ達が見た光景は、天井が落ちて瓦礫の山となった通路であった。王城の構造は頭に叩き込んであるキヨカだが、一階ロビーへ通じる道はことごとく潰れてしまっていた。
『こういうのは遠回りしなきゃならないものなんだって』
レオナの言う通り、崩れ落ちたダンジョンは不自然なまでに遠回りを求められるものだ。最短距離で向かうのは諦めて隅々まで探索するしかない。どちらにしろ、ここである程度戦闘をして技を覚えるかパラメータを上昇させなければならないのだ。
そして、城内で最初の敵に遭遇する。
「骨の戦士か。強そう」
骨だけで構成された人型の邪獣、スケルトンが三体。
剣と盾を装備した戦士型だ。
「私とセネールとマリーは左端の敵に通常攻撃。ポトフは防御」
ポトフの回復魔法は聖属性。
アンデッドへの特攻魔法があれば役立ちそうなのだが、残念ながらポトフはそれを覚えていない。
「まずは僕から行くよ!」
素早さの高いセネールが短い槍を振り上げる。
相手は骨でスカスカなため、突き攻撃をしようにも当たらない可能性が高い。そのため槍を振り下ろして打撃系の攻撃を与えることにしたのだ。
「ムッ!」
スケルトンは盾を左手に持っていたので、セネールはスケルトンの左に回り込んで攻撃したが素早く対応されて防がれる。そのままスケルトンは剣をセネールに向かって振り下ろしたがセネールはそれを避け、スケルトンが態勢を立て直す前に頭上に槍を振り下ろした。
これまでのお互いに相手に一撃与えては離れる、という戦い方とは明らかに異なっている。
実は違いは見た目だけの話で、攻撃をしかけた側がダメージを与えるという結末は変わらないのだが、キヨカ達はそんな設定のことは知らないので必死に戦うだけである。
「次は私だね!」
キヨカはステップにフェイントを入れながらタイミングを見計らって剣を左から右へ横薙ぎするが、これも対応されて盾で防がれる。その後の反撃を躱し、再度横薙ぎして胴体に攻撃する。
「まぁまぁ硬いけど倒せそうかな」
スケルトンのあばら骨には何本もの亀裂が入っている。もう少しで倒せそうだ。
だがここからはスケルトンのターン。
三体のスケルトンが順に、剣を振って攻撃してくる。
盾を持たないセネールは何度か避けたものの脇腹を掠め、キヨカは盾で弾いたものの連続攻撃を受け切れずに肩に剣があたり甲高い音がした。
「ぐうっ!」
「っつー!」
そして最後の一体はマリーに向かうが、マリーは防御行動を一切取ろうとしない。
「……」
金属同士がぶつかりあう激しい音がしたが、マリーは無反応だ。ダメージを受けているのかすら分からない。
『キヨちゃん、あれでもマリーさんの体力減ってるから。多分痛みは感じてると思う』
数値上はダメージを受けているとのこと。
そしてそのマリーのターン。
骨にひびが入っているスケルトンに向けて巨大な戦斧を振り下ろす。
「うっそ」
スケルトンは盾でガードしたがこらえきれず、ミシミシと音を立てて骨が折れ砕け散った。
これまでにダメージが積み重なっていたのもあるが、見た目のインパクトに開いた口が塞がらないキヨカであった。
スケルトンは何度か打ち合うことがあるものの、通常攻撃がメインの戦いやすい相手であった。セネールが突き主体の武器にしなかったため三人とも打撃属性の通常攻撃でダメージを与えられるのが大きかった。
「ふぅ、なんとかなったね」
装備が充実しているのと、遺跡で限界ギリギリまで育てていたこともあり、王城内での一段レベルが上の敵相手にも十分戦える。
「キヨカくん、新手だぞ」
次に出現したのはスケルトンと巨大なカエルの邪獣が一体ずつ。
カエルの邪獣は先端に大きな宝石がはめ込まれている杖を持っている。
名前も『マジックフロッグ』で、いかにも魔法を使いますと言いたげな名前だ。
「魔法系!」
本格的な魔法系の邪獣と相対するのはこれが初めてだ。威力も攻撃手段も未知数であるため、キヨカ達は気を引き締める。
「三人でスケルトンを倒すよ!」
魔法系は戦士系よりも体力が低いのが相場だ。先制攻撃で魔法を使われる前に倒すのがセオリーなのだが、出現したのは一体だけであるので、ここで敵の行動を分析するために敢えて行動させることにした。
ちなみにレオナの裏に居る地球側のサポート員からの指示である。
この手の戦略に詳しくないレオナやキヨカには気付かないことだ。
セネールとキヨカがスケルトンを攻撃し、防御しているポトフにスケルトンが攻撃。
マジックフロッグの攻撃はその次。素早さはあまり高くない。
「ぐるぅっ!」
マジックフロッグが手にした杖を掲げると、先端に水が集まり水流を創り出す。
ウォーターシュート
水属性の基本魔法であり、水を勢いよく相手に向かって飛ばし、その衝撃でダメージを与える魔法だ。
ターゲットはキヨカ。
想定していた以上に速い勢いで水がキヨカの元へとたどり着くが、辛うじて盾で合わせるのが間に合った。
しかし、衝撃のあまりの強さにキヨカは踏ん張りがきかずに後方へ吹き飛ばされる。
これまでキヨカは強敵相手に何度か吹き飛ばされることがあった。
モグラの邪獣、ゴーレム、イルバース。
このうち、モグラとイルバースは屋外。
ゴーレムは鉱山内部であったけれども、中ボス用のかなり広いスペース。
ここで問題なのは、今戦っている場所が王城の廊下であるということだ。
王城であるため、普通の建物と比べて廊下はかなり広いが、それでも広さには制限がある。
つまり、吹き飛ばされた方向によっては壁にぶつかってしまうということだ。
「かはっ!」
背中を壁に強打し、キヨカは全身を激しい衝撃に襲われて少しの間息が出来なくなる。これまで経験したことの無いタイプの痛みに、体がまたしても悲鳴を上げる。
「いったぁ……い」
だがこの程度で折れるキヨカでは無い。種類は違えど死ぬ寸前までの怪我を負ったこともあるのだ。雑魚邪獣の魔法ごときで怯んではなるものかと、気合を入れて奮い立たせる。
「痛かったんだからね!」
キヨカは仕返しとばかりに、マジックフロッグに斬りかかる。スケルトンのような硬さや打ち合いは無く、肉を断つ感覚が伝わって来る。セネールの通常攻撃と合わせて二発で沈んだので、レオナ達が想定していた通り体力は低いようだ。
「よし、これなら戦えるね」
初めての魔法使い相手でも問題なく戦えた。
王城では他に蜘蛛の邪獣、パイナップルの邪獣が出現したが、今のキヨカ達なら十分に対処できる相手であった。ただし、処理が面倒臭いパイナップルの邪獣が再度登場したことでキヨカが悲鳴をあげている。
「パイナップルなんでここでも出て来るのよー!」
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