12. 【異】フラグ1、2 王城見学

 たっぷりとショッピングを堪能したキヨカ一行。

 アクセサリーだけではなく防具も一新された。


 キヨカは待望の鉄の鎧。

 デザインは悩んだけれども格好良い系を選択。

 流線型のフォルムで体にフィットする感じなのに動きにくくない匠の技。

 胸が強調されている感じが少し恥ずかしい。

 シューズも盾も全て鉄で揃え、武器はお金が足りないので鉄の剣据え置き。


 ポトフとセネールは皮の装備を絹の装備に一新。

 絹自体の耐久力は皮とあまり変わらないが、魔力を篭めてあることで皮よりも防御力が高い。

 隠しパラメータとして僅かに魔法耐性もある。

 武器は据え置き。


 ケイは黒マントの性能が高く、今の防具で十分だった。

 ただし、お金が無くて着飾れなかったと言う話だったので、マント下の服をキヨカが全力でデコってコーディネート。

 見事に可愛さマシマシに。

 キヨカ的にはまだ物足りないので、お金を稼いだら更に手を入れる予定。

 男だぞ、こいつ。


 アクセサリー枠の2個目は全員空けてある、といった感じだ。


 今日は新装備を着慣れる意味も兼ねて、装備しながら王都観光。

 セネールやケイは王都の事を知っているので、行きたい場所もあるだろうからと個別行動。

 キヨカはポトフとレオナと一緒に観光だ。

 気兼ねなく遊びたいので今日はコメントも見ない。


 最初に向かったのは、王都最大の観光スポットとなっている王城。


「キヨちゃん!王城だよ!王城!」

「でかい」

「海の上にあるんだ、格好良いなぁ」


 ファンタジー的なザ・王城。

 王都の東、ビジネス街を突き当たりまで進み、海に架けられた大きな橋を渡った先にある。


 高さはビジネス街の高層ビルには全然及ばないが、いかにもな西洋城の造形と雰囲気、そして海の上に立っているという特別感のある立地が存在感を強めていた。


「この橋も装飾凝ってるし、映える景色だね」

「あはは、こっちの皆も夢中になってるよ」


 VRで異世界を見てみたいとVR機器が爆売れ品薄状態なのだが、雄大な王城の登場によりさらに深刻な品薄になってしまう。


 映える優先に文句を言う人もいるが、なんだかんだ言っても結局人間は映える景色が大好きなのだ。


「ほんと綺麗、誰も使ってなくても手入れちゃんとやってるんだね」

「キヨちゃん、どうしてこの王城は使われてないの?」

「それが笑っちゃうような理由なんだよ。街から遠いからなんだって」

「遠いから?」

「うん、街に何か用事があったらわざわざこの長い橋を通って街まで行かなきゃならないでしょ。それがめんどくさくて何代か前から偉い人達もビジネス街の方に住むようにしたんだってさ」

「なにそれー」


 王城の執務室でふんぞり返って書類仕事だけをやるのなら問題ないのかもしれないが、実際は様々な視察や企業との会議など、王様を含むお偉いさんは人と会う仕事が山ほどある。わざわざ城まで呼びつけるのもこちらから出向かうのも時間の無駄。それならばということで放棄したのだ。


 確かに数百メートルはある橋を毎回移動するのは大変だろう。


「当時の王様も悩んだらしいよ。この城って国民からのプレゼントだったらしいから」

「プレゼント?」

「うん、昔まだこの国に王族が居たころ、国民のために必死で働いた立派な王様が居たんだって。苦しんでいる人には必ず手を差し伸べて、敵が攻めてきたら先頭で立ち向かい、自分の暮らしは二の次で国民のためだけに努力した。自分の住処はボロ屋だったなんて歴史書には書かれてる」

「キヨちゃんみたいだね」

「私そんな立派な人じゃないよ!?」


 ボロ屋に住んでまで誰かのために尽くそうなんて考えられないとキヨカは思った。

 だがレオナはそういうことを言っているのではなく、誰かのために迷いなく行動する精神面で似ている部分があると思ったのだ。


「ふふ、それでその話がプレゼントとどう繋がる……もしかして当時の国民が?」

「そうなんだよ。王様に立派な住処をプレゼントしたいって頑張って作ったんだって。王様断ったのに言うことを聞いてもらえなかったって嘆いている有名な昔話があるんだ」


 そしてこの話がこの世界で子供に聞かせる逸話の一つであり、教育面でも活用されている。


「素敵な話だね」

「うん、だから今でも使ってなくても毎日ちゃんと手入れされてるんだってさ」


 王都のシンボルでもあり素晴らしい為政者達への感謝の証でもあり、その感謝を代々引き継いでこれた自分達の誇りでもある。それがこの王城なのだ。


「うん、素敵」


 ポトフも何処か大人びた表情で、王城を愛おしそうに眺めていた。


 実際、王城に入ると建物だけではなく、庭園から倉庫に至る隅々まで手入れが為されていた。


「ほわーこの庭園でお茶とかしてみたいなぁ」


 色とりどりの花が咲き乱れる庭園を見てうっとりとしながら、思わずそんな言葉が口から洩れてしまった。


 するといつの間にか近づいていたメイドさんに声をかけられる。


「可能ですよ?」

「え!?」

「入用でしたらあちらのテーブルに用意致しますが」

「ど、どど、どうしよう」


 王城の庭園でお茶を楽しむなんて、まるでお姫様みたいではないかと思う。

 自分のお姫様姿を想像して照れて少し顔が赤くなる。


「キヨちゃん可愛い」


 そして容赦なく止めを刺しに来るレオナ。

 やはり彼女はどこかSっ気がある。


「お姉ちゃん可愛い」


 さらに追撃するポトフ。

 こちらは時折こうやっていたずらを仕掛けてくる。


「よろしければドレスもありま」

「ごめんなさいー!」


 キヨカは逃げ出した。


「もう、キヨちゃん!」

「だってドレスっておひっお姫っ……」


 キヨカが想像した通り、お姫様気分を体験するサービスなのだが、照れ屋なキヨカは反射的に断ってしまった。お姫様への憧れもあるので内心失敗したなぁと凹んでいるが、今更戻ってお姫様になる勇気はない。クレイラの宴の二の舞は踏まないのだ。


「可愛いキヨちゃん見たかったんだけどなぁ」

「うううー、いつかはきっと!」

「でもお姫様キヨちゃんを男の人に見られちゃたら求婚が殺到して大変かも」

「レオナちゃん!」


 キヨカは真っ赤になって蹲る。

 きっとコメント欄はたすかっていることだろう。


 すると、体調不良なのかと勘違いしたのか、今度は場内の清掃をしていたメイドさんが話しかけて来た。


「どうされましたか?」

「へ?あ、ああ、何でも無いです!」

「?」


 慌てて立ち上がるが、顔の赤みはまだとれない。

 適当に誤魔化してその場を去ろうとするキヨカだが、呼び止められた。


「お待ちください」

「本当に何でもないんです!」


 キヨカの事を想ってくれるメイドさんには悪いが、羞恥によるものであるため落ち着くための時間が欲しくて逃げようとした。


「いえそうではなくて。旅の方でしょうか?」

「え?」

「よろしければこちらをどうぞ」


 メイドは掃除用具をその場に置き、懐から紙の束を取り出し、一枚をキヨカに渡す。


「王都創立記念祭?」

「はい、よろしければご参加ください」


 その紙には、もうじきやってくる王都創立日に合わせて一年に一度の盛大なお祭りが開かれると書かれていた。


「へぇ~王城もパーティー会場に使われるんだ」

「はい、王都全域で様々な催し物がございますので、是非お楽しみください」

「分かりました。ありがとうございます」


 貰った紙を仕舞い、王城の観光に戻る。


「そっちの世界のお祭りかぁ」

「どんな雰囲気なんだろうね」

「美味しいご飯たのしみ」


 祭りの話をしながら、王城の観光を続ける。


 広いホールに謁見の間、王様の私室までも公開されている。

 最低限の家具以外は持ち出されて置かれていないが、祭りの際はこの部屋に宿泊するとのことなので、多少は生活感が生まれるのかもしれない。


 物見櫓からは内海を大パノラマで見ることが出来るが、王都側はもっと高い高層ビルがあるため良く見えない。王都を上から見るにはビルの屋上の展望室に行く方が良いのである。


 このような感じで王城を探索するキヨカ達であったが、そろそろ一通り見終わったかなとキヨカが思った時、レオナが少し退席した。


「キヨちゃん、ちょっと待って」

「うん」


 トイレにでも行ってるのかと思ったがそうではなかったようだ。


「あのね、隅々まで調べた方が良いって皆が」

「?」

「お城の構造とか、どんな部屋があるかとか覚えておいた方が良いかもしれないんだって」

「ふ~ん」


 意味が分からなかったが、アドバイスするからには重要な意味があるのだろうと思ったキヨカは、これまで足を運んでいなかったところも含め、念入りに城内を調査して構造を頭に叩き込むことにした。


『こんな露骨に目立つ建物、絶対何かのイベントが起きる』

『それな』

『鉱山的な扱いだよなぁ、きっと』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る