6. 【異】謁見2

 ソファーに座った面々は自己紹介をする。

 メイド服姿の女性はパフューと言い、国王の秘書兼人格矯正役。メイド服なのは、この服装でないと厳しく躾けた時に国王が逃げ出すからとのこと。


「それでは本題にお入りください」

「パフューさんが進めるんだ」

「そうしないとこの馬鹿はいつまで経っても真面目な話をしませんので」

「ひっどいなぁ。俺だって」

「話を始めてください」

「ぐうっ!」


 完全に力関係が出来上がっていた。

 国王の情けなさのおかげでキヨカはリラックスして話をすることが出来る。


 キヨカ達は改めてクレイラの街で発生した事件について詳細を報告する。

 その内容の深刻さに、流石に国王も真面目なトーンに切り替わる。


「ふむ、聞いてはいたが偽魔石に邪人の暗躍か……良く無事だったね?」

「邪人は自分のことを戦闘向けでは無いと言ってましたので、邪人としては弱い部類だったのだと思います」

「実際戦ってみてどうだった?」

「厄介な相手ではありましたが、騎士団の皆さんが数で攻めれば容易に倒せる相手かと」

「僕としては邪獣を自在に発生させられることが脅威だったな。戦っている時もかなり邪魔で、あれで騎士団との連携が封じられたわけでもあるし」


 イルバース単体は駆け出し戦士のキヨカ達ですら倒せる相手なのだから、百戦錬磨の騎士団が相手をすればもっと楽に倒せただろう。ただし、それをさせない戦略を考える頭脳と大量の邪獣を召喚する能力が脅威であった。


「ふぅむ……一つ確認するが、そのイルバースという邪人は君達の前にも邪獣を召喚したと言ったね」

「はい、通常時で3体。瀕死状態で4体出現しました」

「騎士団を動けなくするほど邪獣を大量発生させられる割には、少なすぎないか?」

「……確かに」


 邪獣を大量発生させてキヨカ達にけしかければ、邪人は自らの手を下すことなく簡単にキヨカ達を葬り去ることが出来たはずだ。それなのに邪人は多くても4体しか出現させなかった。自らの手で倒さなければ気が済まないタイプだったようにも見えない。


 キヨカ達がもたらした情報を元に、国王とパフィーが議論をはじめる。


「邪気があることが条件なのか?」

「騎士団に邪気溜まり近くの見回りを強化させますか?」

「いや、数体とはいえどこでも召喚できるというのも脅威だ。闇のクリスタルの件もあるし、街中で邪獣が出現することも想定した方が良いかもしれんな」


 真剣に議論する姿からは、国王らしい優秀さが垣間見えていた。


「偽魔石に闇のクリスタルに邪獣召喚。はぁ……頭が痛くなるぜ」

「そういえば一つ疑問なのですが、どうしてイルバースは全ての魔石を偽魔石に変えたのでしょうか。本物の中に混ぜた方が社会に混乱をもたらすには効果的だと思うのですが」


 パフィーの疑問は尤もだ。

 今回は偽魔石のみが大量に召喚させられたため、それらを漏れなく廃棄して偽魔石の存在を世間に秘匿することが出来たが、本物の魔石の中に紛れ込ませていたらその存在に気付かずランダムで爆発事故が起きて魔石の信頼度を損なわせることが出来たはずだ。


「本物の魔石がある時には偽魔石を紛れ込ませられない、あるいはそこまでのことは考えていなかったのか?そこんとこ君達はどう思う?」


 イルバースとの戦闘前の会話を思い出す。


「イルバースと会話した時は偽魔石を爆発させて騎士団を殲滅する意図は伺えたのですが、魔石の信頼を損なわせようとする意図は感じられませんでした」

「確かにあいつはそんなこと言ってなかったな」

「うん(コクコク)」


 となるとイルバースはそこまでのことを考えていなかったという可能性が高いだろう。


「邪神デドーだったか。恐怖を集めてそいつが復活するってんならうってつけの方法だと思うんだがな。騎士団殲滅が目的だったから気付かなかったのかね。それはそれで大ダメージなのは間違いないからなぁ」


 騎士団は国民から信頼され人気が高い。

 もし壊滅したとなれば、国民のショックは計り知れないだろう。

 しかもその後は邪獣に怯える日々がやってくる。


 恐怖や絶望を糧にすると言うのなら、これ以上ない程の効果が得られる作戦だ。だからこそ、それ以上の策を考えてはいなかったのかもしれない。


 その後もいくつかの質疑を通して国王は考えをまとめてゆく。


「よし、報告サンキュ。おかげさまでやるべきことが沢山見つかったよ」

「お役に立てたようで何よりです」

「早速だが取り掛からねば」

「何からやりましょうか?」


 パフューの疑問に国王は勢いよくソファーから立ち上がり宣言する。


「それはもちろん、クレイラの街を救った大英雄を称えたパレードだ!」

「ええええええええ!」


 騎士団からのパレードの申し出は断れたのに、その話がここで復活するとは思わずキヨカは驚いた。


「いや、そういうの、私は遠慮します!」

「はっはっはっ、遠慮なんてしなくて良いぞ。街中の大通りを占有した大パレードに王城を開放しての舞踏会。国民の前でスピーチもやってもらおうかな!」

「いやー!」


 パレードの主役として目立つことが恥ずかしくてたまらないキヨカは、次々と出て来るアイデアに顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「今の戦士姿も良いが、きっとキヨカちゃんにはドレス姿も似合うだろう。むしろお色直しを何回もやって」

「こら」

「いたああああっ!角がっ!角がああああっ!」

「そのくらいにしておきなさい」


 キヨカが照れる姿を見て調子に乗る国王を殴るパフュー


「手紙に弄るなって書いてあったでしょう」

「ぐうううっ、やるなと書かれてたらやってみたくなるのが人間」

「ふんっ」

「ぬおおおお!同じところに角はヤバいから!メディーック!メディーック!」

「ごめんなさい。全部この馬鹿の冗談だから」

「え?え?」


 領主からの手紙にはキヨカが大々的に称えられるのが苦手であるから決してやらないように強く書かれていた。国王はそれを読んで『いいか、やるなよ、絶対やるなよ』精神でやってしまったのだ。


『国王たすかる』

『たすかる』

『●REC』


 真っ赤になった可愛らしいキヨカを見ることが出来たのでコメント欄は大盛り上がりである。


「謝りなさい」

「うううう」

「あーやーまーりーなーさーいー」

「大変申し訳ございませんでした」


 腰を深く曲げて謝る国王。

 キヨカはまだ顔が赤いがジト目である。ある意味ご褒美だ。


「ったた、お詫びと言うわけではないがスミカの話をしてあげよう」

「おね……姉を知っているのですか!?」


 クレイラの街の領主に続き、国王からも姉の話が出て来て驚愕する。


「知っているも何も、この大陸で彼女のことを知らない人なんて居ないんじゃないか?」

「大陸レベル!?」


 キヨカが全く想像していなかった規模の話が出て来た。


「ああ、何しろ彼女は『勇者』でありギガントハンターであるからな」

「勇者?」


 ギガントハンターについては分かる。

 邪獣情報センターでギガントと名の付く邪獣をスミカが倒したと書かれていたからだ。クレイラの街の領主からもギガントトードを撃破した話を聞いていた。


 だがスミカが『勇者』であるというのは初耳だ。


「彼女はおそらくは世界で唯一『光魔法』を使える人物だ」


 光魔法は勇者にしか扱えないと言われている属性魔法である。

 スミカはその魔法を使いこなしていたと言う。


「光魔法を!?」


 キヨカが知っている姉は自分と同じ戦士タイプだったはず。

 魔法は使えないものだと思っていたのでかなり驚いた。

 もしかすると自分も使えるのかもしれないと頭をよぎったが残念、魔力を上げられない以上無理である。


「もちろんそれだけではない。彼女はギガント系の魔物を始めとした世界を滅ぼしうる邪獣を進んで何体も倒している。その戦いぶりは勇者の名に相応しく勇敢でどんな困難が立ちふさがっても決して諦めないという」

「お姉ちゃん何やってんの!?」


 強敵と戦っていたというだけでも心配なのに、それは巻き込まれたからではなく自ら進んで戦っていたと知り呆れて物も言えなかった。


「スミカもキヨカちゃんと同じで可愛くて綺麗な人でな。仲良くなれたらなんて思ってギガントタートル討伐について行ったんだが、あれは勇者というより修羅だな。血まみれで笑いながら邪獣を屠る姿には狂気を感じたよ」

「姉が申し訳ありません」

「キヨカちゃんも……いや、なんでもない」

「そこはちゃんと聞いて下さいよ!私は違いますからね!」

「え!?」

「こらセネール!」


 弄られた仕返しにとセネールがキヨカを揶揄う。

 セネールとしては冗談のつもりだったのだが、ここでまさかのセネールに援護射撃が来た。


「でもお姉ちゃん戦ってるとき楽しそうだよ」

「ポトフちゃーーーーん!」

「血は争えない……か」

「違っ」


 まさかのポトフの反逆に涙目になるキヨカだった。

 レオナも頷いているし、コメント欄も同意していて、キヨカに味方は居なかった。


『わかる』

『痛くて苦しそうなのに少し笑ってる時あるよな』

『ドМなのか狂戦士なのかどっちかだと思ってた』

『キヨカたんの場合、年頃の女の子っぽい振る舞いと混ざってるのがギャップがあって良いんだよね』

『血まみれ狂戦士にはならないでください』


 スミカとキヨカで大きく異なるのは、女子力の高さである。

 ドレスに対する反応から分かるように、キヨカの方が圧倒的に女子力が高い。可愛いもの好きで照れ屋で、邪獣と相対してもどことなく御淑やかな振る舞いが残されている。強さと弱さの両方を感じられるため、見ていて応援したくなるのである。


 もし国王がキヨカの戦いを見ていたら本気で気に入って婚姻のアプローチをかけられてしまったかもしれないが、スミカの前例があるため避けてしまった。キヨカは間接的に姉に助けられていたのである。


「姉が居たのはいつ頃の話でしょうか?」

「いつだったか……一年以上前だとは思うが」

「そうですか……」


 残念ながら姉の現在の行方に関する情報は得られなかったが、時間の許す限り様々なエピソードを教えてもらう。


 そして話が一区切りつき、そろそろ終わりに向かっていた時のこと。


「キヨカちゃんは王都は初めてかい?」

「はい」

「それなら是非王城を見て行くと良い」


 国王が応接室の大きなカーテンを開けた。

 窓の向こうは海が広がっており、下を見ると王城があった。


「この国の誇りの象徴なんだ」

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