4. 【異】王都
ブライツ王国の王都は横長の長方形に近い形をしている。
長方形の上辺と右辺が内海に接しており、西と南の大陸側は人口増加により拡大傾向にある。
また、王国内は次の通り綺麗に区画整理されている。
東部がビジネス街と居住区。
北部は工場と港区。
南部は食やショッピングやエンタメを中心とした繁華街。
西部は居住区。
各地区いずれも大小様々な公園があり緑豊か。
物は揃うし仕事も遊ぶところも山ほどある、とても住みやすい都だ。
この世界では侵略戦争は起こり得ず沢山の邪獣が攻めてくることも無いため、街は壁で囲われておらず出入りは自由。出入り制限については、国境を行き来する場合のみ検問所で軽い確認がある程度だ。
、キヨカ達の乗った乗合魔動車も特にチェックされること無く、都の南部から中に入ってすぐのところで停車した。
「ここが王都!」
「キヨカくんは初めてかい?」
「うん、凄い沢山人がいるね!」
大通り沿いには2~4階建ての建物がみっちりと詰まって並んでいる。加えて人がせわしなく歩いているところから、日本の大きな駅前のような活気を感じた。
「ここは宿が集まっているところだから人が多いんです」
「ケイは来たことあるんだっけ?」
「はい、ここに泊まって精霊を探していましたので」
世界中を旅していたセネールとケイは当然王都にも立ち寄ったことがあった。
ポトフは興味が無いのかキヨカと手を繋いで無表情で景色を眺めていたが、キヨカは久しぶりの都会感が懐かしくてテンションが上がっていた。レオナはケイがいるので話をすることなくポトフの頭の上にお座りして静かにしている。
「まずはチェックインして王都観光って言いたいところだけど、例の件をさっさと終わらせないとね」
「急がなくても大丈夫だと言っているだろう」
「私が嫌なのー!早く終わらせて楽しむんだから!」
気が進まない依頼をさっさと終わらせて、気分さっぱりな状態で王都観光を楽しみたいのだ。
「私達はちょっと用事があるんだけどケイはどうする?」
「ボクは邪獣情報センターに行ってあの狼について報告してきます」
「了解、それじゃあまた後でね」
「はい」
ケイと別れて王様への報告へ向かうキヨカ達。
「本当に突然行って大丈夫なのかなぁ」
「気にしすぎだぞ。時間が合わなければ調整してくれるから大丈夫だ」
「ううむ。不敬で打ち首!なんて言われたら怖いよぅ」
「そうなったらキヨカくんを囮にして僕は逃げよう」
「助けろー!」
「はっはっはっ」
「キヨちゃんならノリで返り討ちにしそう」
「レオナちゃん!?」
などと掛け合いをしながら魔動バスが来るのを待つ。王都は広いため基本的にバスで移動する。それほど遠くない場所への移動であればセグ〇ェイのような乗り物が無料貸し出しされているのでそれを使う。
「ビジネス街行、これだね」
王様が働く場所と言えば王城というのが普通であるが、この国の王様は王城では無くビジネス街の中に建てられている巨大なビルの中で働いている。キヨカ達はそのビルに向かうバスに乗車した。
「すごい発展してるんだなぁ。スール村とは大違いだよ」
「僕は田舎の牧歌的な風景も好きだがな」
「私は……悩むなぁ」
日本的な生活に似ているのは間違いなく王都だ。建物や街の作りも現代地球と比べてなんら遜色がない。一方スール村は中世ヨーロッパ的な田舎よりは発展しているが、人が少ない農村ではやはり不便感は否めない。ただし、短い間とは言え家族で過ごしていて愛着が湧いているため、村と都会のどちらが良いかと言われると悩んでしまうキヨカであった。
キヨカを乗せた魔動バスは南部の繁華街を抜けて中央交差点へと進入する。そこは地球で見たことのある風景に雰囲気がとても似ていた。
「これもう渋谷じゃん」
「渋谷?」
「気にしないで」
レオナがポトフの頭の上でうんうんと頷いている。
この交差点は、あまりにも人が多いのと多くの魔動バスが行き来することから、信号機が設置されていた。
大量の人が歩き交う姿はまるで渋谷のスクランブル交差点のようだった。
そのスクランブル交差点を右折してバスはビジネス街の方面へ向かう。ここまでは2~4階建ての建物しか無かったが、徐々に高層ビルが目立つようになってくる。
「丸の内ってこんな感じなのかな?」
「丸の内?」
「気にしないで」
やはりレオナも頷いている。
キヨカは行ったことが無いが、イメージしていた丸の内の光景が目の前に広がっていた。高層ビルが立ち並ぶビジネス街を魔動バスに乗って進んでいると、東京に来たかのような錯覚を覚えた。
魔動バスの終点。
ビジネス街の東端、海に面したところにある何十階もありそうな一際大きなビルに到着した。
ビルの入り口は自動ドアでは無かったが扉を開ける専用の人が居て、キヨカはVIP的な扱いに感じて少し臆する。
「あの~すいません」
「ご用件を伺います」
ビルの1階のフロントの女性に声をかける。
「これを渡せば良いって言われたんですけど……」
領主から渡された手紙をフロントの女性に手渡す。
このビルのフロントでこの手紙を渡せば王様に会えると言われていた。
「あちらの部屋で少々お待ちください」
女性はその手紙を受け取ると、近くの部屋で待機するようにお願いする。
その部屋に入ると豪華なソファーが並び、カウンターで飲み物が無料で提供されている。
「うう……なんか緊張するなぁ」
「そうかい?」
高級そうなソファーに座って良いものかどうかすら悩むキヨカと、まったく気にせず深く腰を下ろすセネール。遠慮なくカウンターに向かって飲み物をゲットするポトフと三者三様の行動を取った。
「お姉ちゃん、はい」
「あ、ありがとう」
ポトフがキヨカの分も飲み物を持ってきてくれた。
緊張して喉が渇いていたからありがたかった。
もちろんセネールの分は無い。
ポトフはあくまでもキヨカ第一なのである。
キヨカが観念してフカフカのソファーに腰を沈めて快適さを味わっていたら、フロントに居た人とは別の女性がやってきた。
「キヨカ様、ポトフ様、セネール様、お待たせ致しました」
妙齢の女性で地球のスーツに似ている服をきっちりと着こなしていて、お偉いさんの空気がプンプン漂っている。
「陛下の元にご案内いたします」
領主の言う通り、本当にアポなしでも謁見出来てしまった。
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