2. 【異】王都へ

 ガルクレイム大陸は広大な内海を囲む横長の輪のような形の大陸である。


 南部と北部にそれぞれ大国があり、西部は小国群が乱立。

 東部は険しい山脈が殆どであるため国は無いが高山地帯に遊牧民が住んでいる。


 南部の大国の名はブライツ王国。

 王都は南部の中央付近、内海に接している場所にある。

 鉱山の街クレイラは大陸南西部にあるため、街から真っすぐ東に向かうと王都に辿り着くが、その距離はスール村とクレイラの街の間とは比較にならない。


「代わり映えしない景色だねぇ」

「左に海、右に草原遠くに山。この大陸では定番の景色だな」

「流石に飽きちゃうよ。皆どうやって暇潰してるんだろう」


 キヨカ達は今、馬車タイプの乗合魔動車に乗って王都へ向かっている。

 街を出た当初は外の景色に興味津々でテンションが高くポトフやセネールに何度も話しかけていたキヨカだったが、何日経っても景色が変わらず話す内容も徐々に減り、すっかり飽きてしまった。

 セネールは何を考えているのか分からないがやることが無くても平気な様子で、ポトフはキヨカの膝枕で延々と寝ている。


「そりゃあ普通の人は途中で休憩するのさ。僕達みたいにノンストップで王都に行こうなんてもの好きは滅多に居ないぞ」

「ううーだって急いだほうが良いと思ったんだもん」

「急がなくて良いとあれほど言われていたじゃないか」

「だって相手は王様だよ?そう言われても偉い人の社交辞令みたいなもんだと思っちゃうじゃん」


 キヨカ達が王都に向かっている理由。

 それはクレイラの街での事件について王様に直接報告すること。

 クレイラの街の領主から依頼されたのだ。


――――――――


「キヨカさん、もしまだ行き先が決まってないのでしたら、今回の件について王に報告して来てくれれませんか?」

「ええええ!?お、お、王様ああああ!?」

「はははは、そんなに驚かなくても良いじゃないか」

「だ、だ、だって王様ですよ!?ただの平民の私が!?」

「キヨカさんは知らないのか。王は私と同じタイプでね、普段から市井の人と気さくにコミュニケーションするタイプなのさ。平民だからとか気にしなくて良いですよ」

「そうだとしましても何故私ですか?このような重要な用件は領主様が直々に報告した方が良いのではないでしょうか」

「残念ながらあの事件の後始末が山ほどあってね。この街を離れるのは難しそうなんだ。だからキヨカさんが報告してくれるととても助かる。キヨカさんなら『例の事』も報告出来るからね」


 世間を不安にしないように秘密にされている偽魔石の存在。

 イルバースが仄めかしたデドーという邪神の存在。

 どちらもキヨカであれば詳細を報告可能だ。

 それに偽魔石の威力を身をもって体験したキヨカの報告は大変貴重なのだ。


 ただし、領主には王様へ英雄を紹介したいという裏の意図もあるのだが、もちろんそんなことは口にしない。


「もし受けてくれるなら、いや、受けてくれなくても王都へ向かうのであれば騎士団にお願いして連れて行ってもらおう。普通に向かうよりも大分早く着くはずだ」

「うううう、早く移動出来るのは嬉しいですけど」

「騎士団はキヨカさんにとても感謝してるから、その場合は王国を救った英雄として王都で大々的にパレード」

「自分で行きます!」


 結局騎士団による王都行きは断ったものの、王様への報告は断れなかったのである。


――――――――


「せっかくの旅なんだから、慌てて進まずに次の休憩所で降りたらどうだい?」

「……そうする」


 旅の覚悟を色々としていたはずのキヨカだったが、我慢の限界に近づいていた。

 主に体の臭いとか臭いとか臭いとか。

 体を布で拭くだけなど耐えられない。

 ましてやこの世界では風呂文化が根付いているのだ。

 休憩所で降りて宿で休めばお風呂に入れる。

 それをスルーして旅を続けるなど年頃の女の子には無茶無謀というもの。


「ポトフちゃんもそれで良い?」

「うん(コク)」


 イルバース戦後、ポトフにも大きな変化があった。

 今のポトフは幼女ならぬ大きめな幼女なのだ。


 祝勝会の夜に宿に戻って寝ようとしたところ、ポトフが突然服を脱ぎ全裸になった。何をしているのかとキヨカが疑問に思っていたらポトフの体が数秒間強く光った。光が収まった時にはこれまで小学1年生くらいだった体が小学4年生くらいの体格に成長したのだ。


 ポトフに理由を聞いても良く分からないの一点張り。

 レオナを始めとした地球組に聞いても分からなかったが、イルバースを倒したことが何か影響しているのかもしれないという予想が帰って来た。


 つまりこの先ボスを倒したらまだ成長するかもしれない。

 更にはポトフの記憶が戻る可能性があるかも知れず、キヨカは邪獣達との戦いをより強く決意した。


「次の休憩所はどんなところかな」

「確か小さな宿屋があるくらいだったかな」

「なーんだ、買い物とか出来るかと思ったのに。残念」

「キヨカくんはショッピングが好きだなぁ」


 そう言ってセネールは今の自分の服装を見る。金ぴかだった悪趣味な装備は一新。キヨカコーディネートによりパーソナルカラーを意識した男らしい見た目に変更されていたのだ。


「僕は以前の装備の方が威厳があって好きなんだけどね」

「戻したらパーティー解消するからね」


 セネールは金ぴかの方が豪華で格好良く感じるタイプの人間だったので、今の落ち着いた色合いの装備は地味だとしか思えていなかった。実際は街行く女性が思わず振り返ってしまうほど似合っているのだが。


 最初にこの姿で紳士的にキヨカに話しかけて来たならば、もしかしたら多少はキヨカの心をぐらっとさせられたのかもしれない。


 ちなみに、なぜセネールがキヨカのコーディネートを受け入れたのかと言うと、キヨカの旅に同行するためだ。同行の理由はキヨカに着いて行けばスミカに出会える可能性が高いと考えたからなのだが、キヨカが指定した装備品を着用するという条件がつけられてしまった。痛々しい格好の男性と一緒に旅をするなんて全力でお断りなキヨカであった。


 そんなこんなで休憩所、高速道路のパーキングエリア的な場所についたキヨカ達。小さな宿に入りチェックインしようと思ったのだが。


「ええっ!行っちゃったの!?」


 宿屋の女将らしき人が、困り声を上げていた。

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