23. 【異】黒幕
『出口に強い敵がいるかもしれないから気をつけて』
『出た後も注意してね』
「分かった、ありがとう!」
ダンジョンの出口付近でのボス戦は定番だ。
コメントのアドバイス通りに、キヨカは周囲を警戒しながら出口に近づく。
しかし予想外に強敵との遭遇は無く、キヨカ達は鉱山の外に出る。
そのまま急いで交易路まで進み、騎士団がベースキャンプを張っている場所まで走る。
「あそこだ!」
いくつものテントが見えた。
遠目からでは特に問題が起きているようには見えない。
「どうやら間に合ったようだな」
領主がほっとした表情になる。
偽魔石よりも先に到着出来たことで、騎士団壊滅という最悪の事態を回避出来そうだからだ。
「領主様!?」
戦闘に次ぐ戦闘で汚れた装備を身に纏った領主がキャンプに突然現れ、入り口を見張っていた騎士団員が驚愕する。
「火急の用件がある。責任者に取り次いでもらえないか」
「はっ!」
大慌てで騎士団のリーダーに報告をするべく団員は走って行く。
「彼らを休ませてやってくれないか」
「承知致しました。皆様、こちらへどうぞ」
騎士団員がキヨカ達を休憩用のテントへと連れて行こうとするがキヨカは断った。
「いえ、休憩は結構です。それよりもアイテムの補充がしたいのですが」
「それも『アドバイス』によるものかね?」
「はい、まだ油断は出来ない、と」
「ふむ……承知した。それでは私も急いで戻るとしよう」
領主が去った後、キヨカ達は騎士団に随伴してきた商人達のところに案内された。
「これの換金も出来ますか?」
「もちろん可能です。立派な短剣ですね」
ここで無償で補充できるわけでは無い。
商人にだって生活があるのだ。
むしろこの場で大量の商品を販売してもらい、彼らに儲けを与えるのが騎士団の狙いでもある。
もちろん、真に厳しい状態であるならば彼らも無償提供を厭わないだろうし、後から国がその分の保証をするだろう。だが今は邪獣が溢れて来ているとはいえ対処できる範囲内の通常時。騎士団としても限られたアイテムの中でやりくりする訓練として捉えてもいるのだ。
ただし、キヨカ達がもたらした情報を伝えれば緊急事態であるため無償で提供してもらえるだろう。だがそれは偽魔石の存在を漏らしてしまうことになってしまう。依頼すれば商人達は口を閉ざすだろうが、秘密とは知る人が増えれば増える程意図しないところで漏れるものであるため、伝えることはしなかった。
そのような裏事情もあり、キヨカたちは短剣を売却したお金を使ってアイテムの補充をする。運が良いことにリバイブの石を1個廃鉱山内で発見したため、その分のお金も他のアイテム購入に割り当てられる。
「よし、これで良いかな」
「入口に戻ろう」
キヨカ達がアイテムを揃えて入口に戻ると、領主はすでに話を終えていた。
「責任者とは話をつけてきた。私達はこれから交易路をクレイラの街の方へ進み、偽魔石を運んでいる魔動車に接触。引き返すよう指示を出す」
『はい(こくこく)』
減ったHPやWP(MP)はアイテムで回復済。
疲労はあるが数値的には万全の状態だ。
しばらく交易路を歩いていると、大量の偽魔石を運んだ魔動車を発見。
軽トラのような形の魔動車で、箱に入れられた偽魔石が積み上げられている。
「これで万事解決だな」
領主が運転手に指示をしているのを見ながら、セネールが安心したような声を出す。
「……」
「キヨカくん?」
だがキヨカとポトフは厳しい表情で辺りの警戒を怠らない。
絶対に何かが起こるとコメント欄で強く言われているのだ。
そしてその予感は的中する。
「あっ!」
どこからか小さな炎が飛んできて、軽トラの荷台に直撃する。
その途端に大量の光が発生し、急激に熱が発生する。
このままでは大爆発により、キヨカ達や運転手が吹き飛んでしまう。
「な……どうしたら!」
「くそおおおおおお!」
パニックになりかける領主と、無謀にも偽魔石に向かって特攻するセネール。少しでも被害を軽減するために偽魔石を直接軽トラから投げ捨てようとしているのだろう。
だがキヨカは焦らない。
一分一秒を争う事態など、慣れっこなのだ。
発展途上の国で見かけた飢えて死にそうな子供達は、数秒先にも死にそうな状態だったのだから!
「領主様!海です!」
交易路は山と内海に挟まれた場所を通っている。
つまり海沿いの道だ。
「そうか!」
領主はキヨカの意図に気付き、運転席に乗りアクセル全開で軽トラを海に向かって走らせる。アクセルを固定して着水ギリギリのところでなんとか運転席から脱出。魔動車は海の中へと消えて行く。
「ふせろおおおおおおおおおお!」
領主が叫ぶ。
キヨカはポトフに覆いかぶさるようにその場に伏せた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
耳をつんざくような爆発音とともに、海水の柱が十メートル以上の高さまで吹きあがり、多くの海水がキヨカ達に降り注いできた。
「けほっけほっ……」
被害はたったそれだけ。
キヨカの機転とそれを信じた領主の行動により全滅の危機は
「みんな……まだ油断しないでっ!」
爆音により頭の奥の方がキンキンと痛む不快感に耐えながら、全員が立ち上がる。
偽魔石に魔法を投げ込んだ者が近くにいるはずなのだ。
「ちぇーっ、結局これも失敗かー」
ソレは人間の形をしていた。
ゴーレムのような人間らしい形をしている、という意味では無い。
人間の若者と同じくらいの体格、背格好なのだ。
「じゃ……邪人だと!?」
セネールが震える声で叫ぶ。
「邪人、こいつがか!?」
それを聞いた領主が驚きの声を上げる。
「邪人ってなに?」
「邪獣とは違って知性を持つ人の形をした化け物だ!」
どこで生まれたのかは世界中の誰も知らない。
明確な悪意をもって世界に害をなさんと、これまで多くの悲劇を生み出してきた世界の敵。
「おいおい、化け物とは心外だな。まぁ、君たちとは少々違う見た目なのは否定しないが」
目の前の敵は、体型こそ人間に近いものの、見た目は明らかに人間とは異なっていた。
その顔は鉱山で散々戦ってきた敵にそっくりだ。
コウモリ男。
背中にコウモリの羽を生やしたそいつは、紛れもなく人であり邪獣であり、すなわち邪人であった。
「……っ!」
邪人の恐ろしさを知っているセネールと領主は驚きと恐怖で声が出ない様子。
一方キヨカは邪人のことを知らないためか、いくらか冷静であった。
「あなたが全て仕掛けたのね!」
「ふふふ、そうさ。獣達を暴れさせて厄介な連中をおびき寄せ、偽の魔石を作ってまとめてどかーんな予定だったんだよ。君達に全て台無しにされちゃったけどね。せっかく鉱山に獣を放ってまで邪魔したのにさ」
つまりこいつがクレイラの街を中心とした異常事態の元凶。
偽魔石による騎士団の一括撃破を狙った悪意の塊。
「せめて邪魔してくれた君達くらいは消してやろうと思ったのに、まさかそれすらも防がれるとは思わなかったよ」
残念そうに頭を振りかぶる
「あなたはっ!」
激昂するキヨカ。
「いつまでも『あなた』だなんて言われるのは気分が良くないな」
邪人はそう言うと右手を胸にあててキヨカ達に向かって軽く頭を下げる。
「お初にお目にかかります。私の名前はイルバース。邪人イルバースでございます」
キヨカがこの世界で初めて邪人と相対した瞬間であった。
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