17. 【異】闇のクリスタルとゴーレム 後編
HPが0になるということは、どういうことか。
その設定はゲームによって異なる。
単純に死として扱うゲームもあれば、戦闘不能と表現するものもある。
ジャンルは違うが某シミュレーションRPGでは、HPが0になったらキャラが死亡して蘇ることは無かったりもする。
ではこの世界ではどうかというと、幸運なことにと表現して良いのかは分からないが、戦闘不能扱いだ。そしてそれはちょっと高価なアイテムを使えば回復できるものだ。
「セネール!リバイヴの石!」
キヨカがやられたことによる衝撃から一早く復活したのは、セネールでも領主でもなくポトフだった。そこには普段の寡黙な姿は無く、厳しい表情でキヨカの指揮を引き継いでいた。
「あ、ああ!」
ヒールの対象であったキヨカがやられてしまったため、ポトフのヒールは無効となり次のターンがはじまる。
このターンでキヨカを戦闘不能状態から復活させて、かつHPも回復させる。リバイブの石は戦闘不能状態から回復させるアイテムだが、HPが1で回復するため次のゴーレムの攻撃を受けたらまた戦闘不能になってしまう。そうなる前に回復させる必要があるのだ。
鉱山に入った後、キヨカはリバイブの石をセネールに持たせた。セネールはパーティーの中で一番行動順が早いため、後から行動するポトフがヒールをかけることで1ターン内に復活と回復の両方が行えるのだ。しかもゴーレムは動きが遅いので、復活と回復の間に行動が入って邪魔される可能性も低い。
もちろんこれらは全てスレ民からのアドバイスによるものだが、それにより九死に一生を得た形となった。
「キヨカくん!」
セネールがクリティカルヒットによって大きく吹き飛ばされたキヨカの元へと走り寄る。
「……あ……あ……あ」
キヨカに新たな目立った外傷は見られない。だが、その目は瞳孔が開きかけ、半開きの口から僅かなうめき声が漏れるだけ。その声が無ければ死んでいると思われてもおかしくない状態だ。
「キヨちゃん!キヨちゃん!キヨちゃん!いやああああああああ!」
レオナが近くで泣き叫んでいるが、セネール達に聞こえていない。
「リバイブの石よ、頼む!」
セネールがリバイブの石をキヨカの胸の上に置くと、石は一度だけ赤く光りパリンと割れた。
「ん……あ……」
このまま呼びかけて介抱したいところだが、今はまだ戦闘中。ここにいたらゴーレムに自分ごと攻撃されるかもしれないと思ったセネールは、ポトフが回復してくれると信じてその場を離れる。
「ヒール!」
狙い通りにポトフがキヨカを回復し、HPが安全圏まで増加する。
「お姉ちゃん!」
今だ横になっているキヨカ。このターンのゴーレムの攻撃はキヨカではなくセネールに向かったが、次のターンが待っている。
「だいっ……じょうっ……ぶ!」
「キヨちゃああああああああん!」
片膝を立てて、よろよろと立ち上がるキヨカ。死んだにも等しい経験をしたにも関わらず、復帰したキヨカの目に恐れはなく、目の前の敵を鋭い瞳で見つめていた。
「ポトフはもう一回私に回復お願い!私はセネールをポーションで回復、セネールは防御!」
『了解(こくこく)!』
先ほどの攻撃がまた来るのかどうか、キヨカには分からない。
本来ならばそれを伝えるはずのレオナがパニックになっているからだ。
そのため、万全の態勢で戦うように戦略を変更した。
「じゃあ私も回復に回ろう。ヒール!」
『え?』
キヨカがポーションをセネールに渡し、彼がそれを飲もうと口に含んだ時、領主が先にセネールにヒールをかける。
「私のポーションが無駄になっちゃうー!」
すでにHPが全快したセネールがポーションを飲むことになってしまったからだ。
「申し訳ない」
こんなあからさまなミスは普通ならしないと思うかもしれない。
だがゲームならありえる。
領主はキヨカの命令を聞かないゲストキャラだからだ。
大事故のせいで緊張感MAXだった戦いの現場は、領主のこのポンコツプレイにて少しだけ和んだ。
そんなこんなで態勢を整えてさえしまえば、先ほどのような大きな不運が無い限りは大したことの無い相手。
『はじまりの技:断』
にてゴーレムを撃破する。
雑魚の時より少し大きいブルークリスタルがからんと地面に落ち、キヨカはそれを回収する。
「あ……邪気が」
周囲に満ちていた邪気が、徐々に薄れてゆく。
謎のクリスタルと、それが消えて出現した邪獣。
これらが突然の邪気発生の原因であったことは間違いないようだ。
「それじゃあ任務完了ってことで帰ろっか」
ついさっきまで死にかけていたとは思えない軽い雰囲気のキヨカに、ポトフたちは詰め寄る。
体は大丈夫なのかと心配して。
その時、大地が揺れる。
「まさかまた!?」
鉱夫の言葉を思い出す。
揺れの後にクリスタルが出現したのだと。
再び武器を構えて辺りの様子をうかがうキヨカ達。
だが、その揺れはクリスタルの出現を意味するものでは無かった。
ゴーレムの戦いの余波によるものか、それとも元からその場所に問題があったのか理由は分からないが、キヨカたちは突然足元に開いた大穴に吸われるように落下するのであった。
『うわああああああああああああ!』
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