15. 【異】鉱山の邪獣
「僕はキヨカくんの指示に従うよ」
「良いのですか?」
「ああ、僕は人に指示をするのが苦手でね。それにもっとフランクに話してくれて構わないよ」
嘘だ。
人の上に立つ者の言い回しをしているじゃないか。
そう突っ込みたかったキヨカだが自重した。
敢えてそう宣言すると言うことは、大っぴらに言いたくない理由があるのだろうと思ったからだ。
「それなら私は君達のサポートに回ろう。これも良い経験だ。私のことは気にせず好きに戦ってみたまえ」
領主のように自分で判断してくれる方がキヨカとしては有難かった。
指示を出すとか面倒臭いのだ。
もちろん、お願いされたからにはしっかりとやるが。
「それじゃあ早速だけどセネールさんの戦いを見せて貰うよ」
目の前に現れたのはコウモリの邪獣。
地球の配信画面にはクレイラバットという名前が表示されている。
数が多く五匹もいる。
「分かった。それとセネールで良い」
「それなら私もキヨカで良いよ」
「分かった。キヨカくん」
「分かってない!もう、それじゃサンダーお願い」
「任された!」
先手を取ったのはセネール。
「サンダー!」
一匹のコウモリを包むように小さな雷撃が舞う。
コウモリはポトリと地面に落ちて消滅し、ブルークリスタルが出現する。
「魔法良いなぁってうわぁ!」
仲間を殺されて怒ったのか残った四匹が一斉に襲ってくる。
攻撃力が低いので強い痛みを感じず、対処しやすい敵だ。
「はははっ、油断禁物だよ」
あたふたするキヨカを横目に領主が剣を一閃、一匹撃破。
「油断なんてしてませんってば!」
キヨカも攻撃して撃破。
HPが少なく通常攻撃で一撃だ。
「あんまり強くないね」
クレイラバットは攻撃力が低く、HPも少ないが、必ず集団で出て来るようだ。
五匹、六匹、六匹、五匹と数多く出現する。
ただしこちらも四人。攻撃は実質三人だが、もっと増えたところで特に苦戦する相手では無さそうだ。
「セネールは槍技もあるの?」
「ああ。だが何回も使えないからここぞという時に使いたいかな。威力が必要な時に指示して欲しい」
「うん、分かった」
レオナからも温存するように言われている。ひとまず鉱山内での雑魚戦では不要そうだ。
「コウモリ、気持ち悪いブヨブヨの肉塊、巨大なイモムシ、こんなとこかな」
「イモムシの糸の対処が大変だな。優先して撃破した方が良さそうだ」
コウモリは数が多い。肉塊はHPが多い。イモムシは糸を吐き、絡まると取り除くのに1ターン無駄にするスタン効果。
毒攻撃も無く、このメンバーなら処理しやすい。
ただし。
「ああもうコウモリうざーい!」
「ふふふ、キヨカくん大人気だね」
キヨカが攻撃しようと思っても、先手を取られて攻撃を受けるのが地味にストレスだった。攻撃力は小さいとはいえ、ダメージも蓄積されてくるのだ。
「キヨちゃん、アレ使ってみたら?」
レオナが勧めるのは賞金首を倒してレベルが上がった際に覚えた新技。
「この憤りをぶつけちゃる!」
その技に特定の構えは無い。
盾を持ち、自然体で剣を中断に構え、攻撃したいと思った瞬間に迷わず体を前に進める。
どうやって斬るかは前に出ながら相手の動きを良く見て流れで判断する。
力は入れずに、当てることだけに特化した技。
『速さの技:
攻撃力は普通の攻撃よりも劣るが、敵よりも早く行動できるのが特徴だ。
「って倒せてないじゃーん!」
残念、疾風でコウモリを倒すにはもう少し攻撃力を上げなければならなかった。
――――――――
「いた!」
「大丈夫ですか!」
「おお、助けが来たか」
鉱山を探索していると、壁に寄りかかって座り込んでいる鉱夫の姿が見えた。
「足を怪我してる。ポトフちゃん、ヒールをお願い!」
「(コクコク)」
「待ちたまえ」
怪我を治すべくポトフにヒールをお願いしたが、領主がそれを止めさせる。
「ヒールは温存しておきなさい。ここは私のポーションを使おう」
まだ一人目。
少しでも長く滞在するために領主はヒールの使用を温存すべきだと考えたのだ。
「ありがとうございます。領主様、みなさん、助かりました」
その鉱夫は邪獣に襲われ、逃げ切れたものの足を負傷し、外に向かうことが出来なかった。
「トロッコがありますね」
「丁度良かった。君、トロッコで外まで移動してもらうから中に入ってくれないか?」
救助する時に毎回外まで護衛していたら時間がかかってしまう。そのため、トロッコに乗って自分で脱出してもらうことになっている。もちろん、途中で邪獣に襲われる可能性があるから、邪獣除けのアイテムを持たせてだ。
「本当にありがとな」
「外に出たら騎士団が待っていますから、後は指示に従ってくださいね」
「おう、分かった」
トロッコに備え付けの魔石に領主が魔力を篭めると、ガラガラと大きな音を立てて鉱山の外へと向かって進んで行った。
「魔石ってホント便利だよねぇ」
キヨカは足元に転がっていた魔石をなんとなく手に取り、ある意味地球以上の便利さを生み出しているエネルギーの存在を羨ましく思った。
「さぁ、残りの四人も救助してしまおう」
「ですね」
「当然です」
「(コクコク)」
漠然と、手にした魔石を何かに使えるかもと思いポケットに入れ、キヨカ達は救助のためにダンジョン探索を継続した。
四人を救助し、探していない場所は最奥だけとなる。
ただし手持ちの回復アイテム量が心もとないため、トロッコを使って一度入口まで戻り、補充してから再度最奥に向かう。
そしてその最奥の手前に、以前キヨカが来たときには見られなかったものがある。
「回復の泉?」
鉱山内にも関わらず滾々と湧き出る水。
邪気の森にもあった泉が出現していた。
不思議に思ったけれども体力が回復するのはありがたい。
万全の状態でキヨカたちは最奥へと足を運んだ。
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