12. 【異】フラグ3-2.姉を知る男とクレイラの街の領主
「討伐報告です」
「討伐報告です」
邪獣情報センターに戻り、賞金首の討伐報告をするキヨカ達。
窓口で報告しようとしたら、偶然にも隣の窓口で男性が別の賞金首の討伐報告をするところだった。
「(綺麗な人だけど……)」
キヨカはその男性のことをチラリと横目で見る。歳は自分と同じか少し上くらいだろうか。顔はイケメンなのだが、装備が全身金色で統一されていて趣味が悪く、すぐに興味を失った。
気を取り直してリーフポムの討伐報告の方に集中する。なんとなく男性からの視線を感じたが、先ほどは自分が見ていたのだから文句は言えない。
「ありがとうございました。こちら賞金になります。本当に助かりました」
「いえいえ、私も良い腕試しになりましたし、困っている人を助けられるなら喜んで協力します。というわけで、もう一体の方も狙ってみますね」
あまり強くない相手で危険は少なく、賞金が貰え、空飛ぶ敵と戦う訓練になるという美味しい相手なので、もう一匹も倒しに行くつもりだった。
「いえ、マッドイーグルは討伐されました」
「そうなんですか?」
「はい、隣の男性が討伐者になります」
趣味が悪いイケメン男性が、マッドイーグルを倒していたのだ。
「なるほど。それは良かったです」
戦闘訓練が出来ないのは残念だが、倒されたことで街の人が安心出来るのならそれが一番である。
報告が終わり邪獣情報センターを出ようとしたキヨカだったが、金ぴかイケメン男が声をかけてきた。
「お嬢さん、ちょっと良いかい?」
「なんでしょう」
「ちょっとお茶で」
「遠慮します」
食い気味での拒絶。
絶対に関わりたくないオーラを隠しもせずに発し、強烈な壁を作る。
金ぴかのダサさがキヨカ的にはNGなのだ。
『つよい』
『俺らのヘイト稼ぐ前に死んでるんだけど』
『正しいナンパの断り方』
『イケメンでもダメなことはあるのね』
『ただし、イケメンに限らない』
『せめてクソダサ装備じゃなければワンチャン』
『そのチャンスは俺らが永遠に訪れさせねーよ』
『何を思って金ぴかにしたのかね』
『強そうな装備ならまだ分かるけど……』
『レザージャケットw』
『あんまり金ぴかは弄るなって』
『どして?』
『ウサ子がちょっと凹んでる』
『あっ……』
『あっ……』
『あっ……』
キヨカが見ていないコメ欄が盛り上がる中、イケメン男は思わぬ反応を受けて呆然としていた。断られたり嫌がられる可能性はあるとは思っていたが、自分の言葉を遮られてまで突っぱねられるとは思っていなかったのだ。
「え、いや、その、変な意味じゃなくて、ええと、あの、どうしよ」
ナンパに慣れているタフな精神力を持つイケメン男ならば、ここで諦めずに何度もアタックするのだが、この男はそのタイプでは無かった。そもそもナンパするつもりなど微塵もなく、本当に単に話したい重要な用件があったのだ。取り付く島もない様子に、どうすれば良いのか分からず情けなくあたふたしてしまった。
キヨカはその姿を見てこの人物の印象が少し変わった。残念臭が漂っているしあまりお近づきにはなりたくないセンスの持ち主ではあるが、悪い人では無さそうではあるし、キヨカからも聞きたいこともが無くはないので、キヨカの方から誘ってみることにした。
「ふふっ、それじゃあお茶じゃなくて夕食の席でマッドイーグルの話を聞かせてもらえませんか?」
「あ、ああそうだな!お互い賞金首を倒したお祝いと、情報交換といこうか!」
落としてから上げる。酷い女である。
『小悪魔がいる』
『ヒエッ』
『勘違いさせ系女子』
『イケメンを手玉に取るかわいい女の子』
『最強じゃね?』
『コミュ強すぎる』
『残念イケメンがキヨカたんにガチ惚れそうで怖い』
『でも不思議と、空回りする未来しか見えない』
『それな』
『だがそれも長く続くと……』
『ギルティ』
『ギルティ』
『ギルティ』
『ギルティ』
まさかのキヨカ小悪魔ムーブにコメント欄も大混乱である。
「改めまして、僕はセネールという者だ」
「私はキヨカ、この子はポトフです」
「キヨカ……」
キヨカの名前を聞いたセネールは何か感じ入ることがあるのか、キヨカの顔をまじまじと見つめている。
「あの……何か?」
「いや、君があまりに美しいから見とれてしまったのさ」
「ありがとうございます」
「……女性の扱いに自信が無くなって来たよ」
キヨカは、自信があったことが驚きです、と言いたかったが男性の精神的ダメージが大きそうだったので堪えた。ちょっとでも下心が感じられたら遠慮なく潰していたが。
「一つアドバイスします。女性に話しかける時は慣れないことはしないで普通に話しかけた方が良いですよ」
「もしかして無理してる感じがする?」
「はい」
「……ふぅ~参った参った。それじゃ普通にやらせてもらうよ」
セネールはわざとらしすぎる女性を褒めるタイプの口調をやめ、フランクな口調に変える。
『イケメン力<キヨカたん』
『照れないのな』
『お世辞だと分かってると平気なのかも』
『お世辞じゃないだろ』
『でもあの言い方だとお世辞に聞こえるよな』
『定型文だもんな』
『キヨカたん褒めるの簡単だよね?』
『四文字で倒せるよな』
『かわいい』
『かわいい』
『かわいい』
『かわいい』
街中でコメント欄を閉じておいて正解だ。これをチラ見でもしてしまったらキヨカは真っ赤になってしまっただろうから。
「それで、何の御用でしょうか?」
「いや、その前にキヨカくんからどうぞ」
「私はマッドイーグルについて聞きたいだけですよ?」
「ええっ!本当にそれが目的だったのかい!?」
「はい」
それ以外にキヨカがセネールと話をする理由は無かった。顔だけイケメンなどキヨカにはアウトオブ眼中なのだ。
「高いところにいるときは雷魔法をあてて、降りてきたら槍で突くって感じで倒せたよ」
「雷魔法ですか……羨ましいです」
脳筋キヨカは魔力を上げることすら出来ないので、魔法を覚えられる可能性は存在しない。
「じゃあその子……ポトフくんは?」
セネールは美味しそうにご飯を食べるポトフが気になっていた。最初は杖を持っている幼女を見て戦わせていることに驚いたが、キヨカは無理にそんなことをさせる人には見えない。戦わざるを得ない何らかの深い事情があるのだろうと想像していた。
「ポトフは回復魔法しか使えなくて……」
「そうか……でもマッドイーグルなら戦闘中は低いところにいることが割と多いから魔法が無くても倒せると思うよ」
などなど、夕飯を食べながらしばらくお互いの賞金首の情報を交換する。
「それで、セネールさんの聞きたいことは何でしょうか?」
ナンパ目的のような出会いだったけれども、本当に聞きたいことがありそうだということは、話の節々から感じられた。
「僕はスミカくんを、君の姉を探しているんだ」
「えっ……?」
唐突に出て来た姉の名に、これまで精神的優位を保っていたキヨカの心が大きく揺さぶられる。
「おね……姉を、知っているのですか?」
「ああ、二年ほど前に僕の国に来たことがあるんだ」
旅に出てまだ数日、こんなにも早く姉の情報を手に入れられるとは思ってもみなかった。
「僕らは彼女にとてもお世話になってね、国中が彼女に感謝しているのさ」
「お姉ちゃんが……」
手紙にも書いていなかった姉の話。二年前なので中身はまだキヨカの姉では無いけれども、それでも人の助けになることをやっていたと知り、嬉しくなった。
「それで、彼女が僕の国を離れる時に忘れ物をしてね。取りに来ないから大切なものじゃないかも知れないけれど、丁度僕が世界を旅したいと思っていたこともあって、彼女に返すために彼女の出身地のスール村に向かっていたんだ」
「そうだったんですね。わざわざありがとうございます」
「ああ、本当に気にしないでくれたまえ。旅に出るきっかけを貰えて嬉しいくらいさ。それで、スミカくんはスール村にいるのかい?」
「それが……」
キヨカは姉が旅に出たまま帰ってきていないこと、一年前から音信不通であることを告げた。
「なんと、スミカくんが行方不明になっていたなんて……一大事じゃないか!」
「セネールさんは、姉の行き先に心当たりはありませんか?」
「う……そうだな。当時は外海を探索するって言ってたが……」
「外海ですか……遠いなぁ」
どちらもこの出会いで姉の情報が得られると思っていたが、そうならなかったことに気落ちする。
お互い暗い雰囲気になりかけていたその時、彼らに話しかける者がやってくる。
「お話し中済まない。相席しても良いかな?」
空いている席があるにも関わらず相席を申し込む謎の中年男性。金ぴかイケメンとは違って年相応の身なりをしているその男性は、大人の風格が感じられた。
「おっと訝しむのも当然だな。私はザン・クレイラ。この街の領主だ。民を悩ませていた賞金首を討伐してくれた二人にお礼を言いたいんだよ」
――――――――
「本当にありがとう。助かったよ」
「いえいえ、そんなお気になさらずに」
「そうですよ、僕たちはただやるべきだと思ったことをやっただけです」
心から謙遜する二人。
キヨカもセネールも腕試しを兼ねていて、倒すことで色々と得をしたので強くお礼を言われるのがむず痒かった。
「それでもお礼を言わせてもらいたい」
それほどまでに、クレイラの街を取り巻く状況は良く無かったということなのだろう。取り急ぎ民に危害を加える可能性が高い邪獣が居なくなっただけでも本当に大分助かったのだ。
「交易路の方はまだ大変なのですか?」
「そっちはついさっき王都からの応援が到着したから、街の騎士団は交代で戻って来ることになっているよ。だから安心して欲しい」
「それは良い情報ですね。民の不安も取り除けるでしょう」
キヨカはセネールの言い回しを聞いて、どことなく領主に近いものを感じた。民という言葉は上のものが使う言葉のイメージがあるからだ。実はどこかの国のお偉いさんなのでは無いか、と。
「(そういえば僕の国って言ってたっけ。あれって出身地じゃなくて本当にそういう意味なのかも?)」
その真実が明らかになるのはもう少し先の事である。
「それにしても、領主様が普通に話しかけて来るとは思いませんでしたよ」
「ははは、ここの料理は美味しいから良く来るんだよ」
「確かに美味しいですね、ここ」
「だろ?お嬢さんもそう思うよな」
「(こくこくこくこく)」
「美味そうに喰うなぁ。おーい、私にもこのスープ頼む!あとこのお嬢さんにもお替りな!」
「え、え」
「このくらいさせてくれ」
「ありがとう」
そんなこんなで人数が増えて夕飯は続く。
「それで、私が来るときに話していたのはスミカさんのことかい?」
「領主様もおね……姉のこと知っているのですか!?」
「知っているも何も、この街で彼女のことを知らない人はいないんじゃないかな」
スミカは二年半くらい前にこの街を訪れ、近くに住み着いていたギガントトードを倒した英雄なのだという。
「(お姉ちゃん何も言ってなかったー!)」
家族には心配かけまいと手紙で黙っていただろう事実が次々と出て来る。もっともっと危険なことをしていたなと確信した。
「妹にも助けられて、この街は君たち一家に頭が上がらないよ」
「わっわっ上げてくださいよ!」
「はっはっはっはっ」
ふと思い立って挑戦した賞金首退治だったが、思わぬ展開で姉のことを知るきっかけとなった。姉の行方に関する情報はまだ無いけれど、こうやって旅をしながら姉のことを知れるのかと思うと、キヨカは少しワクワクした。
「そうだ、最後に一つだけ」
「何ですか?」
「何でしょうか?」
沢山食べて沢山話をして、そして解散しようかというその時、領主が告げる。
「鉱山だけど、予定が早まって明日から採掘出来るようになるそうだ。興味があれば見に行くと良い」
フラグコンプリート
『第一章 鉱山の街 クレイラ』開幕
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