11. 【異】フラグ3-1.賞金首
「ポトフちゃん、そっち行ったよ!」
「大丈夫」
紫色の派手な体毛で覆われている小さな猿の邪獣が、ポトフを爪でひっかいた。だが、ポトフは手をクロスさせて防御したまま後ろに飛び、爪を掠らせるに止めた為、ほとんどダメージを受けていない。
「よくもポトフちゃんにっ!」
キヨカは鉄の剣を一閃し、猿を撃破。ブルークリスタルが地面に転がった。
「よし、これでポトフちゃんも限界まで能力が上がったかな」
クレイラ大平原。
クレイラ地方に広がるこの平原には多くの集落が点在し、農業が盛んな大穀倉地帯である。その中でも土の質が悪く未開発の場所があり、ある時そこに邪気が発生する。ここで発生する邪獣は弱いため、騎士団の新人のような邪獣狩りの初心者に向いている。
そのクレイラ大平原にて、キヨカ達はここ数日邪獣と戦い力をつけていた。基本的にポトフは攻撃の役には立てず、杖を使った攻撃もたいしたダメージを与えられないため防御優先からの随時回復。ポトフの回復魔法の存在により、回復アイテムの個数を気にしながら戦う必要が減ったキヨカは前衛としてのびのびと攻撃をしていた。
また、肝心のポトフの戦闘参加についても、防御することで思ったよりダメージが少なそうなので、キヨカの心配は少しだけ解消されていた。
キヨカ レベル6
ポトフ レベル4
ブルークリスタルの使用タイミングや金策方針などは地球民のアドバイスに従っている。
今日の狩りで能力はいずれもレベル限界まで上昇させ、街売りの最低限の装備を一通り揃えることが出来るようになった。
「ブルースネーク三体。めんどくさいの来ちゃった」
ブルースネークはその名の通り青い蛇の邪獣。その牙に噛まれたら確率で毒状態になってしまう。
「痛っ……ううーぎぼじわるい゛ー」
蛇の牙が手を掠ってしまい、早速キヨカが毒に犯される。
「ポトフちゃん解毒お願い」
「(こくり)アンチドート!」
ポトフの魔法で毒を解除し、攻撃に移る。しかし運が悪いことに魔法を使ったタイミングでポトフが狙われてしまう。
「嫌っ!」
ローブの上からの咬みつき攻撃だったので血は見えないが、ポトフは痛みで顔を顰めている。
「よくもポトフちゃんを!」
仕返しとばかりにポトフを攻撃したブルースネイクを攻撃しようとする。
「キヨちゃんダメ!先に弱ってる方を攻撃して数を減らすの!」
「ぐうっ!」
レオナが暴走しがちなキヨカのストッパーとなり的確なアドバイスで敵を屠る。
キヨカやポトフだけではなく、レオナやその裏に居るスレ民も含めて戦いの経験を積めていた。
「これの売却お願いします」
「承知致しました。少々お待ちください」
街に戻って来たキヨカ達はブルークリスタルを売却してお金を手に入れる。
今のペースだと装備のグレードアップにはまだまだ時間がかかる。
また、今の敵が弱く感じて来たので一段階上の敵か違う種類の敵と戦って経験を積みたいところ。
などと議論しているコメントを見ていた時のこと。
「キヨカ様、少々よろしいでしょうか」
「なんでしょう?」
邪獣情報センターの職員の女性がキヨカに話しかけてきた。
「キヨカ様の腕を見込んでお願いがございます」
「お願いですか?」
「はい、倒して頂きたい賞金首がいるのです」
「いやいやいや、無理ですよ!」
賞金首。
それは騎士団ですら手に負えない強い邪獣のこと。まだまだ駆け出しの戦士であるキヨカが太刀打ちできる相手ではない。
「クレイラ大平原で狩りが出来る方でしたら大丈夫です」
「どういうことですか?」
「ご依頼したい賞金首はクレイラ大平原から外に出て来たはぐれ邪獣になります。能力自体はブルースネイクよりも少し強い程度です」
ブルースネイク三体と戦っても余裕があるので、一匹なら確かに大丈夫かもしれない。
「そんなに弱い邪獣なのに賞金首になっているのですか?」
「はい、騎士団の方々は交易路の安全確保につきっきりの状態でして、それ以外の地域の守りが疎かになってしまっているんです。近隣の畑の近くに出没するため、畑作業が安全に出来ずに困っていまして……」
この世界では冒険者という職業は無い。邪獣と戦って腕を鍛える一般人は稀で、邪獣対策は騎士団のような専門業者がやるもの。弱い邪獣とはいえ被害少なく倒せる者はこの世界には多くない。ゆえに、若輩者とはいえ邪獣を倒せるキヨカの存在は大変ありがたいのだ。
「邪獣の情報を教えてください。見てから考えますね」
「はい、可能でしたらで構いませんので、無理をしない程度にご検討ください」
問題となっている邪獣は二匹。
マッドイーグル
少し太っている小さめの鷹。特殊な攻撃はしてこないが空を飛んでいるため攻撃をあてにくい
リーフポム
草の塊の邪獣。本体は攻撃を受けると分裂するので注意。毒攻撃もしてくるためブルースネイクを余裕をもって倒せる実力が必須。
相談した結果、キヨカ達は空中の敵相手に攻撃する手段を持っていないため、リーフポムと戦ってみることにした。
――――――――
「かわいい」
「(こくり)」
「ポトフちゃんもそう思うんだ!」
「二人ともおかしいよ……」
リーフポムは賞金首の説明通り、草が集まって真ん丸になったもの。サッカーボールよりもやや大きめのそれは、手足や顔が無くその場にふよふよと浮いている。
何故かレオナ達地球側は邪獣から猛烈な禍々しさを感じるため可愛さなど欠片も感じられないが、キヨカとポトフにはそれが無い。それがこの感性の違いとなっていた。
「それじゃあポトフちゃん、いつも通り行くよ」
「(こくり)」
賞金首相手とは言え、やることは変わらない。というか、やれることが限られている。
「はじまりの技:断」
まずはキヨカが一番威力の高い攻撃をリーフポムにあてる。ポトフは防御。
すると、リーフポムは情報通りに二つに分裂した。
「キヨちゃん!間違えないようにね!」
「うん!」
次は分身を狙って攻撃をする。この時本体を攻撃するとまた分身が増え、敵の手数が増えてしまう。そうならないようにするため、分身が出たら逐一撃破する。決して本体を連続攻撃してはならないと、地球側からしつこく念を押されていた。
「ポトフちゃん!来るよ!」
「ん!」
リーフポムの体から鋭い切れ味の葉っぱが飛んでくる。これに当たると毒状態になる可能性がある攻撃、リーフカッターだ。
「大丈夫だった」
「了解!」
毒にはならず、防御していたのでかすり傷で済んだ。もう一体の敵は体当たりでキヨカに向かってくる。
「おおっと、良い一撃だけどお猿さんの方が痛かったよ!」
盾で衝撃を受け止める。ダメージは喰らうものの、雑魚邪獣相手と大して変わりはない。
慌てて本体を連続攻撃して大量の分身にフルボッコにされることさえ気をつければ弱い邪獣なのである。
「はい、分身処理完了っと」
「良い感じだよ!キヨちゃん!」
特に危なげなく戦えているので、レオナも安心して見ていられる。些細なダメージでも二人が傷つくたびにドキっとするのは変わらないが。
「ポトフちゃん、回復お願い」
「(こくり)」
「ポトフちゃん、毒回復お願い」
「(こくり)」
「ポトフちゃん、自分を回復して」
「(こくり)」
「ポトフちゃん、防御に専念して」
「(こくり)」
キヨカは随時ポトフに指示を出しながら、着実にリーフポムの体力を減らしてゆく。ポトフのMPが切れる前に戦いは終わりそうだ。
「よし、これで終わりっと」
キヨカ、初の賞金首撃破である。
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