10. 【異】フラグ2.交易路

 鉱山から出て宿に戻る途中の事。

 魔石のかけらを大事に抱えるポトフと一緒に大通りを歩いていると、街がどことなく慌ただしいことに気付いた。


 キヨカとは比べ物にならない強そうな装備をした人達が、街の入り口に向かって走っている。


「何かあったのかな?」


 近くで同じように彼らの様子を伺っていたおばさんに聞いてみる。


「すいませ~ん。何かあったのでしょうか?」

「何かしらね、私も分からないわ。騎士団の皆があんなに慌ててるなんて、よっぽどのことだと思うのだけど……」

「騎士団ですか?」

「ええ、彼らが着ているのはここの騎士団の標準装備なのよ。強い賞金首でも出たのかしら。怖いわぁ」


 王都が抱える騎士団は主に邪獣から街を守るための存在。主要な街に拠点を置き、その地方の村や街への巡回、邪気が発生したフィールドでの定期的な討伐、はぐれ邪獣の討伐などが役割だ。


 つまりその騎士団が慌てているということは、邪獣に関する何かが起こった可能性が高いということ。


「ポトフちゃん、一旦宿に戻ろう」

「(こくり)」


 おばさんにお礼を言ってから足早で宿に戻る。宿は街の入り口近くにあるので、運が良ければ騎士団が話をしている内容を聞けるかもしれない。


「誰もいない……」

「?」


 しかし宿に着いた頃には先ほどまでの喧騒は収まっており、騎士団は街の外に出発してしまっていた。


『残念』

『しゃーない』

『にしても慌て過ぎでは?』

『どう考えてもイベントの香り』

『協力か敵対か』

『騎士団=悪 の構図がテンプレ』

『改めて考えると酷いなw』


 状況が分からなかったキヨカをフォローしているのか良く分からないコメントを眺めながらどうしようか悩む。一般の方のコメントはカオスになっているので見ていない。


『情報収集なら冒険者ギルド』

『この世界だと邪獣情報センターかな?』

『あとは酒場』

『酒?』

『飲めるの?』

『ミルクで』

『そういやこの世界じゃ酒って何歳から飲めるんだろ』


「十五歳から飲めるよ。私は地球の感覚残ってるから飲む気しないけど」


『答えてくれた!』

『たすかる』

『なんか嬉しい』

『そして真面目なのがえらい』

『それな、えらい』

『えらい』

『かわいい』

『かわいい』


「な、なな、何言ってるのぉ!?」


 キヨカを照れさせるために隙あらば『かわいい』を連呼したがるコメント欄。いつか見て貰えなくなるぞ。


「キヨちゃんはかわいいよ?」

「レオナちゃん!?」


『あら~』

『あら~』

『きましたすかる』

『ウサ子ってやっぱり?』

『攻めっ気あるよな』


 まさかのレオナの追撃に焦るキヨカ。

 照れるキヨカを見たいのだ。


「ポトフちゃんも可愛いよ?」

「それは知ってる」


『唐突の真顔は草』

『知ってる(俺も)』

『キヨカちゃんって案外……?』

『案外何だよw』

『みんなレベル高すぎぃ!』


 普通にかわいいキヨカ。

 幼女かわいいポトフ。

 小動物かわいいレオナ。


 種類の違うかわいいが揃っているので、かわいいが連呼されるのは仕方ない……のか?


「ってそうじゃなくて、キヨちゃん明日から邪獣を狩りに行くんでしょ?それなら邪獣情報センターに行って邪獣の情報を仕入れてこようよ。その時に騎士団のことも聞けば良いと思う」

「なるほど!」


『さすウサ』

『ちゃんとサポート出来てる』

『ポンウサじゃなかった』

『むしろ俺らが言うべきだったのでは?』

『どう言えば酒場に行かせられるか考えてた』

『それな』

『飲ませてみたい』


「飲まないから!」


 酒場派の企みから逃れるように、キヨカは慌てて邪獣情報センターへと向かう。




 邪獣情報センターに向かうと人だかりが出来ていた。掲示板を見ているようだ。


「う~ん見えない。あの、何があったんですか?」


 人が壁になっていて見えないので、近くに居た男性に聞いてみる。


「交易路近くの邪気溜まりで邪獣が大量発生したんだってさ」

「え!大丈夫なんですか!?」

「規模はそれほどでもないから問題ないって。ただ、王都からの応援が来るまでは街の守りが薄くなるから気をつけるようにってさ」

「そうですか……」


 本当に危険だったらもっと緊張感のある掲示内容になっているはずなので、街が安全ということに嘘偽りは無いのだろう。


「でも騎士団には大きな被害がないでしょうか?」

「ん?大丈夫だと思うよ。かなり昔に交易路の近くに邪気溜まりが発生してから過去に何回か似たようなことあったけど大した被害なかったから。そのために騎士団のメンバーも多めに常駐してくれてるし、ちゃんと考えてあるのさ、きっと」

「緊急事態への備えがちゃんとなされてるんですね」


 それなら大丈夫なのかな、と男の言葉を鵜呑みにするキヨカだが、コメント欄は違っていた。


『スタンピードきたーー』

『これ絶対危ない奴だ』

『今まで通りなら大丈夫 (フラグ)』

『これは交易路に行くべきか?』

『でもレベル4でやるイベントじゃないだろ』

『漏れた敵と戦うくらいじゃないかね』

『イベントスルーしたら街が壊滅……』

『おいやめろ』


 普通では無い現象はゲーム的にはイベントの一つ。今回の邪獣発生もその可能性があるが、キヨカがどのように巻き込まれるのかはまだ分からない。


「嬢ちゃん達は旅行者かな。ならしばらくは危ないから交易路の方は近づかない方が良いよ」

「ありがとうございます。交易路ってどこにあります?」

「この街の北の山を越えたところだよ。内海と山の間に、隣国へつながる道があるんだ。街の南から出て東回りにぐるっと山を迂回して行くんだけど、そっち方面に行こうとすると見張りの人に止められるから間違って入ることは無いと思う」


 どうやら交易路は通行止めになっていて興味本位で近づくことは出来ないようだ。


「戦えるなら手助けに行った方が良いですかね?」

「え、嬢ちゃん達戦えるのか!こんな小さな娘も!?」

「いえポトフちゃんはまだ……でも私は一応ちょっとだけ経験ありです」


 腰に刺した剣をちょいちょいと指さす。


「私も戦えるもん」


 蚊帳の外にされたポトフは不満そうに不貞腐れている。


「う~ん、それなら足手まといになりそうだから止めておいた方が良いな。騎士団は集団での戦いが得意だから、中途半端な実力の個人が近くに居ると逆に困るかも」

「残念です」

「それよりも、普段騎士団がやってくれている、クレイラ平原の邪獣狩りとかをやってくれると喜ばれると思うぜ。騎士団ほどじゃなくても狩ればその分だけ安全になるしな」

「なるほど!丁度明日から行ってみようと思ってたんです」

「そっか、無理しないようにな」

「はい、色々教えてくれてありがとうございました」


 男性のアドバイス通りに、ひとまずは交易路の方は様子見することになった。コメント欄の方も、わざわざこのような注意があった以上、今はまだ行く必要が無いのだろうと判断した。

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