9. 【異】フラグ1.魔石
「ここが鉱山かぁ」
クレイラの街には十字の形の大通りがあり、通りの中央には地球の路面電車のようなレールが何本も敷かれている。その大通りの西側の突き当たりには石造りの長い階段があり、階段の中央部は平らな坂になっていて、そこにもレールが敷かれている。魔石を乗せたトロッコが通る場所だ。
階段を登ると広いスペースがありいくつかの大きな建物が建っていて、その先に鉱山の入り口が複数ある。
キヨカ達は街近くの平原で邪獣と戦う前に街の施設を確認しようと思い一通り観光……ではなく調査することにした。
その流れで街の名物でもある鉱山を見に来たのだ。
金ウサギが周囲を観察するかのようにキョロキョロする。
「何か閑散としてるね」
「うん、今は採ってないのかな」
トロッコの点検など施設のメンテナンスをしている人をちらほら見かけるだけで、鉱山で採掘しているような雰囲気は見られない。
「お嬢ちゃん、ここに来るのは初めてか?」
鉱山を眺めていたキヨカに、ハチマキをしたガタイの良いおじさんが話しかける。
「はい、どんなところなのか見ておこうかと」
「なるほど、でもタイミングが悪かったな。今は休山中なんだ」
「休山、ですか?」
「おう、魔石は採れる時期と採れない時期が交互にあってな。今は採れない時期だからみんなお休み中ってことだ。採掘期間ならこのトロッコがフル活動で見ごたえがあるんだな」
「だからこんなに人が居ないのですね」
魔石。
その名の通り魔力が篭められた石のこと。
この世界の人々は魔石を活用して地球にも劣らない先進文明を築き上げている。魔冷蔵庫、魔動車、魔灯などはもちろんのこと、家の壁に埋め込み強度補強や温度管理をしたり、道路に埋め込んで平らな地面の保存やはぐれ邪獣除けなどをしたり、街中から家庭内まで至る所で魔石を活用した技術がふんだんに活用されている。
魔石は世界中の様々な所で採れるが、クレイラの鉱山のように固まって採れるところは数少ないため貴重な場所だ。この鉱山で採掘した大量の魔石は世界中の至る所へ送られ、有効活用されている。
魔石はこの世界になくてはならない大事な資源である。
「良かったら鉱山の中に入ってみるか?」
「え?良いんですか?」
「おう、休み中は一般開放してるんだ。指導者が一緒なら掘っても良い。休山中でも極稀に魔石が採れることもあるから、興味があれば試しに掘ってみたらいいぜ」
「う~ん、どうしよっかなぁ」
「ちっこい嬢ちゃんも興味あるだろ?」
「(ふるふる)」
「ありゃあ、ダメだったか。はははは」
ポトフはキヨカと手を繋いで興味無さそうに立っている。口の中には飴入りだ。
「おっとそうだった。遅れてすまない。俺はガンク、この鉱山組合の責任者の一人だ。もちろん指導者にもなれるから、もし中に入るなら声かけてくれよな」
ガンクはそう言うと近くにあった鉱山組合と書かれた建物の中に入って行った。
――――――――
「思ったより明るいんですね」
「まぁな、魔石を見間違えないように、灯りは強めにしてるんだ」
キヨカはせっかくだからと鉱山の中に入ってみることにした。
鉱山の中は複数人が十分すれ違える程に広く、天井も高めで長い槍を振り回しても余裕がありそうだ。土壁は崩れないように補強されている。他にも崩落しないように徹底した対応がなされているのだろう。
「それでどうする?さっそく掘ってみるか?」
「せっかくだから奥まで行ってみようと思います」
「おう、分かった。といっても奥までは結構あるぜ?」
「頑張ります」
「若いって良いねぇ」
鉱山の中は入り組んだ迷路のような形になっている。
「こんなに複雑で迷う人いないのでしょうか?」
「問題ないぞ。ほら、そこの壁を見てみな」
地図がかけられていて、今いる場所に印がついている。
「これをたくさん置いてあるから、余程の方向音痴じゃなきゃ迷うことは無いさ」
仮に迷ったとしても採掘期間なら人が多いから誰かに入口まで連れて行ってもらえばよいし、閑散としている一般開放の時は指導者と一緒じゃないと入れないので迷うことは無い。
「う~ん、地図見た感じ奥までは長そう。ポトフちゃん疲れてない?」
「(こくり)」
今のところは元気そうだ。いざとなったら自分が背負って帰れば修行にもなるし良いかと脳筋の考えで良しとして最奥まで行ってみることにした。
「それじゃあ掘ってみたいです」
最奥はそれまでよりも少しだけ広い空間になっていた。レールがここまで敷かれているので、ここで採掘した魔石をトロッコで入口まで運び出しているのだろう。
「これを使いな」
キヨカとポトフにツルハシが手渡される。小さいお手頃サイズだ。
「それを使って壁を掘るだけなんだが、コツとしては少し出っ張っているところや石がむき出しになっているところを狙って、抉り取るようなイメージでぶち当てることだ」
「はーい、それじゃポトフちゃん、やってみよ」
とりあえず近くの壁に向かい、アドバイス通りに石が見えているところにツルハシを当ててみる。十回くらい叩いたところでポロリとその石が採れるが、ただの石で魔石では無かった。
「採ること自体はあんまり力を入れなくても採れて簡単なんだね。これならポトフちゃんも大丈夫そう」
そのポトフの方を見ると、キヨカと同じように剥き出しの石を掘り出そうとしており、ちょうど採れたところだった。
ポロリと地面に落ちた石をポトフが拾うと、一部がキラリと光っている。
「お、運が良いな。魔石のかけらだな。魔石としての力はほとんど無いが、綺麗だからアクセサリーにする女性が多いな」
「やったね、ポトフちゃん!」
かけらのキラキラの部分を眺めていたポトフが、キヨカの方に顔を向ける。その顔は普段の無表情からは考えられないくらいの笑顔でワクワクしていた。
「かわいい」
「かわいい」
『かわいい』
キヨカとレオナと地球人の心が一つになる。
「ん!ん!」
ポトフは興奮してツルハシで壁を叩き始める。食に続く新しい興味を見つけたようで、楽し気にツルハシを振るう姿はとても微笑ましく、見惚れていたキヨカはかけらでさえも見つけることが出来なかった。
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